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第三章「炎舞う」 九

 それが起きたのは、まだ夜も早い内の事だった。


 護衛の一人が見張りに立ち、レオアリス達は焚き火の周りで思い思いに横になっていた。

 三日月が薄い光を投げ、辺りは静まり返っている。時折冷たい風が抜けて焚き火を揺らし、離れた林の方から梟の声が聞こえるだけの、穏やかな晩だ。


 長旅の疲れと、明日の午前中にはフォアの街に着く安堵感もあり、一行は深い眠りの中にあった。見張りに立っていた護衛も荷馬車に寄りかかり、時折重くなる目蓋を何とか繋ぎ止めている。


 その穏やかさを破る呼子のように。


 ふいに、空を切る音が走った。

 闇の向こうから飛び出した一本の矢が、見張りの寄りかかっていた荷馬車に突き立つ。


「!」


 慌てて身を伏せ、護衛は矢の飛んできた方角を見透かした。

 闇の奥から続けざまに、火矢が次々と飛んでくる。その後を追うように闇から駆け出してくる複数の人影。手元に光るのは、剣だ。

 護衛はとっさに手にしていた松明を投げつけ、剣を抜いて叫んだ。


「襲撃だ!」



 

 重いものが倒れる音と馬が高くいななく声で、レオアリスははっと目を覚ました。

 慌てて起き上がって見渡した光景は、すぐには理解できなかった。


 目の前で荷馬車が横転し、積荷を草の上にばら撒いていた。手綱に巻き込まれた馬が、起き上がろうとあがいている。

 倒れた荷馬車の向こうから荒々しい怒鳴り声と、再び何かが倒れるような騒音が響いて来る。ところどころでチラチラと、赤い光が揺れていた。


 突然の事で、何が何だか判らないまま、レオアリスは呆然と辺りを見回した。


「おい、起きろ! 野盗だ! 襲って来てんだ!」


 誰かが叫び、まだ眠っている者達を叩き起こして走り出る。飛び起きた男達が、一瞬後にそれに続いた。

 実際には数瞬の事だったが、その時はひどくゆっくりと時間が流れているように思え、――それからふっと意識に落ちた。


(野盗!?)


「……なぁにぃ?」


 隣で寝ていたマリーンが起き上がろうとしたのを、咄嗟に毛布で押さえる。


「ちょっ……」

「じっとしてて!」

「な、何なのぉ」


 マリーンは訳が分からず、毛布の下で目を白黒させた。だが、毛布に遮られても、騒音が聞こえてくる。


「いいから。出ちゃ駄目だ」


 マリーンは毛布の下で身体を縮めた。レオアリスは素早く辺りを見回す。幸い、彼等がいるのは倒れた荷馬車の陰だ。

 まだレオアリスもはっきりと、何が起こっているのか理解していた訳ではなかったが、今のところこの場所までは、野盗の目は届いていないようだった。


(けど、あっという間だ……)


 野盗というものに出くわすのも初めてだが、この程度を見落とすほど甘くはないだろう。

 加勢すべきか、マリーンの傍に残るべきか、レオアリスは迷った。

 マリーンは毛布の下で震えている。

 その間にも、飛んできた矢が離れた地面に突き刺さる。

 商隊の護衛は四人、あと四人従者がいて、デントとマリーンを抜かすと八人だ。


(相手は――?)


 何人いるのだろう。


「マリーン! マリーン、無事か!?」


 ちょうどデントが戻って走り寄り、娘をかばうようにその傍に膝を着いた。


「マリーン!」

「父さん!」


 マリーンが父親に縋りつく。レオアリスはほっと息をつき、デントに顔を向けた。


「野盗って、何人いるんですか?」

「判らん。私は四、五人は見た。今護衛達が」


 その言葉が終わらないうちに、倒れた荷馬車の陰から、野盗の一人が飛び出した。デントがぎょっとして娘を抱き締める。抜き身のままの剣が焚き火の炎を照り返し、マリーンが悲鳴を上げた。


 相手が三人を認めて一瞬足を止めた、その間に、レオアリスは半ば無意識に動いた。

 地面を蹴り、野盗の身体に体当たりして荷馬車の向こうに押し返す。


「逃げろ!」

「レオアリス!」


 慌てて腕を伸ばしかけたマリーンの身体を、デントが抱え込んだ。


「いいからお前はこっちに来なさい! 逃げなきゃいかん」

「だ、だって危ないわ! あんな子供が」


 マリーンは心配そうな瞳を倒れた荷馬車へ向けたが、父親に引かれてまだ静かな草地へと駆け出した。





 

 勢い余って草地に転がりながら、レオアリスは腰の剣に手を掛けた。

 人相手の実戦など、レオアリスはした事がない。

 相手が起き上がり、剣を振り被るのが見えた。


 怖いと感じなかったのは、勇敢からではなく、混乱と、未知ゆえだ。

 実際、レオアリスは混乱していた。冷静なら距離を置き、術を使っただろうが、その事に思い至らないほどに。


 鞘から出すのももどかしく、剣を振り抜く。

 剣戟は迅かった。

 刀身が、微かに青白い光を纏ったように見えた。


 だが、切っ先は反撃に驚いてよろめいた相手を掠めただけで、その足元の岩に打ち当たる。

 一瞬の間をおいて、剣は刃の半ばからあっけなく砕けた。


「!」


(くそ! 何でこんなとこに岩があるんだ!)


 青ざめ毒づいたものの、もうそれで手は終わりだ。

 相手は体勢を立て直し、既に剣を振りかけている。

 横薙ぎの剣の軌跡が見える。

 ヤバイと、そう思った。


 ずいぶん、呆気ない終わりだと――


 体内で、どくんと鼓動が鳴る。


 やけにゆっくりと切っ先が迫ってくるように見えた。


「っ……!」


 腹部に鈍い衝撃があったが、感じる痛みは無い。

 咄嗟に、折れた剣で防いだだろうか。

 見開いた瞳を腹部に向けかけた時だ。


「待て! ガキは殺すんじゃねえ!」


 鋭い怒鳴り声に、目の前の男は慌てたように剣を引いた。

 下ろした剣の刀身に亀裂が走っていたが、男もレオアリスの視線も、剣ではなく制止した声の主へと向いていて、それに気付いてはいなかった。


 叫んだのは商隊の側ではなく、奇妙な事に野盗の方だ。大柄な男が二人の方へ大股に近寄る。


「だからてめえは阿呆だってんだ! いつも言ってんだろうが、女こどもは売れるんだからよ」


 目の前の男が身体を緊張させたという事は、この中年の男が首領か何かなのだろう。案の定若い男は「お頭」と中年を呼び、「殺ってねぇよ、ちょっと擦ったかもしれねえけど」と言い訳じみた事を言った。


「ふん」


 首領は騒ぎを背景に悠然と近寄ると、訳が判らず突っ立っていたレオアリスの顔を掴んで覗き込み、にやりと笑った。笑うと頬にこれ見よがしに刻まれた傷がひきつり、凄味が増す。


「上玉じゃねぇか。いい拾いモンだ。高く売れるぜ。おい、ガキだけか? 女はいねぇのか」

「いたぜ、その馬車の向こうだ。親爺が一緒だけど、逃げたかもしんねぇ。このガキが邪魔しやがって」

「てめぇはそのガキを抑えときな。おい、二人ばかし来い!」


 首領はレオアリスを男の方へ押しやると、荷馬車へ歩き出した。首領の声に、近くで護衛と戦っていた男達が数人、荷馬車の方へと駆け寄る。


(……女)


 マリーンだ。

 逃げただろうか。


「待て……!」


 首領を追おうとして、腕が背中へと捻り上がった。


「いっ……痛ぇなっ!放せこの」


 レオアリスは振り返り、自分の手を捻っている若い男を睨み付け、抜け出そうと暴れたが、却って関節の痛みが増したばかりだ。


「その程度の痛みで済んでお前は幸運だぜ。他の奴らよりはな」

「――何だそれ……」


 他の奴らより?

 背筋を冷たいものが走る。

 経験の無いレオアリスにも、男が何を言っているのかは想像が付いた。


「……止めろよ! 殺す必要ないだろう!? 欲しいもんなら全部持ってけばいいじゃないか」

「何抜けた事言ってんだ?」

「――この」


 振り返ろうとしたレオアリスを、男が押さえつける。


「てめえはまだ死なねぇんだ、黙って喜んでろ。まぁなるべくおとなしくしとくんだな。そうすりゃ五体満足のままでいられるし、無駄に値段を下げなくて済む。買う方も俺等もお前も、三者満足ってモンだ」


 そう言うと両手を後ろ手に捻り上げたまま、素早く縄で手首を縛り上げた。ただ幸いな事に、男はレオアリスの両手を縛っただけで、後は放っておくつもりのようだった。

 口さえ塞がれなければ、逆に何とかなる。


 レオアリスの考えには気付かず、男は彼の身体を検分し、首にかけていた鎖を見つけてそれを引きちぎった。青い石の付いた小さな飾りを目の前に垂らし、ゆらゆらと振る。


「これは値打ちモンか?」

「……ふざけんな! 返せ!」


 レオアリスの反応に男は満足そうに笑う。


「幾らで売れたかぐらいは教えてやるよ」

「この」


 踏み出そうとした瞬間、おもいっきり腹を殴られ、レオアリスは夕飯を吐き出しそうになった。何とか倒れずに踏張ったのは、ただの意地だ。


(ちくしょう……)


 霞む眼にも、まだ抵抗が続いているのが見える。だが人数が違いすぎた。護衛達は一人で多ければ三人程を相手にするような状況で、とてもこのまま保ちそうには無い。

 状況を変えられるとしたら、おそらくレオアリスの法術が一番有効だ。

 レオアリスは敵の位置を把握するために、視線を巡らせた。今は首領達もいない。


(今なら)


 術で野盗達を狙い打てれば、護衛達には余裕が生まれる。マリーン達を追う事もできるはずだ。

 だが、その期待は、すぐに悲鳴に打ち破られた。

 心臓がぎゅっと掴まれる気がした。マリーンの声だ。


 視線の先で、マリーンとデントが馬車の陰から引きずり出されてくる。

 マリーンは無事のようだが、デントは肩口を真っ赤に染めてぐったりしていた。


「父さん! しっかりしてよ!」


 真っ青になって叫ぶマリーンを抱え、首領は満足そうにデントを抑えている部下達に顎をしゃくった。


「そいつは殺しとけ」


 マリーンが悲鳴を上げる。

 ぐずぐずしている時間は無かった。

 レオアリスは自分の身体を押さえている男にちらりと眼を向けた。

 男はレオアリスの腕を押さえてはいるものの、周囲の様子にすっかり気を取られているように見える。首領の男も、今はレオアリスに背を向けていた。


(甘いんだよっ)


 男に気付かれないように、レオアリスは口の中でそっと術を唱え出した。


(こいつら全員、吹き飛ばしてやる!)


 周囲の空気がゆらりと揺れ、レオアリスを中心に渦を巻き始める。

 次第に強くなる風に、レオアリスを押さえていた男が辺りを見回した。


「何だ……うわっ!」


 次の瞬間、男は強く吹き上がった風に押され、地面に倒れ込んだ。


(しまった)


 レオアリスは自分の誤算に気付いた。

 それは、人相手の実戦経験の無さ故の、初歩的な測り違いだ。

 完全に発動すれば狙い通り野盗達を吹き飛ばしただろう術は、逆にその威力のせいで、組み上がる前の余波が仇になった。


「こいつ、術士か!」


 その声で振り向いた首領はマリーンを放り出し、術の詠唱が終わる前にレオアリスの身体を引き倒した。後ろ手に縛られたままで受身すら取れずに、地面に強かに胸をぶつけ、レオアリスは噎せ返った。

 渦巻いた風が散り散りに消える。


「このクソガキ! ふざけやがって!」


 首領はレオアリスの背の上に跨がると、詠唱の出来ないように頭を地面に押さえつけ、持っていた布を口に突っ込んだ。


 吐き気が込み上げ、しかも頭を力いっぱい地面に押し付けられて、呼吸もままならない。


「やめてよ! いい加減にして!」


 倒れたままの父親の身体に縋り付きながら、マリーンが必死に叫ぶ。その声を掻き消すように、レオアリスの傍でひっくり返っていた男が、腹立ち紛れに怒鳴った。


「お頭、そいつも殺っちまおう! 術士なんざ生かしといたら危なっかしくて仕方ねぇ!」


 冗談の欠片もない声の響きに、心臓が跳ねる。だが、もっとぞっとしたのは、首領の言葉だった。


「慌てんな。舌を切りゃ術も使えねぇさ。金になるモンは残しとけ」


 まるで物を扱うような言い草だ。


(――こいつら、何で)


 商隊は単なる通りがかりだ。もとから何の諍いも恨みも在るはずがない。これほど剥き出しの悪意を受けるいわれは無いはずだ。


「金になるのはもういねぇな。なら他は全員殺っとけ。街に近いからな、下手すりゃ北方軍に見つかっちまう。貰うもん貰ったらさっさと引くんだ」


 押さえつけられているレオアリスの斜め前で、デントの横に下働きの男が引き倒されるのが見えた。父親に縋り付くマリーンを無理やり引き離し、彼女が泣き叫ぶのを聞くと、野盗達は身体を反らしてげらげらと笑った。


(……こいつら――)


 怒りで、眩暈がする。

 レオアリスはどうにか動く足だけで精一杯抜け出そうともがいたが、後頭部を力任せに殴りつけられ、一瞬意識が飛んだ。


「――っ」


 息も満足に吸えない状態の中で、怒りも合わさってぐらぐらと意識が揺れる。

 心臓の鼓動が早鐘のように次々打ち鳴らされ、視界がすぅっと白く染まった。


 青みがかった、白だ。


 首領はぎくりとして、押さえつけている少年を見下ろした。

 レオアリスの身体を、微かな青白い光が取り巻いている。


「――こ、このガキ、まだ術……」


 覗き込んで、レオアリスが一言も発していない事に気付いた。

 術とは違う。

 首領の頭に警笛が鳴った。

 危険だ。


 腰の剣に手を掛けた瞬間、レオアリスの手を縛っている縄が鋭利な刃物で切られたかのように、ぷつんと切れた。

 押えていた首領の手から、血が吹き上がる。

 親指が刃物で断ったかのように深く切れ、だらりとぶら下がった。


「――っぎゃ」


 地面に転がりながら上げかけた首領の悲鳴は、それよりも一層騒がしい叫び声に掻き消された。

 首領は顔を上げ、眼に飛び込んで来た光景と肌を焦がす程の熱波に、恐怖で身体を硬直させた。


「なん……」


 ふいに開放されたレオアリスは、騒ぎすらまだ耳に届かないまま、何とか口に詰まった布を吐き出し、漸く呼吸を取り戻した。

 視線を上げ――吐き気で涙の滲んだままの瞳で、その光景を見た。

 空から降り注ぐ紅蓮の炎が、辺りを薙ぎ払うのを。


 野盗達は身に纏いついた炎を消そうと草地の上を転げ回り、そのすぐ傍で、マリーン達が火傷ひとつ負わないまま、呆然と座り込んでいるのが見える。


「――な、何だ……」


 レオアリスは起き上がるのも忘れて、その様をやはり呆然と眺めた。


 何が起こっているのかさっぱり判らないまま、炎は野盗達を全て地面に転がし終わると、それだけが目的だったかのように、忽然と消えた。

 延焼どころか、ちらと揺れる残り火すら無い。


 ゆっくりと起き上がり、レオアリスは漸く周囲を見回した。

 辺りに見えるのは燻る焦げた臭いと、呻き声を上げる野盗達の姿だけだ。


(――術、なのか……?)


 あれほど唐突な、無軌道な、奔放な炎が?


(でも全く、術の気配なんて無かった……)


 普通法術を使えば、必ずと言っていいほど兆しがある。

 それとも、詠唱や前触れが届かないほど遠くで発動させたのか……

 視認もせずに、あれほど正確に?

 誰が?


「父さん!」


 マリーンが叫んでデントを揺する。


「駄目ですお嬢さん、そんな揺すっちゃ。大丈夫、気を失ってるだけですよ」


 下働きの男に告げられて漸く、マリーンは安堵に身体の力を抜いた。

 レオアリスが近寄ると、マリーンが手を伸ばして、レオアリスの顔に付いた土を拭った。


「あんたも大丈夫? ……子供が無理しちゃだめよ」

「大丈――」


 今更ながらに恐怖が沸き起こってきて、レオアリスはその場に座り込んだ。

 何が起こったのかは良く判らないが、とにかく、助かったのだ。

 そう思って力が抜けたとたん、一つの明確な事実が突き付けられるのが判った。


(何もできなかった……)


 その事がレオアリスの心に、重くのしかかってくる。

 呻き声を上げているのは、野盗達だけではない。倒れて動かない者も――


 レオアリスが法術を上手く使えれば、被害はもっと少なかったのではないか。

 そんなのは自己過信に過ぎないと言われても、可能性はあったのだ。十分に活かしきれなかったのは事実だった。


 王の御前試合?

 本当にそんな事を、自分は目指しているのか?


(こんな程度で……)


「――ごめん」


 呟かれた言葉にマリーンは微かに眉を寄せた。

 レオアリスはうなだれて、足元の草を見つめている。

 マリーンが労るように背中をなぜる。


「あんたは頑張ったわよ。おかげで逃げる暇があったし。逆にあたしなんか、子供を置いて逃げちゃって恥ずかしいわ」

「――」

「そんな事より、怪我人の手当てが先よ」


 デントの傷も浅いとは言えず、座り込んでいる数人もあちこちに怪我を負っている。


「馬車を起こして、荷を戻して、フォアに行きましょう」


 マリーンは自分に言い聞かせるようにそう言うと、立ち上がり、怪我の軽い従者達にてきぱきと指示を始めた。


 

 

 

 

「アナスタシア様、降りなくてよろしいんですか?」


 アーシアの声にアナスタシアは吹き抜ける風に黒髪を散らしながら首を振った。


「いいの。軍が来てたらヤバイだろ? 一応私の責任は果たしたし、後は北方軍に任せときゃいいよ」


 それにもう、あの争いの場はすっかり通りすぎてしまった。

 あの時感じた、身を震わすほどの異様な感覚も、探っても残り香すら見当たらない。

 何だったのだろう、あれは。


 一瞬だけ膨れ上がり、ちょうどアナスタシアが炎を放った時に、すぐに消えた。


(……まあいいや)


 風を切る翼にアナスタシアはにっこり笑みをほころばせる。

 今日は色々あったけれど、ごはんも食べられた事だし、仕事もしたし、旅はやっぱりそれなりに愉快だ。


「今日はどこで寝る? 寒くないところにしようね」

「すぐそこに街が見えます。あれに下りましょう。お金が無くても装飾品を交換すればいいんですって」

「ホント? じゃあ、私のも換えちゃおう」

「貴方のは駄目ですよ」

「いーのいーの」


 何とものんきにそう言うと、アナスタシアは頭上の細い月を眺めた。

 アーシアの翼は、夜の風を切って、眼下に見えている街の明かりを目指した。









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