7話 適正検査のようだ
戦闘シーン、久しぶりに登場です。
昼飯も食べ終わり、ヨーコの指から火を出す(カイルは指ライターと命名)を披露してもらったあと、ギルドに戻った。
受付に行くと白虎族と思われる男が立っていた。
男はヨーコとは違い、かなり獣よりの顔をしている。
「お前がカイルか?」
「そうやけど、おっさん誰や?」
高圧的なので、カチンときて、ついつい地で答えてしまう。
「カイル、この人は…」
「俺は、お前の適正検査の担当になったバルスだ。」
ヨーコの言葉を遮るようにバルスが答える。
「で、適正検査ってなにするんや?」
「それは移動してから伝えるから着いて来い!」
そう言って、男は階段の下にある扉から出て行った。
「じゃあ、ちょっと行ってくるわ。」
「あたいも行くよ、あんたがどんな事するか気になるしね。」
そして、2人はバルスの後を追った。
着いた所はギルドの後ろにあるコロシアムだった。
コロシアムはサッカーグラウンドほどの広さがあり、壁にはかなりの傷がある。
「あたいはここで見てるからさ。」
ヨーコは入り口付近の壁にもたれ掛かるっている。
バルスは手に木刀を持ち、木製の武器が置かれた棚の前に立っていた。
「この中から得物を選べ。」
カイルは、ショートソード型の物を手に持ち、ナイフ型の物を腰に挿した。
「選んだで。」
「では、質問に答えろ。今までの戦闘歴は?」
「角が生えた兎、ビッグラット、キラービーだけや。」
「ほぅ、アタックラビットを倒したのか。剣を握ってどのくらいだ?」
「約1週間」
「つまり、ド素人でアタックラビットを倒した訳か。なかなか面白いやつだな。」
うさぎ?はアタックラビットと言うらしく、それなりに強い魔物だったようだ。
「では、中央へ移動するぞ。」
2人は中央で向き合う形で立つ。
「適正検査は簡単だ。俺に一撃でも入れれば合格だ。」
「一撃と言わず、フルボッコにしたるわ!」
上から口調にイライラしていたカイルは一気に加速し、一撃で決めるつもりで正面から斬りかかる。
しかし、簡単に防がれてしまう。
「おいおい、その程度か?」
「クソッ!」
カイルは飛び下がり、間合いを空ける。
(俺の力じゃ、力負けして簡単に防がれる。手数で勝負や。)
カイルは、ナイフを左手に逆手で構える。
先ほどと同じように、正面から突っ込み斬りかかる。
これも防がれてしまうが、先ほどと違い軽い攻撃である。
体を回転させ、下からナイフを突き上げる。
しかし、これも避けられる。
(まだや!)
さらに、ナイフに遅れるように、違う軌道で剣を振り上げる。
(獲った!)
がら空きの胴に向かい剣が振り抜かれる。
「甘い!」
ガツッ!
入ったと思われた一撃は防がれ、バルスの蹴りが飛んでくる。
(ヤバイ!)
咄嗟にガードするも、ガードごと5メートル程、吹っ飛ばされる。
(なんて力や、これはヨーコ以上やぞ。とにかく、手数で押しきる!)
カイルは防がれるのを覚悟で攻撃し続ける。
しかし、やはり防がれ、何度も吹っ飛ばされる。
はぁ、はぁ…
「ずいぶん息が上がってるじゃねいか。もう終わりか?」
(あかん、このままやったら…。相手に攻撃させてカウンターを狙う!)
カイルは無防備に突っ込み、相手の攻撃を誘う。
だが、バルスには、読まれているようで攻撃がこない。
(クソッ!それなら!)
カイルは、後ろに周りこみ、背後から剣を振り落とす。
しかし、バルスはカイルを見ずに攻撃防ぐ。
そして、防ぐと同時に後ろ回し蹴りをカイルの腹に叩き込む。
ものすごい衝撃が、カイルの腹に走り、10メートルほど吹っ飛ばされ、地面を転がるようにしてカイルの体が止まる。
そして…
オエェェェ…
カイルは、昼間に食べた物をすべてリバースしてしまった。
嘔吐物の中には、血が滲んでいる。
「これで終わりだな。」
バルスが出口に向けて歩き出す。
「はぁ、はぁ…おい、待てや…まだ、終わってないぞ。」
フラフラになりながらも、カイルは立ち上がる。
「ほぉ、メンタルHの癖に、なかなか根性あるじゃないか。」
「ま、まだ、一撃も入れてないからな。」
「いいだろう、来い!」
バルスが改めて構える。
(体力も限界や…、一撃、次の一撃に賭ける!)
カイルは残りの力を振り絞り、バルスに向かい走り出す。
バルスとの間合いが詰まってきたところで、左手のナイフを投げる。そして自身は上体を低くし、一気に間合いを詰める。
ナイフを防ぐのに気を取られたバルスに、一瞬だけ隙ができる。
その隙に右に少し軌道を変え、上体を起こすと同時に、渾身の突きを放つ。
(貰った!)
渾身の一撃が、バルスの顔に向かう。
しかし!
「チッ!」
バルスは今までとは比べ物にならない速さで避ける。
そして、カイルの背中に強烈な一撃を叩き込む。
ドゴォッ!
鈍い音が響き、カイルの体が地面に叩き突けられ、ワンバウンドする。
鈍い音は、どうやらカイルの肩甲骨が折れた音のようだ。
カイルはそのまま意識を失った。
気絶したカイルを残し、バルスが出口に向かう。
「いくらなんでも、やり過ぎだよ。ギルド長。」
今まで見ていたヨーコがバルスに話かける。
「最後の攻撃が鋭かったんでついな。それに、2人の時は、師匠、もしくは、お父さんと呼べ!」
「はいはい、育てのお父さん。」
「ったく、誰に似たんだか、いい性格してるな。」
「で、どうなんだい?」
「合格だよ。あいつには明日、改めて来るように言え。」
見るとバルスの頬が薄っすら切れていた。
「大型ルーキーだ、俺が直々に育ててやる。」
そう言って笑いながら、バルスは戻っていった。
「何が合格だよ。適正検査に元々合格も不合格もないだろうに。とにかく、カイルを医務室に運ばないとね。」
そうしてヨーコはカイルを医務室まで運んで行った。
「どこやここ…。」
カイルが目覚めたのは、あれから5時間ほど経ってからだった。
「やっと気がついたかい。」
「ああ、どうやら負けたようやな…。」
「まあ、しょうがないさ、相手が悪すぎたよ。」
「あいつは何者なんや?」
「バルスは、このギルドの長で、あたいの育ての親でもあるし、師匠でもある人だよ。現役を退いているけど、元スタークラスだしね。」
「ヨーコの師匠で、元スタークラスか…、そら化物なはずやな…。」
「あんた、あたいも化物だと言いたいのかい?」
「決してそんな事は無いです。はい。」
「まあ、いいよ。それより体は大丈夫かい?回復魔法はかけてもらってるけど。」
「痛みはないよ。大丈夫や。」
「じゃあ帰るよ、明日もギルドに来ないといけないしね。」
「ん?俺、結局、一撃も入れられなかったんじゃ。」
「最後のが、掠っていたんだよ。それに、元々適正検査に合否は無いよ。現状の実力と適正を見るだけだからね。」
「じゃあ、何で俺はこんな事になったんや?」
「バルスの趣味だよ。あの人は期待の新人が入ると、自分で実力を見ないと気が済まないんだよ。」
「そんな理由かよ…。まあ、これでギルドに入れるし、もうこんな事は無いやろう。」
「…それなんだけど、あの人、あんたを気にいったみたいで、直々に鍛えるって…。」
「まじでか…。拒否権は…無いんやろうな。」
「無いだろうね。まあ、あたいの弟弟子になるんだから、しっかり頑張りな。」
「頑張るしかないか…。まあ、強くなれるしいっかな。」
「やっぱり、あんたは適当だねぇ。まあ、それがあんたのいい所でもあるか。」
「そうそう、考えてもしょうがないからな。」
「ったく、じゃ帰るよ。」
「はいよー。腹も減ったしな。」
リバースして、吐血までしたのに食欲があるカイルは、どんな胃袋してるのか不思議だが、明日から始まる地獄の特訓など知らないカイルは、るんるんでヨーコと2人で、マリアさんと旦那さんとおいしい料理の待つ宿に帰っていくのだった。
もちろん、起き上がる時によろける振りをして、ヨーコの胸の谷間にフェイスを『イン、ザ、ボイン』して、ヨーコのビンタを食らう、ドキドキイベントはキッチリ、カッチリ、当たり前のように消化してからであるが。
次話から特訓に入ります。
ちょっとペースアップしないと全然ハーレムにならないですよね…。
設定段階では、後3人ほどヒロインがいるのですが…。
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