迷宮都市~アルカディア
三人称の練習で短編1つ書きました。
なんだか三人称にするとやたらと堅苦しくなるなぁ
登場人物の具体的な描写は無いので、脳内で補完して貰えると幸いです
遥か昔、謂れの無い罪で村を追い出された青年がいた。
彼はあてもなく壮大な平原をさ迷って居た所で不思議な建物を発見する。
村にも、幼少期に行った事がある王都にもなかった神々しい建築物。
その中には、大小様々な石板が並んでおり、中心の一際大きな石板には彼にも読める文字でこう書いてあった。
神が作りし迷宮
~アルカディア~
この神殿は迷宮に挑もうとする者を
迷宮に適した身体に作り替える施設
周りの石板を見よ
石板にはその者が歩むであろう道を
差し示す物が描かれている
周りの石板に触れよ
そうすればその者は進むべき道を
進む事になるだろう
これが後の迷宮都市~アルカディア~の始まりである
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「いよう!万年探索者!今日も一階でちまちま小銭稼ぎかい?」
この迷宮都市には、石板がある。その石板には、その人の迷宮内での経験を元に、色々な役割を差し示すジョブが書いてある。
1番始めは探索者。そこで近接戦闘が得意な者、後方支援が得意な者、周りを警戒し広い視野を持つ者。
それぞれの培ってきた物が次のジョブへの道となる。
今、万年探索者と言われた少年。彼はもう、2年もの間探索者をやっている。次に進むべき道が開けているにも関わらずに。
理由は臆病だから。一次ジョブから二次ジョブに至る迄に相当な身体の作り替えが発生する。ある人はもう二度とごめんだと言う。またある人は死んだ方がましだと言う。
そんな話しか出てこないであれば、臆病な彼は絶対に次に進む事は無いだろう。なにか特別な事が無い限り。
「はは。僕は痛いのが嫌いだからね。一階でも生活には困らないし、僕はこれでいいんだ」
そう言って笑う、万年探索者と呼ばれた臆病な少年。
この少年の名前はカイト。
両親に先立たれ、孤独になった彼は、生活の為に迷宮都市に来た。
迷宮都市には神殿を管理するギルドがあり、迷宮に潜る者は例外なく登録しなければならない。
ギルドには、迷宮に潜る者が安全に、快適に生活出来るようにする義務がある。
迷宮に潜る者には、迷宮内で得た物をギルドに引き取って貰う義務がある。
その他にも、迷宮に潜る者はギルドに登録費を毎月納めなくてはならない。などの義務があるが、その金額も一次ジョブ、二次ジョブ、三次ジョブによって変わってくる。
当然、数字が大きいジョブの方が、強大な魔物とも戦えるので、金額も大きい。
カイトは未だ一次ジョブ。金額なんて微々たる物だ。細々と暮らして行く分には、迷宮の1番弱い魔物、一階層に出現する魔物を毎日狩っていれば問題ない。
他の人間にどう言われようとも、馬鹿にされようとも、今の生活に満足している彼は、次のジョブに進む事はないだろう。
冷やかしの言葉を受け流しつつ、今日の迷宮の成果をギルドの換金窓口に並ぶ。質の悪い魔石、低階層の需要の少ない魔物の素材を持って。
「お疲れ様。カイト君。今日も一階の素材かな?」
窓口に辿り着くと、数ある窓口に立つギルドの女性職員の中で、1人の女性職員が、カイトの名を呼ぶ。
この女性はカイトがギルドに加入した時からの付き合いで、色々とカイトに迷宮のいろはを教えてくれた人物でもある。
それ以来、カイトはこの女性の窓口しか使わず、また、女性もカイトが来た時には、カイトを自身の窓口に誘導をしている。
「お疲れ様です。メルさん。今日もそうです。未だ探索者の僕は、二階なんて恐ろしいですからね」
「そう言うなら早く二次ジョブになれば良いのに。一階でも探索者なら危険は沢山あるから、お姉さんは心配しちゃうわ」
この女性、メルは、カイトを可愛がり、カイトの事を心配する数少ない人の内の1人なのである。
「僕は今のままで良いんですよ。生きていく分には、問題ないですし。
では、今日はこれでお願いします」
話は終わりだ。と言わんばかりに、今日の成果を差し出す。実際、カイトは窓口に行く度に二次ジョブを進めてくるメルに、最近居心地の悪さを感じているのだ。
「もうっ。カイト君が心配で言ってるんだよ?承りました。数えちゃうから少し待っててね」
カイトも、他の人達とは違い、自分の事を心配して言ってくれてる事が分かっているので、曖昧に誤魔化すしかないのを自覚している。
「お待たせしました。10級魔石が22個、リトルバットの牙が8個、リトルバグの羽が6個です。合計で、1金貨、5銀貨、2銅貨になります。お確かめ下さい。」
「はい。確かに。あっ。今月の更新のお金を今、渡しておきます。」
一次ジョブの更新費は金貨2枚。二次ジョブは金貨10枚。三次ジョブまで行くと金貨50枚まではね上がる。
少ない更新費でいつまでもギルドにいるカイトは、かの面でも、他の冒険者達に馬鹿にされている。
ましてや、窓口職員のメルは、他の女性職員に比べても魅力的な外見をしている。拍車をかけて、カイトの陰口が増えている原因になっている。
「はい。確かに2金貨戴きました。また明日ね。カイト君」
「はい。また明日」
金貨を渡し、ひそひそと陰口を叩かれてるのを横目で見つつ、ギルド中央にある石板に向かう。
一際大きな石板を中心に、小さい石板が6つ。その内、カイトに書いてある文字が読めるのが3つ。
1つは戦士、1つは盗賊、1つは武闘家。
戦士は、武器を使い、一定以上の魔物を討伐すると文字が読めるようになるという石板。
盗賊は、常に周囲に気をつけながら迷宮に一定以上潜ると文字が読めるようになるという石板。
武闘家は、素手で一定以上魔物を討伐すると文字が読めるようになるという石板。
カイトが読めない3つの石板の内、2つは読めるようになる条件が判明している。
1つは、魔力操作に長け、その魔力をもって魔物を一定以上討伐すると読めるようになる、魔術師。
1つは、魔力操作に長け、その魔力をもって、自身や仲間を一定以上癒すと読めるようになる、僧侶。
迷宮都市が誕生したと伝えられている500年前から、未だ誰も読む事が出来ていない最後の石板。
ギルドとしても、一刻も早く解明したいと思っていて、新しく探索者になるものがいた場合、新しい事を試して下さい。と新人に伝えてはいるが、一向に読める者は表れないのが現状。
「2年間、潜りに潜ってもまだ読めない……か。まぁ、読める様になったとしても、ならないんだけどね」
その呟きは小さく、誰にも届かない。それでもカイトはそう呟かずにいられなかった。
この度は恥作をご覧頂きありがとうございました