選択と決断
【このイラストで小説書いてみました企画作品】
ナナシの翼 第3話 《選択と決断》
「ふぁ…………ふぅ。 ん~……此処は?」
見覚えのない部屋、壁や天井、家具まで色は白で統一されている。家具はベット、机と椅子のみ。
あ、トイレと洗面所もあるけどこれじゃあ収監されてるみたいだ。
そもそも何で私はこんな所に寝てたんだろ、たしかケータイにメールが来て……
「駄目だ、考えるとモヤモヤする」
脳内に白い靄がかかったような感覚、長時間やってると気持ち悪くなるヤツだこれ。考えててもしょうがないし、少し部屋を調べてみよう。
「んん? 」
アレコレやってたら洗面所の鏡に映った自分の姿に違和感を感じた。
そりゃもう見た瞬間に変だと思ったもの。だって……
「なんで左目を包帯で隠してるの、私? 怪我した覚えは―――」
『おっと、その包帯は取らない方が良い 』
「だ、誰ッ?! 」
突然部屋に声が聞こえてきた。周囲をよくよく見てみると天井の角に半円状のモノが設置されてる。
どうやら監視されてみたい、私。悪い事した覚えはない……わけじゃないけど。ちょっと機械音痴なだけで、やっても学校に迷惑かけたくらいだし……。
『何を悩んでるか分からないが、その包帯を取ることは推奨できない。包帯を着けている事が君の為でもあり、此処に住む人々の為でもあるんだ』
「ど、どういう意味? なんで私はこんな所にいるの? 」
『なんと……覚えてないのか? 君は―――』
彼は此処に来るまでの経過を説明してくれた。魔人の襲撃、私がソイツらに何をされたのか、そしてこの現状まで全て……。私は【天地連合対魔人特殊部隊AEGIS】という所に保護されたみたい。な、名前が長い……。
そのお陰で色々と思い出せたけど…これは保護と言うより監禁だね。包帯の下には魔力印が刻まれた左目があって、外すと相手に感知されるとの事。
『……と言うわけで、君は上位魔人に目をつけられた超危険人物な訳だ。それでもってその相手も最悪、二つ名持ちの魔人だね』
「ラディギーザ……」
『【強欲】の魔人。君は転生する前から狙われていた、最初は天人の象徴でもある翼、そして今回はその真紅の瞳。奴は―――』
何で私なんだろ……たしか宝石みたいとは言ってたけど、 その翼や目が【欲しかった】、それだけの理由で?
魔人ってよく分からないな、あと彼女の話を聞いてると背中が少し疼く。とても嫌な感覚だ。
『さて、話もそこそこに君には選んでもらわなければならない事がある』
「選ぶ? 」
『そう、選択の時間さ。【外で魔人に襲われて死ぬか】、それとも【ここで研究対象となるか】だ』
唐突に出された2つの選択肢に言葉を失っていた。だってどちらも私に【死ね】と言っているように聞こえたから。おそらく私は研究対象としては最高のモノなのだろう、具体的な内容は……聞きたくない。でも死ぬのは嫌だ、どうにかして別の道を切り開かないと……
『フム、君でも死を恐れるのかい? 』
「あ、当たり前でしょっ! ……そもそもまだ全部思い出したわけじゃないし、私がどんな兵士だったのかも知らない」
『なるほど、では昔話をしてあげよう。
これは過去にとある天人が書き残した物語、題名は【無名の英雄】。この名前くらいは聞いたことがあるだろう? 』
もちろんある、それは小さい子に読み聞かせる有名なお話。太古から地人に伝わる伝記【モモタロー】ってのと同じくらい。えっと内容は確か……背中に翼の生えた地人 ファストが2本の剣を携えて、仲間たちと共に悪者を退治する旅に出るんだったかな? かなり簡単にまとめたけど、道中に仲間を増やして、敵を倒していくってRPGみたいだよね。
『まぁそうだね……大体合ってる。でもそれは本当の話じゃない、今風に脚色された偽りのもの、本当は―――』
※※※
名無しの英雄の最後を此処に示す。
空の大地よりも遥か上空。そこで対峙するのは1人の天人兵士と、数多の魔人。その中にはかつての同胞もいた。裏切りによる堕天。純白の翼は黒く染まり、肌は青くなる……彼らはすでに魔人となったのだ。
先に動き出したのは天人、両手に持った刀で次々と魔人を切り裂いてゆく。
圧倒的な強さ、しかし魔人はどこからともなく湧いてくる。次第に数で押され始め、無双していた天人に一瞬の……ほんの一瞬の隙が生まれてしまう。死角からの一撃、魔力で手足を封じられ、地へ組み伏せられるように捕縛されてしまう。魔人たちははそこへ集まっていくと、黒い球体となり、天人の姿は見えなくなった。
悲痛な叫び声が聞こえた後、黒い球体から1つの影が落ちる。空の大地を過ぎ、そのまま地上へと……
次の瞬間、世界を光が飲み込んだ。
命が尽きるまで戦い、天人は己の役目を果す。
しかし歴史上に名を残すことはない、今となってはその名を知る者がいないからだ。
ならばせめて私が此処へ残そう、それがこの戦いを最後まで見届けた者の役目。
真紅の瞳を持ち、二振りの刀を扱う天人。
名を残せずとも、勲章を貰えずとも……彼女は我々を救い、希望を未来へと繋げた英雄の1人である。
天人Z―――
※※※
『……と言うことが石板に記されていた、空の大地から発掘されたモノにね。実際はこんなにも短いんだ。そして記した人は今も不明だが―――』
「な、な、な……」
『まぁ言葉を失うのも無理はない、この石板に書かれている人物は―――』
こ、こんな偶然ってあるの? 私が夢で見ていたモノとほぼ一致する事なんて……いやいやありえないでしょ。
私はただの学生だよ? いやでも過去は兵士だっけ……ああもうっ、こんがらがってきたッ!
『昔の君だ、ナナシ。似た夢も見ているんだろう? 天人として再度覚醒する兆候なんだそれは』
見透かされてる……確かに夢は見てた。
もしかしたらお父さんが伝えようとしてたのはこの話の事かもしれない。
『しかし、僕は今の君に魔人と戦える力があるとは思えない。だから大人しく―――』
「嫌だ、私はまだ死にたくないっ」
『む……? 』
「け、研究対象にもなりたくないッ! ただ……戦う力が無いって言うのなら―――」
まだ死ぬわけにはいかない、この先の言葉を言うのは怖い。怖いけどッ! 何よりも……
「戦う力をください! どんな訓練も耐える、耐えますッ! 」
昔からやられっぱなしだったあの魔人に、1発でも喰らわせてからじゃないと気が済まない!
分からないけどその気持ちが強くなり、私は提示されていない選択肢を言っていた。
『……くッ』
「……? 」
『くぅ~……あ~ッはッはッはッ! す、スマナイッ、ちょっとタンマ! 腹が……腹がねじ切れ、クハハハッ!!』
部屋中に男性の笑い声が響き渡る、私も予想外の反応に呆気に取られてしまった。
いやいやソレは無いでしょ? 決死の覚悟で言ったのに笑われたらもう……泣くよ?
『いやいや……ホントすまない。元・名無しの英雄様からそんな事を言われるとは思わなかったからね、彼女のこの覚悟、魂も嘘をついている様子はない。これは合格と言うことで良いですかね、皆さん? 』
目の前に映像が映し出される。そこには男性2人と女性1人がいた。
眼鏡をかけた真面目そうな若い男の人、それは今主に話していた人だと思う。どことなく頼りなさそうだけど、ホントにイージスの人なの?
『まぁ良いだろう、少々不安だが―――』
続けて声が聞こえてくる。後ろで壁にもたれかかって腕組みをしている人、勲章を多くつけた白い軍服姿の男性は不満げな声で答えた。厳格そうな人……オールバックにした白髪と整えられた口周りの髭、声を聴くだけで無意識に緊張してしまう。
『え~っ! アタシは全ッ然問題ないと思うな、【イカロス】とも相性良さそうだし』
『む……そういう問題ではない』
突然作業着姿の女性が会話に割り込んでくる。彼女の明るい声で少し気がほぐれた気がする。
どう見ても〇学生位なんだけど……うわ、コチラをじろじろと見てきた。
『あら? 不快にさせたならごめんなさいね、ホントに相性が良さそうだったから観察しちゃった』
『こ、コラッ! ゴメンね、簡単にだけど此処にいる人を紹介させてもらうよ。……僕の名前はアルフレッド。気軽にアルフと呼んでくれ、此処では魔人の研究・対策を行っている者だ。後ろにいるのはイージスの最高責任者、ゴレクス総帥。そして彼女は―――』
『はいは~いッ! アタシは技術部のスピナ、これからよろしくね! うわぁ……君の魔力数値、やっぱすごいよ―――』
『……あとは頼むぞ』
な、なんか一気に騒がしくなったなぁ、さっきまでのシリアスな雰囲気はなんだったの?
……あ、総帥さんどこか行っちゃった。
その後も画面の外ではバタバタしてたけど、すぐにこの部屋から出してもらえた。ただ、包帯だけは絶対に取らないでほしいとの事、ホントに襲撃に遭う可能性が高いからだってさ。
~ AEGIS-イージス- 内部~
アルフレッドとスピナから連れられてくる途中、此処に所属している人達とすれ違った。
皆物珍しそうに見ていた、中にはヒソヒソと話す人もいたけどあまり気にならなかった。
着用している軍服の色は紺や、若草色の2種類……所属する場所によって色が違うのかな?
目的の場所は建物2階の【総合検査室】と書かれた部屋だった。
室内には多くの機械がや棚が並べられており、何を目的にしているのかは簡単に予想がつく。
ベットのような所に寝かせられ、頭部側には円状の大きな機械もついている。
「は~い、じゃぁ早速計らせてもらうよ。正確な値や義翼との適性を見るならやっぱコッチじゃないと駄目なんだよね~♪」
義翼……さっきチラッと言ってた【イカロス】というモノの事だと思う。
スピナはすぐ隣で何かを操作している、カタカタとリズムよく打ち込む音が聞こえた。
するとベットが動き出し、円状の機械の中へ進んでいった。
「あ、心配しないでね? 痛い事するわけじゃないからリラックスしてて、もし良かったら寝ても良いよ~」
「は、はい……」
とは言われても寝れないよ。頭上ではカチカチカチカチと音はするし、ついさっきまで寝てたというのもある。
しかし彼女はそんなのお構いなしに「ワオッ!」やら「凄いよコレはッ!」とはしゃいでいた。
アルフレッドはその後ろで静かに様子を見ているようだ、時折メモを取っている。
30分程で検査は終わり、また別の部屋に移動させられた。
エレベータに乗り、下へ向かう。移動した先の部屋のプレートには【スピナルーム】と白マジックで書かれていた。その下には技術……とあるが塗りつぶされていて全ては読み取れない。部屋の間取りはかなり広く、室内はしっかり整理整頓され、部屋の中央のラインには工具等が指定された位置に置かれている。床は滑りやすいのか【転倒注意】と看板が立てられていた。両端には大型のケースが作業台を挟むように数台置かれていた、それぞれに【ICARUS】と書かれておりその後に番号が記載されている。
「ようこそ、私の部屋へ!」
「また君は……違うだろ? 此処は技術開発室。戦闘部隊の扱う武器や義翼の開発・調整を行う場所さ、此処で準備を整えて、奥のシャッターから出撃するんだ」
「へぇ……街の地下にこんな場所があったんだ」
今更だけどなんで今まで気が付かなかったんだろ、避難用地下シェルターとかもあるのによく作ったよね。
位置が重ならない様にうまく配置したのかな?
「さてと……ナナシちゃんと一番相性が良い翼は、ど・れ・か・な~っと」
スピナは鼻歌交じりに義翼が収容されているケースをチェックしていく。
そしてあるケースの前で立ち止まる。他のと違って名前と型番が記載されていない。
「おやおやおや? これは……開かずの箱? アタシ、データの入力間違ったかな……」
再確認するが同じケースを指していた、その様子をアルフレッドも不思議そうに見ていた。
「ふむ……とりあえず試してみたらどうだい? 」
「……うんッ、ダメ元だね! じゃぁいってみよう~!」
スピナが手に持っていたデバイスを接続すると、ランプが点灯し、ケースの隙間から蒸気が放出される。
蒸気が治まると間を置いて扉が開かれる。その中には金色の翼と2振りの刀が収納されていた。
「これは……驚いたな、なんて綺麗な翼なんだ」
「わぁ~っ! すごいっ、すごいよナナシちゃん! このケースだけ何をしてもずっと開けられなかったのに、ナナシちゃんのデータを入れたら開いたんだよ! 」
スピナは大はしゃぎだ。しかし私はその翼の美しさに目を奪われ、ほとんど聞こえてなかった。
「この翼はね、ずっとこの中から出せなかったの。アタシがハッキングとか色々試して、何とか設計図をサルベージした事でICARUSが生まれたんだよ。それから勝手にプロト・イカロスって呼んでたけどね~ 」
ん? なんか聞いちゃいけない事が聞こえた気がするけど、まぁ良いか。
それよりも……
「ま、待って。えっと……スピナって見た目よりも結構―――」
「おおっと、それ以上は言っちゃ駄目だよッ! 確かに義翼が出来てから大分経つけどまだまだ若いもん!」
「補足すると、天人と地人で時間の流れ方が違うんだ。みんな見た目よりも長く生きてるよ」
話を聞くと、私の身体も地人から天人と同じ体質へと変わってきているらしい。
個体差はあるみたいだけど、スピナのように見た目〇学生でも私の倍以上生きてる人もいるとの事。
……ってことはお父さんも同じなのかもしれない。
『ナナシ』
「ッ?! 」
突然、スピナの持っているデバイスから聞き覚えのある声が聞こえてくる。
『コレを聞いているということは、私の身に何かが起こったという事だろう。
先に謝っておこう、ゴメンな、ナナシ。君には―――』
自動再生のプログラムが一緒に入っていたようだ、内容はアルフレッドの言っていた事とほぼ同じ。
そして翼について話が始まる。
『私はこの翼は君の……いや、【義翼】は天人としての潜在能力を引き出すために作ったモノだ。
魔人と戦うためには真銀製の武器だけでは勝てない、天人が持つ【浄化の魔力】が必要となってくるとアルフレッドの研究で判明。それは我々の持っていた翼から生み出されるもの……長年の開発の結果、義翼で生み出す事を可能にした。恐らく、そこにいるバカ弟子はハッキングでもしてこの翼の設計図を手に入れ、量産型を作り出しているのだろう。【イカロス】と不吉な名前でも付けていると思うが―――』
「うげ……見抜かれてる」
何やら難しい話が続いているけど、まとめると多分こう。
・魔人と戦うために必要な翼の基礎を作ったのは私のお父さん、ソレを基に量産型を作り出したのはスピナ。
・魔人を倒すには義翼で真銀製の武器に含まれる【浄化の魔力】を増幅する必要がある
・私が戦う道を選んだのであれば、イージスに協力してやってほしい。
『……最後に一言、ナナシ。
君は君らしく生きなさい、君の人生だ。たとえ戦いの道を選んでも自分を見失わないようにね。
色々と矛盾してるかもしれないが、口下手でね、勘弁してほしい。頑張れ、ナナシ』
「……なんだかなぁ」
ポツリと出た一言。残すものだけ残して勝手にさよなら?
らしいと言えばそうなんだけど、やっぱ許せないなぁ。魔人も倒して、もし助け出せるなら1発殴りたいよ。
どのみち私が此処に来なければ一生この翼は箱に入りっぱなし……いや、お父さんとしてはその方が良かったのかな?
「……でも絶対見つけるよ。何が何でも助けて文句言ってやるんだから! 」
「よ~し、その意気だ。スピナ、さっそく義翼の調整をしてやってくれ、僕は一旦研究室に戻らないといけない」
「ホイホイ了解了解。じゃぁナナシちゃん、パパッとやっちゃおう! 」
これが私がAEGISの一員となった日。
名無しの英雄は再び翼を得て魔人を狩る、大切な物を取り戻すために……。
今回は長くなりましたが、もうちょっとだけ続きます。