01-3
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二人の幼い少年が玄関に座り込んで、何をするでもなく、手元の雪玉を弄っている。屋根が長めに設計された玄関口、そこから一歩でも出れば激しい吹雪に見舞われるが、出なければその美しい雪の嵐を楽しむことすらできる異様な環境。少年たちはぬくぬくとしたセーターの上に厚いセーターを羽織っていて、どこか楽し気に、そして退屈気に、布の手袋の上で乾いた雪を転がした。くしゃりと潰れた雪は、わずかに糸と糸の間に染み、そして多くは冷たいコンクレートの上に落ちる。もう一度どこかから雪を取ろうと顔を上げた少年の一人が、不思議なことに気づいた。
「なあ、エニスタン。お前んちって一年中、冬でもいつも同じくらいの花が置いてあるけど、どうなってるんだ?」
エニスタンと呼ばれた少年は答えた。
「ママの趣味。どんな時で変わらずに花が咲いているのが好きなんだって」
「そこに咲いてる、えっと、黄色いのは」
「パンジーだよ。すっかり雪を被っちゃってるけど」
そして二人の少年は押し黙った。冬の午前の11時という何だかやる気のわかない時間帯、普段なら雪が積もっているとなれば、喜び勇んで外に飛び出すのだが、この吹雪だとそうはいかない。一人が体を震わせてため息をついた時、二人の視界にあるものが映った。黒いコートを着た人が、道路の向かい側を歩いている。それも、とてもおぼつかない足取りで。
「何やってるんだろうな、こんな日に」
隣の少年が憐れむようにそう言った時、エニスタンは口元を歪めた。そして、横を向いてこう言った。
「なあ、お前、姉さんとクリスマスツリーの飾りつけするって言ってなかったか?」
少年は一度ぽかんとした後、叫んで飛び上がった。「ああ、いっけね! 忘れてた!」 彼は立ち上がり、吹雪の中に飛び込んでいく寸前に一度振り返った。「まったく、姉が少女趣味だと苦労するぜ。じゃあな、よいクリスマスを」
「よいクリスマスを」 エニスタンはそう言いながら、子供らしくない笑顔を浮かべていた。そんな彼と、黒いコートを着てずるずると移動するエミリーを、悪魔のミノーは上空から見ていた。
灰色の空に広がる雲からつり下げられ、吹雪で揺れるミノーはどこか楽し気だった。すべてが自分の思い通りになっていることに、満足していたのだ。ここまでは長かった。結果が出るまではもうすぐだ。気分よく本当は当たりさえもしていない強風に吹かれていると、不意に妙なものを見つけてしまった。
エニスタンの家のマーガレットの花壇の中で蛇が蠢いている。もうとっくに冬眠に入っているべき時期なはずなのに、平気で雪が被った葉を払うように動いている。霊体のミノーが強風に吹かれているのは、単なる演出に過ぎない。つまり、ミノーは風に吹かれているふりをして、わざと体を揺さぶっていたのだ。だが、その蛇は確かに土や葉と接触している、つまりは実体を持っているのだ。おまけにミノーが纏っているような瘴気も発していない。しかし、その蛇が特殊な存在であることは明らかだった。インドコブラのような見た目をした、王冠のような突起を頭に持った蛇。
『どうして、ここにあいつが?』
ミノーは忌々し気に呟いた。蛇はそこから移動する気はないようで、寒さから身を守るように体を葉に絡ませ続けている。ミノーは蛇のところまで降下してこう言った。
『よう、そこで何をしているんだい? 天使のできそこない』
蛇はミノーの方を見て、ため息をついた。
『何を持ってできそこないというのだ? 私たちは優れた霊的存在だ。特に、この私は素晴らしい。何故、それに気づけない?』
『どこが? 笑えるね。君たちは今までに何人の人間を地獄に堕としてきた? 何人の人間を天国へと連れて行った? ヤハウェが君たちのような無価値なものを残している理由がわからないね』
『――あえて言えば』 蛇はにやりとしながら言った。
『私は全人類を、この地に堕とした』
ミノーは舌打ちした。『だが、それからは僕たちや忌々しい天使たちに遥かに劣る働きしかしていないはずだ。僕たちは実にうまくやってきた。人間は、馬鹿で、愚かだから、簡単だったけどさ』
『そうだろうな。お前たちは、弱い人間や隙が多い人間ばかりを狙って、罠に嵌めてきた。本当に強い人間には、敵わないと知っているからさ』
ミノーは笑い出した。『君も馬鹿だなあ。人間のほとんどがそうじゃないか。残りは天使たちお気に入りのヤハウェ狂信者くらいだ』
蛇はむっとしたような口調で言い返した。
『お前たちには想像もつかないだろうが、確かにいるのだ。私はそんな人間と手を組む。そして、地を這う私たちが――天を舞う天使たちに、取って変わるのだ』
蛇は実に真剣そうにそう言ったが、それを聞いたミノーは笑い始めた。
『いひひっ……無様だなあ……長年、この“地”で這いずりまわるうちに、おかしな妄想に取りつかれて、できもしない夢幻をできるように語るようになった』
そして心底見下したような言い方でこう付け加えた。
『可哀想な君に最大限の同情と、侮蔑を』
蛇は自分の夢が笑われたことが悔しくて仕方がないようだった。ミノーはそれを見て満足した。
『じゃあね。残念だけど、君のくだらない妄想に付き合っている暇はないんだ。今から重要な用事があるからね』
そして、巨大なミノムシは、ありもしない体から空想的な糸を灰色の雲に向かって射出した。残された蛇は、ぶつぶつと呟いた。『今は確かにお前たちの思い通りに動くのかもしれない。だが、いつか、いつか、私が必ず……』
蛇は灰色の空を見上げた。そして、厚い雲の向こうにある青い楽園のことを想ったのだった。
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