死の気配
逃げる。逃げる。後ろから迫りくる死の気配に脅えながらも青年は必死に森の中を逃げる。
どれくらい走っただろうか。青年はいつの間にか死の気配が霧散している事に気づき、目の前にある大きな木に倒れ込むようにもたれかかる。しかしここまで必死に逃げてきた代償なのか脚に力が入らず尻もちをつき荒い息を上げる。
逃げ切れたのか? と安心したところでドン! と空から大きな大きな物体が死の気配を撒き散らしながら降りてきた。
声は出ず、膝はしきりに震えて立つこともできない。
青年は死を覚悟した。否、覚悟はできていないが死が避けられないものと悟った。
そして規定を犯し単独で立入禁止区域に入ってしまった事を後悔した。こんなところに入らず仲間と一緒に待機すべきだったと。ここのところは低ランクの魔物しか発生していなかったので今回もそうだろうと高を括り、単独で魔物を撃破し自分一人の手柄にしてやろうと先走ったことを。
そして青年の目の前に大きな大きな鋭利な牙の並ぶ口が開き、生暖かい息があたる。そのまま青年は首を噛み千切られ短い生涯に幕を閉じた。
人々から魔物と呼ばれる化物は口の中にある青年の頭部を舐めながら首なし死体となった身体を無造作に掴み、歩き出す。
立入禁止区域との境目にあるバリケードを壊し、人の気配がする方向に歩き出す。死の気配を撒き散らしながら。