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VS.Knife《バーサス・ナイフ》  作者: 水の民 さゆと
第1章 Transform VS.Knite
3/9

1-2-2

 ――夢はただ流れる。俺の意図に反して、思い出したくもない中心部に近づいていく。セインは醒めない夢に必死でもがいた。もうすぐ、あの男が現れる。



「……あっけねーな」

 ぽつりとつぶやく。敵も歴戦の戦士であるはずだし、能力にさほど差はないはずなのだ。だが、圧倒的な実力差が開くことには、覚悟の違いであるとセインは考えている。


 どうしても負けられない。

 胸を深々と刺して倒した敵の死体から、血が1滴も流れないのを見ながらそう思った。この世界はおかしい。そして、そこに生きる人々もまた例にもれずだ。そして、それを支配している1人の「王」がその元凶であることも、彼はまた理解していた。

 青いマントの集団もまた、市民のためと銘打ってはいるが、王が組織したギルドであり、彼の支配下にある。王のコマは、彼に刃向かうセインたちを排除しようと虎視眈々と狙っているのだ。今回の戦闘はその一部にすぎない。セインはそう考えていた。


 勝利に酔いしれる間もなく、敵は仲間の屍を踏み越えてさらに押し寄せてきた。1人目を仕留めたと思ううちに、すぐ2人目、3人目が飛びかかってくる。

 これを1人でさばくのは辛い。ちらりと周囲を見渡す。ちょうど敵の背後に仲間の姿が見えて、目が合った。彼女はセインが苦戦しているのに気づくと、さっと駆け込んできた。


「シャル、援護頼む!」

 彼の合図がまるで来ることを分かっていたかのように、戦闘にはそぐわない出で立ちの少女が、敵の間合いに滑りこんでいく。膝丈のスカートをひらりとなびかせると、柔らかな金髪がひるがえる。深緑のケープをめくるように構えた手には、深紅のレイピアが握られていた。

「任せて」

 返答すると同時に、彼女は目にも留まらぬ速さで突きを繰り出した。疲労など微塵も感じさせない軌跡。緑色の瞳には武器より鋭い光が宿っている。彼女は1人目が倒れるのを気に留ることなく、即座に2人目に狙いを定めていた。

 セインも負けじと次の敵に向かっていく。もはや援護じゃねえだろ――という言葉は大人しく飲み込んでおいた。


 それから、彼は手を休めることなくナイフを振り回した。さすがに疲労が積もり、敵の攻撃を避けづらくなってきている。細かいかすり傷や、攻撃のミスも増え始めていた。

 敵方の脱落者も増えているようだったが、こちらも戦線離脱する者が出てきている。戦える者は彼らを後ろにかばい、敵の攻撃を防ぎ続けていた。もう、これ以上は――そう思っていたとき、救いの人物が飛び出してきた。


「セイン! 《門》ができた」

 《門》を作り終えた彼は肩を激しく上下させながらも、負傷して動けない仲間を背負いあげた。無理するなと言いかけたが、状況がそれを許さない。事態は、相変わらず切迫していた。

「逃げるぞ!!」

 腹から声を出す。

「あとは俺とイースに任せろ! 動けるやつは怪我したやつ背負って行ってくれ」

 声を発したと同時に、仲間たちは一斉に向きを変え、セインの背後へ駆けていった。イースはちょうど糸で縛り上げた相手を投げ飛ばすと、そばに走り寄った。

 敵に斬られたのか、枝に引っ掛けたのか、無残に破れたマントが揺れている。男というにはあまりに華奢な腕にも、細かい擦り傷を作って血をにじませていた。感情を飲み込んで、ただ告げる。


「悪いな、あとちょっと手伝ってくれ」

「もちろん。僕でよければ」

 彼は優しく笑った。健気ながんばり屋である彼が、周囲に元気を与えていることに、本人はまだ気づいていないだろうが。その笑顔に背中を押され、セインはナイフを構えた。

 青いマントの敵は1、2……あと10人と少し。ここを乗り切れば、血路は開けるはずだった。

「背中は任せたっ!」

 イースがうなずくのを横目に、せり上がった木の根を一気に飛び越える。彼はそのまま集団の輪の中に飛び降りた。

 後ろから襲ってくる敵は、イースの糸が見事に絡めとって動きを止める。だから、彼は目の前の敵だけを見据えて、刃を振るえばいい。前衛と後衛、それぞれの持ち場をしっかり守るコンビは、息がぴったりでつけ入る隙など与えない。


 だが、いかんせん疲労も限界が近い。セインの動きは徐々に鈍くなり、イースの糸も、ゆるむことが多くなった。《門》の穴に、自分とイース以外の最後の1人が飛びこむのを視界の端に捉えたとき、セインは急ぎ撤退の体勢をとった。イースもそれを察知して、敵に背を向けたセインを援護する。

 敵と十分な距離をとったのを見計らって、2人は地面に開いた黒々とした《門》へとダッシュした。が、彼らの真正面に忽然と、青いマントがひるがえった。


 ハッと急ブレーキをかける。強行突破しなかったのは、目の前の人物に見覚えがあったからだった。

「やあ」

 低い響きが、淡々と言葉を吐き出す。背中に悪寒が走る。2人が固まっている間に、足止めした集団が追いつき、背後を囲んだ。

「久しぶり。まさかこんな形で再会するとはね、セイン君にイース君」


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