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第十章「闇を征く者と標(しるべ)の光」 一

 王都の正規軍西方将軍ヴァン・ヴレッグの元に、カトゥシュ森林を封鎖している第六軍大将ウィンスターからの急使が届いたのは、レオアリスとアーシアが軍を抜け出した時より一刻ほどを遡った頃だった。

 伝令使の告げた言葉に、ヴァン・ヴレッグは頬を引き攣るように震わせた。


「公が――」


 ヴァン・ヴレッグは踵を鳴らして身を反し、執務室の椅子にどさりと身体を落とした。


「閣下」


 副将デフが彼を追って広い執務机の前に立つ。デフの顔もヴァン・ヴレッグと同様、血の気が引いて紙のように白い。

 アナスタシアが黒竜と共に地底に落ち、更に地盤の崩壊により穴が閉ざされた事――鷹の姿をした伝令使は独特の無機質な声でウィンスターからの報告を伝えた。それは春の夜の穏やかな空気を極寒の冬の大気に変え、広い室内を凍てつかせた。


「閣下、まさかあの方がそのような事でお亡くなりになるとは思えません、直ちに」

「判っている――」


 ウィンスターも法術士団の一隊を救援に回すよう要請している。アナスタシアの救出を考えての事だ。


「今回は私の責任だ。甘かった。当初から全軍を当てて黒竜を封じるべきだったのだ」


 言っても始まらない事だが、ヴァン・ヴレッグは頭を抱え込み呻かずにはいられなかった。

 余りに早く事が動いた。封鎖をして状況を見るつもりが、西方軍、いや、正規軍全体にとって最悪の結果を招く事となった。


「閣下」

「判っている、要請通り直ちに法術士団を向かわせよ。第四、五大隊もカトゥシュへ向ける。私も」


 ヴァン・ヴレッグが立ち上がろうとした時、再び伝令使が嘴を開き、まだ残っていた伝言が流れる。


『剣光を確認しました……例の剣士を使います』


 打たれたように振り返り、ヴァン・ヴレッグはまじまじと伝令使を凝視した。


「北の――剣士を使うだと?」


 全てを伝え終えた伝令使は、何事も無かったかのように羽を啄ばんでいる。デフは暫くじっと考え込んでいたが、ヴァン・ヴレッグの傍に寄った。


「北のというと、スランザール殿から情報のあった者の事ですね? 文書官長ジェリド・ラザールの報告によれば、まだその子供は剣士としての自覚はないという事でしたが」

「そうだ、そのはずだ。」


 低く呟き、ヴァン・ヴレッグは顔を上げた。デフの骨ばった顔を睨むように問い掛ける。


「――剣光というのは、覚醒の兆しか?」

「はっきりとは判りませんが、それは考えられます。元々剣士という種族は、ある一定時期までは剣が現れないものだと何かの折に読んだ事があります」


 剣士という種族への知識は、実はあまり広く知られていない。彼等が種として少数である事と、組織に属する事が少ない為だ。

 デフの知識も書物上のものだが、ヴァン・ヴレッグの思案顔に、デフは決定を促すように頷いた。


「きっかけの一つには十分では。剣士の存在は心強い」


 ヴァン・ヴレッグの上には、微かな動揺が見える。


「――問題が多すぎる」

「しかし、この状態では少しでも可能性があるのならば、それに賭けてみる事も必要です。その剣士が使える可能性があるなら」

「可能性ではない、奴は既に使うと明言している」

「剣士でしょう」


「剣士だ」


 デフは眉を潜めた。ヴァン・ヴレッグの顔にはデフの知り得ない事を原因とする懸念が存在している。


「閣下、どうなされました。剣士を使うのは良案ではないのですか」

「――」


 ヴァン・ヴレッグはデフの視線から顔を逸らせていたが、やがて首を振った。


「……いや。法術士団は封印の長ける者を中心に構成しろ。黒竜を弊すのは難しい。カトゥシュに封じる。準備が整ったら、ボルドー中将を私の前へ呼べ」


 デフは訝しそうな顔をしたが、すぐに敬礼して執務室を出た。

 やがてやって来た中将ボルドーはヴァン・ヴレッグの指示に驚きを覚えつつ、法術士団を率いて王都を後にした。






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