君は夜、奏でる。
君は夜、歌でごく一部の人を魅了している。
喫茶の中、君はしっとりとしたバラードを歌い上げているけど、聴いているのは僕と数名だけだろう。君の声は透き通っていて、店中響き渡っているのに、その甘さに聞き入っているのは僕だけだ。なんで、こうも、甘いんだろう。
すっかりと落ち込んでいる。10代の頃のような無敵さはなくなり、20代も半ばになり、いまだに上手く自分を表現することができないからだ。酔った微熱で余計染みる。
だって、あまりにも綺麗だから。
君は歌で魅了している。
話したこともないのに、君と二人で飲み明かしているようなぼんやりでてきた。君だって若くないはずなのにどうしてこう、一人の人を魅了することができるんだ。
そんな、感傷に浸っているうちに君はステージから消えていた。