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スチールプリンセス  作者: 千石 一朗
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第二章 天狼のシリウス③

続きです。

宜しくお願いします。

 西宮に忍び込んだシリウスは夜目を頼りに書庫にたどり着いた。整然と並んだ背表紙には見慣れない文字。古代センチュリア語やエルム語で書かれたものも多い。二百年以上前のものもある。それはこの書庫がトリスタン王国創成以前からのものであったせいである。

 学者のパティなら読めたであろうがシリウスには何が書いてあるのか分からなかった。シリウスが読めるのは簡単な公用語だけであった。

 目指すは『白聖書』である。シリウスは書籍には目もくれず歩く。手には小さな手帳。そこにはメモがびっしりと書き込まれていた。西宮は古い宮殿である。もともとは旧王朝の王宮殿だったところだ。シリウスは古い資料をコツコツ集めて細かい構造を分析した。そして見つけ出したのだ。

(この隠し部屋をな)

 シリウスは口の形だけで呟くと力を込めて本棚と押した。本棚はゆっくりと動き出す。すると奥から正方形の隠し部屋が現れた。正面には暖炉が一つ、二百年分の埃を被っている。

(ここか)

 心の中で呟く。下調べ通りだ。長年の研究が正しかった。踊り出したい気分である。

 部屋の四隅に装飾を施した燭台が全部で四つある。手帳を見ながら順番通りに動かした。

 すると、かちりと小さな音が鳴り暖炉の奥の壁が動いた。奥から小箱が顔を覗かせる。

シリウスはごくりと唾を飲み込んだ。この中に白聖書がある。やっと手に入る。手を伸ばそうとしたその時。

「貴様、そこで何をしている!」

 突然、背後から鋭い声がする。女の声だ。シリウスの心臓は大きく脈打ったが、決して振り返らない。顔を見られぬように背中を向けたまま手を挙げる。白聖書を前に油断した。

 いや、それだけじゃない。足音から察するに、この女は強い。

「動くなよ」

「分かった。投降する。」

 シリウスは観念したように肩を落とした。そして次の瞬間!

素早く振り向くと短剣を投げつけた。

「くらえ!影刃!」

 影刃、一本目の短剣の影にもう一本短剣を投げる。一本目を防いだところを二本目が襲いかかる。しかし!

「自分で言う奴があるか!」

 女は笑みを浮かべると一本目を長剣で弾き、それを二本目にぶつけた。影刃と分かってしまえばどうということはない。女はそのまま間合いを詰めようとした、その時。

 ドン、という音とともに女は後ろに吹き飛ばされた。

「エアスラッシュ」

 影刃なんて真っ赤な嘘だ。二本の短剣の後に風の世界樹魔法を放っていたのだ。意表をつかれた女剣士は仰向けに倒れた。しばらくは立ち上がれまい。

「貴様、騙したな」

 悔しそうに呻く女にシリウスはにやりと笑った。

「嘘は泥棒の始まり。嘘をつけない泥棒はいないんだぜ。」

 余裕の決め台詞だったが、今度はシリウスが驚く番だった。女はふらつきながらも立ち上がった。間一髪急所を外していたのだ。

「おいおい、無理すんなよ」

 シリウスは余裕の表情で軽口を叩くが、内心は驚嘆の一言である。あのタイミングでエアスラッシュをかわすとは。しかも立ち上がるとは。

「無理は承知。」

 女は立ち上がろうとして、燭台に手をかけた。

「おい!」

 今度は本当に焦る番だ。四つの燭台は順番通りに動かすことで扉が開く。そうでない時は、

「トラップが始動するぞ。」

 言い終わる前に床がぱかりと開いた。トラップの基本、落とし穴だ。突然、床が開き二人はなすすべもなく落下した。

 

ありがとうございました。

また宜しくお願いします。

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