日常崩壊
夢を見ていた、遥か空高くで行われている戦いを。
1つの白い影とそれを囲うように黒い影がいくつも……形は人、どちらも翼があった。
一方は鳥、もう一方は蝙蝠のような形をした翼。神話等に出てくる天使と悪魔に見えなくもない。
動き出したのは白い影、両手に持った剣で次々と黒い影を切り裂いてゆく。
それは圧倒的な強さだった、しかし黒い影はどこからともなく湧いてくる。
次第に数に押され始め、無双していた白い影に一瞬の……ほんの一瞬の隙が生まれた。
真下から掴み掛られ体勢を崩すと、そこから逆転された。
白い影は手足を封じられ、地面に組み伏せられるように捕縛されてしまう。
黒い影はそこへ集まっていくと、黒い球体となり、白い影を覆う。
次の瞬間、その中から悲鳴が聞こえてくる。
……女性の声、ソレにほとんど掻き消されてしまっているが、何かを引きちぎるような音もした。
とても不快な音、耳を塞いでも聞こえてくる。
声が止むと、黒い球体から白い影が落ちていく。
何故か私も一緒に落ちているようだ。
落下の止まった衝撃で目を開けると……私は【私】を見ていた。
背中の翼が有った場所から血を流し、うつぶせの状態、目は見開いている。
そんな無残な姿を見てから意識は覚醒する。
【このイラストで小説書いてみました企画作品】
ナナシの翼 第1話 《日常崩壊》
部屋では目覚まし時計の機械音が響いている。
ピピピッ、ピピピッ……と中々うるさい。
布団から手を伸ばし、苦戦しながらも見つけスイッチを切った。
「はぁ……また見ちゃったよ。あの夢」
よく見る不思議な夢、もう悪夢だねありゃ。
見た後は汗掻きまくってるし、何故か背中も痛くなる。
夢の中で見た私と同じところがね。
「う~、気持ち悪い……学校サボろうかな」
そんな事を言ってると、部屋の外から声が聞こえてくる。
『お~いナナシっ、起きなさ~いっ 』
【ナナシ】、それが私の名前。
名無しじゃないよ?
起きろって言ってるのはお父さん。科学者で結構偉い人らしい、ちなみに男鰥。お母さんの事はあまり覚えてない、私が小さい頃に亡くなったんだってさ。
「ナナシ~? 起きてるのか……って大丈夫? 」
「ん……起きてるよ、大丈夫。着替えるからちょっと」
「ん、おおっ! スマンスマン、下にご飯出来てるからな」
私から見たらちょっと抜けた感じの父親なんだよなぁ……
全ッ然偉そうじゃないんだもの。
※※※
「ごちそうさま、じゃあ学校に行ってくるね」
「あ、ナナシ。ちょっと待ちなさい」
なんだろ、いつにもまして真面目な顔をしている。
「ん~? 何かあるの? 」
「いや、今日は早く帰ってきてほしいんだ」
「今じゃダメなの? 」
「今はちょっと……って、ああっ?! もうこんな時間か! 今日は大切な―――」
どうやら忙しいみたいだね。
早く帰ればいいみたいだし、先に出ちゃおう。私も遅刻したくないし。
「じゃあ先行くね~、早く帰るようにするから」
「い、いってらっしゃい! くれぐれも頼んだよ!! 」
分かったってば、さて【エアボード】でササッと行こう。
ナナシはポケットから小さな長方形の機械を取り出す。
中央に付いてるボタンを押すと、人間が1人乗れるほどの大きさに変わる。
放り投げると地面に対して水平に浮き、その場に留まった。
「よ~しっ、いっくぞ~! 」
ん? コレはエアボード。
大昔の本にあった……なんだっけ? たしかスケボーってやつの進化系って書いてあった。
乗って後ろのボタンを左足で押し続けると……少しづつ進んでく。
だんだん速くなるけど、30キロくらいまでしか出ないよ。
エアって最初につくから予想できると思うけど【風】の力で動いてる。
ただの風じゃなくて【魔法の風】、原理はよく分からないけど機械で気中の魔力を取り込んで制御しているんだって。
「る~る~ら~……んん? あれれっ?! 」
ボードに乗って数分、異常発生。
少し加速したと思ったら減速、そして止まっちゃった。
もう一度ボタンを押してもその場から動かない……こ、壊れた?
「待って待って、いま壊れたら遅刻確実なんだけど?! ホラっ、頑張って! 」
アレコレ調べてみるが原因はわからない、時間はどんどん過ぎてゆく。
「あわわわ時間が無い、ヤバいよ……そうだッ! 」
少し前に父さんの書斎で見たことがある、壊れた機械は叩けば直るって本に書かれてた。
たしかタイトルは【サルでも解る! 簡単修理!!】、本に書かれてるなら間違いないよ、きっと。
図ではこう、機械に対して角45度で手刀を……
「強めに打つっ!! 」
……ヴゥゥゥン
「動いた! 」
でもちょっとおかしい点がある。
このボードさ、起動するとライトが緑に点灯するんだけど違うんだよね。
点いた色は緑じゃなくて赤……かなり嫌な予感がする。
ボッ! ボボボボボボッ!!
エア・ボードから風が勢いよく吹き出してくる。
このままではどこかに行ってしまうだろう。
「え……ちょっ、待っ―――」
思わず抑えつけたのが間違いだった。
簡単に言うと……エア・ボードが暴走しちゃった。
私の力では抑えることはできずにそのまま引っ張られた。
「キャァァァァァァァッ!? 」
※※※
~学校~
結果から言うと一応間に合った、でもエアボードは大破。
遅刻はしなかったんだけど、先生からの説教と反省文みたいなの書かされて1限目は出れなかったよ。
賑やかな登校をした罰だってさ。
しょうがないじゃない、いきなり暴走するとは思わなかったし……
「じゃぁナナシ、【天人】について説明を」
「はい、え~と……」
今は2限目だから……歴史の授業中。
【天人】かぁ、たしか地人に羽を生やしたような人たちの事だっけ……。
空の大地【リーラ】に住んでいたといわれてるけど、過去の大戦で絶滅した種族。
【魔法】と呼ばれる不思議な力を使い、その源である【魔力】の存在を地人に伝えてくれた存在……だったと私は記憶している、間違ってたかな?
「まぁ大体合ってるから良しとしよう。
続けて答えてもらおうかな、その大戦とソレに出てきた種族は? 」
「うげ……て、【天魔大戦】です」
合ってたけど連続ぅ?
この大戦は天人と地人が何かと戦ったんだけど、えっと、なんだっけな……。
そうだ【魔人】だ、突然現れた謎の種族。
地人の肌を黒くした感じで、中には翼をもっている存在も確認されている
二つの種族の対の存在とも言われてる……けどどうなんだろ?
で起きた戦争だけど、名前の通りなんだよなぁ。
天人と地人の連合軍と魔人の戦争。ここでの細かい説明は省略、長いから。
結果は連合軍の敗北と天人の絶滅、歴史の本にはそれしか書かれてないし。
「そうだな、ありがとう。
今ナナシが説明したところはテスト出すぞ~」
やっと座れる……ちなみにその戦争から数百年経ってるよ。
定期的に魔人は襲ってくるけど、その時に生み出された【魔科学】ってモノで迎撃してる。
えっと魔科学は……私が乗ってたエアボードみたいなモノ、機械と魔法を合わせた技術。
コレじゃないと傷を負わせられないんだって、不思議だよね?
アレコレ話してたら授業終わったみたいだね、さぁってお昼だ~。
『緊急事態発生! 緊急事態発生! 魔人の襲撃です、これは訓練ではありません。
教員は生徒をシェルターまで誘導してください……』
え、マジ? 訓練じゃなくてホントに来たの!?
何処に現れたんだろ……放送がなるって事は近くなんだろうけど。
突然の放送で周囲に緊張が走る、ざわつく生徒達を注意し先生は誘導を始めた。
「落ち着きなさいっ、今からシェルターへ移動するぞ! 」
放送はそのまま続き、出現した区域を話し始める。
『襲撃は第1工業区域―――』
第1工業区域って割と近いよ、ここから30分くらいで行ける所だ。
お父さんも働いてる所だけど確か第3区域だし、多分大丈夫だよね?
「ナナシ! 早く来なさい!! 」
「は、はいっ!! 」
放送に集中してたら怒られちゃった……緊急時だし急がないとね。
私は慌てて皆を追いかけた。
※※※
~自宅~
魔人の襲撃によって後の授業は休講となった。
防衛遂の働きによって被害を最小限に抑えることができたらしい。
しかし行方不明者が出てしまい、現状捜査中とのことだ。
『――今回の襲撃により工場棟に勤務していた数名の科学者が数名行方不明となっているもよう。
行方不明者は……』
その中に私のお父さんが含まれていた。
シェルター内で聞いたときは信じられなかったが、夕方家に防衛隊の人たちが来てしまった。
ほぼ絶望的、襲撃で行方不明になった人が戻ってきた例はいまだにない。
防衛隊の人たちは私を保護しに来てくれたみたいだけど……動けなかった。
いや、動きたくなかったという方が正しいかもしれない。
もちろん説得されたんだけど……そう簡単に受け入れられないよ。
彼らは何かあればすぐに連絡するようにと私に伝え、帰っていった。




