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第33夜 フィンの回顧

前回のあらすじ


主人公、自身のファンだった転生者に出会う。

 











 これは過去の話だ。



 今とは関係ない。未来(きのう)までの俺とも、もう関係が無い。



 客観的なある過去の話だ。












 俺は冴えない男だったと思う。


 顔も冴えない、学業も冴えない、体育も冴えない。


 友達がうまく作れず、学校の教室の隅で1人で過ごして浮いているようなそんな人間で、いつもいつも独りだった。


 だからと言って、孤独は好きかと言われたらNOで、こんな冴えない俺でも友達になってくれるような優しい人間を傲慢にもいつまでも待っていた。




 もちろん、待ったところで誰が来るわけでもなく、友達1人いない俺は現実逃避をしていた。




 アニメとかライトノベルだとかは良い現実逃避だった。冴えない自分、孤独な自分‥‥そんな自分に嫌気がさしているのに、全く矯正しようとしない怠慢でどうしようもないクズな自分を思考のどこか遠くに送れる。


 そんな延長線で、


 俺は彼女に出会った。



 そして、俺の人生は180度変わった。



 アイドルなんて興味なかった。

 アニヲタとドルヲタは違う種族なんだよ。なんてよく聞く話だが、その垣根は簡単に超えられるものだった。少なくとも俺はそうだった。二次元と三次元は共存しない筈なのに、俺の中ではすっかり共生関係になって、アニヲタでもありドルヲタでもある二股オタクになった。

 きっかけはあるテレビのニュースだった。

 ありふれた朝の芸能コーナーで地下アイドル特集があって、『次世代のニューウェーブ』なんてタイトルでレポートされていたそれ。当時のセンターだった柊美優を中心にグループの特色やこれからの夢を語る在り来りなコーナー。特にその時は何の感慨も湧かなかった。いや、正確には興味がなかった。暇すぎて電車の吊り広告を無意味に見つめるのと同じ。だから、早く普通のニュースになればいいのにと思っていた。

 ところが。

『みんなで一緒にステージで踊ってます!fortuneLuV、どうか1度見に来てください!』

 たった一言。他のメンバーが30秒以上映っている中、たった2秒にも満たないセリフ、映像‥‥。それに俺は惹き付けられた。名前さえ出なかった。柊美優はレポーターにも何度も連呼されていたのに。

 「‥‥ライブに行こう。」

 彼女が何者か分からなかった俺は、特集が終わってそう即決した。それくらいの衝撃だったのだ。初恋というにも、一目惚れというにも、あまりに衝撃的な‥‥まるで魅了の魔法にかかったようなものだった。

 友達もいなかった俺は、休日の予定など幾らでも空いていた。

 だから、簡単に行けた。

 駅を乗り継いで30分、彼女がいるライブ会場に。



 ‥‥結論から言えば、感動した。



 ライブ終わりのハイタッチの瞬間まで興奮していた。

 生で見た彼女‥‥まこちーは最高に可愛かった。確かに彼女より可愛い子もいたが、彼女は本当にどんな場面も可愛かった。一瞬一瞬の全てが名シーンかつ神シーン。ただ残念なことに彼女は最後列の隅が当時の定位置だったから、見にくいのなんの。他のメンバーや特にセンターの柊美優が邪魔で見ることができなかった。

 だから、俺はライブ後のアンケートで、『まこちーをセンターにして下さい。』と思わず書いた。‥‥まさか、同じことを書いている奴が俺の他に4人いて、そいつらと人生初の友達になるとは思わなかったが‥‥。


 俺は人生初の友人達とまこちー非公式ファンクラブを作り、毎週のようにまこちーの応援に行った。ライブの2時間前に落ち合って、最前列でまこちーに声援を送った。‥‥キモオタとか言うな。俺の青春に違いなかったんだから。だが、まこちーファンは俺達だけだったから、他のメンバーのファンとはよく揉めた。俺達の派閥の方がでかいんだから譲れとか、まこちーなんてグッズの売上ないだろうと陰口叩かれる事もあった。完全に俺達はマイノリティだった。だが、まこちーがそんな中でも踊り続けるなら、俺達が彼らに負けるわけには行かなかった。5人でずっと応援し続けた。

 青春してた。弱小チームが頂点目指して、毎日頑張るような地道な努力を重ねるような青春。ペンライトがバットで、声がボールなら、毎週、彼女に向かってホームランを打ちに行くようなそんなイメージ。そして、彼女もまたそんな俺達に応えてくれた。

 メール一つ一つの返信、差し入れへの感謝、顔も覚えて貰って‥‥。友人だとか気兼ねなく話せるような仲では無かったけど、ファンとアイドルとしての距離感をずっと俺達も守っていたし、まこちーも大切にしてくれた。本当に良好な関係だった。グループのメジャーデビューが決まった時も、まこちーのファンとしてずっと応援するって約束して‥‥。



 でも、あの時‥‥俺があんなことを言わなければ‥‥まこちーはまだアイドルでいたのかもしれないのかもな‥‥と思っていた。



 「意見を聞いてもよろしいですか?」

 人当たりの良い笑顔を浮かべてソイツはやってきた。後に、グループの新しいプロデューサーになる奴、ただの運営スタッフだろうと思ってその時は応対したけれど。

 そして、そいつは俺達が丁度、ライブ終わりに感想を語り合っていた時にやってきて、そんなことを聞いてきた。

 「‥‥まこちーのことどう思います?」

 「え?良いんですか?まこちーを語っても?」

 その頃の主流はもちろん柊美優だった。ファンの4割くらいは柊美優ことミユリー推しだったから、運営はミユリーファンにはよく質問していた。それが初めて、まこちーのことを聞かれたのだ。俺達はかなり興奮しながらまこちーの素晴らしさを語った。

 そして、彼は言ったのだ。

 「もし‥‥まこちーがセンターになったら‥‥どうなると思います。」

 それに俺は自信を持って言った。



 「伝説になるくらい、売れると思います!!」








 ‥‥実際に伝説になるくらい売れた。

 歴史を変えるようなトップセールス記録を次々と出し、ツアーは超満員。音楽番組に出れば視聴率は30%を超えた。

 俺達は興奮した。

 まこちーは爆発的に人気になり、俺達5人だけだったファンは100万人を越し、遂には1000万人とかいう数字に膨れ上がった。まこちーはグループどころか全アイドルで最もファンの多いアイドルになった。

 それによって、CMや女優としても彼女が出ると大ヒットすることから、名実ともに売れっ子アイドルとして彼女は名を馳せた。

 実際、その年の売れ筋ランキングの全部が彼女に関わるものだった時は驚いた。

 彼女は社会現象にもなるような人気を獲得したのだ。



 だが。



 一体いつからだろう。



 彼女はステージにしがみつくようになっていった。


 ただ雰囲気がそうだっただけで、確かなことは言えないが‥‥。なんだか、彼女が1人になっているような気がした。

 そうして気にし出すと、彼女のプライベートが激変しているのを察することが出来た。

 メンバーとは軒並み不仲、家族とは絶縁状態‥‥メジャーデビュー前とは全て変わっていた。そんな中で彼女はステージに上がって、ずっと笑っていた。


 まこちーは独りぼっちだった。


 まこちーに出会う前の俺みたく。


 だから、まこちーに俺達がいるよ、と言いたかった。

 だが‥‥俺達は既に“ファン”以上になれない程に、関係が出来上がってしまっていた。

 プロデューサーにあんなことを言わなければ、彼女は独りでステージに立ち続けることも、メンバーや家族から孤立することも無かったのかもしれない。

 特にメンバー内の不仲は週刊誌やスポーツ紙になるほど、話題になった。

 結局、運営側が何か明かすことも取り繕うこともしなかったから風化したが、明らかに彼女はメンバー内から浮いていた。いや、“浮かされていた”。

 ミユリー、柊美優だ。

 地下アイドル時代はグループファンの4割がミユリーファンだった彼女も、まこちーがセンターになってからはファンよりもアンチが多いことで有名になっていた。

 柊美優はまこちーをあからさまに嫌っていた。生放送中に明らかにイジメとしか受け取れないことや、テレビ本番中に他のメンバーと結託して、恥をかかせようとしたこともある。完全にネットで見るような悪役令嬢だった。それをまこちーが意に返したことは無いが、彼女は明らかにまこちーを敵視していた。そのせいでアンチが多くなっても気にしていないようだった。実際、彼女はグループの中では絶対的なセンターとして崇められていたし、グループ内に味方が多かったから、気にする必要も無かったかもしれない。


 ただ今思えば‥‥プロデューサーはそんな柊美優もまこちーの引き立て役として利用していたのかもしれない。


 プロデューサーは未だに謎の人だが、言えるとすれば‥‥“この状況を作り出したのは彼以外いない”かつ“彼が全て操っている”ということだ。

 彼はまこを中心に世界が回るようにした。

 その理由は分からない。

 だが、彼女のファンでは無い。と俺達は思っていた。

 “どこか実験するように、まこちーを中心に回していたのだから”。


 それでも俺たちはファンだった。変わろうとは思って無かった。何故なら、まこちーが好きだったから。


 だが‥‥。


 やはり、俺がプロデューサーにあんなことを言わなければ良かったのだろう。










 MVの撮影中に彼女は亡くなった。

 死因は背後から胸を刺されたことによる刺殺。

 そのMVは伝説的なMVになる筈だった。公式サイトが公開したそれは数秒後には死んでしまう彼女が、神がかっている程に輝いていた。どんな人間も魅入ってしまう。手を止めてしまう。釘付けになって忘れられなくなる。目が彼女に“縛り付けられてしまう”。そんなMVだった。彼女のそれは全世界で10億回見られ、往年のファンも初見だった一般人も彼女の死を悼まざる得ない奇跡のMVだった。

 だが。

 まこちーはこの撮影が終了した直後に殺された。


 それも、“有り得ない殺され方”で。


 彼女が死んだ時、彼女の後ろはステージかつグループのメンバーしかいなかった。しかも、撮影中だったから、それ以外誰も入れない。

 そんな中で、“まるで透明人間”がそこに居たかのように、まこちーは背後から刺された。

 誰も犯人の姿を見ていなかった。メンバーの中にはまこちーが突然、血を吹き出して倒れたなんていう奴もいた。

 だが、彼女の体には鋭利なナイフが1本、確かに誰かに刺されたように刺さっていた。

 だが、撮影中、かつメンバーしかいない、その上、狭い地下アイドルが使うようなステージで、そんな大胆すぎる凶行が何故起こったのか、誰が刺したのか、全ての一部始終を見ていたカメラが3台あったが、全て、手がかりは無かった。


 そんな奇妙な事件。そんな事件で俺達のまこちーは奪われた。


 あの時の5人でかなり泣きあった記憶がある。

 だが、まこちーの葬式は無かった。

 まこちーの実の両親がクズ過ぎて、事務所と盛大に喧嘩して警察沙汰を起こしてしまい、彼女はまとも葬儀をされないまま、火葬された。

 その代わり、彼女を慕った人達だけでお別れ会をした。‥‥そこにfortuneLuVのメンバーは誰一人としていなかったけれど。

 ファンも各々ライブ映像を永遠と流してお別れ会をした。友の1人がやけ酒に走っていた。記憶がある。


 その一方で俺は警官になる勉強をしていた。


 やはり、俺はまこちーの死因がどうしても気になった。誰が彼女を死に追いやったのか、一体、あの場で何が起こったのか、そして、何故‥‥まこちーの死以前に人殺しが出来たのか‥‥。


 結果的に言えば、俺は警官に向いていた。


 学生の頃はぼっちで成績悪くて、友達も結局あの4人しかいなかったけれど、人並みに正義感はあったのと、まこちーファン時代に、ストーカーやら変態やらファンとして逸脱した行動を取るやつの仲裁を良くしていたから、取り調べとか事情聴取だとか仲裁だとか取り押さえとか既に慣れていた。

 ただスペックが平凡なので、目立った活躍やら目覚ましい経歴を持つ‥‥なんてことはなく、地道で地味な存在しかなれなかったが。

 そんな中で俺はずっとまこちーの事件を追っていた。

 fortuneLuVはこのまこちーの事件後、1年もしない内に解散した。そりゃあそうだろう。あんなセンターが亡くなったんだから。しかし、様相は少し違う。まこちーが亡くなっても確かに彼女達はアイドルを続けようとしていた。でも、あの不可解すぎる事件に、メンバーの誰かが殺したんじゃないか?という噂が立ち、その醜聞で散々酷い扱いを受けて、彼女達は芸能界に残る事も出来ないまま、解散した。

 ‥‥何か、こう考えると彼女達も可哀想な気がしてきた。

 ともかく事件を追う中で、俺はよくそんな離散したメンバーによく事情聴取を行っていた。



 その中で、俺が出した結論は‥‥



 まこちーは『魔法』で死んだんじゃないか?



 というものだった。











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