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二人の夏  作者: 竹ノ内 あさ菜
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すがすがしい風の通り道

ありふれた生活の風景の中で生きる若き二人の女性の日常。

誰もが羨む美貌と教養を持ちながら素直で屈託のない性格を持つ二人の女性が織りなす日常はすがすがしい風が吹いている道のように爽やかだ。


 「ふー、暑い!」

 美和子は自転車を停め、左足を重心に右足を後ろに廻してゆっくりとサドルからお尻を下した。

 広い歩道の脇に繁っている椚の木の下に自転車を移動させると、サイドスタンドを下して停めた。

 ヘルメットのベルトロックを外して脱ぎ、右側のハンドルに引っ掛けた。

 次に汗で湿ったグローブの指先を引っ張って外し、スポーツサングラスと一緒にヘルメットの中に入れる。背中のバックパックのベルトロック2か所を解除すると、肩から降ろしてサドルの上に置き、中からタオルを取り出して顔の汗を拭きながら

「ふー」 とまた一呼吸する。

 顔と首回りの汗をしっかりと拭きとってから、襟付きのサイクルシャツの下に長袖のコンプレッションを身に着けているが、そのコンプレッションの襟元からタオルを忍ばせ、ブラジャーを少し浮かせながら、ブラジャーに包まれた汗でしっとりとしている豊満と言うほどではないが、女性として十分胸を張れるぐらいの膨らみのあるキュと上向きの綺麗な形をした胸に少女のようなピンク色で柔らかな乳首を持つ胸の周りを丁寧に撫でて汗を拭きとった。

 それから両脇の下までタオルを忍ばせて汗を拭きとる。汗の匂いではなく、爽やかな香水の香りのするタオルを左ハンドルに掛けると、自転車のフレームに取付けてある保冷ボトルを手に取り、歩道と林を仕切っているブロックの縁石へ腰を下ろした。通常の縁石の倍の高さがあるこの縁石は彼女のすらりと形よく伸びる両脚が程よく楽に伸ばせて、座るにはちょうどいい高さだった。足首まである赤紫色のコンプレッションパンツの上に丈の短い黒のスポーツパンツを履いていて、優美な脚線美が強調されている。ランニングシューズの甲のインナー部をつまんで引上げ、さらに踝までの靴下を上げ直した。ボトルの開閉ボタンを押して蓋を開け口元へ呑口を付けた。ゆっくりと顔を上向きにして氷で冷やされているスポーツドリンクを喉に流し込む。 ドリンクが少し口元から零れて彼女の顎から胸元まで綺麗に伸びている喉を濡らした。

「あー、おいしい!冷たくていいわ!やっぱり保冷ボトルは正解だったわ」

 そう言いながら目の前の車道を隔てた向こう側の林の木々が風に揺れている様子を見つめる。

 風が美和子の長い髪を揺らし、汗で湿った髪を乾かしてくれそうだ。

「あー、この風も気持ちいいなー」


 美和子は毎週土曜日、日曜日は休日だ。そのどちらかの休日には天気さえ良ければ自転車でポルタリングをして過ごす。乗り始めてからまだ1年ちょっとだ。 美和子の住む町はポルタリング、サイクリングをするには恵まれている環境で、一人で住んでいるマンションのすぐ近くから森や林、池、田んぼ、畑などが広がっている。

 車道も整備され、自転車を走らせることができる歩道が広く整備されている。

 休日は車道を走る自動車もほとんどまばらで、気楽に自転車を走らせることができるので、この町の住民はもちろんだが、他の町からロードバイクを走らせるサイクリストも多い。

こうして一休みしている間にも何人かのグループが通り過ぎていった。


 彼女は自転車に乗り始めてからずっと独りで走っている。 特に誰かと一緒に走りたいとも思わないし、むしろ独りで気楽に走ることを好んでいる。

 大学を卒業してから大手の航空機メーカーへ就職。 ジェットエンジンの開発部門に配属となった時には自分の夢が現実になったんだと喜びを隠せなかった。

 その日の夜は女子会が開かれ朝まで飲み明かし、翌日は休日でも一日ベッドで過ごすことになったほどだ。

 実家は都市の中心から外れた閑静な高級住宅街の中にある。ただ、今は実家の親元を離れて、この町に独りでマンション暮らしを始めたのだった。 会社までの通勤などを考えると親元から通っても違いはない。それでも、いつまでも親元で甘えることは美和子は望んでなかったし、自分の事は自分でするのが大人として当然のことだと考えている。 両親は美和子の意志に反対したことがない。それほど彼女を信頼していたし、美和子はその両親の信頼を得るだけの女性でもあった。高校生の時にも大学入試に備えて学習塾に通うように両親に進められたが、彼女は塾などに通うこともなく、特別熱心に勉強に励んでいる様子を見せることもなったが、成績は学年で群を抜いて優秀なのを両親は不思議がってさえいた。美和子は学業だけではく、運動神経も抜群だった。水泳、短距離走なども常に上位でフィニッシュしているトップクラスの常連だった。

 美和子の家庭は父親が世界的に名の知れたIT関連企業の役職に付いていて、母親は家庭を守っている専業主婦だ。経済的にも精神的にも何も心配するような事柄もなく裕福と言える階層だと言ってもいい。

 先代からの家に住み続けていて、新しくはないが重厚な作りの洋風の家が広い庭の真ん中に立っている。彼女の両親は東京の国立、私立を問わず、彼女が望むなら行かせる心算でいたのだが、彼女はあえて有名大学への進学などは考えてなかったし、一人で東京へ行く気もなかった。


 美和子が希望する大学は徒歩でも通える場所にある国立大学だった。自宅のある住宅街の中に膨大な敷地を構えて立っている。この3年間で、この大学の教授が続いてノーベル賞を受賞したことで、全国的にも少しは知名度が上がった。

 彼女はその大学に現役で合格。 進んだ進路は理工学部航空力学科。空力特性と推進力の研究が目的で進んだ分野だ。特に興味があるのはジェットエンジン、ロケットエンジンの開発だった。

 特にロケットエンジンはおそらく推進力としては人類が生み出す最強の物だろう。これまでのエンジンの概念を覆す新しい燃料の爆発構造を研究したり、さらに、新燃料による従来の常識に捕らわれない斬新な発想で展開される未来のエンジンの可能性の開発を進める。その魅力に引かれて勉学に励み、女子として主席で卒業できたのはこの大学の歴史上でも例がない。


 そんな彼女は希望の就職先に内定を取るのは難しくなかった。むしろ、何も苦労もしてない。

 希望する企業への面接は就職した企業の一社のみで、他の企業などの訪問すらしてない。

 彼女の学業の成績も当然だが、それ以上に彼女の魅力は誰が見ても解るその美貌だった。

 肩から20センチ下まであるロングヘアーは栗色に輝いている。内側に少しカールを付けてあり、瞳が隠れるぐらいある前髪は左右に流れている。

 目はくっきりと大きく、可愛らしいラインを描き、まつ毛の長い綺麗な二重瞼が印象的だ。鼻筋もきれいにすっと伸びていて、二つの瞳をより魅力的なものにしている。眉毛は太すぎずそれでもくっきりとしたやさしいラインを描き、唇は口紅をつけなくても色っぽくて艶やかだ。

 身長は女子としては平均的だが、脚の長さは際立って長く見える。 そのプロポーションの良さから身長の割合に比べて脚が長く見える。

露出の多いミニスカートを身に纏うと、その脚線美に目を奪われない者はいないだろう。

さらに、二の腕から指先までしなやかに伸びる稜線は無類の美形を生みだしていて、美脚を一層際立たせる要素になっていた。


 彼女は自分では決して美人だとも思っていなかったが、その容姿は男子学生の同学はもちろん、

 先輩、後輩達の目線を集めて止まなかった。誘われることもたびたびで、一人で外食をすることもほとんどなかった。もっとも、男子学生とは二人だけで会うようなことはなく、女友達が必ず同席していた。 数人か最低でも一人は必ず一緒に居た。美和子と一緒にいるだけで、女友達も異性との繋がりも必然的に増え、何組かのカップルも生まれている。

 その中でもほとんど必ず一緒に居るのは保乃花だった。 

 幼い頃からの同級生である保乃花も美和子と一緒に現役で大学に合格し、同じ理工学部に進学した。 

 保乃花も美和子と同じぐらいかそれ以上の美貌の持ち主だ。この二人が一緒に居るその姿をわざわざ見るために他校から彼女達が門を出るまで待っている学生がいるほどで、彼女達は知らなかったが、ファンクラブまで作っている男子学生達がいた。

 保乃花は人工知能の研究に進み、同大学院で博士号を取得し卒業。そのまま、同大学院の研究室グループに所属している。教授の補佐や学会などの発表資料などの作成、海外での発表などが最近は多くなって来たこともあり、最近は直接美和子と会う機会も少なくなっている。

 それでも、スマホでのやり取りだけはほとんど毎日欠かさない。


 ボトルホルダーを口に付けて上向きになり、「ゴクリ、ゴクリ」と喉にスポーツドリンクを流し込む。

「あー、ただのドリンクがこんなに美味しく感じるのは汗をしっかりかいているからなんだ」

 と独り言のように小声でうなずいた。


「ピポパピ、ピポパピ・・・」

 美和子の左耳に装着している片耳イヤホンにスマホの着信音が鳴った。

 イヤホンの電源ボタンを一回押して電話に出た。

「もしもし」

 美和子が応答する。

「美和子? おはよう!」

 保乃花の声だった。

「おはよう!」

「そっちは今何時?」

 美和子は少し眠そうな保乃花の声に答えた。

「今は午前10時半だよ」

「こっちは夜の8時半」

「ボストンとは10時間だったっけ?」

「そう、今日は明日の研究発表資料の最終確認とプレゼンの予行練習だったので、

 帰宅してすぐにベッドに入って眠ってしまったの。2時間ぐらい熟睡したわ」

「夕食はこれから?」

「そう、今からシャワーを浴びて、近くのレストランで教授とスタッフ達6人で食事するの」

 保乃花は話を続ける。

「そのレストランは何度も行っているけど、前にも話したの覚えてる?イケメンのボーイが一人いて、そのボーイがいつも私の座っているテーブルに必ず注文に来るのよ」

 美和子は保乃花がボストンに行ってから二日目の朝にそのボーイの話を聞いていた。

 もちろん、その時はただ

「イケメンがボストンには多いのよ。今日、初めて行ったレストランで一人居たのよ」

 保乃花はそれ以上は話をしなかったが、イケメンには違いないだろうと思った。

 ただ、美和子には西洋人のイケメンのイメージが湧かないのも確かだった。

 保乃花は美和子よりも彫が深く、鼻も高い。眉毛もしっかりしていて、唇も少し大きい。

 ショートボブの茶色の髪の毛、彼女の透き通るような白い頬はマシュマロのようにきめが細かく滑らかなのは美和子も同じだが、学生時代からハーフと見間違えられることも多く、彼女の流暢な語学力なら日本人だと告げなければ判らいほどだ。身長は美和子より5センチ程度高いだけだけど、その風貌は美和子に比較すると外人なみの容姿である。とりわけ胸の膨らみは美和子の倍はあるかと思うほど豊かだ。タンクトップ、キャミソール、Vネックが幅広なTシャツなどを身に着ける時は胸の谷間がくっきりと解るのを美和子は知っていて、一緒に居る時は他の学生らの視線を気にしないわけにはいかなかった。美和子と保乃花は一緒に旅行や時には日帰り温泉なども一緒に行く仲だ。

 また、お互いの家でお泊りする時でも一緒に入浴することもある。 互いに相手の裸体の綺麗さに見惚れてしまう事があるほどだ。

 一度、お互いの胸の大きさがどれぐらい違うのかを確認するためにお互いの胸を擦り合わせてみたことがある。もちろん、保乃花の胸の方が豊なのは合わせるまでもなくお互いに承知の上だ。

 ただ、互いにその滑らかな柔らかい胸を触ってみたいけど、さすがに手のひらで触り合うのは気が引けた。

「やっぱり保乃花のおっぱいは大きいね!」

「やだーもう、ちょっと、美和子!くっつけ過ぎてるし!」

「だって、なんかすごいすべすべしてるもんね」

「美和子のおっぱいだって、十分大きい方だと思うよ。それに、キュと上向きの綺麗な胸はモデル並みだよ。しかも、このピンク色の乳首。まるで作り物じゃないかと思うほどゾクッとしちゃうし」

「保乃花の乳首は少し私より濃いのかな?でも、これぐらいの色の方が魅力的じゃない?」

「ちょっと、お互いの乳首を見比べている私達って少し変わっていると思う?」

「まさか!女の子だったら、同性のおっぱいを知りたいと思っていると思うし、男性だって、お互いに持っている大事な物の大きさを気にしているんじゃないの?」

「まあ、それはそうだろうけど。それでも、こうして合わせて比較することもないんじゃない?」

「確かにそうかもしれないけどね」美和子は続けて「保乃花だからこんなことが出来るんだよ。他の子とは絶対に出来る訳ないからね」

「それはそうだね。美和子なら全然平気だよ。だって、美和子は本当に清楚な優しい子だもん。もちろん、私も美和子以外の子と、こんな大胆なことなんてできないわよ」


 保乃花は話を続ける。

「今日、そのイケメンボーイからプレゼントを頂いたのよ」

「え? プレゼント? 何だったの?」

「なんだと思う?」

「うーん、なんだろう?」

「ちょっと解らないだろうけど、ちょっと言ってみて」

「じゃ、まさか指輪じゃないよね?」

「まさか! それはないわ」

「うーん、じゃね、待って、チョコレートとか?」

「バレンタインじゃないし、それに子供じゃないのよ」

 とクスッと笑う声がした。

「クスッ・・」美和子はちょっと可笑しくなって笑った。

「あのね、プリザーブドフラワーで出来ているブローチなの」

「そうなの?」と返事を返し美和子はちょっと思った。

 プリザーブドフラワーで出来ている?大丈夫なんだろうか?なんだかすぐに壊れそうな気がするけど。その思うのを解っているかのように保乃花は続けて言った。

「もちろん、ちゃんとコーティングされていて、普通のブローチと同じように使えるのよ」

「そうなんだ」

「真紅の大きなバラと少し小さい黄色のバラと2本付いてるの」

「バラなんだ。綺麗だろうね。後で写真をスマホに送って置いてね」

「OK!直ぐに送信するね」

「私は今ポルタリング中でちょっと休憩中だから、帰ったらゆっくり見るからね」

「今日も乗ってるの?」

「もちろんよ! すっごい暑いけどね!」

 美和子は続けて

「なんでそのプレゼントをイケメンボーイは保乃花に渡したんだろうね?」

 美和子はもちろん、保乃花の美貌なら何処へ行っても男が目を離さないだろうけど、あえて、何かそれだけの理由でもないのかと思いながら続けて聞いてみた。

「保乃花に好意を持つのは当然だけどね。これまでだって一緒に居ても保乃花に声を掛けてくる男は数多くいたからね。」

「それなら、美和子だって同じじゃない。私以上に人気があったのは美和子の方だと私は思っているけど」

「でも、保乃花はそんなの慣れてるでしょ?プレゼントとかは」

「それはまあね、異性からいろいろな物を頂くことは少なくないからね」

「で、そのイケメンは何て言って渡したの?」

「それがね、私が化粧直しに席を立って通路に入った所にイケメンが待っていたようで、ポケットから取り出して、「受け取っていただけませんか?」だって。もちろん英語だったけど」

「へー、ちょっと大丈夫なの?待っていたなんて、いやじゃない?」

美和子は続けて

「なんだかストーカー行為に近い感じを想像してしまうけど」

「大丈夫よ。そんな風には見えないし、笑顔がステキな紳士の顔だったわ」

「保乃花が言うならいいと思うけど」

 美和子はこれまでも保乃花に近づいて来る男達を知っているけど、保乃花は男を見る目は確かだ。

 彼女は男の外観や容姿、口の上手さや地位や財力などには惑わされることなく、本心や性格などを見抜くだけの洞察力を持っている。だから、これまでも言い寄ってくる男の中で友達として付き合っている男友達とは美和子も仲がいい。全員が紳士的で頭がいいだけじゃなく、ユーモアもある男性ばかりだ。

ただし、美和子と同様で、恋愛感情を抱かせるような男性とはまだ出逢っていないのも二人の共通した点だった。 それでも、男性と同じベッドで夜を過ごしたことは幾度か経験しているのは互いに同じだった。それでも、好意はあってもそれ以上の恋愛という感情にまで発展することがなかっただけだ。


「保乃花?」

「なに?」

「後でゆっくりその話の続きを聞かせてもらうわ」

「もちろんよ」

「まだ、走り出したばかりなので、これから二〇キロぐらいは走る予定なの」

「ごめん、自転車に乗っていたんだっけ」

「ちょうど休憩したとこだったから良かったけど」

「じゃ、頑張っていってらっしゃい!」

「行ってきます!」

 そう言って、美和子はイヤホンの電源を押して通話を切った。

「さてと、じゃ、出発しますか」

 バックパックを背中に背負い直し、ヘルメット、グローブ、スポーツサングラスを掛け、自転車のサドルにキュとしまったお尻を乗せてペダルを思いっきり漕ぎ始める。


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