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後編

 祖母が私のものとお揃いで作ってくれた白と黒のゴスロリ風のドレス、毛の先の先までしっかりと整えされた美しい金色の髪の毛と、造形物にしかありえないようなどこまでも整った顔。それから頭で揺れているのは、かつて私がプレゼントした大きなピンク色のリボン。その姿は幼かった私の、唯一で何よりも大切な友達で間違いなかった。

 それにたしかに彼女は呼んだのだ。私の名前を―――「カノ」と。

 でも彼女は私の知っている彼女ではなかった。

 私の知っている彼女は、あんな風に動いたりしなかったし、あんなに柔らかくて暖かそうな肌を持っていなかった。あんな風に驚きの表情を浮かべたりしなかった。それにこんなに大きな、身体ではなかった。

 それは幼かった少女が、かわいらしい人形に望んだことの全てだった。

「ママとリボンちゃんお知り合いなの?」

 アカネは見つめあう私たちの様子を、大きく首を振って交互に見る。リボンは泣いているけど、私の視界も涙で歪んでいる。

「とりあえず上がって……」

 私がリボンにそう言うと、彼女はコクリとうなずいてアカネと一緒に部屋へ入っていく。

 二人の後姿を見て、昔を思い出す。

 本来のリボンは幼い頃の私が常に抱いて歩いていた人形だ。

 幼稚園の時、人と話すことが苦手で、一人でいることが多かった私に両親が友達にとプレゼントしてくれたのがリボンだった。それからは学校や公園、家族と遊園地に行った時なんかにも必ず連れて行っていた。

 しかし、中学生になる少し前のことだっただろうか。ある朝、抱いて一緒に寝ていたはずのリボンは私の元から姿を消してしまっていた。それから私は部屋中、家中を必死に探しまわったものの、結局リボンが見つかることはなく、数日間部屋にこもって泣いていたことがあった。それ以来、私は今日までリボンの姿を見ることはなかった。

 これは後日教えられたことだが、中学生にもなるのに人形とばかり遊んでいて、友人もいない私のことを心配した両親がリボンのことをこっそり処分したらしい。

 そんなリボンが今日突然私の前に現れたのだ。

 現在の日本においてコスプレパーティーと化しているハロウィンというイベント(私も娘にゴスロリなんて着させていたわけだが)は、本来はこの時期に出てくる悪霊などを追い払うための行事だったと聞いたことがある。

 もしかしたらリボンは自分のことを捨てた私のことを恨んでいて、悪霊として人間の姿になってここに来たのかもしれない。

 にわかには信じがたい話だけど、実際に私の前に現れたのは私の親友以外の何者でもない以上、嘘だと割り切ることは私にはできなかった。

 もし、私の考えた通り彼女が悪霊なのだとしたら、追い返すことが正解なのだろう。しかし、そうはできなかった。

 なぜなら今こそが、これまでの人生でずっと心に突っかかっていたものを取り除くことができるチャンスだったから。このわだかまりは墓まで持って行かなければならないとまで覚悟したこと。

 ―――それは親友に謝ること。それからお礼を言うことに他ならなかった。

「ねえ、ママどうしたの?」

 リビングからアカネに呼ばれた。

「なんでもないわ。今行くね」

 私もリビングに入る。真ん中の四人掛けのテーブルにはアカネが帰ってくる前にと私が用意しておいた、スーパーで安く売っていたかぼちゃの料理がたくさん並んでいる。

 アカネと二人で食べる分にしては少々作りすぎてしまった。

 アカネが待ちきれない様子で料理を見つめているのに対して、リボンは私を見据えている。3人分のご飯とお味噌汁(これにもかぼちゃが入っている)をよそってから私もテーブルについた。

「今日はかぼちゃばっかりだね」

「ハロウィンだからね。デザートにかぼちゃプリンもあるわよ」

「やったー!」

 アカネが歓声を上げる。

「いただきます」

 アカネがお箸を持って食事を始める。が、リボンは戸惑っているようでキョロキョロしている。それはそうか。急に夕食を並べられて戸惑うのも無理はない。

「よかったらリボンも食べて」

「……うん」

 リボンはお箸を持つ。こうしていると昔よくリボンとしていたおままごとを思い出す。あの時はリボンが食事することはもちろん、返事をしてくれるなんてことさえもなかったけど。

「そういえばさ、ママとリボンちゃんはどうしてお知り合いなの?」

 アカネは正面の私に視線を送ってくる。

「リボンとは小さい頃からお友だ……」

 お友達なの、と言おうとして言葉が詰まってしまう。意図的ではないとはいえ、リボンを捨てた私が彼女を友達だなんて呼んでいいものだろうか?

 私はリボンを見る。すると彼女も私を視ていたようで、目が合って、お互いにそむける。リボンはどこかがっかりしたような表情を浮かべた気がした。

 そこで気まずくなりそうだった空気を察してくれたアカネが、

「じゃ、じゃあリボンちゃんはどうしてここに来たの? だってこの辺の子ではないよね?」

 と話題を逸らしてくれた。我が娘ながらよくできている。

 そしてこれは私も聞こうと思っていたことでもある。最初に思ったように、リボンが悪霊であるにしては、態度が少し好意的すぎる。もっとも悪霊なんていままでの人生で一度も出会ったことがないのだけど。

「私は……」

 リボンはうつむいてしまう。頬がさっきまでよりやや赤くなっちるようにも見える。

 落ち着いて考えてみると、昔大事にしていた人形が動いているというのは、不思議なものだ。普通はこんな状況になったら驚くなり怯えるなりするのだろうけど、幼いころからリボンのことをずっと本気で親友だと思っていた……いや、思っているせいもあってか、そういった感情は私には一切なかった。

 私もアカネも黙ってリボンの返答を待つ。そのリボンはというと、うつむいたままチラチラと上目遣いで私を見る。

 ……………

 ………

 …

「……言いたくないなら無理に言わなくてもいいのよ」

「うん……、ごめん」

 せっかくアカネが気を使ってくれたのに、また静かになってしまったので、今度は私がこの話を中断させる。

「夕飯おいしいかしら?」

 おままごとの続きのようにリボンに尋ねる。

「うん、おいしいよ。カノ」

 リボンは器用にお箸を動かしている。

 そういえばお箸の使い方を人形相手に一生懸命教えたこともあったっけ。

「ママうれしそうだね」

「そうかしら?」

「うん」

 どうやら無意識のうちに口元が緩んでしまっていたらしい。でもしかたないだろう。

 だってリボンと会うのはもう20年ぶりくらいになるのだから。

「そういえばリボンはどこで暮らしてるの? やっぱり帰るところとかあるのかな?」

 リボンはこのおよそ20年間どこで暮らしていたのだろうか。人形ならばともかく、いま私の目の前に存在しているのは確かに生きた少女だ。食事だってしているわけだから生きていくにはそれなりの環境が必要となることだろう。

「それが……わからないの」

 リボンは申し訳なさそうに肩をすくめて話しを続ける。

「気づいたらそこの通りに立ってて、その時にアカネに声を掛けてもらったの。さっきカノに会うまでは、昔の記憶もなくて自分が何者なのかってことすら分からなくて……。記憶が戻った今でもどうして私が人間で、しかもここにいるのかは全くわからないの……」

 一気に自身の状況について説明してくれてからもリボンは、相変わらずシュンとしている。

「じゃあさ、リボンちゃんはこの後どうするの?」

 アカネは休まず手と口を動かしていても、今の話をちゃんと聞いていたらしい。

「…………」

 アカネの質問にリボンは困ったように私を見る。

 おそらく、彼女にそういうつもりはないんだろうけど、こういう状況になったらこう返すしかないだろう。

「よかったら、帰る場所が見つかるまでうちにいたらいいわ。普段はアカネと二人だし、家は広いからね」

「ありがと……」

 リボンは遠慮があるのか、イマイチパッとしない顔だ。。

 正直この提案はリボンの為というのはもちろんあるけど、何よりも私自身がそうしたかったというのも大きい。また昔みたいにリボンと暮らしたいのだ。

「やったぁー! じゃあリボンちゃんはアカネの妹だね!」

 と、一番はしゃいでるのはアカネなんだけどね。

「リボンのがお姉さんなんじゃないの?」

「えー、でもアカネのが少し大きいよ」

 アカネは隣に座るリボンと競うように背筋を伸ばす。たしかにアカネの方がほんの少しだけ身長が高いようだ。

「じゃあ、リボンはどう思うの?」

「私からするとアカネは友達の娘ね」

 リボンが真顔でそんなことを言うので私はついふふっと吹き出してしまう。

「たしかにそうね」

 アカネは「えー」と腑に落ちないという表情を浮かべている。

「アカネは本当に小さい頃のカノにそっくりだね」

 昔を懐かしむような、しみじみとした声だった。

「そうかしら?」

「うん、カノはもっと暗かったけどね」

 私にとっては不名誉なことこの上ない発言だったけど、娘的には母親のことを知るのは楽しいらしく目を輝かせて、

「昔のママってどんなだったの?」

 なんてリボンに質問している。それに対してリボンは私との思い出を饒舌に語りだした。

 おままごとのことに始まり、私が絵本を読んであげたこと、それからいろんなところに一緒に出掛けたこと、イベントごとには祖母に作ってもらったお揃いの衣装でコスプレしたこともあった。ちなみにアカネが着ているゴスロリはいつだかのハロウィンで着た私のおさがりだ。当時とはずいぶんサイズは違っているけど、リボンの衣装もその時のものだろう。

 そんな数々の思い出話をするリボンはとても楽しそうで、表情ない人形だった彼女でも楽しんでくれていたことを知れて、それだけで私の心は満たされていく。そんな最中、アカネに語っていたリボンの視線が私を捉えた。その表情にほんの少し不安げな影が差す。

「カノは憶えてるかな? ……このリボン」

 リボンは、自身の頭で揺れるゴスロリとはいまいちマッチしていないピンク色の大きなリボンを指さした。

「もちろん憶えてるわよ」

 忘れるはずもない。あのリボンは彼女の名前の由来にもなったリボンだ。初めて彼女と出会ったときに私の持ち物で最もお気に入りだったものを、友情の証的なノリでつけてあげたのだ。

 私の返答にさっきまでの影はすべて消え、今度は太陽のように明るい笑顔が現れた。

 リボンってこんな風に笑うんだ。

 ……なんて幼い頃ずっと一緒にいたはずなのに、これで初めて笑顔を見るなんていうのもおかしな話だ。

「うれしい」

「そんなにおおげさなことだったかしら?」

「少なくとも私にとっては……」

 「ねえ」とアカネが解せぬという顔で話に入ろうとする。自分の入れない会話が長引くというのはあまり面白くなかったのだろう。

「ごめんごめん」

 私が謝って、再びリボンによる私との思い出話が中心のお話が始まった。

 今日の夕食は二人のいつもよりもにぎやかで楽しかった。



 夜、アカネが眠りに入ってしばらくした頃だった。

 私を中心に川の字になってベッドに入っている右側から寝巻の袖を引っ張られる。リボンだ。

「どうしたの?」

 アカネを起こさないように小声で話す。

「昔、一緒に海に行こうって約束したでしょ。いまから行こう」

 部屋は暗くて表情までは窺えないものの、その声にはどこか焦りのようなものが感じられた。

 それにしてもさすがに海に行く約束をしたかどうかなんていうのは憶えていない。

 けどリボンがそう言うのだからきっと約束したのだろう。それに、確かにリボンを連れて海に行ったことって一度もなかった気がする。

「いいけど……いまから?」

 もう外は真っ暗だし、あと数時間もすれば11月になる、そんな時期だから外はかなり寒いだろう。

「どうしても伝えたいことがあるの。忘れないうちに……」

「……そう」

 でも熱のこもった友達の声を無視することはできない。私たちはそっとベッドを出た。

 玄関でアカネのパジャマを着たリボンに、これもアカネのダウンコートを着せてあげて、私もダウンのコートを羽織る。

 扉を開けると塩の香りとともに秋の夜の冷たい風が家の中に吹き込んできた。そんな寒さの中に私たちは並んで歩を進めた。

 等間隔で並べられた明るすぎるくらいに輝くオシャレなLEDのおかげで視界は良好だ。

 物音は私たちの足音とかすかに聞こえる波のさざめきの他にはない。まるで誰もいなくなった世界に二人きりで取り残されたような錯覚すら覚える。

 夏になるとこの時間でもこの辺を歩いてる人は少なくないけど、この時期だとさすがにそんな人はいなかった。

「カノはさ、本当にずいぶん明るくなったね……」

 リボンが静寂を破る。

「そうかもしれないわね」

 確かに昔はリボン以外に友達なんていなかったし、陰で根暗で不気味なんて言われていたのも知っている。

「私が明るくなったのはあなたのおかげよ」

 リボンは首をかしげる。彼女の記憶の中の私は暗い私のままで止まっているのだから、自分のおかげと言われても、なかなかピンとこないのも当然だ。

「私リボンにもう一度会いたくて、高校生の時に一度イギリスに留学に行ったの。似た人くらいはいるんじゃないかってね……」

 改めて口に出してみるとあまりに愚かだ。リボンに会いたいとか言っておいて、似た人を探すなんて。もしそんな人が見つかったとしても彼女はリボンではないだろうに。

 リボンは「それで?」と話の続きを促してくる。

「そんな人は見つからなかったんだけど、海外の人達ってにぎやかなのよ。それで私もそのノリに合わせてるうちに、前より少し明るくなっちゃったわ」

「それって私のおかげ?」

 リボンは複雑な表情だけど、楽しそうに私の話を聞いてくれている。

「そうよ。あなたがいなかったら海外なんて絶対に行かなかったしね。それにね、夫ともその留学で出会ったのよ」

「ほう」

 リボンとて女の子だ。恋愛の話になると特に興味を示した。

 そんなに面白い話でも素敵な話でもないんだけど……まあ、聞きたそうにしてるし話しちゃうか。

「留学は半年くらいだったんだけど、リボンに似た人探しも諦めかけてた後半で当時の私は考えちゃったのよ。いっそ金髪碧眼のイケメンと結婚すればリボンみたいな子供ができるんじゃないかって。それで逆ナンパで捕まえたのが今の夫なの」

「うわぁ……、海外の雰囲気に当てられすぎなのでは?」

 たしかにリボンの知っている私からは想像もつかない話だとは思うけど、海外の雰囲気に当てられたからそんなことをしたのかというと、そういうわけでもない気がする。

「でも期待に反して、生まれてきた子供は本当にハーフなのか疑わしいレベルで純日本人な子だったわ」

 一応言っておくと、アカネはしっかり私と夫の子だ。

 リボンは私の言葉を聞いて眉を寄せる。

「あ、もちろん最初は不純な動機だったけど、夫のことはいいパートナーだと思ってるし、アカネのことも大好きよ」

「よかった。ところでその旦那さんは見当たらなかったけど。やっぱり海外に住んでるの?」

「ううん、日本に来てくれたわ。でも会社が東京の方だから、会社の寮に暮らしてるの。でも週末には帰ってきてくれるのよ」

 話がひと段落したちょうどその時、ちょうどレンガの地面が砂浜に変わった。

「おっと―――」

 リボンは砂に足を取られたのか、こちらに倒れ掛かってきて私はそれを受け止める。

「さっきアカネと見た時とは全然違う。どこまでも真っ黒だ……」

 きっとさっきアカネと見たときは、夕方だったから綺麗な夕日が見えたのだろう。私もここに住むようになってからその景色は何度か見ている。

 しかし今は違う。目の前の海はすべてが闇だった。

 星空と海の境界線はないに等しく、真正面にも星々が燦然ときらめいている。のみならず、真っ黒で静かな海面にも星は映し出され、上にも下にも星はあるものだという感覚すら覚えてしまう。

「幻想的ね………」

 幻想的といえば、私に体重を預けるように立っている彼女もまた普通ではない存在だ。

「私ね、カノにどうしてもお礼が言いたかったんだ。きっと人間になったのもそのためだと思う。神様が願いを叶えてくれたのかも……なんて」

 不思議な彼女は、呼吸するかのように自然にそんなことを言う。

「……私はあなたのことを捨てたのに恨んだりしてないの?」

「そんなことないよ。カノのせいじゃないって知ってるし、それにもしカノがわざと私を捨てたのだとしても、それだけじゃあ恨む理由にはとても足りないくらいたくさんのモノを私はもらったからね」

「そんな風に思っててくれてうれしいわ。でも、こればっかりはしっかり謝らなくちゃいけないと思うの。ごめんなさい」

 人形だったとはいえ、友達を捨てることになるなんて絶対にあってはいけないことだ。それは彼女が私をこんなにもよく思ってくれていたというのならばなおさらのことだ。

「それにね、お礼を言いたいのは私の方よ。友達もろくに作れなかった私がこうして普通に生きていられるのは全部あなたのおかげなの。ありがとう」

「うん……ありがとう……」

 リボンの小さな声は海の波に流されるように消えていった。

 ―――ザザーン

 お互いに言いたかったことを言って、静かになると小さな波の音すら鮮明に聞こえるようになる。

「……ねえ、リボン。ひとつだけお願いしてもいいかな?」

 私は努めて柔らかい口調で話を切り出す。

「なに?」

「アカネともお友達になってあげてほしいの」

 アカネはこの辺に友達がいないから……なんて言うのは建前で本当はただリボンにずっと私のそばにいてほしいだけなのかもしれない。

「もちろん……って言いたいんだけど、なんとなくわかっちゃうんだ―――」

 真剣な表情のリボンに私は首をかしげる。

「きっと私は明日の朝にはこの世界にいない。根拠はないけどそんな気がするの」

 きっとリボンは嘘を言っていないし、実際にその通りになることだって十分に考えられることだろう。リボンがいま目の前にいること自体が超常現象に他ならない以上、彼女が突如として消えてしまうなんてこともあり得なくない話だ。

「そう……なんだ」

「だから、どうしても今夜のうちにカノにお礼を言いたかったの。人形の私を大事にしてくれて、親友だって言ってくれて―――ありがとう」

 黒い水平線にオレンジ色に輝く流れ星が落ちた。

「さ、身体が冷えちゃうよ。もう帰ろう」

 私はいまにもこぼれそうな涙をこらえながら振り返り、歩き出す。

 リボンはちゃんとついてきているだろうか。涙は見せたくないから確認はしない。

 でも静かな通りにはしっかりとふたり分の足音が響いていた。



 いつも通り目を覚ます。アカネはすやすや寝ているけど、リボンの姿はない。

 しかし、その代わりとばかりに、私の手にはピンク色のリボンが握られていた。

 目玉焼きにお味噌汁をササッと作る。それからタイマー予約でついさっき炊き上がったばかりのご飯を二人分よそってテーブルに並べる。

「アカネー、ごはんよー!」

 寝室に向かって呼びかけ、しばらくすると眠そうな目をこすりながらアカネがダイニングへやってくる。その手には女の子の人形が抱かれている。その頭を飾るリボンは付いていない。

 人形と目が合うと、彼女は目を細めて笑った気がした。

「ねえ、アカネ。いいものあげようか」

「ん?」

 私は眠そうなアカネの髪を軽く梳かしてから、ピンクのリボンで結ってあげる。

「リボン、大事にしてね」

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