魔物の元へ
カンカンカンカン! カンカンカンカン! と大きく鳴り響く鐘の音を聞きながら黒い髪に金色の瞳をもつ若者が立ち上がる。
「四回周期の鐘ってことは出現したのか、高ランクの魔物が。最近は低ランクの魔物ばかりで平和だったのにな」
とつぶやき、ハンガーにかけてある上着を手に取ってから羽織り、ドアの前まで向かったところで、目の前でノックもなしにいきなりドアが激しく開け放たれ、その時の風圧で若者の髪が風になびいた。
もう少し前に進んでいたら通常ではありえない勢いで開け放たれたドアという名の凶器によって大変なことになってなと背中に変な汗をかいているいると、金色の髪をツインテールにした勝気な瞳をした少女が腕を組んで立っていた。スレンダーな身体に不釣り合いな二つの果実を携えし少女は叫ぶ。
「チヒロー! 早く対策室に行こーよ!」と。
チヒロと呼ばれた若者は苦笑いしながら少女に答える。
「一応、今から向かうところだったんだけどね。それとユリア、部屋に入る時はノックをして相手からの返事を待ってから開けるようにしてね? 危うくドアで潰されそうになったから」
するとユリアと呼ばれた少女はごめんごめーんと両手を合わせて謝罪をしたかと思うと人の腕を掴んで、はやくはやくー行こー行こーと急かしてくる。
その様子にこいつ全く反省してないなと呆れつつ、ふと疑問に思ったことを尋ねる。
「あれ、ユキはどうしたの?」
「私でしたらここにおりますわ」
タイミングを見計らったようにユリアと同じ顔をしているがユリアとは違い、金の髪をポニーテールにしどこか優しそうなイメージをもつ落ち着いた雰囲気の少女が入ってきた。
「駄目ですよ、おねいちゃん。女の子なんですからもっとお淑やかにしないと。チヒロさんが困って…いや、呆れていますわ」
ユリアの双子の妹のユキだ。そう姉ではなく妹のユキだ。きっと姉を反面教師にした結果お淑やかに育ったんだろうなとこの二人を見るといつも思う。
それから二人を連れて対策室に向かうと小柄な女性が俺達を待っていた。
「お待ちしておりました。今回の魔物ですが立入禁止区域からこちらに向かっているようです。偵察班からの連絡によるとAクラス相当の魔物のようですね」
その報告を聞きチヒロが顔をしかめる。
「最近は低ランクの魔物ばかりでしたし、高ランクの魔物の発生を知らせる四回周期の鐘とはいえBクラス程度かと思ってたのにまさかのAクラスとは」
「ええ、こちらも正直Aクラスの魔物が発生するとは思ってもいなかったので驚きです。ちなみに今回の案件はラミエスさん達のチームが他の地区のヘルプに行っている為、チヒロさんのチームのみで対応してもらいます。今回の魔物はAクラスとはいえ一体だけのようですしチヒロさんのチームだけでやれるという上の判断みたいですね。それにチヒロさんの瞳の能力でしたら一体だけなら余裕だろうと」
ミライはとてもいい笑顔でチヒロに伝えるが、反対にチヒロはとても嫌そうな顔をしつつ
「それはまたえらい期待されているけど余裕ってわけではないんだけどね。俺には攻撃手段がないし」
そんなチヒロとは正反対にユリアはテンション高く
「よーしよし! ユリア達にかかればAクラスの魔物一匹なんて怖くなーい! 早速向かいましょう」
そう声高らかに叫び、手を引っ張ってくる。
チヒロとしても魔物を討伐しなければならないとわかってはいるので手を引かれるまま現地に向かう。
流石に魔物がいると思われる場所までは結構な距離があり、歩いては行けないので途中まで忘れ去られし時代からの発掘品の車という乗り物を利用して向かう。
この車は太陽光をエネルギーとして貯蓄することにより馬よりも速く、力強く人や物を運ぶことができる優れものである。
まあ現存する数も少なく貴重品な為、今回のような緊急時にしか使用することはできないが。
そして車の中で各々準備を整える。
俺は先祖代々伝わってきたグローブを装着し軽装鎧をチェックする。
このグローブは魔導的な刻印がされており魔力を通すのにちょっとしたコツがいるが璧という属性を付加したバリアのような魔導を発生させることができる。そのちょっとしたコツができないと属性を付加できず、戦闘ではまず使えない脆いバリアを生成することしかできないのだが。
ユリアとユキはエネイル装束という忘れ去られし時代からの発掘品のセッティングを行っている。
ユリアのエネイル装束はタイプ:アイドルといい近中距離戦と高機動に念頭を置いたセッティングにしているようだ。
ちなみに見た目はフリフリしたミニスカートの服装でどうみても戦闘をするような恰好ではないのだが、装着者の魔力を消費することにより防御力と身体能力の向上や能力者と呼ばれる者達にしか使えない力を限定的に使用できるそうで、ユリアは好んで炎の能力をセットしている。
ユキはタイプ:シスターというスカート部分が足首まである紺色のワンピースに白い大きな襟、頭にはベールを被っている。
スカート部分に何故か深いスリットが入っており、隙間から見える生脚と踝までしかない白い靴下の組み合わせが非常に艶めかしく、ついつい目線がいってしまう。
セッティングは機動力を落とし、その分の余ったメモリに閃や砡と呼ばれる魔導式を構築しセットしている。姉のユリアとは反対に多属性遠距離特化型にセッティングしているようだ。
さて、そろそろミライさんの言っていた地点に近くなってきたようだ。
俺達は車から降り、巻き添えを食らわさないように運転手と車を街に返す。
そして魔物がいるという報告のあった方向へ三人で歩いていく。