導師は呟き闇の中の猫は笑う
「お、真央だ」
村瀬が手を振った。確かに真央が走ってくる。だが、その後ろを、どっかの少女マンガのように背景に花が咲くんじゃないかと疑うほどの王子二人が歩いてくる。
「真央_______」
真央は、明らかに怯えているようだった。掲示板を見てあのコスモスとくまのぬいぐるみを見ていった。
「やっぱり・・・・」
「やっぱり・・・?」
私が聞き返すと真央はしまったというような顔をして誤魔化すように笑った。
「はい、みんなちょっと御免な」
飯田海斗が、皆を下がらせた。飯田海斗の後を飯田薫が涼しい顔をして、つかつかと歩いてくる。
金髪の飯田海斗と黒髪の飯田薫______二人が来ると凄い威圧感____
二人の王子の登場で生徒たちは静まり返る。沈黙の中で最初に口を開いたのは飯田薫だった。
「これを、最初に見つけた人は?・・・確か・・・」
私ですと声が上がったのは髪の長い女子生徒だった。ちらりと飯田薫がその女子生徒を見た。
「確か・・・君は、園芸部部長の・・・熊本・・・」
「満です・・・」
杉浦満は、少し泣きそうな顔をして言った。
おっとりしたような顔立ちの大人しそうな女子生徒だ。
「文化祭に向けて・・・校門で花のアーチを作ろうって・・・皆で話して・・・私部長だから・・皆より早く来たんです・・・それで今日は朝一番に学校に・・・・・そしたら、それが置いてあって・・悪戯にしてはとっても不気味で私・・・怖くなって・・」
そうやって泣く彼女の背を飯田海斗がそっと優しく撫でる___数人の女子が、少し不満げな顔でじっと見ていた。
なんだか・・・本当に刑事ドラマ見てるみたい・・・・
予鈴が鳴った。
「ほら、皆!教室に戻れよ!」
駆け付けた先生たちが、手を叩いて生徒たちを追いたてる。
「行こうぜ」
村瀬が、私を促した。私は、頷くと真央を見た。
「私も一応・・・生徒会だから、かさねちゃん先に行ってて」
ばいばいと手を振り真央は走り出した。
”______やっぱり・・・・”
真央は、そう言っていた・・・真央は、脅迫状のこと知ってたってこと・・・?・・・
____なんだか、背筋が寒くなって私は歩き出した。
ふと気が付くと青白い顔で立っている壮年の男が目に入った。
あれは___数学教師の長谷川先生・・・・・
ぼんやりとかさねは、長谷川を見た______だって、倒れそうなぐらい青い顔をしていたから・・・・そして見ている先にはあの脅迫状______
先生の薄い唇が動く_____何かを呟いた・・・・
私がじっと見ていることに気がついたのだろう。先生が、じっと私の方を見た。
色のない瞳____まるで生きていることに絶望しているようだった。
「かさね!!」
村瀬が呼んでいる___私は、はっとして村瀬を見つめた。村瀬は、怖い顔をしていた。そして、先生と私の間に立つと睨みつけるようにして先生を見た。
「村瀬?・・・」
村瀬が、普段他人を睨みつけることなんてなかった___何故怖い顔をして先生を睨みつけているんだろう。
長谷川先生は、じっと村瀬を見ていたが、暫くすると踵を返して職員室の方向へ歩きだした。村瀬の緊張がほどけるのが分かる。
「どうしたの?・・・村瀬・・怖い顔しちゃって・・・」
村瀬が心配そうに私を見た。
「なんでもない・・・・・ただな・・長谷川には近づくな・・馬鹿・・」
ぽつりと村瀬が言った___馬鹿・・・はぁ??そう言われて私が声を上げた。
「馬鹿とは何よ!!馬鹿とは!!」
憤慨だ!私は馬鹿じゃない!!そりゃ〜テストの点数は目を背けたくなるほど悪いけどさ・・・・
「ほら、授業に遅れるぞ」
そう言う村瀬はいつもの陽気な村瀬に戻っていた。
一体何なんだよ______思春期か??私は、首を傾げた。先を行く村瀬に私は渋々ついていった。
でも、頭の中ではさっき先生が呟いていた言葉で一杯だった・・・・
_______キョウコ・・・・
先生はそう呟いていた・・・一体誰なんだろうキョウコって・・・・・・
次の日_____学校にひとつの事件が起こった。
熊本満が、文化祭の看板の下敷きになり怪我をしたのだ。
肩を打撲した程度のものだったが学校の生徒は大騒ぎをした・・・・
まさか____あの脅迫状が原因では・・・誰もが脳裏に浮かべそんな馬鹿なと笑った。
しかし・・・馬鹿な考えだと考えれば考えるほどに・・・植えつけられた恐怖は少しずつ根を広げ数日後にはカリヌイ様の祟りだ・・・・そう言い出す者まで現れた。
そして・・・恐怖する私たちをよそに・・・またあの脅迫状が学校の掲示板に貼ってあった。
今度は、人通りが多い・・昼休みのことだった。
今度は短く_______
”カリヌイ様は生贄を欲している”
そう書かれその下には古びたグローブと野球ボールが置かれていた。