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第49夜(学園編) 懸念

前回のあらすじ


スフィア、恋茉莉まこであるシヴァリエとの再会がほぼ確定する。

 












 シヴァリエがブーゲンビリア学園に入学することが決まってから初めての日曜日。

 彼女は少年の姿ではなく、少女の姿で辺境伯領にある港の一つ、ハーヴィー港に来ていた。‥‥ここにはジュリオが運営している商会の事務所があるのだ。そのジュリオにシヴァリエは会いに来た。

 ジュリオも忙しい人で先日のお礼をしようと手紙を出したところ、基本、事務所に詰めているので、こちらで話しませんか?という返信が来た。今、辺境伯領はフローレンスとの貿易によって前例の無い特需になっているので、家に帰る暇がなかなか無いらしかった。


 「お久しぶりですね。姫様。」


 事務所で出迎えてくれたジュリオはあの時と同じく親切な対応でシヴァリエを案内した。

 「入学することに決めたんですね。」

 応接間に一対のソファに向かい合うように二人は座る。事務所のリザードマンが紅茶を二人に差し出す中、ジュリオはにこやかにそう嬉しそうに言った。

 「上手くいったようで何よりです。」

「はい、ジュリオさんのおかげで助かりました!」

 いっそのこと男性として入学して、前王と対面すればいいのでは、と言ったのはジュリオだった。あと貰えるものはとことん貰いなさいと言ったのもジュリオである。

 ルークはトラウマものじゃないか、容赦が無さすぎなど指摘していたが、結果良ければ全て良し、トラウマは知りませんとジュリオが一蹴し、ストーカーに思うところがあるシヴァリエが乗り気だったことで、計画は実行された。結果は知っての通りである。

 シヴァリエは改めて礼を述べる。

「あの時、助けて下さってありがとうございました。‥‥本当にジュリオさんのおかげです。」

 本当はルークの名も出して感謝したかったがルークに口外厳禁と言われているし、事務所という人の目の多い場所で名を出すのははばかられた。ジュリオは「お役に立てて良かったです。」と言い、紅茶に手をつけた。

 「良い機会に恵まれたかと思いますよ。」

 そうシヴァリエにジュリオは微笑む。

 「社会勉強にもなりますし、学園でしか学べない教科も多い。数学、化学などの理系科目は特に王立の学園でしか取り扱わないよう法律で命じられてますからね。魔法で言えば辺境伯領ではほぼ使いませんが、光魔法だとかありますし。」

 ジュリオはもしかしたらブーゲンビリア学園の卒業生なのかもしれない。やけに詳しくシヴァリエに紹介した。

 「学園では魔法や国学以外にも、恐らく選択科目でしょうが騎士の勉強もあるらしいですから、剣も鍛練できるかと思います。同じような年齢の国各地の強者が集まりますし。楽しいと思いますよ。」

 シヴァリエが剣にハマっている話はどうやら広まっているらしい。そうジュリオが気を利かせた話をすると、それにシヴァリエはぱあっと目を輝かせた。

 「騎士ですか?」

 「はい。学園は貴族が主ですが、名のある騎士の名家は当然入りますし、学費が払える騎士団の有力者も入ることができます。なので、騎士の育成校としての一面もあるのです。楽しみですか?」

 「はい!楽しみです。」

 意外と姫様は血気盛んですね。とジュリオは呑気に言うが、シヴァリエはモンスターを平気で一人で倒すぐらいの実力者とは知らないようだ。

 「貴方が学園に行く時は見送らせてくださいね。」

 「ええ!」

 こうして和やかにジュリオとシヴァリエの会話は続き、雑談を交えつつ、小1時間ほど話している。

 一方同じ頃、その会話をグラスゴーは仕事をこなしながら、自身の魔法で盗聴していた。

 「‥‥特に不自然な会話は無いな‥‥。」

 あれからジュリオを、交友関係や取引なども洗いざらい調べたが何も無い。同じくシヴァリエとのやり取りも手紙を含め監視及び盗聴したが、恐ろしいほどに特段、不審な点はやはり無かった。何があったのは確かなのに。

 曰く、ジュリオがシヴァリエに拾う前、ジュリオ曰くシヴァリエは誰とも会っていなかったそうだ。そうしてシヴァリエ本人もジュリオに会う前には誰とも会わず、屋敷までもジュリオに送って貰ったと言っていて、プロデューサー以前に誰の気配もそこには無かった。

 何かしら隠しているとも思ったが、シヴァリエの性格と今までの信頼からしてそれは絶対に無いとグラスゴーや使用人達は踏んでいるし、ジュリオはシヴァリエに聞け、とハルトを目の前に言ったらしい為、その線はとにかく薄かった。


 「‥‥張るしかないか‥‥。」


 どんなに疑う余地が無くとも‥‥プロデューサーが相手なのだ。どんな手を使っているのか分からない。どんな手でまた何をするのか分からない。‥‥やるしか無かった。

 しかし、それにしても。

 「‥‥何だかあの日を境にシヴァリエ様に自主性‥‥自立心が芽生えているような‥‥。」

 勘違いだろうとグラスゴーは首を捻りつつ、盗聴を続ける。

 今までシヴァリエはハルトが全てであった筈だ。カモの親子程ではないが、常に後ろについていて、隣に居て、ハルトのそばを離れない。そんな彼女はあの日を境にハルトに依存せず、周りにも流されないで自分の意思で何かを決意しているような‥‥そんな気がする。

 「‥‥大人になり始めたんでしょうかね‥‥。」

 グラスゴーは一人そう呟いた。






 その日の夜。




 ジュリオは辺境伯領中心部にある自宅に帰ってきていた。

 この家には数人の家政婦がいて、帰ってきたジュリオを労りながら家事を次々とこなしている。

 「‥‥。」

 ジュリオは淡々と黙々と一人で夕食に手をつけながら、その家政婦達をじっと観察していた。お茶の用意をする者、次の料理を持って来る者、空いた皿を片付ける者、ジュリオが今日出した洗い物を持って行く者‥‥じっと仕事を待つようにジュリオの後ろに控えている者。

 「‥‥お風呂入りますね。」

 そうジュリオは最後のデザートを食べて、タイミングを図ったかのようにそう言った。

 「お手伝いいたしましょうか?」

 すると、後ろに控えていた家政婦がそう告げる。それにジュリオは淡々と。

 「要りません。一人で入れますから。‥‥ああ、それともそのスカートの下、太腿にある獲物をすぐさま使いたいのですか?」

 「え?」

 その家政婦が絶句する中、颯爽とジュリオは浴室へ向かう。実は暗殺者だった家政婦は直ちにほかの家政婦によっては取り押さえられ、どこかに引き摺られていった。

 ジュリオは特に動揺すること無く、何事も無かったかのように脱衣室で服を脱ぎ、浴室へ入り、熱いお湯の出るシャワーを全開にした。

 浴室はシャワーのけたたましい音が鳴り響き、立ちのぼる湯気が空間を真っ白にする。辺りは全て五月蝿いシャワー音と湯気で全くジュリオを盗聴も視認も出来なくなっていた。

 「‥‥ふう。」

 ジュリオはシャワーをのんびりと浴びるわけでも無く、自身の左耳に手を這わせた。そこには青い宝石が輝くピアスが一つ、付けられたままある。そして、まるでスイッチを押すように宝石を指で撫でた。

 「‥‥ハロー。」

『随分、疲れ切った声だな。ジュリー。』

 そのピアスから漏れてきた声はルークだった。そのピアスは現代で言うなら携帯、もしくは偽装を施した通信機だった。

 「疲れましたー‥‥てめえのせいだ。こんちくしょー‥‥。」

『‥‥残念だが全く身に覚えがない。』

 「ええー24時間、こちらは監視されている上に命を狙われてて流石にしんどい思いしているんですけど。永遠膝枕の刑に処すぞ。」

『刑が軽い。』

 「そうですか。8時間正座の上に僕の全体重をその膝にかけ続け、及び、足の裏を重点的に擽るというのは軽いと見くびりますか。なら、もっと相応しい刑を‥‥。」

『名称と違って十分拷問じゃないか。やめろ、死ぬ。』

 「僕はここんとこ毎日死にかけているんで、これでフェアかと。」

 シャワーが五月蝿いほど音を出す。

 その中でジュリオが声を出しても、すぐさま霞むほどに。

 彼女を盗聴している人物にはシャワーの音しか聞けていないのがすぐさま理解できるほどに。

『だが、本当に心当たりがないぞ。』

 「私だってありませんよ。ただの商人であれるよう、闇金、汚職、借金、やっかみに縁がないように生きてきたのに。」

『‥‥考えたくは無いが、シヴァリエ嬢関係か?』

 「‥‥今日、確かめるべく姫様を事務所に呼び出して2人で雑談しましたが、特に何も変わりませんでした。監視が厳しくなることも止むこともなく、姫様と関わったからこうなった訳ではなさそうです。姫様にもそれとなくカマをかけてみましたが、本当に何も知らないようです。

 ‥‥あとは御領主に1度殺されかけましたけど、それも何故殺されかけたかはわからず、あの以後、向こうから関わってくることも無く、御領主は相変わらず何考えてるかわかりません。とにかくこちらへの興味を失ったように、いつも通りの対応です。」

『ますます分からないな。』

 「ええ、わかりません。」

 ふたりは会話を交わしながら、頭を悩ませつつ、これからの対策を講じる。

『いざという時は王都に逃げ込め。場合によっては匿う。』

 「そうさせてもらいます。ですが、匿うは無しで。」

『?何故だ。』

 「勘ですよ。‥‥何となく嫌な感じがします。」

『ほう?』

 「‥‥そう言えば、数年前に弟君に婚約者が出来たとか言ってましたよね。」

『スフィア・カルマン嬢のことか。彼女がどうした?』

 「‥‥。」

『スフィア嬢は聡明な人間だ。あのルーシフーの乙女でもある。国の平和に関して多少の盲目さが気になるが物の分別はあるし、まだ十代にしては落ち着き払っている。この前話したシヴァリエ嬢の件も快諾してくれた。』

 「ふーん。」

 そして、ジュリオは言った。

 「ねえ、ルーク。貴方、女の子を見る目が衰えました?」

『は?』



 「その子‥‥多分、シヴァリエ嬢とは水と油ですよ。‥‥うん、やはり、私は貴方の実家には事が窮しない限りお世話になりません。」



『‥‥ジュリー?』

 「勘ですよ、あくまで。さて、貴方の方でもボクが狙われる理由探ってて下さい。もしかしたら宰相である貴方への当てつけかもしれませんし。」

『それはそうだが。‥‥まあいい。』

 「お互いしばらくは接触無しで、慎重に行きましょう。何となくとても面倒なことに巻き込まれた気がしますよ。連絡があれば、またこの時間帯に。」

『了解した。‥‥はあ。』

 2人はそこで会話を切ると、ジュリオは本格的にシャワーを浴び始めた。恐らく先程の会話は盗聴されていない。が、気は抜けない。

 「本当、何なんでしょうかね?」

 ジュリオはため息を吐きながらも、何事も無かったかのように髪を洗い始めた。







 一方、その頃。



 「‥‥長い‥‥。」

 「グラスゴーさん、どうしました?」

 「いや、監視している人間が風呂に入ってしまって出るのを待っている。流石にその‥‥女性の風呂は見たり聞いたりするものじゃないだろう?」

 「お巡りさん!ここ女性に付きまといをしている犯罪者がいます!」

 「仕事だ!!!断じてそんなことを率先してしていない!」

 「‥‥なら、顔が異常に赤いのは何故だ!むっつりスケベ童貞!」

 「童貞は無い、違う!あと仕事だ。特に何も相手に思わん!異種族だ。顔が赤いのは断じて違う!」

 「あーさいですか‥‥って!むっつりスケベは否定しないんかい!?」



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