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第32夜 転生者

前回のあらすじ


主人公、ストーカーとお別れする。

 









 「‥‥てんせーしゃ‥‥?」

 突然言われた言葉にシヴァリエは目を瞬かせる。そんな彼女に少年はやや参った表情を浮かべていた。

 「ただのガキんちょの喧嘩だと思って、馬車の乗せたのに。かなりガチなストーカー事件でしかも、お前、気づいてないかもだけど、話し方が全然、見た目にあってないからな?」

 「え?」

 少年の指摘にシヴァリエは目を瞬かせる。見た目にあってない‥‥?少年はそんなシヴァリエに溜息を吐いた。自覚ないのかよ‥‥と彼は小さく呟いた。そうして頭を抱えると口を開いた。

「お前さ、さっきまでしていた会話思い出せよ。明らかにガキする会話じゃねーだろ?小さい子どもが寡黙とか貶すとか根拠とか言葉は使わねえ。」

 確かに。

 シヴァリエは言われて始めて、自身の言葉使いがおかしいことに気づいた。自分はまだ8歳である。無自覚だったが、自分の言葉は8歳のそれではなかった。

 少年は頭をかいた。

 「ちくしょー。俺、見た目の年齢だけしか見てなくて、被害者と加害者を一箇所にしちまったのかよ‥‥。前だったら、ニュース沙汰になるじゃねえか‥‥。あー事情聴取してから判断すれば良かった。」

 シヴァリエとあのストーカーである彼を、少年は酷く後悔しているようで、ブツブツと不満と後悔を垂らしていた。彼はひとしきりつぶやくと、シヴァリエに向き直った。

 「俺の名前はフィン。フィン・グラート。お前は?」

 その問いにシヴァリエも答える。

 「シヴァリエ・マイネスです‥‥。」

 その言葉に少年、フィンはふむと頷いて、更に質問を重ねた。

 「それでお前は転生者であっているよな?死んだら生まれ変わっていた系の。」

 「は、はい。」

 「ちなみに生まれ変わる前の名前って覚えているか?」

 「うん、恋茉莉まこ‥‥。」

 ん?恋茉莉まこ?すると突如として、少年の表情がぎこちなく固まった。そんな少年の反応にシヴァリエは首を傾げる。何か変なことを言っただろうか?‥‥あっそう言えば‥‥。


 私、前世、アイドルだったや‥‥。


 「うっそだー!!お前が!?お前が!?恋茉莉まこ!?まこちー!?いやいや!!信じられないんだが!まこちー?なのか‥‥?」

 「うん。」

 「確認。キャッチフレーズ‥‥。」

 そう言われて、シヴァリエはパッと馬車の中で立つと、あの頃のファンサービスを思い出しながら、営業スマイルを浮かべた。


 「上から読んでも下から読んでも恋茉莉こまりまこ!!貴方の輝く星になるよ!みんなのまこちー☆」


 両手でハートマークを作り、くるっと一回転してウィンクする。うん。懐かしいまこちーのキャッチフレーズだ。よく覚えていたと思う。もう身体は覚えていないと言うのに。若しかするとこの分だとダンスも覚えているかもしれない。

 そんなことを考えていると、ふと目の前の少年が口を開けたまま、驚愕を表情に書いて固まっていた。

 ‥‥もしかしなくても、恐らく彼はまこちーのファンだったのだろう。反応が長年アイドルに憧れていたファンが初めて握手会に来たみたいな反応だ。まこちーにはわかる。

 久々のキャッチフレーズで懐かしくなったシヴァリエは大胆にも少年の手を自身の両手で包み込むように握手すると、小首を傾げて。

 「まこちーのファンになってくれて、今日会いに来てくれてありがとー!!ラブ、きゅんきゅんだよ?」

 自身の握手会定番だったフレーズを言った。


 すると、フィンは音も無く、ばったりと倒れた。





 しばらくして。



 「マジか‥‥マジかよ‥‥。何でまこちー‥‥よりによって、まこちー‥‥。事前に教えてくれ‥‥心臓が持たない‥‥。童貞にまこちーは凶器だろ‥‥。まこちーにストーカーとか‥‥納得しかなくなった‥‥。マジ、なんで‥‥まこちー。まこちーが、俺の目の前‥‥はー‥‥まこちーが‥‥。」

 馬車の座席に顔を埋めながら、少年がブツブツと耳まで真っ赤にして独り言を呟いていた。ちなみに握手会のフレーズを言ったら、シヴァリエが直視出来なくなったらしく、ずっと背を向けている。先程の豪胆さはどこに行ったのだろうか?シヴァリエは首を傾げた。ちなみに彼女はまだ気づいていないが、彼のそれは俗に言う“ヘタレ”というものである。

 そんな彼にシヴァリエは自身だけ経歴をあかすのはどうかと思い、聞いた。

 「ちなみに、あなたは?貴方の前世は何だったの?」

 それに彼は顔をあげないまま、答えた。

 「警視庁。」

 やはり、納得の前世である。警官っぽいと思ったが、本当に警官だった。そうして、彼は自身の前世の名前を告げた。

 「春川将太。‥‥それが俺の名前。」

 シヴァリエはその名前にピンときた。やはり、彼は自身のファンだった人だ。

 「貴方、私の握手会とソロコンサートにいつも一番乗りで来ていた人!!いつもメールとか差し入れとかくれた。あれ?‥‥でも‥‥。」

 あの時、彼は大学生だったような?

 その疑問に首を傾げるシヴァリエに少年はどこか硬い声音でその答えを告げた。

 「‥‥俺が死んだのはまこちーが死んでから何年か経った後だ‥‥。」

 その言葉にシヴァリエは目を見開いた。

 彼は緩慢な動きでゆっくりと彼はシヴァリエに振り返る。そして、とても複雑な、泣いているような、悔しがっているような、驚愕から目が覚めないような、そんなよく言えない表情で、シヴァリエを見つめていた。

 「‥‥シヴァリエ、いや、まこちー。」

 一呼吸、彼は深く息を吐くと意を決したように息を吸った。

 「実は転生者が他にいるらしいのは知っていたんだが俺にはお前が初めてなんだよ。なので、友達“から”始めませんか‥‥!?」

 その言葉は、ヤケに前半早口かつ棒読みだった。かつ、後半が本音だろう!?と突っ込みたくなるほどに力が入っていた。しかも、友達“から”である。一体、彼はシヴァリエとどうなりたいのか‥‥下心が見え見えである。

 しかし、今世に知り合いがいることに内心嬉しさと、懐かしいアイドルらしいことをして、実は無自覚に浮かれていたシヴァリエはその言葉の意味を深く考えずに。

 「うん。友達、いいよ。」

 と答えてしまう。それにフィンは内心、ガッツポーズを決め浮かれた。そりゃもう浮かれた。



 ‥‥だが、彼は見てしまう。



 ニコニコと笑うシヴァリエの背後の窓に‥‥シヴァリエとよく似た瞳の男が、こちらを人殺しでもするような殺気を伴って見ているのを。


 「‥‥あ、死んだ‥‥。」


 フィンは2度目の死を直感した。








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