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第3夜 使用人達の混乱

前回のあらすじ


主人公、引き取られる。



 











 あんぐりと、口が開いている。

 それが一様に揃って大体6人ほど。

 皆、メイド服やギャルソンのような格好をしており、見るからに使用人という風情の6人だったが、見る人によってはびっくりするだろう容姿の持ち主ばかりだった。実際、彼らが朝っぱらから口を開けて驚かざる得ない原因であるその子、背の小さな銀髪の少女はその容姿の多彩さにおっかなびっくりの様相で、先程からこの使用人達の主人である彼の背後に隠れつつ、じっと興味津々に見ていた。

 だが、使用人達に自身の容姿が如何に少女にとって疑問かは考える暇が無かった。それよりも、自身の主人が先程淡々と告げたことに驚きを隠せなかった。

 その内容を含め、更に主人と女の子が一緒にいるという光景にも信じ難い物があった。

 そんな目の前の光景になんだこれは!と、端にいる虎の頭をした使用人が、その隣にいるリザードマンが、そのまた隣にいる白ひげに顔を隠したドワーフが、一様に真ん中にいるこの事情を知っていたであろう男を横目に見る。反対の端からも赤毛の人間のメイドが、その隣の足に鱗を持つ緑髪の女性が、戸惑うように同じ男を見た。真ん中にいた男は咳払いをして、その視線を流したが‥‥やがて、使用人の1人である足に鱗を持つ緑色の髪をした褐色肌の女性が手を挙げた。

 「あのう、ハルト様、いえ、ご領主‥‥。」

 その声が震えているのはそれだけ有り得ない事態が彼女に直面しているからだ。

 「彼女を引き取るとは嘘ではなく?」

 それに彼女の主人は。

 「真だ。」

 そう断言した。

 そう彼女の主人はたった今、昨夜、拾ったと小さな幼女を紹介し、そして、義理の妹として引き取ると言ったのだ。彼女を初め、使用人である彼らは全員、それに度肝を抜かれた。

 「あのー‥‥人間の中にも奇特な方がいらっしゃるんですね。」

 そう使用人達が総じて驚いているのはそこである。だが、それを使用人の真ん中にいた男がたちまち血相を変えて一喝した。

 「シーラ!」

 「ふええだってえええ‥‥。」

 いきなり怒鳴られて涙目になる彼女の隣で、真ん中にいた男‥‥グラスゴーは新たな仕える人、その小さな女の子を見た。

 かなり痩せた女の子である。見た目的にはまだ5歳とか6歳ぐらいだろうか?だが、年齢を聞けば8歳というから、どれだけ親に育てられてないかが分かる。とにかく細くて小さい、この領地では絶対に見ない小ささだ。見ていると小型犬を思わせる。

(ハルト様が引き取ると言ったのも驚きだが‥‥怖くないのか?この子は。)



 ハルト・マイネスという人物は実に寡黙な人物だが、それ以上に人間だけでなく全ての生命を寄せ付けないオーラを持つ人である。特に人間には姿を見ただけで卒倒しそうになって畏怖で震え上がるほど、そのオーラは恐ろしいものらしい。確かに逆にそのオーラに魅せられて信仰の対象にする奇特な者もいるが、だいたいの人間は素足で逃げてしまう。実際、ここに務めていたかつての使用人はあまりの恐怖に逃げ出して辞めた者が多かった。

 更にハルト自身が寡黙も寡黙で喋ることはあっても仕事以外で会話なんて殆どしない上に、無表情、無感動、無感情な態度しか取らない為、余計にオーラも相まって恐怖の存在に成り果てていた。使用人達はそんな主人に、人間でまともに彼と共に居られる者はいないだろうと長年思って、常識とすら思っていた。だが。


 だというのに、彼女は使用人達の主人の隣に平気でいる。それだけで今までが今までだった使用人達には驚嘆ものだった。使用人達は目配せしながら、その動揺を共有する。

(俺達でもかなり怖いのに、何であの子平気なの!?)

(いやぁ、奇跡?)

(ハルト様も普通に接してるし、えええ‥‥。)

 そんな使用人達の前で、件の女の子はやや緊張気味にハルトを見上げた。そんな女の子の背を押すようにハルトが見つめ返す。そうして、少しばかり緊張を残したまま、女の子は小さくお辞儀した。

 「シヴァリエです。よろしくお願いします。」

 実に丁寧で端的な挨拶。

 礼儀作法はしっかり身についているらしい。

 そんな彼女に口数が少ない主人は珍しく饒舌になって、使用人達に告げる。

 「シヴァリエの部屋は東だ。明日までに必需品を揃えろ。」

 グラスゴーは内心驚きが隠せない。

(2文以上の会話を聞いたのは‥‥一体何年ぶりだ‥‥?)

 更にそれは続く。

 「お兄様、あの、借りた洋服はどうすればいいですか?」

 ネグリジェ一枚でやってきた少女は、今、たまたま保管してあったハルトの小さい頃の服を着ている。その話のようだったが、主人に普通に話しかけた少女に使用人達はビクッと肩を震わせた。

 だが、淡々とハルトは普通に異常に返答する。

 「そこのシーラに渡せ。」

 「洗って渡せば‥‥?」

 「洗わなくていい。捨てるものだ。」

 ひえ、と声を上げたのは使用人の誰か?

 普通に会話しているこの2人に使用人達は内心ダラダラと冷や汗をかいた。有り得ないものを今、見ている気がする。

 使用人達はいつもより何倍も饒舌で、既にこの僅かな間に1週間分以上は話しただろう主人も珍しすぎて、気が動転しそうだった。この女の子は本当に本当に本当に本当に主人が恐ろしくないのだろうか?平然としているが、普通の女の子なら泣き叫んでいる頃である。自分達でさえも正直に言えば、まともに関われない程に恐怖しながら、毎日仕事しているのに。


 そんな有り得ない光景を見て、使用人唯一の人間である赤毛のメイドは明日、天変地異でも起こるのかと震えていた。彼女はここに務め出してから3ヶ月程だが、未だに自身の雇用主を直視できない。‥‥多分、見たら気絶する。その為、まともに関わったことが無い。関われない。だというのに、そんな雇用主と普通に話している人間がいるのだ。ドッキリかと思う。

 と、そんなメイドに無情にも声がかかった。


 「アンナ。」


 「はいいいいいいいいいい!!」

 多分働き出してから、ハルトにその名を呼ばれるのはまだ2回目だ。慣れない、慣れる筈がない。グラスゴーに反応が過剰だと目で叱責されつつ、赤毛の彼女、アンナは内心、そう言い訳した。

 そんなアンナの返事に構わず、ハルトは全くの無表情に実に機械的に指示を出した。

 「彼女を頼む。」

 「はい!はいっ!?」

 何の前触れもなく出された指示にアンナはさあっと青くなる。彼女を頼む。つまり、今日から主人の1人になる少女を世話しろってことか、と気づいて、その重責にアンナはふらついた。

 「わ、わたくし、まだ、侍女のけんしゅうちゅうなのですが‥‥!」

 もう終わっているだろう、と虎の獣人である同僚に小声で言われるが、そんな我が主人が自ら引き取ると言うような重要人物すぎる女の子の世話が出来る気がしない。むしろ、些細なことで怪我をさせて、クビになりそうである。

 だが。

 じっとこちらを見つめたまま自身の主人は表情一つ変えず、怖い程に何も言わない。それに心底からアンナは恐怖を感じて、ガタガタと震える。もう無理だ‥‥。

 「が、がんばりますぅ‥‥。」

 既に涙目。遠の昔に諦め。

 そうアンナが観念したように了承すると、やっとハルトの視線が外れ、アンナはほうっと深く息を吐いた。まじでこのじょうしこわい。だが、アンナが一時の安堵に気を取られている中でも事態は動いていく。ハルトが視線を移した先、今日からアンナがお嬢様というべき女の子がやや躊躇いながら、お願いをした。

 「‥‥あの、お外、見てもいいですか?」

 「構わない。アンナに案内してもらえ。」




 「え?」




 アンナがびっくりして顔を上げると、隣のシーラがドンマイ、とサムズアップしていた。ただ実に苛立つことに「頑張れ、私は知らないけどwww」と顔に書いてあり、人の目をはばからず殴りたくなった‥‥。














 緩やかな台地が海の方に向かい降りていくゆったりとした丘にはレンガとコンクリートで出来た町並み。屋根と屋根を繋ぐように各家庭の洗濯物が紐に吊るされ、風になびく下では、馬車が行き交い、道の端で露天商が立ち並んでいる。

 街は活気と豊かさに満ちており、大量の人が所狭しと並んで歩いている。街の至る所にある小規模な市場には色鮮やかな魚や熟れたフルーツ、大きく育った野菜、物珍しい香辛料まで買われるその時を待って並んでいた。

 そこに女の子が1人、それもあのハルトの妹ととして引き取られた少女がやってきた。それは使用人達が先程知ったばかりだというのに、どこからか瞬く間に街に知れ渡り、アンナが女の子を連れて、外を案内する頃にはプチ有名人になっていた。



 そのせいで、噂を聞きつけた好奇心旺盛な領民にじっと見つめられながら歩くことになったアンナとシヴァリエがその街にいた。アンナの前を歩く女の子は彼らが気にならないのか、周りを興味津々に歩き回って、これ何?あれ何?と先程からアンナに続けざまに聞いている。実に楽しそうであるが、小心者のアンナからすれば、何故、周りが気にならないのかその神経理解不能案件である。さっきからざっと1000人ほど、こちらを見ている。

(うう‥‥心臓が痛い。)

 観賞用インコにでもなった気分である。無遠慮に注目されて緊張する。今すぐに邸に帰りたい。しかし、この女の子の気分を害せば、どうなるか分からない。きっと気に入ったからあの主人はわざわざ引き取ったのだ。彼女に何かあれば、自分のクビが飛ぶかもしれないと思うと鳥肌が立った。

(やっと、やっと雇用して貰えたのに。)

 我慢、我慢である。


 そんな中、ふと、シヴァリエがアンナに声をかけた。

 「ねえ、アンナさん。」

 「はっはい!何でしょう!?」

 失礼の、失礼のないように、とアンナの背筋が伸びる。だが、そんなアンナの意図に反して、彼女は唐突に冷水ぶっかけるような質問をした。

 「ここのこと、もっと詳しく教えて?」

 「へ?」

 「だって‥‥あの家でもそうだったけど。」

 ちらりとシヴァリエの視線が街を歩く人達に向けられる。



 「人間より他の種族の方が多いのは何故?」



 それにアンナは固まった。








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