三人組の男
無事商品を届けた帰り道、ソフィはジャンに会いたくなくて、少し遠回りをすることにした。
これまでのように声をかけていいものかどうか、迷っていたからだ。
もし会ってしまったら、どう接すればいいのかわからなかった。
声をかけて、迷惑そうな顔をされたらと思うと怖くて、とてもじゃないけれどこれまでのように振舞うことはできそうになかった。
今通っている道は少し奥まっているので人通りが少ないけれど、まっすぐ行けば城の西門へと続く道に出る。
ここからなら脇門側へ回るよりも西門のほうが近い。
ソフィは足を速めた。
そのとき、突然、曲がり角から人影が現れた。
急いでいたのでよけることが出来ず、思い切りぶつかってしまう。
ソフィはよろめいて数歩後ろに下がった。
「ご、ごめんなさい」
謝りながら相手を見た瞬間、ソフィはこの道を選んだことを後悔した。
道をふさぐように立っているのは、剣を腰に下げた三人の男だった。
鋭い視線と、だらしない身なりから、よくない連中だというのはすぐにわかった。
「おいおい。まさか謝って済むとは思ってねえよな?」
「へっ、こりゃあ、がっぽり金が稼げそうな上玉だ。今日はついてるぜ」
「大人しくしてりゃあ怪我はさせねえ。騒ぐんじゃねえぞ」
下卑た笑みを浮かべる男たちが、ソフィを囲もうと近づいてくる。
『最近、街では女性のひとり歩きを狙う卑劣な連中が頻発している』と言っていたテオの声が頭の中に甦る。
(囲まれてしまう前に逃げないと!)
男たちに背を向け、一目散に来た道を戻り始めるが、気ばかりが急いて足はなかなか思い通りに動かない。
凹みに足を取られふらついたところで追いつかれ、思い切り髪を引っ張られる。
「いや……っ!」
叫ぼうとしたけれど口を手で塞がれてしまった。
力の限り暴れるが、男はびくともしない。
ソフィを恐怖が襲う。
掴まれた髪が引っ張られて痛い。
(助けて―――っ!!)
心の中で叫ぶ。
そのとき、鈍い音が響いた。
それに続いてソフィの口を覆っていた手が外れ、掴まれていたはずの髪がはらりとほどけて背中に落ちる。
「こんなところで、なにをしている!?」
鋭い声は、男性にしては高い。
ソフィの手をぐいと掴んで引き寄せたのは小柄な影だった。
「ジャン!」
「怪我はないか?」
「ええ、大丈夫。ありがとう」
ジャンはひとつうなずくと、ソフィを背に守り、男たちと対峙する。
路上には男がひとり仰向けに倒れていた。
さっきの鈍い音は、男がジャンの一撃を喰らった音だったようだ。
「あぁ? どこのガキだ? 随分とふざけたことしてくれるじゃねえか」
「ふざけたことをしているのはおまえたちのほうだろう」
ジャンは細長い棒状のものを包んでいた布をはぎとった。
現れた長槍を、ジャンは隙なく構えた。
穂先はまっすぐ男たちに向けられている。全くひるむ様子のないジャンの背中が、とても頼もしく見える。
「なんだとぉ? おい、やっちまえ!」
残るふたりの男が共に剣を抜く。
その刃がきらりと光った。