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ナナシの翼  作者: KUMA
4/5

裏切りの翼

私の名前はナナシ。

ちょっと機械音痴な普通の女子学生として生活していたんだけど、お父さんが【魔人】の襲撃に巻き込まれ行方不明になり、そして私自身も魔人に襲われる事に……

絶体絶命のピンチ……そんな時に来てくれたのが【天地連合対魔人特殊部隊(てんちれんごうたいまじんとくしゅぶたい) AEGIS】。簡単に言うと魔人と戦う人達の組織だね、彼らが私を助けてくれたんだ。


全てではないけど天人としての記憶を取り戻し、私はAEGIS(イージス)に入隊する事を決意した。



義翼(イカロス)の調子はとても良い、魔力を通じて同期してるから機械音痴の私でも自分の身体の一部のように自然と扱うことができている。出力調整も楽だし、頑張れば曲芸飛行等も可能。コレは酔うからあまりやらないけどね。良くも悪くも所持者(マスター)の気持ちを汲み取ってくれるよ。




でも、私は間に合わなかった。

どんなに辛い訓練に耐えて、戦う力と翼を得てもお父さんを……そして仲間を救えなかった。

あの時の私は―――



             ※※※



~廃墟~


訓練期間も約半年で終了し……その後は先輩達に連れられて何度か実戦も経験した。

この話はそこから更に3ヶ月後の話だったかな、当時父さんの捜索は今も続けられていたけど手がかりは一つも見つかっていなかった。捜査隊の推測では魔人たちの根城である魔界に囚われてる可能性が高いとの事……最悪の結果も覚悟しておかないといけないらしい。


私は捜査隊からの依頼で、魔界への入り口があると言われる廃墟……敵拠点の強襲任務に当たっていた。4人1組のチームで動き、廃墟に散らばる魔人たちを確実に減らしていっていく。


「ナナシ、行きます!! 」


与えられた役割は切り込み隊長……簡単に言うと特攻だね。

敵の陣地中央に突撃して、二振りの刀で内側から崩す……訓練の成果もあって相手の気配が手に取るように分かる。制空圏って言ってたかな? 視覚化すると私の周囲に円状のセンサー、またはバリアみたいなものを張っていると考えると良いかもしれない、刃の届く範囲に入り込んだ魔人から次々と斬り裂く。


その様子を見た魔人たちは徐々に後退、私は刀で牽制しながら味方と連絡をとった。


「今です!! 」

『応ッ! 巻き込まれるなよ!! 』


無線で合図を送ると周囲で爆発が発生、遠方から支援砲撃が開始された。

圧縮した魔力を砲台から打ち出してるんだってさ、技術部の話は難しいからあまり分からないんだけどね。

気が付けば周囲にいた下級魔人はほぼ殲滅出来た。残っているのは中級魔人が数体と敵の拠点のみ。


「お~いッ! 無事か?! 」

「……な、何とか! 」


味方も合流しチームが揃った。メンバーは最前線かつ特攻役の私、ナナシ。後方から射撃等で支援を行うガッツさん、同じく支援役のメルトさん……彼女は中距離射撃。そして隊長のルシフェルさん、武器はランスと大盾。


中々癖のある人たちだけどみんな良い人だ。


「よし、あとはデカい奴だけだ……一気に終わらせるぞ」

「了解です、ルシフェル隊長」

「支援は俺たちに任せなぁッ! 行くぞメルトォォォォォッ!! 」


そう言うとガッツさんは魔力砲を撃ちながら前進してしまう。


「ちょっと! アンタが前に出てどうするの?! 」


後を追うようにメルトさんも続く……ガッツさんは気持ちが昂ると砲で殴りかかる戦い方に変わるんだよねぇ。うん、殴ったら至近距離で撃ち込んで離脱するの。稀に巻き込まれて吹き飛ばされる事もあったかな?


「ほぅれ、もう一発持っていけぇっ!!」

「ちょぉっ?! 」



ドゴォォォォンッ!!



「スマねぇナナシッ、また巻き込んだな! 」

「ゴホッ! ゴホッ! ……少しは―――」


この時は巻き込まれたね。

咄嗟に緊急後退したから私のダメージは軽くすんだけど、ボスである大型魔人は右胴体の半分程が丸く抉れている。右腕は完全に無くなってるね。掠れた声で何かを呟いたようだけど、ガッツさんには聞き取れない。



でも、私だけが聞き取れた。

その言葉の意味を理解できてしまった。


【此処、宝石、見つけた】


魔人は確かに言った、見つけたと。

……アイツが来る。


「が、ガッツさん下がって!! 」

「何だナナシ、まだ敵が―――」


遅かった。声を掛けた時、既に彼の足元に真紅に輝く魔法陣が出現していた。

ただならぬ気配に気付き後退しようとするも、彼は光の柱に飲み込まれてしまった。


光が治まると其処には……


「何があった……? 」

「ちょっとガッツ?! 」

「二人ともまだ近づいちゃ―――」


魔法陣の上には真紅の結晶に取り込まれたガッツさんがいた。

調べるために近づいたメルトさん、ルシフェル隊長の足元にも同様の魔法陣が出現し、次々と光に飲まれる……更に巨大となった結晶の中には仲間達が苦悶の表情を浮かべながら取り込まれていた。


そして、あの声が頭に響き渡る。


『あの子が見つかったって聞いたのにハズレばかりじゃない』

「ラディ……ギーザ…………! 」

『……あら? あらあらあら? 其処に居たのね、愛しのナナシ♪ (わたくし)ったらせっかちさんねぇ』


魔法陣が再び輝きだすと結晶の上にタイトドレスを着た魔人が出現した。

膝元くらいまである漆黒の髪に蒼い肌、笑みを浮かべながら琥珀色の瞳で此方を見つめてくる。


『そ・れ・と、私の事は親しみを込めてラディと呼んでって言ったじゃないの……忘れたの? 』

「う、うるさい! それよりも先輩たち……、父さんを―――」

『まぁ怖い怖い……う~ん、タダで返しても面白くないのよねぇ。……そうだ♪ 』



パチンッ



ラディギーザが指を鳴らした瞬間、大きく揺れ地面が隆起した。

円筒状の建物が出現し、その高さはビル10階程はあるかもしれない。

彼女は私に付けた目の印を通して頭に直接語り掛けてきた。


『一つゲームをしましょうか。貴女はこの塔を上るだけ……簡単でしょ? 』

「な、何を―――」

『別に参加しなくても良いのよ? その時は捕らえた人間達は(わたくし)の実験材料になるだけだもの。しっかりと、考えなさい。もしAEGIS(イージス)と連絡を取ったらぁ……分かってるわね? フフフ……』


警告を残してラディギーザの気配は消えてしまう、声も聞こえなくなった。

入り口の目の前にただ一人取り残された……本部も頼れない、この忌まわしい印の所為で視られている。残された選択肢は一つしかなかった。


私は覚悟を決め、塔へ踏み込んだ。



※※※



~強欲の塔 3階~


「ぜぇっ……ぜぇっ……! やっと、ぜぇっ……倒し、たッ! 」


塔は見た目よりも階層は少ないらしい。天井は高く義翼(イカロス)での飛行も可能、おそらく5階が最上階だと思う。階層のボス魔人を倒せば天井に穴が開く……義翼が無かったら進めない仕掛けだった。

出てくる敵の数は、そうだねぇ……よくゲームとかである無双系? みたいな感じかな、ほぼ一発で倒せるような雑魚がわんさか出てきて終盤にボスが出るヤツ。


「3階で急に強くなってきた……少し休んでから進も」


その場に座って呼吸を整える、態勢を整えるために薬で治療……ついでに軽食(スナックバー)で腹を満たした。連戦が続くと疲労も溜まるし、さすがにお腹も空くの。隊長曰く、敵地であっても休める時は休んだ方が良いんだってさ。


「よし行こう、皆を助けないと」



~強欲の塔 4階~


到着した部屋には魔人がいなかった。下の階層では森や川辺、山岳地帯をイメージしたような部屋で障害物が結構あったんだけど、この部屋には本当に何もない、床も壁も……そして天井まで真っ白な部屋。


中央に人影が見える……背丈を超えるランスと大盾に見覚えがあった。


「ルシフェル隊長ですか?! 」

「…………」


問い掛けには答えなかったけど間違いない、武器はもちろんマント付きの制服……つい先ほどまで一緒だったのに見間違えるはずもない。駆け寄ろうとすると―――


「止まれ、ナナシ」


距離は10メートル程、まだ互いの間合いには入らない所で脚を止める。

何やら様子がおかしい……怒鳴り声で静止した後は盾をこちらに向け、臨戦態勢をとっていた。


「た、隊長? 」

「ナナシ、逃げ場がなく敵に圧倒的な力の差を見せられた時……お前はどうする? 」

「いきなりどうしたんですか? なんで構えて―――」

「答えろ! お前ならどうする!! 」


余程気が昂っているみたい、普段は冷静な人なのにここまで荒れるのは珍しい。

数秒置いて問いかけに答える。


「……私は、それでも戦う……と思う、前だったら諦めたかもしれないけど……今は義翼(つばさ)がある、戦う力がある。だから最後の最後まで―――」

「蛮勇だな……しかし、そうか。 ならば……ムンッ! 」

「うわッ?! 」


隊長は義翼を展開するとランスを突き出しながら間合いを詰めてきた。

不意打ちの様な一撃だったけど何とか回避……でもカスッていたみたい、私の頬から血が流れていた。


「い、いきなり攻撃を……? 」

「私は取引をした……彼女に忠誠を誓った」

「なッ、ガッツさんとメルトさんはどうしたんですか?! 」

「二人は犠牲になってもらった、俺が生きる残る為にッ! 」


再びランスを構えて突進してくる、全力攻撃ではなく連撃を考えての攻撃だった。

間合いに入ると出力を抑え、慣性を利用して前進しながらランスを連続で突き出してくる。

私は回避しながら隊長に問いかけた続けた。


「クッ……何があったんですか!? 隊長ぉッ!! 」

「戦いに集中しろッ、話している余裕があるのか!? 」


ランスを振り、切っ先での斬撃も織り交ぜてきた……対応しきれなかった私も義翼を展開し、魔力(マナ)を逆噴射させ後退する事になった。ある程度距離を取ると武器を抜く。


「ハッ! ハッ! ら……ラディギーザから何かされたんですね? 」


「彼女の名を軽々しく呼ぶんじゃァない! 目の前で散っていく仲間を見た時の気持ちが、お前には分かるか? 全力を出しても赤子同然にあしらわれ、気が付いた時には二人の姿は無くなっていた! 心が折れ、膝を着いてしまった! 強大な力との差を目の前にしたときの絶望を理解できるというのか!! 」


隊長からは私への殺意がヒシヒシを伝わってくる。

その後の言動は私に対する妬みを含んだ内容だった、並外れた身体能力や期待される噂……育成を任せられた事に対する不安や恐怖、そして最後には左目に刻まれた印の事まで。彼は親愛の証と呼んでいた。冗談じゃないよ……好きで貰ったわけじゃないのにね。


力の差を見せつけられた隊長は土下座をしながら助けを請った。

そんな彼に対してラディギーザはこう言ったらしい。



『ふぅん、じゃあナナシを討ってみなさい。できるだけ綺麗にね? 本当は私が直接ヤりたいんだけど、チャンスをあげる。それが出来たら命までは奪わない、望むのであれば忠実な(しもべ)にしてあげるわ』



「お前を殺す、そしてあの方に―――」

「もう……分かりました。後戻りはできないんですね、隊長」


私も刀を構える……十字の構えと言うらしく、中段構えの変形で真剣を用いた実戦では最も多用された構えと兵法の書に書かれていた。構えや振り方には少し我流も入っているけど、私は型にはまっていない方が良いらしい。


「私も、助けたい人がいるんです! 」

「ならば俺を倒してみろ。……倒せるならな! 」


今度は此方から攻める。手数とスピードでは私の方が上……義翼による加速も利用して四方八方から攻撃を繰り返す。


しかし、堅牢な防御態勢をとっている隊長には掠り傷一つ付けることはできていない。


「グッ……このぉッ! 」

「無駄だ! 」


攻撃が盾に当たった瞬間、空中で私の身体は大きく仰け反ってしまった。

動きも止まり胴体ががら空きの状態……コレはピンチ。隊長は既に攻撃モーションに移っていた。


「フンッ!! 」

「ヤバッ……」


心臓目がけて放たれたランス……死が迫る瞬間って本当にスローモーションになるんだね、一瞬で色んな光景が浮かび上がった。


貫かれる、そう思ったけど痛みはまだ伝わってこない。一瞬の死って痛みを感じないのかな?


「手ごたえが、無い……だと? 」

「~ッ……ほへ? 生きてる? 」


私はいつの間にか遥か上空まで移動していた……どうやら義翼が生きたいと言う意思に反応して回避行動をとってくれたらしい。


でもそれは偶然ではなかったみたい、私の頭に声が響き渡る。ラディギーザではなく別の女性の声だった。


『少しだけ、助けてあげる。後は貴女次第』

「……誰? アイツ、じゃないの?」

『私は貴女、その身体に残されていた魂の名残みたいなもの。時間も無いからササッとやるよ』



ドクンッ



「―――アアアッ?! ウグ、グ……ゥワァァァァァァッ!! 」


身体の奥底から力が湧き上がってきた。焼けるような熱いモノが身体中を巡り、私は思わず叫んでしまった。義翼の出力も上がり、放出される魔力の色は蒼から金色へと変わる。

変化は翼だけではない、私の持つ二振りの刀……白銀の刀身は片方は紅く、そしてもう片方は蒼く変色していた。


『さ、これで終わり。引き出した【無名の英雄】の力……存分に振るいなさい、そしてあの魔人を―――』


声は途中で途切れてしまった。

強化の余韻がまだ残っていて少し朦朧としていた……隊長はその隙を見逃さず、全速力で距離を詰めてきていた。その時は何となくだけど、紅い刀を振るうべきと考えていた。


「……ヤァッ! 」

「ッ?! コイツは……危険、クソォッ!! 」


振るうと刀の軌跡を描くように紅い氷刃が出現し、隊長に向けて放たれた。

彼も減速しながら防御態勢をとるが、接触した瞬間に腕を振るって盾を捨ててしまう。

落下する盾は氷に包まれていた……腕の一部を巻き込みながら。


「ッ……何をした、ナナシィッ! 」


隊長の左腕は肘より下が失われていた。

氷で覆われ出血は収まっているようだが、動揺によって呼吸は激しくなっている。


「……次で終わりです」

「生意気を言うなぁぁぁァァァッ! 」


再びランスを構えて突撃してくる……私も軽く息を吐くと蒼い刀を脇に構えて加速した。

普通であれば加速の際に魔力放出によって大きな音が鳴る、しかし今の状態では違っていた。


加速……と言うよりも私以外の動きが全て遅くなっていた、時間停止とまではいかなかったけどね。

ランスの軌道から軸をずらし、すれ違いざま斬り抜けた。


「……グ、ウォォォォォォッ?! 熱い! なんだ、このッ! 蒼い炎はぁぁぁぁッ?! 」


切口から溢れるのは血ではなく蒼い炎……そらは浄化の炎と呼ばれるモノだったかな、おとぎ話とかでよく使われていたっけ。


「熱いッ! 消えないッ、消えないィィィィィィィッ!!」


やがて炎は身体全身を包み込む……隊長は断末魔の叫びを上げながら落ちていった。

数秒後、天井の一部が開いた。どうやら踏破したという事らしい。


「……隊長、ごめんなさい」


おそらく次が最後の階層……そこには宿敵である魔人がいるはず。

その場で一言だけ残すと再び上を向き空を駆け始めた。

次が最後の話になりそうです。

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