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序章 ストリート・ファイティング・ガールズ act.2

 一般人ならまず近付こうとはしない。京警{きょうけい}だってきっと見て見ない振りをする。もし怪我をしたくなかったら。

 人通りも疎らな路地裏で、鍛えられた肉体を深緑色の巡察服に押し込んだ三人の男が、別の一人を取り囲んでいた。

 窮地に追い詰められているのは三十手前ぐらいの中肉中背の男だ。皺の寄った綿シャツにジーンズというラフな格好をしている。息が荒いのはこれまで散々逃げ回ってきたせいだ。今も目を忙しなく左右に振って、どうにか逃げ出そうとしているようだ。この状況にあってなお大人しく捕まろうとしないのだから大した玉だといえるだろう。どうやら人畜無害なただの一般市民ではなさそうだ。

 しかし余人に身の危険を感じさせるのは、葦原清掃という中小企業に勤務するその男、沼田悟郎の方ではなかった。

「我々は左京衛府{さきょうえふ}の巡察隊である。全ての京民は、葦原京{あしはらきょう}の秩序維持のため当方に協力する義務がある。是非とも従ってもらいたい」

 口上を述べた左士{さし}の詰襟に入った白い一本線は小士長の徴だ。表面上は要請だが、実態は威圧であり挑発だった。いかに傍若無人の悪名高い衛士{えじ}とはいえ、無抵抗の相手に暴力を振るいはしない。だが向こうから手を出してくるなら話は別だ。正々堂々日頃の鍛錬の成果を披露できる。

「……俺は何もやってない。お前らにつき合う義理もな」

 沼田はぼそりと答えた。小士長は鼻を鳴らした。

「ふん、ならばなぜ逃げた。疚しいところがないなら堂々としていればよかろうが」

「お前らが傍に寄って来たからだ。理由もなしに小突き回されたくなかったんでな」

 つまり今がまさにそういう状況だと言っている。小士長は面白くなさげな目付きをした。

「では質問を変える。ごみ箱などに手を突っ込んで何をしていた」

「それは……間違って、財布を落っことしちまって」

「ならば一緒に探してやろう。さっきの場所だな?」

「い、いや、いいって。あんたらにそんなことしてもらわなくても、自分でやるから」

「何、遠慮することはない。皇民{こうみん}のため尽力するのが我らの役目である。さあ」

 小士長が沼田の腕を掴んだ。明らかに必要以上の力が込められている。沼田は苦痛をこらえるように目を瞑って顔を背けた。小士長のごつい顔に勝ち誇ったような笑みが浮かんだ。

「ぐがっ!?」

 だがすぐに引き攣った。強烈な白光に目を灼かれていた。

 密かに取り出した閃光弾を沼田が炸裂させたのだ。自家製のため大した威力ではないが、隙を作るには十分な効果を発揮した。

 ざまをみろ、と内心で勝ち誇っていたとしても沼田は無駄な時間は費やさない。すぐさま衛士達の間を割って走り出す。一度姿を見失わせてしまえば街の中に紛れ込むのは難しくない。まずはこの場を離れるのが先決だ。

 だが未だ全力疾走に達しないうちに、沼田は意図せずして足を緩めた。思いがけないものが行く手にあった。

 とはいっても客観的には何らおかしなものではない。銃弾飛び交う外国の戦場や人跡未踏の深山幽谷というならいざ知らず、真秀国{まほこく}の中央に位置する大都市の一角に着飾った少女がいて悪い道理はない。

 普通の子供と比べたら少しばかり着飾り過ぎかもしれないが、派手というほどでははないし、まして奇異などでは全くない。それでも沼田には驚くべき理由があった。

 顔こそはっきり覚えてはいなかった。だがレースがふんだんにあしらわれた丈の長いスカートは、確かについさっき見かけたもので。

「お前……どうしてここ」

 に、と最後まで言い切ることはできなかった。

「どうしてわたしがここにいるのかって?もちろん借りを返すためだよ」

 沼田のみぞおちに突き上げていた足を少女は引いた。ごふっという音と共に、塞き止められていた呼気が口から吐き出される。沼田は前のめりに倒れ込んだ。

「で、と」

 大の大人を文字通り一蹴してのけた柊子{しゅうこ}は、続いて現れた左士達を迎えて言った。

「アイス代とクリーニング代は、こっちのおじさん達に払ってもらおうかな。でもまずは謝ってよね。いくら化外っていっても、人として最低限の礼儀ぐらい弁えるべきでしょ」

「さっさとそこをどけ」

 巨漢の小士長はじろりと柊子をねめつけた。

「我々は公務を執行中だ。邪魔をするなら子供でも容赦はせんぞ」

 単なる脅しというには些か迫力があり過ぎた。だが柊子は恐れ入ったりしない。

「うっわ最低……ほんと、あんたみたいのがいるせいで、右衛府{うえふ}の人まで一緒くたに白い眼で見られちゃうんだ。あんたに比べたらゴリラの方がずっとましだよね。頭悪いこと言わないぶんさ」

「……上等だ。吾が生意気な東の牝ガキのしつけをしてやる。十発ばかり尻をひっぱたいてやれば、少しは皇王陛下{こうおうへいか}のお役に立てる人間になれるやもしれん」

 小士長の妄言に後ろの左京衛士の一人は顔をしかめ、もう一人は下卑た笑いを浮かべた。反応は対照的でも、小士長の本気を疑っていない点では同じらしい。つくづく最低野郎であるようだ。

「何をぐずぐずしているか。早くパンツを下ろして尻を出さんか」

 小士長は柊子に詰め寄った。柊子が自分から脱がなければ力ずくやるつもりらしい。

 もちろん覚えている。さっき宮址{きゅうし}で柊子を物みたいに振り払ったのもこいつだ。

「もういいや。あんた退場」

 繊細なレースで飾られたスカートが翻った。

 小士長の視界を一面の白が覆う。まともに反応するどころか、ほとんど戸惑っている間さえないうちに、スカートの後ろから現れた赤いエナメルの靴先がその鼻下にめり込んだ。砲丸の直撃でも喰らったみたいに小士長の頭が仰け反る。その巨体が倒れたのと同時、柊子は地面に降り立って、残った二人の左士に向き直った。

「あんた達はどうする?素直に謝る?それともここで一眠りしていきたい?」

「だらっ」

 問答無用、とばかりに殴りかかってきたのはさっきいやらしく笑った方だ。手加減のない正拳突きが最短距離で柊子の顔面に襲いくる。素人が闇雲に腕を振り回しているのではない。直撃すればきっと責任を取ってもらわなければいけないような怪我をする。

 だがそんなのは真っ平ご免、こんな屑野郎と契るぐらいなら柊子は迷わず一生バージンでいることを選ぶ。

 しかし男としては最低でも、遊んでいられる相手ではないと見積もったのは武人としてなら正解だ。

「だけど甘い!」

 花が開くようにスカートの裾が地面に広がって、その端から飛び出した踵が屑野郎のくるぶしを内側から打ち払う。そして無理やり開脚させられ悲鳴を上げようとする顎を立ち上がりざまの膝で打ち抜いた。

「実力の違いを計れないようじゃあ、まだまだだよね。あとは」

 残る一人の顔は白くなっていた。当然だろう。ここに至ればどんな間抜けだって気付く。

 目の前にいるのが、少女の姿をした格闘マシンみたいな存在なのだと。

「それ、使ってもいいんだよ」

 腰に差された警棒を指し示す。しかし左士は触れようとさえしなかった。

「この高橋一鉄{たかはしいってつ}」

 相手は決然として告げた。

「たとえこちらの実力が劣っていようと、素手の子供に武器など使えん」

 拳を構え、腰を落とした。そしてそのまま静止する。

 柊子は少しだけ感心した。

「ふうん、カウンター狙いか。悪くないね」

 仮に相撃ちにでもなれば、体重がある分確実に向こうが有利だ。

「よし、じゃあ勝負だ!」

 柊子の足が跳ね上がる。その速さに既に出遅れ気味となった一鉄は、しかし強引に前に出る。たとえ後手を踏んだとしても届きさえすれば打ち勝てる。そう思い定めたような思い切った一撃だ。

 しかし柊子の身はそこになく。

 裾先だけを掠めて過ぎる。

 身を翻した柊子は、そのまま一回転して一鉄の向う脛をしたたかに蹴りつけ、続けてこめかみに足刀を叩き込む。一鉄の瞳が泳ぐ。しかし完全に意識を失ってしまうのを許さないかのように。

「何をしている!」

 鞭のように鋭い響きが空気を打った。

 柊子は声の主を見遣った。左京衛府の巡察服と同色の、深緑のスーツが衛士にしては細い身を包んでいる。肩にかかるほどの黒髪が微風を受けて揺れ、切れ長の眼が厳しい光を湛えて一鉄を見据えた。

「な……直江中士長殿」

 一鉄は直立姿勢を取ろうとして、だが柊子の上段蹴りの衝撃が抜けきっていなかったようだ。よろめいて膝を落とした。

「高橋さん、不審者とやらはどうしました」

 直江中士長はいたわる素振りもなく問い質す。

 一鉄ははっとして周囲に首を振り向けた。そもそも追っていた男の姿がどこにもない。

 迂闊は柊子も同様だった。左士達との闘いに気を取られてすっかり忘れていた。個人的な借りは既に返したとはいえ、やはり面白くない。

「その子供は?」

「そ、それは」

 一鉄は口籠もった。我々三人が揃ってみじめに負けた相手です、とは告げづらかったに違いない。しかし中士長は容赦をしない。

「まさかとは思いますが、その子供のせいで取り逃がしたということでしょうか」

「……面目次第もございません」

 一鉄はがっくりと項垂れた。中士長は倒れている二人の左士を見て眉をひそめた。

「細かい状況はともかく、あなた方が任務を果たせなかったことは理解しました。あとの二人は駄目そうですね。車を呼びましょう」

 携帯端末を取り出し、どこかと連絡を取り始める。

 柊子はお気に入りの洋服にできた染みを見下ろした。大きなため息をつく。まだ謝罪も弁償も受けてはいない。だがそろそろ引き時だろう。

「待て、まだ君にも訊きたいことがある」

 しかしその場を離れようとした柊子のことを、通話を終えた中士長は呼び止めた。

「なんですか?」

「君が捕縛の邪魔をしたというのは本当か」

「別にそういうつもりはなかったですけど。でも否定はしません。それで、本当ならどうするんですか?」

「であれば公務執行妨害だ。官衙まで来てもらう。事情がはっきりするまで身柄を拘束、いや君の場合は保護か。いずれにせよ後の処理は詳しい話を聞いてからだ。理不尽な扱いはしないと約束する。いいな」

「いやです」

 柊子は即行で拒否した。

「だってもともと悪いのはそっちだし。それとあんまり傍に来ないでください。お姉さん、微妙に防虫剤臭いです。匂いが移ったらやですから」

「却下だ」

 中士長は目元を険しくした。

「君に選択権はない」

「やだって言ってるだろ!」

 柊子を捉まえようとする中士長の手をかわして逆に足を飛ばした。

「むっ」

 だが中士長は即座に身を引いた。なかなかの反応速度だ。

「……ずいぶん元気のいい子供らしいな」

 そう言って二度三度と手を振る。甲を掠っただけだったが、それなりに痛かったはずだ。

「子供じゃないとは言わないですけど。だからって下に見るのはやめてほしいかな。すごく不愉快です」

「君こそ、子供だからといって何をしても許されるとは思わないことだ。通すべき筋は通してもらうぞ」

 中士長は怖い気配を纏った。

「だから話が逆だよ、先に謝るのはそっちだっ!」

 柊子の左膝が鋭く浮いた。その動きだけで上段蹴りと読んだ中士長は頭を反らせ、だが上昇の途中で柊子の膝から先が急角度で折れ曲がる。いきなり打ち下ろされてきた変則的な中段蹴りを、中士長は右腕で脇腹を守りながら力を受け流すように左に回る。しかしその時にはもう柊子は最初の蹴り足を引いていた。間髪置かずに逆側から右の足刀を叩き込む。

 中士長の面にありありと驚愕の色が浮かんだ。

 ほとんど曲芸じみた連撃なのに、速さといい重さといい水準以上だ。中士長はかろうじて体の角度を変えて急所を避けたが、一瞬完全に動きが止まる。その機を柊子は見逃さない。

 上中下左右直逆前回し後ろ回し、ありとあらゆる種類の蹴りを途切れることなく浴びせ続ける。さすがに一撃必倒というほどの威力はなくとも、どれも相応の痛手を与えるに足る。

「……君は」

 さすがに息が切れた柊子が間を置くと、中士長は思わずというように問い掛けた。

「何者だ?君の使っている武技は、誰にでも手が届くようなものではないはずだ。おそらくは東に伝わる古式{こしき}。どこで習った」

 額にびっしりと汗の玉を浮かせた柊子は、肩を大きく上下させながら中士長のことを見直した。

「……なるほどね。つまり、あんたも、ただの衛士じゃないってこと、か」

 さっきから気になっていた。相手の足の運びが、体の捌きが、奇妙に柊子自身のものと似通っていることが。

「だけど、言っとくけど、わたしはまだ、全部を出したわけじゃない、よ。もし見切ったつもりに、なってるんだったら、おっきな勘違い、だから」

「だとしてももうその辺にしておいたらどうだ。酸欠で倒れるぞ」

「う、うっさい馬鹿!本気はこっからだっ!!」

 柊子は思い切り跳び上がった。そして真正面から両足蹴りを放つ。

 少女の身とはいえ全体重を載せての至近からの一撃だ。その場凌ぎの回避や防御などで到底しのぎ切れるものではない。

 しかして中士長は守らなかった。

「うわあっ!?」

 空中で体勢を崩された柊子は、頭から落ちそうになったのをどうにか途中で体を丸めて受け身を取って、そしてすぐさま立ち上がる、ことはしかしできなかった。

 体を支え切れずに膝を付く。

 左の脛に中士長の拳の直撃を受けていた。折れてこそいないようだが痛みが深い。

 中士長は無慈悲に言った。

「君には官衙{かんが}まで歩いてもらう。自分の足でな」

 たとえ引き摺りながらでもということか。

「……陰険なんですね。見た目通りに」

 痛みをこらえて下段回し蹴りを放つ。

「いっ」

 だがその足をまた殴られた。

 そして鬼をも拉{ひし}ぐような攻めが始まった。

 両腕を掲げ、顎を引いて防御に徹しても隙はいくらでもあった。頬を殴られ逆の頬を殴られ腹を殴られ脇腹を殴られ手が下がったところを鼻っ柱を殴られた。痛みが世界を塗り潰し、堪え切れずに崩れ落ちる。

 さらに気が挫けそうになるのは、これでもまだ手加減されているという事実だ。もし向こうがその気なら、柊子はとっくに倒れている。

「直江中士長、いくらなんでもやり過ぎでしょうっ!」

 一鉄が制止する声さえ心に刺さる。ほんのついさっきまでいい気になって見下していた相手にかばわれるなんて。

 中士長の攻撃が止む。しかし雰囲気は未だ鋭い。

「そう思いますか?」

「いくら強いとはいってもまだ子供ではないですか。勝負はもう付いている。これ以上はただの虐待です。看過できません」

 しかし中士長は首を振った。

「高橋さん、あなたには見所はありますが、見る目はまだまだのようですね」

「は?それはどういう」

 意味か、と一鉄は尋ねようとしたのだろう。

「でも、さ……」

 柊子はよろめきながら立ち上がった。敵の情けを受けるぐらいならいっそ殺された方がましだ、などとはしかし考えていない。

「だって……死んじゃったら終わりだもんね……やり返すことだって、できやしない」

 腫れ上がった目蓋で視界は半分以上塞がっている。全身に受けた打撲傷のせいで息をすることさえ辛い。

 それでも柊子の闘志は失われていなかった。

 いや、きっと本当はそれほど大層なものではない。ただ負けを認めたくないというだけの我儘だ。

「高橋さん」

 中士長は柊子から視線を逸らさないまま、一鉄に告げた。

「官衙にはあなたが連れて行ってくれますか」

「は……」

 一鉄は曖昧に頷いた。指示に不服があったのではないだろう。柊子が大人しく従うとは思えなかったのだ。

 だがそういう意味ではなかった。

 中士長が拳を構える。終わらせるつもりだ。つまり、今のは気絶した柊子を運べということだ。

「……じょ、じょーとーだよ、地味ねーさん……やってやる」

「直江一矢{なおえひとや}だ。君は」

「あすかい、じゃなかった……あさかだ、浅香、柊子」

「――そうか。では浅香、行くぞ。覚悟はいいか」

「来い……いや、やっぱし駄目だ、来るなヒトヤ……わたしから行く」

 先手を取られたら不利、などと小賢しいことを考えたのではなかった。むしろ立っているのがやっとの状態では迎え撃つ方がまだしも易い。

 それでも柊子は前に出ることを選んだ。自暴自棄になったのではなく、本気で倒しにいくつもりでいた。

 対する直江一矢も真っ向から受けて立つ。舐めた様子はどこにもない。

 柊子の体がわずかに沈み。


“Chu Chu あなたのはぁとに”

“Chu Chu まじかるぱわぁで”

“Chu Chu”


 そのままはかなく沈み込んだ。

「は、はい、こちら直江」

 ほとんど腰が抜けた柊子が、茫然と視線を送った先で、満面を朱に染めた直江が携帯端末を耳に当てる。

「はっ、そうです、今ここに……は?しかしこのままでは……え、桧川{ひかわ}さんがですか……了解しました。ではそのように」

 通話を終えた直江は一鉄に向き直った。

「撤収します。ちょうど迎えも来たようですので」

 その言葉通り、左京衛府の公用車が傍らに停まった。降りてきた左士達が、倒れていた二人を担架に載せて車の中に運び入れる。直江と短く会話を交わし、またすぐに出発していった。

 それを見送って直江も歩き出す。

 路上に座り込んだ柊子のすぐ脇を通り過ぎるが、両者とも手は(柊子はむしろ足を)出さない。

 一鉄が慌しく追いすがった。

「中士長、待って下さい、今の着信音は一体……いえ何でもありません、自分は何も耳にしておりません、そうではなく、つまり、この子をこのまま置いていくつもりですか?」

 柊子は見るからに満身創痍だ。一分一秒を争うというほどではなくても、放っておいていいような状態では絶対にない。

 しかし直江は一鉄の懸念を打ち払った。

「問題ありません。向こうも迎えが来るそうですから」

「はっ、そういうことであれば」

 一鉄は引き下がった。

「……勝ち逃げなんてずるい」

 地面にへたり込んだ柊子がぽつりとこぼす。直江は振り向かなかった。

「分ってる……今のわたしじゃ、ヒトヤには敵わない。でもいつか絶対……」

 勝ってやる。

 それは一矢に対する挑戦ではなく。

 自身へ向けの宣誓だった。

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