表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
独軍国の栄光  作者: 加藤 西
大戦の幕開け
4/12

再会

 『………の様子…ど…なっ……る。』

何処からともなく声が響いてくる。

しかし、何かを隔てているのか、それとも声自体が小さいのかよく聞き取れない。

『順…で…。こ……ま…けば…い…うし…す。』

違う声も聞こえてくるが、こちらもかすれてしか聞こえない。

声の出所を探ろうと思い、身体を動かそうとしたが、何故か動かない。

俗に言う金縛りなのだろうか?

しかし、それにしては身体の感覚自体がない。

かろうじて目を開くと、自分が巨大な筒状の中にいることが分かった。

辺りを見回す。

筒状の容器?は恐らく金属製で、俺の目の前の部分にだけ直径30センチメートル程の小窓が空いていた。

そして、身体の感覚が無かったので分からなかったが、どうやら容器一杯に何かの液体が満たされているようだった。

と、そこまで見たところで黒色の軍服を着た白人が目の前の窓からこちらを覗きこんできた。

目が慣れてないのか、水中だからなのか、視界がぼやけてしまってよく見えない。

だが、白人の軍人であることは間違いない。

そして、先程聞いた声の主は十中八九こいつだろう。

俺が起きていることに気づいているのかいないのか、相手はしばらくの間、俺をじっと見続けていた。

俺も、声を出そうにも辺り一面が液体のせいで、息を吸い込むことができずにいた。

………………いまさらなのだが、どうして息をしていないのに生きていられるのだろうか?

身体の感覚が無かったことと、それほど苦しくないことが重なっていたため、全く気がつかなかったが、どう考えてもおかしい。

俺がそうこう考えている内に、相手は俺から顔をそむけると、『さ…し………ち…うせ……お…なう…!!』

大声で何者かに指示を出した。

途端、俺の視界が端から徐々に青く染まり出した。

よく分からないが、それと共に何故か頭がぼうっとしてくる。

何だ………どう………したんだ?

何かを考えようとしたが、視界が完全に青で塗り潰されると、そんなことを考える気も失せた。


再び小窓を覗きこんだ白人が、小さく何かを言ったように見えたが、気のせいだろうか?


そして、目を覚ました。

勢いよく半身を起こすと、慌てて辺りを見渡した。

先程の風景とは打って変わって木製のベッドの上である。

無論、二段ベッドの下の段だが。

そして、身体が動くかを確認する為に、両手を開いたり閉じたりとやってみる。

ぐう、ぱあ、ぐう、ぱあ…………よし、大丈夫だ。

「ふぅ……………」

そこでようやく、荒くなっていた呼吸を静めるために深呼吸した。

「夢……………か…………。」

それなりに先程の出来事は現実味があったが…………夢だったようだ。

ほっと安心していると、自分がぐっしょりと汗ばんでいることに気がついた。

これからの旅立ちに何か緊張を感じているのだろうか?

部屋の入口付近に掛けられている時計を見ると、午前1時過ぎを指していた。

まだ朝まで長いが、またすぐに寝てしまうと、ふたたび同じ夢を見てしまう気がする。

…………しばらく外を歩くか…………

そうと決まれば、さっさと部屋を出よう。

まず、音を立てないように静かにベッドから足を下ろす。

そして、目の前のハンモックで寝ている隊員を起こしてしまわないように、体勢を低くしてハンモックの下を潜り抜ける。

と、上のベッドで寝ていた学の手が目の前に現れる。

「邪魔なやつだな。」

腕を退かすと先に進む。

学は気づかないのか、寝言をぐだぐだと言いながら、寝返りを打つ。

全く、寝ていても迷惑な奴だ。

立ち上がって、学の寝顔を見ながらそう思う。

まあ、寝ている時の事を注意したところで変わらないだろうが………

その時、ふたたび寝返りをした学が小さく寝言を言った。

「………おっかさん…………。」

…………………そういえば、学は山奥の農村出身だったっけか。………働きに都会に来たということは、食うや食わずの貧しい生活を送ってきたのだろう。

…………まあ、学も多くの事を語ろうとしないし、関わることもないだろう。

なるべく静かに部屋を後にした。

「うう、寒い………」

部屋を出た途端、廊下に漂っていた冷気が身体にまとわりついてきた。

恐らく、外気のせいだろう。

流石に、東北は関東より寒い。

そこに、昼間と違って人気がないことが相まって不気味な雰囲気が辺りを覆っていた。

「流石に幽霊は出ないよな。」

まさかと思いながら、昼間と同じ通路を歩いていく。

靴と鉄の床が触れる度に辺りに硬い足音が響き渡る。

数メートル間隔で灯っている以外に光源のない暗い廊下には、その所々に長旅の為の保存食糧の入った木箱が積まれていた。

昼間に来たときは無かったのだから、明日の出港に備えて遅くまで積み込み作業を行っていたのだろう。

本当にご苦労様だ。

通路をしばらく歩いていくと、ハンドルの付いた扉目の前に現れた。

そばまで寄ると、無造作にハンドルを掴んで、おもむろに時計回りに回した。

すると、軋みと共にゆっくりと扉は開いた。

中は無論、格納甲板だ。

中に入ると、格納甲板は、部屋よりも暖かかった。

戦闘機といった暖かみのないものが大量に並んでいるので、冷たい印象があったためか、意外だった。

多分、まだ作業員達の熱気が籠っているんだろう。

そう考えながら歩いていくと、ようやく目的の機体にたどり着いた。

Fu1。

それが紘鳥に搭載されている機体だ。

最高時速1012キロメートル、航続距離は2580キロメートル。

武装は機首に搭載された30ミリメートルの重機関砲4基と両翼に装備された20ミリメートルの機関砲6基。

まさに当代最強の戦闘機だ。

近くに寄って、機首に手を当てる。

金属特有のひんやりとした冷たい感触だけでなく、その存在感も手に伝わる。

やはり、いつ見ても雄大だと思う。

これまでの国産の機体は、欧州や米国の機体に比べるとどれも貧弱で、本当に白人と日本人の差を感じてきたが、この機体は違う。

武装だろうが、装甲板だろうが、速度だろうが、全ての分野において他国の機体に勝っているのだ。

初めて日本人が、白人を越えた記念すべき機体なのだ。

思わず、機体を触っている手に力が籠る。

…………日本で作られたという確信はないが、恐らくそうなんだと信じたい。

だが、この機体が日本の機体として空を飛ぶことはない。

その証拠に、全ての機体の翼には日の丸ではなく、白い円に大きく独という漢字が書かれた国章が塗られている。

この機体は、あくまでも計画の為に極秘裏に開発されたものなのだ。

国が兵器を開発したとしても、必ずしもその国の為に使われるとは限らない。

「悲しい機体だな…………ん?」

自分の機体の表面を擦りながらそう呟いた時、遠くから何かが軋む音が聞こえた。

確かめなくても分かる。

扉が開けられた音だ。

誰かが残業でもしに来たのかな?

ふたたび軋む音がすると、今度は足音が聞こえてきた。

恐らく、扉を閉めた誰かが格納甲板に入ってきたのだろう。

足音は徐々にこちらに近付いてきた。

「……………!」

何故か人間、足音が近づいてくると、追われているような気がして逃げたくなる。

思わず機体の影に隠れようとしたが、それよりも先に機体の列の角から相手が姿を現した。

暗いからよく分からないが、大小を腰に下げているこの御仁は……………

「探したぞ、兵長。ここにいたのか。」

「神少将っ!?」

「こら、大声を出すな。ここに俺がいるのは艦長しか知らん。下手に兵に見つかると騒ぎになる。」

それはそうだ。

計画の首謀者がここにいるのだ。

しかも、神少将は第三次大戦、第四次大戦の二度に渡る大戦の世界的に有名な日本の英雄だ。

誰かに見つかればそれこそ兵という兵が押し掛けてきて大変な騒ぎになるだろう。

「勝手に座らせて貰うぞ。」

腰の大小を床に置くと、神少将はすぐそばに置いたままにされていた椅子に腰掛けた。

「お前も座ったらどうだ?」

着ている緑色の礼装服を整えながら神少将は促す。

「失礼します。」

そう断って俺も、学が昼間から置いたままにしていた椅子に座る。

神少将はそれを見届けてから口を開いた。

「久し振りだな。お前の中学校入学式以来だから丁度三年振りか。どうだった、中学校の生活は。俺の時代はそんなものなかったからよく分からん。」

興味津々という様子だ。

「最初は何かと違いを感じたんですが………まあ、時が経つ内に慣れてきて親友もできたので、かなり充実していました。」

「それは良かった。お前にとって良い経験になっただろう。ところで、その親友とはなんと言う?」

「高山平吉と言う奴で、官営の孤児院出身の良いやつです。」

「孤児院か…」

神少将は唸るようにそう言う。

「父親は第四次大戦後の食糧難で死んじまったみたいで、母親が単身で育てていたらしいんですが、その母親も平吉が8歳の時に死んじまってからは、山の手の方の孤児院で暮らしていたらしいです。」

「………………………」

俺が話し終えた後、しばらくの間、神少将は黙っていた。

「……………神少将?」

どうも、この沈黙に耐えられなかったので、しびれを切らして声を掛ける。

「…………いや、何でもない。」

しかし、神少将はうやむやにはぐらかしてしまった。

「それはそうと…」

そして、話を替えようとするかのように、神少将は顔を近付けてきた。

「色恋沙汰はあったのか?」

「はっ!?」

思いも寄らない質問に思わず声が出てしまった。

それを見て神少将は、歳の割りに皺の少ない顔を震わせて笑った。

「なに、お前の年頃ならば間違いの一つ二つあっても可笑しくはないだろう。それで、どうだったんだ。」

そして、無邪気な顔でこちらを見てくる。

…………………これは、かなり言いづらい。

「ええ、まあ…………」

しばらくごまかそうとしてみたが、とうとう決心を決めると軍人手帳を胸元のポケットから取り出した。

そして、手帳に挟んでいた写真を、和やかにこちらを見る神少将に手渡した。

神少将は写真を一目見ると、目を見開いた。

「おお、これは中々の麗人だな。」

「歳が一つ上の先輩でした。」

恥ずかしくてそれだけ言うのが精一杯だった。

「………近頃は、男子と女子の組分けが無くなったと耳にしたが………それにしても、出逢いは兎も角、よく知り合えたものだ。」

「………少し酷かないですか、父さん。」

つい、神少将ではなく、短い間であれ、使っていた呼び名で訴えてしまう。

しかし、神少将は注意する様子も無く、首を振る。

「そうは言ったところで、お前の成績は体育の甲以外は全て丙ではないか。………確か、英語と歴史と国語には、ほとんど丁がついておった。農民出で、何も学の無い俺が言うのも何だが、越南で戦死した長男も、支那で戦死した次男も乙は取っていたぞ。」

神少将は、先の大戦で二人の息子と死に別れている。

長男はベトナム、次男は支那でだそうだ。

僅かな期間で二人の息子を失った神少将の奥さんは、心労の余りに寝たきりになって戦争終結を目前に病死。

戦争勃発時から支那で戦線の指揮を取っていた神少将は、奥さんの最期も、葬式も見届ける事が出来なかったと、一緒に生活していた頃に聞いた。

「どうしても座学は頭に入ってきません。」

そんなことを思いつつ、神少将に返答すると、神少将は苦笑する。

「俺もだ。俺も村の学舎では悪たれ小僧だった。………全く、血の繋がった二人の息子は俺に似ていないのに、血の繋がっておらんお前が俺の餓鬼の頃に似ているとはな。」

「男は座学で決まるわけでは無いです。やはり、どれだけ動けるかです。」

「ならば、文武両道に長ける方が良いのではないか?」

それはそうなのだが…………

「……何故か学校で習う座学には違和感が有るんです。」

「……やはり、まだ記憶は戻っておらんか。」

「はい。」

芽生えてきた罪悪感におされて頭を垂れる。

「昔のことはこれっぽちも思い出せないんですが、中学校で教えられた物は、俺が持っていた知識とは違う気がするんです。」

…………俺には、5年から前の記憶がない。

最初の記憶は、殺風景な部屋のベッドに横たわっていたところからだった。

見知らぬ場所だった上に、自分が誰かすら覚えていなかったので、最初は極楽にでもいるのかと思い、じたばたせずに過ごしていた。

だから、自分が生きていて、居る場所が病院の病室だと知った時はかなり驚いた。

病室に来た医者が言うには、俺は記憶喪失だったらしい。

とかく、その時は聞く人、聞く名前全てに覚えがないという状況だった上に、深く考えると頭痛がしたので、酷く混乱していた。

後で聴くと、あと一歩で赤レンガで鉄格子の某施設にぶちこまれるところだったらしい。

そんな俺に初めて面会してきた御仁が神少将だったのだ。

神少将は、何もかもを思い出せない俺に「兵長」という呼び名で尋ねると(後で聞いたところ、第三次大戦時に率いていた大隊の伝令の兵長に似ていたからこの呼び名になったらしい)、毎日のように病室にやって来ては記憶のない俺に、色々な話を聞かせてくれた。

戦場で戦友と苦楽を共にした日々のことや、銃火の中、言葉の通じない異国の男達と共闘したこと等、まだ子供だった俺にとってとても魅力的な話だった。

そのお陰か、初めて目を覚ましてから3ヶ月も経った頃には普通の生活ができる位にまで回復していた。

だけれども、一向に記憶は戻らず、病室以外に居場所は無かった。

そんな俺を見かねたのか、神少将は俺を養子として迎え入れてくれた。

神少将の家は神田神保町の片隅にある平屋建ての少し年季の入った上屋敷だった。

広い屋敷には、年老いた下女が2人居る以外には誰も居らず、がらんどうだった。

第三次大戦以前から50年も奉公している下女のお安さんが言うには、第四次大戦が始まるまでは中間、小者合わせて10人は居たらしいが、第四次大戦が終わって帰ってきた神少将は、皆に暇を出したそうだ。

当時の神少将は妻も二人の息子も失っていて相当に参っていたらしく、身内を見るのも嫌だったらしい。

まあそれはともかく、それから2ヵ月の間は神少将と暮らしていたのだが、何故か1日に3、4人、多い日は10人近く人が来ていた。

皆、長着の上から羽織を端折っていたり、あるいは大小を腰に下げていたりと、かなり服装はばらばらだったが、今思えば、計画の算段を練るためになるたけ目立たない格好で集まっていたのだろう。

そうとも知らず、俺はお安さんにお小遣いをもらうと朝から晩まで古本屋巡りや、駄菓子屋で同じ位の歳の奴とつるんで遊んでいた。

しかし、春の終わりが近付き、桜が見頃になった頃、四人揃って奥座敷で朝飯を食べていた時の事だ。

上座で座っていた神少将が突然こんなことを言ったのだ。

「お前の年頃なら爺婆の居る家に居るより、同じ齢の者と居った方が良いと思ってな………昨日、山の手の中学校の入学手続きをしてきてやったぞ。」

全くの寝耳に水だった。

それからあれよあれよと寮制のある学校に入学し、4年間通い無事卒業。

それから色々とあって、予科練に入り、今に至る。

「それにしても…………人と接しておれば、いずれは思い出すものと思っていたが………どうやらお前にとって失った記憶は余程思い出したくないものらしいな。」

神少将は溜め息をつく。

「確かにそうなのかも知れません……」

こうまで思い出せないとなると、そう考えるのが妥当だ。

そう考えた時、ふと先程見た夢を思い出した。

「そう言えばさっき、変な夢を見たんです。」

「変な夢……?どう変な夢だったんだ、言ってみろ。」

「なんと言えば良いのか……鉄の筒……のような物の中に入っているという夢だったんです。」

それを聞いた神少将の目が一瞬、鋭くなった。

「具体的にはどういった筒だったんだ。」

口調も自然と真剣味を帯始める。

「目の前にーー」

かくかくしかじか夢の内容を話すと、神少将は左手を顎にあてがうと、しばらく何かを考えるように唸った。

先程とは打ってかわって、相当真剣そうに考えている。

だがやがて一息をつくと、こちらを安心させるような笑顔になった。

「何、夢は夢だ。気にすることは無い。粗方、これまでの4年間と違う環境になったせいで、それに頭が反応してそんな変な夢を見たんだろう。………お前には、父親として何もしてやらなかったからな………そんな俺が言うのもおこがましいが、もっと自分に自信を持て。人はお前が会ったことのない二人の兄と比べるだろうが、血が繋がっていないからと言って二人の兄に劣っていることなどない。いや、お前の方が兄達よりも、俺に似ているから将来、俺の様に万の軍勢を率いて戦う将軍になれるはずだ。」

「神少将………」

神少将がそう言うと、そんな心持ちになれるが、先程までの表情から考えると、言葉で何か重大な事を隠しているような気がする。

「それとも、写真の令嬢に会えなくなったせいかもしれんぞ。」

俺の表情が暗かったのか、神少将は励ますように茶化した。

「まさか……」

これには思わず苦笑してしまった。

「まあ、有り得んことではあるまい。…………ところでだが。」

神少将は再び左手に握っている写真に目を落とす。

「この麗人の名はなんと言うんだ。」

「佐々木葵さんです。」

「葵か……良い名だな。………聞くが兵長、その葵とは別れたのか?」

うっ………

質問を受けて、自分でも顔が真っ赤になったのが分かる。

親に恋人のことについてを言うのは、やはり恥ずかしい。

「いえ、計画が一段落ついたら会いに行くつもりです。…………実はそれでお願いがあるのですが…」

「息子の頼みだ、聞いてやろうじゃないか。」

神少将は、俺がこれから何を言うかを悟ったようで、顔に笑みを湛えて応えてくれる。

けれども、流石にいきなり言うだけの勇気を持ち合わせていなかったので、少し息を整える。

…………………………………よしっ!!

そして、決心がついたところでようやく尋ねた。

「仲人になってください!」

「……………成る程、英雄の後光に肖りたい訳だな。」

案ずるより産むが易し。

予期していたのか、神少将は考え込むでもなく、あっさりと頷いてくれた。

「…………まあ、そう言うわけでは無いことも無いんですが…」

余りにもあっさりとしていたので、ついたどたどしくなってしまう。

「そうか。よく分かった。」

それに対して神少将は、先程とは違う喜びが籠められた笑顔を見せた。

「ならば俺も長生きせねばならんな。せめて孫の顔は見なければな。」

神少将はそう言うと、写真を返してくれた。

俺は、それを丁寧に軍人手帳に挟むと、胸ポケットにしまう。

「その為にはこの計画を是が非でも成功させねばならん。」

「これから生まれてくる子供達の為に、ですか。」

「そうだ。俺のような老人の時代は終わりだ。これからの世界を担って行くのは若い世代でなければならない。……だが、最期位、夢を実現させようとしても、罰はあたるまい。」


 それだけ言い残すと、神少将は直ぐに日本を飛び立たねばならないと、紘鳥を後にした。

俺は、その影が夜の張で見えなくなるまで見届けると、居住区の自分のベッドに戻り、長い一日に幕を降ろした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ