1-6 縮まる距離
ついに引き返せないところまで……
学園の中にある寮のとある一室、そこに一人の少女がいた。腰まである銀色の髪をなびかせ蒼い瞳を細めて窓から外を眺めている。
コンコン
するとドアがノックされる。
「エルダ?リリィよ」
少女…エルダは扉へと視線を移した
「どうぞ」
扉を開けてセミロングの黒髪を揺らしながら緑色の瞳の少女…リリィが入ってきた。
「わざわざごめんなさいね」
エルダは少し申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。
「いいのよ、私がお願いしたんだから」
リリィは微笑んだ。瞳を細めてエルダを見る。
「…それで?どうだったの?」
リリィの言葉にエルダは少し頬を赤く染める。
「…ちゃんとできたわよ」
エルダの言葉にリリィはにっこり微笑む。
「じゃあ、見せて?」
エルダはゆっくり立ち上がるとリリィを上目遣いで見上げる
「…目を閉じてて」
「…うん」
リリィはゆっくり目を閉じた。エルダはそれを確認して一度深呼吸すると呟くように言葉を発する
「…チェンジ」
部屋が一瞬光に包まれた。
「もう、いいわよ」
リリィがゆっくりと目を開ける。そしてエルダを見て。驚いた顔をする。
「……どう?」
心配そうに聞くエルダをリリィは頬を赤くしながら見つめる。
「………か」
「………か?」
エルダは首を傾げる。しかし、次の瞬間
「可愛い~~!!」
「ふにゃ~~!!」
二つの叫びが寮に響いた。
私は現在リリィに抱きしめられている。何故か?それは………
「エルダ!あなた凄いわね!本当に猫になるなんて!」
リリィが私の頭に顎をのせてはしゃいでいる。
そう、現在私は獸人族の力を使い猫に変身しているのだ。毛の色は髪と同じ銀色で瞳も蒼だ。
一週間前、つまりリリィに噛み付いた日に私は彼女に自分の力について話していた。すると彼女はぜひ猫に変身してみせてほしいと言ってきたのだ。
どうしようか悩んだが私としても自分の力をきちんと使いこなしたいので練習ついでに承諾したのだ。
「もう完璧な猫じゃないの~~!!」
「リリィ、そろそろ降ろしてくれない?戻りたいわ」
リリィは渋々私を床に降ろした
「リバース」
私がそう唱えると体が一瞬輝きもとに戻っていた。
「他の動物にもなれるの?」
リリィが興味津々な顔で聞いてくる
「そうね、結構なれるわよ」
「いいなぁ~」
リリィが私に羨ましいという視線をむけてくる
私は最近リリィの笑顔が直視できなくなってきた。何だか胸の奥がドキドキするのだ。前世が男だったからだろうか………
「ねぇ、エルダ?聞いてる?」
リリィの言葉にハッとして私はリリィに向き直った。
「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事してたわ」
「もう、仕方ないなぁ。もう一回言うよ?今から湖に行かない?」
「湖って、私達が出会ったあの湖?」
「そう、大事な話があるの」
リリィはそう言うと少し頬を赤くした。私はいつもと様子が違うリリィに首を傾げつつも承諾した。
その頃、とある廃墟が並ぶ森のなかに大勢の人間が集まっていた。皆真っ白なローブやマントを着ている。
「隊長、準備が整いました」
鎧をきた男が隊長である男に声をかける。
「…そうか」
隊長と呼ばれた男はゆっくりと目を開けた。黒い瞳が鋭く光る。
隊長と呼ばれた男は立ち上がる。身長は190cmはあるだろう。青い髪は肩にかかるほどの長さだ。その身体は鍛え上げられた筋肉によって一回り大きく見える。
「全軍に伝えろ。これより新たな拠点を確保し、そこから首都に向かう」
「了解!」
兵士はそう言って部屋から出て行った。
「…さあ、開戦だ」
隊長が見下ろした机には地図があり新しい拠点とする街の名前に印しがついていた。
その街の名前は----“アスタル”
私は寮の入口でリリィを待っていた。私の服装は白いワンピース。私が最初に着ていた服だ。
「お待たせ~!」
寮からリリィが出てきた。ピンクのシャツの上に水色の薄いジャケットを羽織って黒のスカート姿だ。足は動きやすいようにサンダルである。手には花柄のランチボックスを持っている。
「今日は空を飛んでいくの?」
リリィが私に聞いてきた。私としても空を飛ぶのがいいが今は昼間である。人に見られる可能性があるので空は無理だ。
「リリィ、悪いけど空は駄目よ」
「ええ~、私空を飛ぶの好きなんだけどなぁ…」
リリィは私が初めてリリィに会った日に空を飛んで寮まで送った事で空を飛ぶのが好きになっていた。最近は夜中にリリィの手を引きながら一緒に夜の空中散歩を楽しむほどだ。
「大丈夫よ、考えがあるから」
私はリリィに微笑んでみせると目を閉じる。
「チェンジ」
私が呟くと同時に私の身体が光に包まれ、そして光が消えるとそこには銀色の毛をした狐の姿をした私がいた。尻尾は9本、九狐である。大きさはジブリのもの〇け姫に出てきた二匹の山犬くらいだ。
「うわぁ~綺麗…」
リリィがうっとりと私を見ていた。何だか恥ずかしい。
「さあ、乗って」
するとリリィが驚いた表情になる。
「ええ!?まさかエルダに乗って行くの?」
「そうよ」
リリィは恐る恐る私に触れる。リリィの手の平にそって私の銀色の毛が流れる。
「凄い…感触はさらさらなのに意外とふわふわしてる」
私が身を屈めるとリリィがゆっくりと私にまたがる。しっかり座ったことを確認して私は立ち上がる。
「しっかり掴まっててね」
「う、うん」
リリィは少し緊張しているようだ。私は微笑むと湖に向かって走り出した。
-リリィSide-
ああ、私は今なんて貴重な経験をしているんだろう……
狐の姿になったエルダにまたがって森の中を疾走するだけならまだ我慢もできたのに……ああ、この毛並みの良さ!
私の頭の中では今まさに半獸化した狐耳と尻尾のついたエルダと『ピ~~~』している光景が…
「うふ…うふふふふふ……だめよ…エルダ…そんなところ……」
-エルダSide-
ゾクリッ
「………ひっ!」
私は突然背中に寒気を感じ変な声を出してしまった。
「うふ…うふふふふふ……だめよ…エルダ…そんなところ……」
背中でリリィが何か呟いていたけど気にしないことにした。
-SideOut-
湖についた二人は湖のふちで休憩していた。
到着した時にリリィが鼻から赤い液体を出していたがエルダはあえてその事に触れなかった。
「リリィ…落ち着いた?」
エルダが引きつった笑顔を向ける先でリリィはまだ鼻息が荒かった。
「ハァ……ハァ……だ、大丈夫よエルダ…うふふふふふ」
エルダはまたゾクリと背中に寒気を感じた。
『マスター……頑張ってください』
シャルが励ましの言葉を送ってくれたが全然嬉しくなさそうなエルダは今にも逃げ出しそうだ。
-リリィSide-
今日こそ私は自分の気持ちを目の前にいる愛しい人に打ち明けたい!
思えば初めてこの湖で出会ったあの日から私は彼女をずっと見ていた。
それから毎日学校で過ごすうちに更に惹かれていった。彼女のあの美しい容姿だけではない。仲間を思う優しさ。
そして…
一週間前のあの出来事。彼女の部屋に入った途端に抱きしめられて噛み付かれた。
不思議と恐怖や驚きは無く、ただ嬉しかった。形はどうあれ私はあの時この人には全てを捧げていいと思った。
そう、私はエルダを……愛してしまったのだから……
-エルダSide-
先程と違ってリリィは頬をうっすら染めながら何かを考えていた。
何故か私はその顔を見た途端に彼女を守ってあげたいと強く感じた。
--いつまでも一緒にいたい--
私にとってリリィはこの世界にきてから最初の友達だ。
いや、親友か?…それも違う……私が怪我をした時は私を一番に心配してくれた。
一週間前には「私の血なら吸ってもいい」とまで言ってくれた。
胸が暖かくなる感覚…鼓動が早くなり体が熱くなる。
この感覚は一体何だろう?
リリィは私にとって何だ?
私はリリィをどう思っている?
離れたくない…そう…一緒にいたい……そうか……私はリリィが……
……好きなんだ
次回はついに……