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神に愛された異世界転移  作者: 筧 麟太朗
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十三話

丁度いい文章量な気がします!


 今日は朝からとんでもなく忙しかった。

 ブコツがいきなり部屋に突撃してきて俺を表に引っ張り出すと、そこには大勢の村の人々が俺を中心に円を描くように座ってこちらを見ていたのだ。


「ぶ、ブコツさん! なんなんですかこれは!」


 唯一の知り合いであるブコツに話を聞こうとしても全く聞く耳を持たない。

 するとそれまでだんまりだったブコツが突然、


「よぉーし! みんな集まったみたいだな! 今からこの村を救った真の英雄を紹介する! 夜の宴でもう一度紹介するつもりだが、こいつのことは一旦シラフで聞いてもらいてえと思ってな!」


「え! ちょ、ちょ、ちょっと! 俺何も聞いてないんですけど!」


「そりゃそうだろう、何も言ってないからな」


「違う、そういうことじゃ――」


「さあ、紹介しよう、この村を救った真の英雄その名も――」


「ふぁぁ~、眠いぃ。あんた朝っぱらからどたばたしすぎよ、もう少し寝たいのに……」


 最も気合いの入るタイミングで一番気が抜けている奴が出てきやがった。

 

「他の人たちが見えてないからって気を抜きすぎだろ、お前は!」


 俺は誰にも聞こえないように小さな声で注意する。


「え? いいじゃない、逆にあんたが私を独り占めにできるってことよ?」


 こいつ本当に昨日の洗脳残っていないよな?

 しかし、シルヴィアと会話してしまったが周りが静かな気がする。


「あのー、ブコツさん。やっぱり恥ずかしいんで中戻ってもいいですか?」


「あ、あぁ……」


「あ、よかった、それじゃあ!」


 俺は内心ほっとしながら村の人たちに一礼して家に入ろうとして、


「ブコツさん、なんか唖然としてますけど、大丈夫ですか?」


「……」


 ブコツからの返事は無い。それにやたら俺の左肩を凝視している気がする。


「ま、いいか。行くぞシルヴィア、二度寝だ」


「うん、でもなんか私視線を感じるんだけど……」


「気のせいだって、妖精が見える人はもういないんだろう?」


「ま、まあね。それにしても――」


「気のせいじゃない!」


「うわ! なんなんですか、ブコツさん。突然大声なんか出して!」


「おい、シンジ。お前の左肩にいるのはそれ……妖精か?」


「「え!?」」


 驚きの質問に俺とシルヴィアは同時に声を上げた。


「み、見えてるんですか?」


「み、見えてるもなにも! なあ、みんなも見えてるだろ!?」


 ブコツが村の人たちに問いかけると、「あれってやっぱりほんとなの?」「幻じゃないの?」などとザワザワ騒ぎ始めた。


「どっ、どういうことだよ、シルヴィ!」


「私もわからないって!」


 周りの雰囲気に飲まれて俺たちも徐々にパニックになる。


「何よ、朝からうるさいわよ!」


 と、そのタイミングで、勢いよく扉を開けてシャルルがやってきた。


「お父さん! 一体何の騒ぎ!?」


「い、いやシャルル。シンジを見てみろ……」


「はぁ? 何を言って――」


 呆れ顔で眠い目を擦りながら俺を一瞥するシャルル。目が合ったので「おはよう」と声を掛けるが、徐々にその顔は驚きに染まっていき、


「え!? 妖精!? この村の妖精は滅んだんじゃ!?」


 聞き逃せない言葉を発していた。


「いや、彼の肩の上にいるのは間違いなく妖精だ、みんな! これは素晴らしいこと、奇跡だ!」


 途端に大勢の中で最も老けているおじいさんが、想像もできないような大声で叫んだ。


「妖精様が現れたということは我々の村はもう安泰じゃ!」


 その言葉と同時に、集まった人々は男女構わず「「「「オオオオ!」」」」と雄たけびを上げていた。


「素晴らしい回じゃった。妖精様と若き英雄様も朝からここまで騒がれたら疲れもとれんじゃろう、皆このまま騒ぎたいのは分かるがその為の今日の宴じゃ。一度家に帰って語りたい話は今日の夜まで取っておくんじゃぞ!」


 その老人が再び話すと「「「「オオー!」」と雄たけびが上がりそれぞれが騒ぎながら解散していった。


「な、なんだったんだ、今のは……」


 老人の言う通り朝から騒がれて辟易した俺とシルヴィアは「疲れた」と言いあいながら家に戻ろうとする。


 しかし、先程の老人が俺たちを引き留めた。


「君たち。少しわしの家によって行かんか、甘い茶菓子を用意しとるぞ」


「い、いやあ、俺たちは――」


「眠いから嫌よ」


「フォッフォ、そう言わずに。シンジ君と言ったかな? 君が知りたい答えはきっとうちに来れば分かるぞ、もちろん妖精さんのもな」


「本当ですか?」


「怪しいんだけど……」


「どうしよう」と、渋る俺たちにブコツさんが、


「あの方はな、俺たちの村の村長だ。昔は有名な魔法使いだったらしくてな。行ってこいシンジ。なぁに、お前が心配してるようなことなんか、万が一にもされねえさ!」


 魔法使い……! 


「そうですね、行きます!」


「あっそ、なら私は家で寝てるわー。ふぁぁぁ」


 シルヴィアは眠そうにフワフワと飛んで家に戻ろうとするが、再び的確な言葉でシルヴィを引き戻した。


「妖精さんも来た方がよいと思うぞ、その様子だと今まで姿が見えていなかったからいろいろ自由に飛び回れたんじゃろうが、今では姿が見えるようになってしまっておる。うちの村人は珍しいものに目が無くてなぁ――」


「はぁ、逃げ道は無いのね。行くわよ」


「よろしい、では二人とも付いてきなさい」


 くるっと背中を向けて歩き出す老人。それを見てブコツが、


「俺たちは付いていかなくても?」


 と声を掛けたが、「今は二人にのみ話を聞かせたい」とだけ言って、すたすた行ってしまった。

 俺たちも急いで後をついていく。


「どうじゃ、この村は」


 前を歩く老人が急に話しかけてくる。


「そ、そうですね。まだあまり外に出ていないので何とも言えませんが、いい村だとは思います……」


「フォッフォ、そうかそうか。それは良かった」


 そして再び無言の時間が訪れ、ザッザッと道を歩く音と「妖精さんだよー!」と周りの子供たちの声が聞こえる。


「シルヴィ、どうする、隠れるか?」


「別にいいわ、旅に出る時はもっと酷い目で見られるかもしれないんだから。今のうちに慣れておかないと」


「そっか」


 そうだ、この村でゆっくりして忘れていたが旅に出るのだ、俺は。

 しかし、


「旅なんてしたことないからなぁー」


 どうなるんだろう。もし魔物が現れた時、どう対応すればいいのか。食料は? 水は? 一向に解決策が浮かばない。


「ほい、着いたぞ。ここが家じゃ」


「ここ、ですか」


 見るからに木造の二階建ての普通の一軒家だ。村長なのだからもっと大きな家に住んでいると思っていたのだが。


「どうした、シンジ君。想像と違ったか?」


「え!? いやいや、そんなまさか!」


「フォッフォ、わしは大きい家はあまり好かんでな。皆と同じ視線で語り合いたいんじゃ」


「な、成る程……」


「あと、掃除が大変じゃろう?」


 「フォッフォッフォッ」と笑いながら扉を開けて入っていく。


「不思議な人ね……」


「シルヴィアは見たことくらいはあると思ってたけど」


「チラッとはね。でも人となりまでは知らないわよ」


「そりゃそうか」


 玄関でシルヴィと話していたら「どうぞ―」と老人の声が聞こえた。


「おじゃまします……」


「狭い家じゃがゆっくりしていってくれ」


 玄関を開けるとリビングがあり、木製の長いすと机が置かれている。老人は裏からお茶らしきものとお菓子らしきものを持ってきて机に置き、俺たちに長いすに座るよう促した後、自らも対面にある一人崖の椅子に腰を下ろした。


「疲れた、疲れた。もう歳じゃわい、これっぽっちしか歩いとらんのにもう歩けん」


 そう言いながら、俺たちの目の前に飲み物をスッと滑らす。


「あ、ありがとうございます……」


「それで? 私たちを呼び出した理由は何なの?」


「そう急ぐでない。これから順を追って話していくからの」


 ズズズ――老人はゆっくりとした所作でお茶を飲み、一息ついて話し始めた。


「この村には昔、妖精がおった」


「今でもいるわよ」


「おい、茶々を入れるな」


「だって――」


 シルヴィアは先を聞きたくてしょうがないらしい。


「妖精さん、落ち着きなされ。この話はシンジ君に聞いてもらいたいんじゃ」


「俺に?」


「ああ、そうじゃ。妖精を統べるもの、についてのな」


 やばい! と思いシルヴィアを見る。あの出来事から昨日の今日だ。再びシルヴィアが暴れてもおかしくない! しかし肩から動く様子はなかった。


「今日は暴れないんだな」


「まあ、いずれ知られることだからね、諦めたわ。それに昨日は私が寝ている間に本を読んでたみたいだしね」


「あれ、バレてたの……」


「まあね」

 

 多少気まずい雰囲気になってしまった……。


「そうか、君はもう既にあの本を読んだのか」


「ええ、酷い話でしたけど」


「それは当り前よ」


「は? 当たり前?」


「わしが詳しく説明しよう、その昔、今から数百年前に妖精を統べるものという特殊な人間がいた。その男は正義感が強く、また慈愛にあふれる男じゃった……」


「でも妖精には酷いことをしたって!」


「落ち着きなさい。そこら辺のいきさつは殆ど嘘じゃ」


「嘘!?」


「そうじゃ、彼は妖精に自由を与えたかった。永久を生きる妖精たちは永遠に森にとらわれ続けているのと同義じゃからな。そして彼にはその素質があった。だから妖精たちを連れて旅に出たんじゃ」


 俺は大人しく話を聞く。


「しかしそこで事件が起こった。物語でも出てきたように悪党が大勢襲ってきたんじゃ、しかし残念ながら彼は戦う術が無いに等しい。そこで妖精たち自ら、彼を守ったんじゃよ」


「ええ! あまりにも物語とは――!」


「ああ、違うじゃろうな。それにわざと妖精を洗脳し、逃がそうとしたことも何度もある」


「でも、逃げなかったのよ、先代たちは」


 真剣な顔で横のシルヴィアが呟く。やっぱり知ってたのか。これでシルヴィアが妖精を統べるものを悪く言わない理由は分かった。


「それで?」


「結局その洗脳さえも、一部の妖精には利かず結局彼は妖精に守られて生き延びた、いや、生き延びてしまったとでも思ったんじゃろうな。だからこの本を書いたんじゃ」


 机の上にポンッと置かれたのは昨日俺が読んだ本だ。昨日のものと比べて状態がとても良い。


「この本を書いたって――」


「そういうことじゃ、この本は妖精を統べるもの本人が書いた本なんじゃ。妖精への警告のためにな。妖精は自分に付いてきたせいで死んでしまった。だから二度とそのようなことが起きないように、妖精たちに妖精を統べるものは悪い奴だから付いていくなと、書き記したんじゃよ」


「そんな……。シルヴィは知ってたの?」


「まあ風の噂というか、先に産まれた妖精たちから聞いたことはあるわ、もちろんこんな酷い言い伝えはされてなかった。むしろ我々妖精に自由をくれたと、良い人間として伝えられていたわよ」


「それもそうじゃろう。半永久的に生き続け、未だにその旅に付いていって生きている妖精は少ないが、まだいるはずじゃ、じゃから結果的に妖精の間ではよい噂の方が根強く残っているんじゃ」


「そういう、ことだったんですね」


 俺は先代の妖精を統べるものの手にまんまと引っかかったわけか……。


「それで、そこの妖精さんも彼について外に出るつもりじゃろう? 妖精さんは妖精を統べるものをどう思ってるんじゃ?」


 それは俺もかなり気になっていた。もし本に書いてある通りだと思っているのなら旅には付いてこないだろうから、少なくとも悪い印象は持たれてないと思うけど……。


「そうね、私自身悪印象も好印象も無いわ。妖精を統べるものだからっと言っていい人間とも悪い人間とも限らない。……少なくともシンジは悪い人間じゃ、ないと……思う……」


「ツンデレキター!」


「いきなりなによ! びっくりしたじゃない! この馬鹿!」


「す、すまん」


 急なデレに思わずテンションが上がってしまった……。


「まあお二人さんが仲良くてわしも嬉しいわい。それで次の話じゃが、何故妖精さんが我々人間に見えるようになったか、についてじゃ」


「そう! 私はそれが聞きたくてここに来たんだから!」


 ガッとヒートアップするシルヴィア。


「その原因は恐らく君じゃ」


 眼球だけを動かして俺に目線を合わせてくる。


「おれ?」


「ああ、おそらく我々に姿が見えなくなったのはこの森の自然エネルギーが枯渇してきたせいじゃろう?」


「そんなことまで分かるんですか!?」


「フォッフォ、老人を甘く見る出ない。わしもただ長生きしているだけではないぞ。この森でとれる自然エネルギーの結晶が年々小さくなってきているからのう」


「成る程……」


「しかし妖精を統べるものにはエネルギーの枯渇は無い。延々と体内を循環し、いくら吸われても翌日には元に戻る。その豊富な自然エネルギーをもったことで、妖精本来の力を取り戻したんじゃろ」


「そういうことか」


「あんたのせいか……」


「あんたのせいってなんだよ! いいじゃないか、力を取り戻せたんだから!」


「とまあここらへんで話は終了じゃ。何か質問はあるかね?」


 俺とシルヴィアのやり取りをほほえましく見る老人。


「あの、二つほど質問が」


「ほう、言ってみなされ」


「あの、村長さんのお名前を……」


「おお、わしとしたことが自己紹介がまだじゃったか! すまんのう、わしの名前はアスランじゃ、よろしくなぁ」


「アスランさんですか。よろしくお願いします。それと、もうひとつ」


「何でも聞きなさい」


「あの、さっき妖精がいると安泰と言っていたんですけど、それはどうしてですか?」


 アスランが村の人たちを解散させるときに言っていた言葉だ。


「ああ、妖精がいるということは森の自然エネルギーが豊富ということじゃ。ということは森で採れる果物や動物がより豊かになるんじゃよ」


 成る程、風が吹けば桶屋が儲かる的な理論か。あれ、合ってるかな? これ。まあいいか。もう地球には帰らないだろうし。


「他はあるかね?」


「私も一つ」


 シルヴィアが名乗り出た。話が終わったら真っ先に帰ると思ってたのに。


「この森の外の地図を見せてくれない?」


「ほう、旅の準備か。いいじゃろう。手ごろなものがある、ちょっと待っておれ」


 アスランは「よっこいしょ」と椅子から立ち上がりリビングから出て行った。


「お前、随分しっかりしてるな」


「当たり前でしょ? 森の中は細かい獣道まで把握してるけど、森の外に出れば全く知らない土地よ? 全く、ちょっと抜けすぎなんじゃないの?」


「なっ、うるさいな! この世界来たばっかなんだよ!」


 言い争っているとアスランが巻物を持って戻ってきた。


「どれどれ、机を開けてくれんか」


 俺はカップと菓子の皿を端に避ける。


 「ホレ」とそこに地図を広げるアスラン。


「これはこの地域の地図じゃ。ここが今わしらのいるアスラ村」


 アスラ村って名前だったのか! まんまじゃないか、アスランさん!


「それでここが隣街のカーゴ村じゃよ。」


 アスランが指を指したところを見るが随分離れている。


「まあ隣村と言っても森を下って、その先の村じゃからな。歩いても三日はかかるぞ」


「大分遠いですね……」


「でもここまで行けば都市まで馬車出ておる、そこまでの苦労じゃよ」


「そうね、ならとりあえずカーゴ村を目指しましょうか」


「そうだな」


 とりあえずの目標を決めた俺たちは目を合わせて頷く。


「アスランさん、今日はありがとうございました」


「フォッフォ、いいんじゃよ。こんな年寄りでも役に立てたなら光栄じゃ」


 人のいい笑顔でそう答えてくれるアスラン。


「それでは、また今夜」


「ああ、楽しみにしとるよ」


 つかの間の別れの挨拶をして俺たちは家に帰ったのだった。

そろそろ旅立たせたい……。

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