8話 3ヶ月の地獄です。
お時間頂いた分少し長めです。
相変わらず、設定に四苦八苦してます。
適正検査の翌日から3ヶ月、バルスの特訓は地獄の日々だった。
初日にいきなり、
「とりあえず、走れ!」
との一言で町の外周をひたすら走らされ。
2日目は、
「剣は素振りが基本だ。とりあえず振れ!」
と、ひたすら素振りをさせられ。
3日目は、
「お前は変則二刀だからナイフも振っとけ!」
と、ナイフをひたすら素振りさせられ。
4日目は、
「じゃあ、今日は剣とナイフ両方振っとけ!」
と、ひたすら両方を振らされ。
5日目は、
「今日は体術やるから、これ殴って蹴っとけ!」
と、サンドバックをひたすら殴る蹴るをやらされ。
6日目は、
「今日はギルドの魔法講座を受けとけ!」
と、唯一の肉体を使わない、安らげる日を過ごし。
7日目は、
「何?金が無くなるだと。なら実戦がてらギルドの依頼で、魔物を狩れ!」
と、村近くに出る魔物をひたすら狩らされ。
この1週間を1セットとし、4セット、2日の休暇をあわせ1ヶ月。
倒れそうになれば、強制的に回復させられ、サボろうものなら鉄拳制裁。
まさに、血反吐を吐くような(実際吐いても強制回復)な毎日だった。
たまの休みに、ヨーコとデート的な事をするも、疲れすぎて、ドキドキイベントを発生させられないほどに、カイルは疲れきっていた。
2ヶ月目は、基礎トレと体術1日、剣術訓練3日、魔法講座2日、ギルドの依頼1日が1セットになった。
この頃には、体が出来てきたのか少し余裕がでてきた。
魔法講座が増えたのは、
「まだ魔法が使えないだと?とっとと覚えろ!」
と、増やされたのだ。
そのかいあってか、なんとか、原理を覚え、魔力を感知できるようになった。
3ヶ月目は、
「お前、対人戦闘無いだろう。とりあえず、ヨーコと俺と模擬戦やるぞ!」
と、模擬戦4日、魔法講座2日、依頼1日の1ヶ月に変更された。
模擬戦は、まさにイジメ!
ヨーコにぶっ飛ばされ、バルスにボコボコにされ、強制的に復活させられ、これが繰り返される。
地獄のしごきのループである。
そんな日々を過ごしたカイルは確実に強くなっていった。
最後の方では、ヨーコにもぶっ飛ばされないようになり、バルスにもボコボコにはされないようになっていた。それに魔法も使えるようになっていた。
この世界の魔法は、イメージが大切であり、大気中の魔力を体内に取り込み、形や現象をイメージし、放出する。
そのイメージを補助するのが呪文である。呪文はあくまで補助であり、唱えれば誰でも使える訳ではない。
イメージ力が強く訓練すれば、魔法名だけで魔法が使えるようだ。魔法を極めれば、まったくの無詠唱でも魔法を使えるようだが、そんなのは、スタークラス並の化け物だけだ。
大気中の魔力は、膨大な量があり、大量に取り込んでも無くなるものではなく、取り込める量は才能によって変わる。
それがマジックである。マジックは取り込める量であり、魔法の強さでもある。
だが、マジックが高くても、イメージ力が無ければ、高度な魔法は使えないようだ。
それに、なぜだか分からないが、この世界には、属性がある。もちろん、属性以外の魔法も使えるが、習得するのが難しい。簡単で小規模なものなら、多少の訓練をすれば使えるようになるが、大きな魔法になればなるほど、訓練する時間も増えるようだ。
カイルが魔法を覚えるのに時間が掛かったのは、地球には無い魔力を感知、認識するのに時間が掛かったためだ。
その分、イメージするのは簡単だった。地球で生きていた時に、どういった原理でその現象が起こるかを知識として取得しているし、漫画やアニメ、映画などにより、イメージするための要素は豊富にあったからである。
魔力を感知できるようになってから、1ヶ月で魔法を使えるようになったのはそのためだ。
カイルが習得している魔法は、ヨーコと同じ指ライター、風系魔法、オリジナル魔法である。しかも、イメージが安々とできるため、呪文なしに魔法名だけで(しかも適当)魔法を発動できる。
詠唱カットならセカンド並、魔法名だけならファースト並の魔法使いが出来るくらいなので、魔法を覚えて1ヶ月でとは、チートも良いところである。
そして、さらに驚くべきは、オリジナル魔法である。
普通の魔法は誰かが昔に開発したオリジナル魔法であるのだが、時間をかけて何年、何十年と言う思考錯誤の後にできるものである。
だが、地球での知識があるカイルは、原理さえ解れば簡単に現象を再現できるし、今ある魔法を応用して使う事もできるので、数日でオリジナル魔法を創ってしまったのである。
3ヶ月の地獄の日々を生き抜いき、成長したカイルにバルスは
「これまでの訓練の成果を見るために試験をする。」
と言い出した。
「試験には俺とヨーコも同行し、試験内容は到着してから発表する。」
バルスにそう言われ、カイルは荷物を手渡された。
中には2日分の食料と水、毛布、回復薬類、魔物避けの薬が入っていた。
3人は村を出発し、森沿いに1日歩いた所で野宿をし、翌日に森に入った。
森の中をしばらく進むと
「ここで、試験の内容を説明する。試験は単純だ、最近この辺りを縄張りにしている盗賊団の壊滅だ。」
「盗賊団?そんなんがいるんか?」
「ああ、最近この辺で被害が増えている。まあ、規模は小さく、5人ぐらいの団らしいが。」
「壊滅って事は殺すんやな…。」
(俺が人を殺す…。俺にできるんか…。)
人を殺すと言う事が、カイルにプレッシャーとしてのしかかり、押し黙ってしまう。
(やはり、そうだったか。)
バルスはカイルが人を殺したことが無い事を予測していた。
一般的に、能力があるのに人を殺したことの無いとメンタルだけが低い事が多かった。
戦闘歴を聞いた時に、魔物だけだった事も大きいが、カイルはそれが顕著に出ていた。
この世界では、日本のように平和では無い。
平然と人の命を奪う奴等も多いし、それが日常的に起こっているのだ。
そんな世界で生きるには、自分の命を奪おうとする人に躊躇しては生きては行けない。
バルスは、カイルがこれから生きて行くために、今回の盗賊団壊滅の依頼を試験にしたのだ。
ヨーコを同行させたのは、もしカイルが動けなくなったりした時にカイルを守る為である。盗賊5人程度にバルスは負ける事は無いが、左腕の古傷がある状態ではカイルを守りきれるか分からないからだ。
「今からは会話は無しだ。慎重に進むぞ。」
バルスは剣を抜く、それに続きヨーコとカイルも剣を抜き進む。
そのまま慎重に進み、しばらくすると開けた所にボロ小屋が見えた。
バルスとヨーコが木の陰から様子を伺う。
それに習い、カイルも様子を伺う。
小屋の前には5人の男が火を囲い、酒を飲んでいた。
そして、少し離れた所には、まだ少女とも呼べるくらいの全裸の女が横たわっていた。
それを目撃したカイルは思わず飛び出した。
「あの馬鹿が!ヨーコは女を、俺はカイルのフォローに回る!」
「あいよ!」
飛び出したカイルに続き、バルスとヨーコも飛び出す。
カイルは一気に駆け寄り、瞬く間に1人を背中から斬り、もう1の首を斬り裂いて、女と盗賊の間に立って構える。
「女はどうだ!」
カイルのフォローのためにやや後ろのに立つバルスがヨーコに叫ぶ。
「駄目だね。すでに死んで何時間も経ってる。それに…」
女には暴行を受けた後があり、体中にアザと男たちの体液だらけにされていた。
盗賊達が剣や斧を構え、何か言っているがカイルにはまったく届いていない。
カイルは一瞬だけ女の方を確認し、残りの盗賊達を睨む。
「バルスさん、こいつ等は俺に殺らしてくれ。」
「…わかった。」
バルスは剣を鞘に戻し、後ろに下がる。
「クソッ!お前らやっちまえ!!!」
真ん中にいたリーダー格の男が他の2人に叫ぶ。
斧を持った男が先に動く。
斧を振り上げて突っ込んでくる。
それに少し遅れるように、もう一人の男が剣を持って突っ込んでくる。
「遅い、遅すぎや!」
シュバッ!
斧の男に一瞬で詰め寄り、すれ違い様に首をはねる。
そのまま剣の男に向かい手首を斬り落とす。
カラン…
ブシャーァァァァ…
男の手が剣を握ったまま落ち、手首から鮮血が吹き出る。
「ぎゃぁぁぁぁ!!!」
男が痛みに悲鳴をあげる。
「五月蝿いわボケが!」
カイルは悲鳴を上げる男を蹴り倒し、
「ちょっと黙ってろや。」
まだ叫び声を上げる男の喉に剣を落とした。
「クソッ、こんな奴ら相手にしてられるか!」
リーダー格の男が、背中を向け走り出す。
「俺が、てめえみたいな奴を逃がすか!」
カイルは男に向け、手を伸ばし構える。
「奴の手足を切り刻め!旋風刃撃!」
カイルが魔法を放つと3つの風の刃が男に向かう。
風の刃は男の手足を斬り落とし、男が地面に転がる。
カイルは転がった男に近寄る。
男はまだ生きているようで叫び声を上げている。
「てめえも五月蝿えよ!」
カイルは男の腹を蹴り上げ、うつ伏せに倒れていた男を逆に向ける。
「た、助けてくれ!お願いだ!」
男はカイルに涙を流して訴える。だが、
「何人の人がお前にそう言ったんや?あそこの女もそう言ったやろうが!」
カイルは男の腹を切り裂く。
内臓が飛び出し、鮮血が飛び散る。
「残りの数十秒間、今まで犯した罪を悔いるんやな。」
カイルは叫ぶ男に背をむけ、仲間の方に歩き出す。
男の叫び声は、10秒も掛からずに聞こえなくなった。
戦いが終わり、バルスとヨーコの元に戻るカイルだが途中で座り込みそして…
ヴェェェ…
怒りでブッ飛んでいた理性が急速に復活し、散らばる死体を目の当たりにし、人を殺してしまった事に耐え切れず、吐いてしまったのだ。
ヨーコとバルスがカイルに駆け寄る。
「人を殺すのを聞いて青ざめてた奴が、あそこまで冷徹になれていたので感心していたが、やっぱり耐え切れなかったみたいだな。」
「あたいも驚いたよ。でもなぜ、あんな残酷な殺し方をしたんだい?」
「俺も驚いてるわ…、あの子の姿を見た時に、昔の事を思い出してな、怒りで頭がぶっ飛んだんや。」
「昔のことってなんだい?言いずらければいいけどよ…。」
「いや、聞いてくれ。かなり昔、俺がまだ幼い頃の話やねんけどな…。」
カイルには、幼い頃からの親友がいた、その親友には姉がおり、いつも面倒を見てくれていた。
まだ幼いながらも、親友の姉の事が大好きであったし、初恋だった。
そんな親友の姉がある時死んだ。
カイルはまだ幼かったので何で死んだかも分からなかった。
しかし、もう会えないことが、とても悲しく、いつまでも泣いていた。
カイルが大きくなるにつれ、親友の姉の死が理解できるようになった。
親友の姉の死は自殺だった。
知らない男に襲われ、犯され、その後に高層ビルから飛び降りたそうだ。
その事実を知ってから、カイルは無理やり人を犯す奴等を心底憎むようになっていた。
カイルは、話を山奥の設定に合わせ、少し変えながら話す。
「そんな事があったのかい、でも、こんな奴等を殺して悔いる事は無いよ。あんたが殺らなければ、あたいが殺ってたよ。」
「そうだな、それに、お前が殺さなければ、もっと多くの人が被害にあっていたんだ。」
「それは分かっているんやけどな…、あかんな、こっちに来た時に覚悟は決めたはずやってんけどな…。」
「とにかくだ、まずは彼女だな。」
「そうだね、いつまでもあのままじゃあね…。」
「彼女を埋葬して、村へ戻るぞ。カイルはキツいなら、休んでろ。」
「いや、俺は大丈夫や、俺も手伝う。」
カイルは話して少し楽になったのか、顔色はマシになっていた。
カイル達は女の体を綺麗にし、毛布で包んだ後に埋葬し、カイルは彼女の墓に手を合わせた。
周辺を捜索したが、彼女の身分が分かるものは無く、他には何も無かったので、カイル達は村に戻っていった。
今回もかなり賛否両論だと思います。
作者もかなり考えて書いたつもりですが、変な所は突っ込みお願いします。
魔法名が漢字なのは、某漫画の影響で完全に趣味です。
誤字、脱字、ご意見、ご感想、お待ちしています。