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第十一章「剣(つるぎ)」 三

 カイルは深い森にぽかりと開いた草地にいた。


 そこは黒森の中にある、カイル達の村からそう遠くない場所だ。雪に覆われているが、明るい月明りに照らし出され、所々、雪から顔を出した石くれが見える。

 無残に崩れた家々の跡。

 ここにあった里が失われたのは、もうずっと昔の事だ。


 カイルは廃墟から視線を引き剥がし、天空に輝く月を見上げた。

 レオアリスが村を出て以来、何の音沙汰も無い。まだほんの五日程の時間しか経っていないにも関わらず、カイルには永劫の時が流れたかのように感じられた。

 ジェリドからはたった一度だけ、伝令使が短い言葉を伝えてきたが、それ以外王都からの便りは無い。

 カイルは不安ばかりが募る想いを断ち切るため、溜息を吐いて廃墟に背を向けた。


 歩き出そうとした時、ごとりと重い音が響いた。


 はっとして振り返ったカイルの眼が彷徨い、月明りに剥き出しになった焼け落ちた石を捉える。折り重なり倒れていた柱が崩れたのだ。


「――」


 何でもない光景だ。もともと不安定だった瓦礫が、ゆっくりと時間をかけて、今、崩れたに過ぎない。

 だが、カイルの胸に、雷雲のように黒々とした不安が湧き起こった。

 鼓動が早鐘となり、身体の奥で鳴り響く。

 カイルはよろめきながら、廃墟に近付いた。


「ジン……」


 呼び掛けに答える声はない。しんと静まり返った、張り詰めた景色があるだけだ。

 十四年前の、忘れがたい晩が、カイルの脳裏に甦る。

 まだそこにいた者達と、生まれようとしていた命と。


「――お前の子だ。わしらは守れもせんで勝手な願いばかりじゃが、――どうか」



 どうか、守って欲しい。



 最早いない者に、言葉が、願いが届くのかは判らない。


 何にこれ程不安を感じているのか自分でも判らないままに、沸き上がる不安を振り払おうと、カイルはその言葉を繰り返し続けた。








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