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天使として…  作者: 白夜
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4-1 猫として!?

 猫って可愛いですよね!


 ある晴れた日のこと。エルダは自分の家の窓から空を眺めていた。


「……暇だわ」


 そう、彼女は現在進行形で暇なのである。今日は休日、リリィと朔夜は買い物に出かけ、シオリとイリナも自分達の家を建てる為の土地を探しに出かけた。


 つまり、現在彼女は一人ぼっちの状態であり、やることもないのでこうして窓から空を眺めているのである。


「(はぁ…なんか面白いことないかしら)」

『退屈は魔女をも殺す…と、誰かが言うておったな』


 エルダがため息をつくのと同時にエルフィナが語りかけてきた。


『そんなに暇ならば鍛練でもしたらどうだ?戦いはいつ起こるかわからぬのだぞ』


「う~ん…それはわかるんだけど…何だか今日はそんな気分じゃないのよねぇ」


 エルダは再びため息をつくと椅子に座り、机の上に上半身だけ倒れ込む。机は日の光を浴びていて温かかった。


『そうか、では妾は少し眠る故…後でまた話そう…』


 エルフィナの気配が遠退くのを感じながらエルダは再び窓から外を見つめる。


「依頼でもこないかなぁ…」


 エルダはそう呟くと暖かい日の光を浴びながらそのまま瞳を閉じた。








―???Side―


 もうすぐで着くはずだ。いつも遊ぶ仲間達から教えてもらった“依頼達成率100%”の人物が住むという家がある湖まで僕は歩いてきた。


 早く何とかしないと僕のご主人様が危ない…!


 僕なんかの依頼を受けてくれるかわからないけど…やるしかない!


「ここか…」


 僕は湖のほとりに建つ一軒の家の前にいた。


「(見た感じは普通の家だ…)」


 僕は家の周りを少し回ると窓から中を覗いてみた。そこには…


「…すぅ…すぅ」


 可愛らしい少女が机に突っ伏した状態で寝ていた。顔はこちらを向いている。


「おお…」


 僕は思わず声を出していた。それほどまでに少女は可愛かった。ご主人様も可愛らしい顔をしているが、この少女も負けてはいない。ご主人様より少し年上くらいだろうか。


 少女の他に家の中は誰もいないようだ。この少女は僕の探している人の娘さんだろうか?


 僕はそのまま窓から中に入ると机の上に上り、少女の頬を軽く叩いた。


「お~い、起きてよ~!」


 僕が何度か叩いても少女はなかなか起きない。困った…どうすればいいのか…。


 他にやることもなかった僕は仕方がないので少女が起きるまでその場で待つことにした。











―エルダSide―


 ふと、目が覚めた。私はどれくらい寝ていたのだろうか…


 時計を見るがまだ1時間も経っていない。午前10時くらいだ。


 暖かくて気持ちいいのでまた寝ようかと再び寝る態勢に入った時、寝る前とは違う光景があることに気がついた。


 机の上に一匹の黒猫が座っていたのだ。金色の瞳で私をじっと見ている。


 ただの猫ならば外に出すなり愛でるなりするがこの猫、なんと魔力を感じるではないか。誰かの使い魔だろうか?


「私に何か用かしら?」


 私が体を起こしながら尋ねると黒猫は「ニャー、ニャー」と鳴き声を上げる。というかそのままじゃ何と言っているかわからない。


「チェンジ、モデル猫…」


 私は獣人族の力を発動させると、以前リリィに頼まれて猫になった時のことを思い出して猫に変身した。


 黒猫は驚いたようで目をパチパチとさせている。


「さて、これで大丈夫。改めて、私にご用かしら?」


 黒猫はハッと我に返るとペこりと頭を下げる。


「すみません、ちょっと驚いてしまって…」


「まぁ、目の前で人間の姿から猫になれば誰でも驚くよね…」


 私が苦笑いをすると黒猫は頭を上げて金色の目を私に向ける。


「僕は“ゼロ”といいます。お気づきかとは思いますが、使い魔です。本日は依頼をしにきました」


 私をまっすぐに見つめて真剣に話すゼロ。どうやらそれなりにしっかりしているようだ。


「依頼の話を聞くのはいいのだけれど…普通はギルドに出すのが一般的じゃないかしら?」


「はい、わかってはいるのですが…僕は人の姿にはなれませんので、依頼を出そうにも出せないんです…」


 使い魔で人の姿になれないことは珍しい事ではない。遠くの相手への連絡や、魔法の発動の為に呼び出す使い魔は大抵獣の姿のままであったり、人間以外の姿であることが多いからだ。


「僕はこの町をまとめるストレイラル家の一人娘のアミィ様の遊び相手として奥様が呼び出した使い魔です。ですから人間の姿にはなれませんし、人間の言葉も喋れません。精々普通の猫より頭が良く、頑丈で、長生きで、怪我の治りが早いくらいです」


 ストレイラル家は王家から直々にこの町の統治を任されている貴族である。何でも、現在の頭首であるアルス・ストレイラルは若かりし頃、先代の王の命を助けた事があるらしい。その功績が認められてこの町の統治を任されたんだとか…


 以前フィアナから聞いた話はそんな感じだった。つまりゼロはこの町一番の家で生活していることになる。…羨ましい。


「それで、依頼についてですが…受けていただけますか?」


 ゼロは緊張しているのかさっきから尻尾がピンッと伸びきっている。


「そんなに緊張しないでいいわよ。そもそもよくこの場所がわかったわね」


 ゼロは少しリラックスしたのか尻尾をくるりと回した。


「知り合いの使い魔に聞いたんです。どんな依頼もこなす凄腕の人物が湖の近くに住んでるって…」


「へぇー、私もいつの間にか有名になったものね…」


 まさかそんなに有名になっていたとは知らなかった。もしかしたらパーティーメンバーが全員女であるのも原因の一つかもしれない。


「あの…」


 私が考えこんでいるとゼロがおずおずと聞いてきた。


「ん?…どうかした?」


「貴女があの有名なエルダさんなんですか?」


「…そうだけど」


 あれ、この子は私が本人だとは思っていなかったのか?


「ゼロ、貴方は私を誰だと思ってたの?」


「え?…あ、その…娘さんかな、と…」


「む、娘ねぇ…まぁ、普段の私を見たら誤解する人も多いからね…うん、もう慣れたわよ…一々つっこむのも疲れたしね…」


「…あ、その…ご、ごめんなさい!悪気はなかったん…です」


「ええ、わかってるわ…大丈夫よ」


 やっぱり身長!?身長が低いから皆私を子供扱いするの!?…みてなさいよ…身長なんて…す、すぐに伸びるんだから!!


「あの、エルダさん…大丈夫ですか?」


 何か頬を伝ってるけど気のせいよね。これは心の汗よ、きっとそうだわ!!


「話がそれたわね。続きを話してもらえるかしら?」


 私はできるだけ笑顔でゼロを見た。ゼロが「ひっ!?」とか言ってたけど気にしないことにした。





「改めまして…依頼内容は僕のご主人様であるアミィ様の護衛です」


「護衛?貴族の娘さんなら護衛くらいたくさんいるんじゃないの?」


 私の返事にゼロは俯く。


「はい、本来ならば護衛の人数は足りているのですが…実は明日から旦那様と奥様が王都へとお出かけになるのです」


「…なるほど、その為に護衛の人数が分散されるのね?」


「はい…ご主人様王都が嫌いで、家に残ると言い張っていまして…」


 王都が嫌い…か、何か個人的に嫌な事でもあったのだろうか。


「それにしても、依頼を出す程までに護衛の数って少ないの?」


「あ、はい…最近になって護衛の仕事を辞めて別の仕事に就く人が多いんです。最近は不景気で護衛の人達への給料も減り始めてますから…」


 なんと…前世の世界だけでなくこの世界も不景気だったとは…


 命を懸ける仕事をしているのに給料が少ないのでは辞めたくもなるだろう。


「あと、この依頼は“護衛が少ないから”という理由だけではありません」


 先程よりも真剣な顔をするゼロに私は自然と姿勢を正す。と、言っても他の人から見ればテーブルの上で二匹の猫がニャーニャー鳴き合っているだけにしか見えないだろうけど…


「実は、僕のご主人様…アミィ様を狙っている者がいるという情報が入ったのです」


「アミィ様が狙われている?」


「はい、狙われているんです。相手は反政府軍の者達です。…アミィ様を誘拐していざという時の人質にするつもりらしいのです」


 反政府軍……草原で繰り広げたあの戦いを思い出した。


 …辺り一面血の海だったのを思い出したらなんか気分悪くなってきた。


「あの…大丈夫ですか?」


 おっと、顔に出てたみたいね…


「…大丈夫、ちょっと嫌な思い出があるだけだから。…とにかく、依頼は受けましょう」


「本当ですか!?ありがとうございます!!」


 私も狙われているとわかっている人を見殺しにするようなことはしたくないし…


「それで、何か気をつける事は?」


「そうですね…ご主人様は極度の人間嫌いでして…できればいざという時以外は猫の姿のままでいた方がいいと思います」


「ね、猫の姿のまま…」


「はい…。あ、言葉を喋るのは普通に大丈夫です。エルダさんは僕の知り合いの使い魔ということにしてください」


 難しい年頃なのね、大丈夫なのかしら…。ちょっと不安だけど…


「ゼロ、一つ聞くけど…アミィ様は何歳なの?」


「はい、現在10歳ですね」


 10歳…まだまだ子供だ。尚更守らなければ。


「では、明日から三日程護衛をしてもらっていいですか?」


「はい、わかりました」


 明日から三日間何事もなければいいけど…



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