年相応
人よりも早く騎士見習いになったジャンの周囲には常に自分よりも年長の者ばかりがいて、ジャンは自然と大人びた仕草を覚えていた。
子どもっぽい行いをしないよう、自分を戒めながらここまできた。
だから実年齢よりもいくつか上に見られることも少なくはない(身長の低さばかりは如何ともしがたいのだけれど)。
けれどその程度ではソフィと自分の年の差を埋めることはできないのだと気づいてしまった。
(もっともっと稽古をして、早く一人前の騎士になりたい)
ジャンの心にそんな思いが湧き上がってくる。
ふいにソフィが顔を上げる気配を見せたので、ジャンは慌てて顔を引っ込める。
壁に背を預け通りのほうを向く。
そして初めて、通りを歩く人たちに自分が見られていたことに気づいた。
「あっ……俺、怪しい者じゃありませんから!」
ジャンは慌ててそれだけ言うと、足早にその場を離れた。
以前にも同じ様な台詞を口にしたことを思い出しながら。
―――
日没間近な町を、ソフィは小さな包みを大事に胸に抱えて歩いていた。
完成した商品をお客さまへ商品を届けたあとはそのまま帰ってもいいと親方から言われている。
ソフィは今日初めて教わった細工の手法を、脳内で復習していた。
琥珀の美しさをより際立たせるその細工は、難しいけれど習得すれば素晴らしい作品を作ることができるだろう。
親方のところに通い始めたのは、八歳のころだった。
病がちだった母が亡くなり、形見の品の中に美しい琥珀のブローチを見つけた。
そのブローチを作ったのがラシェヌ親方だと知ったソフィは、それから間もなく、城を抜け出して親方の工房に通い詰めるようになる。
なんとか親方に弟子にしてもらってからも、なかなか琥珀には触らせてもらえなかった。
その美しさに魅了され、近づいただけで叱られたものだ。
まずは掃除やおつかい、店番から始めた。
一年近く経ったころから少しずつ琥珀に触れさせてもらえるようになった。
丸九年が経過した最近では簡単な細工であればひとりでできるようになった。
まだまだ怒られることばかりだけれど、ソフィは仕事が楽しくて仕方なかった。
教えてもらえることは全て習得して、立派な琥珀細工師になりたい。
その思いは強くなるばかりだ。
ぎゅっと包みを抱える手に力を込めて先を急いでいたソフィは、ふいに聞き覚えのある声が聞こえたような気がして足を止めた。
きょろきょろと辺りを見渡す。
「あ!」
見覚えのある姿が目に飛び込んできた。
ジャンだった。
自分の身長よりも長い棒状の物を地面に立て、一軒の工房の前に立っている。
そこから通りに面した売り窓の中に向かって、なにか声をかけているようだった。
(ふたりの用がどちらも終われば、城まで一緒に帰れるかもしれないわ)
ソフィは少しだけジャンの様子をうかがうことにした。
大事な話の最中なら、邪魔をしたら悪いと思ったのだ。
ジャンがのぞいているのは、甲冑職人の工房のようだ。
やがて話が終わったのか、ジャンがソフィとは反対の方向へと歩き始めた。
追いかけて声をかけようと一歩を踏み出したそのとき、工房の中からひとりの少女が飛び出してきた。
ジャンと同じくらいの年ごろの女の子だ。
呼び止められたのか、ジャンが振り返る。
少女と言葉を交わしているうちに、ジャンが笑みを零すのが見えた。幼さがのぞくその笑顔に、ソフィの心臓が跳ねた。
(なんだ、年相応の顔もできるんじゃない)
ソフィが声をかけても、あんな風に笑ってくれたことはない。
いつも大人びた顔をしていて、城内ですれ違っても挨拶をする程度。
昨夜だってソフィがいくら話しかけても、硬い表情で、申し訳程度にあいづちをうってくれただけだった。
だから、ジャンが楽しそうに笑うのを見るのは初めてだ。
ソフィは急に胸が苦しくなった。
もしかして自分はジャンに迷惑がられていたんじゃないかという思いがふいに脳裏をよぎる。
(やっぱり、年が近い人同士のほうが、話をしてても楽しいよね……)
自分みたいに四つも年上の嫁き遅れの女の相手なんて、きっとつまらなかったのだ、と思うと哀しくなる。
そうとわかってしまえば、一緒に城に帰れるかも、なんて期待していた自分がひどく愚かしく感じられる。
ソフィは気づかれないようにと、足早にその場を去った。




