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「じゃあ、行ってきます」
「ああ」
とても忙しいのにも関わらず、時間を作ってわざわざ送りに来てくれたオズが私の額にキスを落とす。
「休みの日は?」
「オズに会いに帰ってくるよ」
「なら、私は仕事を終わらせておかないといけないな」
「……オズ様他の人の何倍仕事してると思ってるんですか倒れますよ」
顔を顰めて苦言を呈するリズをもろともせずに飄々と笑う。
「エスカが会いに来てくれるなら、その程度で倒れるはずが無いだろう」
「無理しないでねオズ。私はオズが倒れたらやだよ」
「勿論。私のエスカ。君には心配をかけられないからね。
いいか、エスカ。王家なんかにへりくだる必要は無い。君がしたいように手を抜きまくればいい」
「……オズがそんなこと言うなんて珍しいね。いつだって仕事には本気にって言うのに」
「これは仕事じゃない。
ただの強制労働だ。護衛?なんの冗談だ。あいつらが欲しいのは『黄昏の死神』がいるという事実だけだ」
オズは赤の死神と呼ばれている。切り裂かれた人から飛び散る赤が見惚れてしまうほどに美しかったから。
私は黄昏の死神。
能力を使う時に目が黄金に輝くのが、夜の中で美しい黄昏を思わせたからだからだそうだ。
私は銀の髪を見遣る。変わってしまった青い瞳を浮かべる。
そして、オズよ腹をゆっくりとなぞる様にそっと触れていった。王家の護衛なんてするからだろうか。
眠らせていた、封印していた申し訳なさが一気にこみ上げてくる。
私が唐突にしたその動作にユ オズがびくっと身動ぎしたのがわかる。何かを言おうとして飲み込んでるのも。
「オズ、ごめんね。本当にごめんなさい。
オズが許してくれても私は、私が許せない。」
腕にあるのは深い傷跡。力を制御出来なくて暴走してしまった私を身を呈して止めてくれたオズが負った一生消えない傷。
次に目が覚めた時には黒髪黒目は銀髪碧眼になっていた。
そして、オズは隣で血塗れになって生死の境をさ迷っていた。
なのに、原因の私を一言を責めたりせずにただ泣くことしか出来なかった私をずっと抱き締めて背中をさすってくれていた。
私が何を言おうとしているのかを悟ったオズが先回りして言い、軽く笑った。
「エスカフィート、頼むから私の側からいなくなるなんて言わないでくれ。
それならば私は一生許さない。だから許されるまでそばにいてくれ」
オズ、言ってることが矛盾してしまっているよ。一生許さないのに、許されるまでそばにいろ、なんて。
でも、オズのそばにいていい理由があるならなんでもいいのだ。
何もなくても帰って来られる場所があるというのは、それだけで頑張れるものなのだ。
「ごめんなさい、オズ。やっぱり少し不安になって」
「だろうな。……そうだ」
オズは何かを思いついたようにリズに声をかけた。リズは目を輝かせて大きく頷くと屋敷の二回へと飛行の魔法で飛んでいきあっという間に帰ってきた。
その手にはシンプルな便箋が握られていた。
「エスカ、文通というのを知っているか?」
もちろん、と頷くとオズはその便箋を私に差し出した。
「これは指定された場所に飛んでいく魔法道具の便箋だ。離れていても問題ない。
やってみないか?」
「魔法道具の?高くないの?」
「エスカは私を見くびっているのか?この程度の魔道具自分で作れる」
「……オズが作ってくれたのに使うのはもったいないなぁ」
「エスカが望むならいくらでも作るから、甘えて使っておきなさい」
「ん、分かった」
便箋を受け取り魔法で収納すると名残惜し気なオズの頬にキスをして屋敷を出発した。
これから私が目指すのは王都の王立学院。
学院なんて初めてだけどもう内容は修了してるからテストだけ出れば問題ないと聞いている。
好きにしていいとオズも言っていたから手抜きでいいかなぁ、そう思ったからか随分と気が楽になっているのだ。
杖を大きくふって魔法を使い飛行する。
オズに師事したおかげで完全に使いこなせるようになりもう暴走の心配はない。
私の力の本質は身体から金属を生やすなんてことだけどこれは暗殺技。だから表ではほとんど使わない。
だから私はバケモノみたいなこの力を受け入れてくれたオズや屋敷の人、ギルド員にリズ達に報いたいと思うのだ。