迷路
深い森の迷路にはまってしまった
あてもなく、歩きまわってみるけれど、出口はまったく見つからない。
ふと、ポケットに携帯があることに気がついて、君に電話をかけてみた。
コール音が数回響いて、聞きなれた声が聞こえた。
「・・・もしもし?」
「もしもし?俺、 だよ!今、なんだか大変なんだ。」
「 ?どうしたんだ?」
「今、迷路にはまったみたいで、 に行こうとしていたはずなんだけど・・・」
「いきなり?迷路にはまったのか?」
「・・・・分からない。でも、出口が見つからないんだ、入口も・・・」
「おかしいな、それは・・・」
君の声が陰るのが、電話越しでも分かった。
明るく頭上で光を出している、太陽が、何故か異様で気持ち悪い。
「とりあえず、壁に片手をついて、ずっと歩いてみろよ。出口が見つかるはずだから。」
けれど、その声は、絶望したような声音だった。
「ありがとう。やってみるよ。」
「それと、、、」
そこで、ノイズが入って、通じなくなってしまった。
俺は、一人歩き続けた。
いつも、孤独であったから、一人には慣れていた。
でも、出口の見えない場所でたった一人と言うのは、底知れない不安があった。
太陽が傾きだし、空がオレンジに染まっていく。
未だ、出口は見つからない。
俺は、焦り、同時に恐怖を持った。
心の底から、怖かった。
携帯を震える右手で持つと、君にまた電話した。
今度は、すぐにでた。
「もしもし? だ、まだ、出口が見つからないんだ。」
「。。。」
君は、何も言わない。
「おい。聞こえているか?」
「今から、迎えに行くから。」
そこで、電話は切られた。
俺は、君の名前を呼び掛けて、止めた。
そして、気付いた。
俺は、自分の名も君の名も何も覚えていないのだと。
力が抜けた。
もう、どうでもいいと思った。
しゃがみ込んで、空に浮かんだ満月を見ていた。
けれど、その満月がふたつある。
しかも、やけに小さい。
少しずつ、大きくなっていくような感じだった。
意識が遠のくのが分かった。
逃げなくてはいけないと、脳では思っているのに、体が動かない。
その時、君の声が聞こえた。
同時に、いきなり上から掴まれて、ひきづりあげられた。
さっきまでの、静かさと打って変わった喧騒に、俺は気付いた。
目の前を、大きな満月二つがキーーーーーーーーーーーという音を出して、通り過ぎていった。
俺が居たのは、家の近くの駅のホームだった。
君が、横で笑っているのを見たら、今度こそ、本当に気が緩んでしまった。
視界が真っ暗になった。
ホームに戻ってから、自分の名も君の名も思いだした。
でも、どうして俺は迷路に迷い込んだのだろう。
俺は、直前に何をしていたのだろう。
それだけが、思いだせない。
ただ、分かったのは、最後に見た二つの満月は、正面から近づいてくる電車のライトだった。
君は、どうして分かったのだろうか。
俺が帰ってこれたのは、君のおかげだと思う。
でも、君は何も話さない。
だから、俺も聞かないことにした。
ただ、これからも生きていこうと思う。