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兄の企み

 サラはぽかんとして自分の足もとに膝をついた騎士を見ている。

 ジャンとアモリーもなにが起こったのかわからず、ただ瞬きを繰り返すだけだ。


 そしてソフィはやはり、と思いながらも、複雑な思いでいた。

 ほっとしたような、納得できたような、それでいて少し寂しいような、そんな気持ちだった。


(それにしても、どうしてこんなことになってしまったのかしら)


 ソフィはクルトとサラの姿を見守りながら、思考をめぐらせる。


「あの……あの、貴方がクルトさまなのですか?」


 はっと我に返ったサラが、躊躇いがちに問いかける。


「ええ、三ヶ月前に貴方をお見かけして以来、私の心は決まっておりました。ソフィ殿……」


 サラが息をのむのがわかった。


 三ヶ月前。それはおそらくサラが一目惚れをしたそのときと同じだ。

 サラが救いを求めるような視線をソフィに向ける。

 ソフィは苦笑を浮かべながら、サラに向かってひとつうなずいた。


「違います。私はサラ。姉のソフィはあちらです」


 クルトの瞳が大きく見開かれた。

 驚きの表情を浮かべ、ジャンの傍にたたずむソフィを見る。


「は……。え? あの、あちらの可愛らしい方が?」

「姉です」


 戸惑うクルトに向かって、サラが告げる。


「妹さんではなく?」

「姉です」


 クルトがソフィとサラの顔を交互にみやる。

 その顔から、混乱していることがよくわかった。


 クルトはソフィとサラを間違えていた。

 つまり、クルトはずっとサラに結婚を申し込んでいたのであり、クルトはサラの想い人だったということだ。


 つまるところ、サラとクルトは相思相愛。


 ということは、ソフィはクルトの申し出を断る必要がなくなったわけで、もちろんソフィとクルトの結婚話もなし――ということになるだろう。


 全ては丸く収まった、ということだろうか。

 ソフィはその両肩から力が抜けるのがわかった。

 結婚話がなくなるのも、全てが丸く収まるのも、おおいに結構。


(でも、ここまで事態がややこしくなってしまった原因があるはずだわ)


 クルトが突然立ち上がり、猛然とテオに詰め寄る。


「どういうことだこれは! テオ、おまえの仕業だな!?」

「はは。まあ、そうなるな」


 テオはにやりと笑いながら、堂々と自分のせいであることを認めた。


「はは、じゃない。あの日、私はおまえに小広間におられる青いドレスの女性はどなただ、と訊いたな? そしておまえはソフィ殿だと答えた。しかし私がお見かけしたのはあちらの女性だ。あの方がソフィ殿なのではないのか」


「あれは下の妹のほうのサラだ。いや、俺が見たときには確かにソフィがいたんだ。サラはあとから行ったらしいな。だがソフィのほうは途中で抜け出したから、結果として小広間にはサラが残ったと。ふたりとも濃淡は違うが大きなくくりで表現するなら『青い』ドレスといえたし、嘘をついたわけじゃない」


 確かにあの日、通常ならドレスの色がかぶらないようにするところだけれど、わたしたちはたまたま同系色のドレスを着ていた。

 テオの言い分通りである可能性はもちろんある。

 けれど、そうではないことを疑ってしまうのは、これまでのテオの言動を鑑みるに仕方のないことだった。


「ソフィ殿からの手紙で、人間違いじゃないかと訊かれた。私は念のため、おまえに手紙を送り確認したはずだ。そのことを覚えているか?」

「ああ。なんだか勘違いしているようで面白そうだったから、あえて否定はしなかった」

「そこは否定したまえ!」


 クルトが強く主張する。

 ソフィも全く同意見だ。


「肯定もしなかったはずだけどな」


 テオがひょうひょうと告げる。

 その言葉に、クルトはぐっ、とくぐもった声を出した。


「だがしかし……」

「俺は『おまえはおまえの信じる道を進めばいい。全力で応援している』と書いたはずだ。俺は事態が混乱するのを全力で期待していたんだから、おかしくないだろ?」


 それにしても、またしてもテオが噛んでいたとは、とソフィはどっと疲れを感じた。


 そういえば、結婚の話を受けると伝えたとき、なんだかテオの様子が不審だったことを思い出す。

 けれどそのときのソフィは、クルトが色よい返事をもらえずやきもきしている様子を見てほくそ笑みたいテオが、その楽しみが減るのを嫌がっているのだと解釈したのだ。


 ソフィのよみは、まだまだ甘かった。      


「まあまあ、そう怒るなよ。それに、実はサラもおまえのことが気になっているらしい。あとはふたりでゆっくり話でもしたらどうだ?」

「いや、しかしそれではソフィ殿が……」


 クルトが申し訳なさそうな顔をソフィに向ける。


「気にしないでください。わたしは平気ですから」


 ソフィは心の底からそう答えた。

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