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テオ兄さま

 ソフィが受け取った手紙の送り主はクルト・ハルバーヌ。ハルバーヌ家といえば、ソフィの家であるランドット家と同じくドルートレット伯に仕えている貴族の家柄で、クルトはそこの長男だ。

 歳は二十歳で、既に騎士叙任式を終えている。


 彼からの手紙には、数々の甘い言葉が綴られていた。

 ここ数年そんな甘いやりとりとは縁のなかった彼女は戸惑うばかりだった。

 妹のサラと間違っているのではないかと思った。


 そこで、ソフィは意を決して返事を書いた。

 それが一週間ほど前のことだ。

 自分が琥珀細工師を目指していることも記した。街で親方について、日々修業をしていると。

 そのことを知ると、誰もがソフィのことを風変わりな娘だと言う。

 自分でもわかっている。


 それでもソフィは夢を諦めたくなかった。


 琥珀細工師として一人前になるためにはまだまだ時間が必要で、恋愛を楽しむ余裕などほとんどなかったし、普通の妻を求める男性との結婚などできるはずもなかった。


 もう、手紙は来ないだろうとそう思っていた。

 それなのに、手紙はまた届いた。


『君に近しい人から話は聞いている。君が心配することはなにもない』という言葉とともに。



 サラの部屋を出たあと、ソフィは気持ちを落ち着かせるため、庭を散歩してから自室に戻ることにした。

 階段を下りて、回廊から中庭に出る。

 ランドット城の中庭はそれほど広くないものの、こまめに手を入れられており、常に美しく整えられている。

 特に薔薇は見事で、ソフィはこの中庭を散歩するのが子どものころから好きだった。


 ソフィはゆっくりと歩きながら、クルトに返事を書くべきかどうか考えていた。

 人違いでなかったのは嬉しいけれど、自分には城主の妻としての務めをしっかりと果たすことなどできないとわかっている。


 そのことをはっきりと書かなかった自分が悪いのだ。

 琥珀細工にかまける娘なんかごめんだ、と先方が考えるだろうと思っていたから、そこまでは書かなかった。


「ソフィ?」


 名前を呼ばれてはっと顔を上げる。

 考えごとをしていたせいか、足が止まっていた。


「テオ兄さま!」


 いつの間に現れたのか、傍に次兄のテオが興味津々といった顔をして立っていた。


「どうしたんだ、なにか悩んでるのか?」


 ソフィよりふたつ上のテオは、女顔で声質が優しく、中背で一見華奢に見える。

 けれど剣を持たせたら負け知らずと言われるほどの腕前なのだ。


 そして確か、クルト・ハルバーヌとも知り合いのはずだと思い出す。


「ねえ、クルトさまってどんな方?」

「クルト? 面白いヤツだ。俺がからかっても全然気づかないしな。あいつといると飽きない」

「テオ兄さまの犠牲になっているのね。気の毒だわ」


 ソフィは頭を左右に軽く振った。

 困ったことに、テオは面白いことが大好きなのだ。

 家族や友人は、まず彼のいたずらの被害にあっていると考えて間違いない。


 騎士になったのだから、少しは落ち着いてくれたらと父が願っていることをソフィは知っている。


「あいつだってきっと楽しんでるんだからいいんだ。で? クルトがどうした? ああ、それ、もしかしてクルトからの手紙か?」


 テオがソフィの持っている手紙を目ざとく見つけて訊く。


「ええ。そうなんだけれど……おつきあいできないってお断りしようかと思っているの」

「もう断るのか? つまらないな。返事はもう少し待ったほうがいいんじゃないか?」


 テオが自分勝手なことを言う。


「面白いとかつまらないとかそういう問題じゃないわよ」


 テオに相談したわたしが馬鹿だった、とソフィが嘆息したところに、テオの名を呼ぶ声が聞こえてきた。


「兄さまのことを捜してるみたいね。早く戻ってあげたらどう?」 


 そんな会話をしているあいだにも声はどんどん近づき、やがてひとりの少年が姿を現した。


「テオさまー、テオさ……。え、あ―――っ!!」


 少年がソフィを目にとめて叫んだ。

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