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天使として…  作者: 白夜
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3-8 これからについて

 前半は百合的なシーンで後半は説明が入ります。


 アベルとの激戦が終わり一段落したエルダ達はイリナが用意した部屋で休んでいた。


「皆さん、本当にありがとうございました」


 シオリはペこりと頭を下げてエルダ達にお礼を言う。


「いえ、そんな…当然のことをしたまでですから…」


 エルダもペこりと頭を下げる。この二人、どうやら気が合うらしく話のネタが尽きない。相性がいいのだ。


「エルダとお話するのは楽しいわ♪」


「私もシオリとのお話は楽しいよ♪」



「「…ただ」」


 二人は同時に呟くと視線を下げる。そこには…


「はぁ~、シオリ~♪」


「エルダ~♪」


 お互いのパートナーが腰に抱き着いているのだ。いくら椅子に座っているからといってもこの体制はなかなか辛い。


 しかも部屋に入った瞬間からである。エルダとシオリが相性がいいのならばパートナーもまたしかり…である。


「イリナ…もう大丈夫だから…ね?どこにもいかないから離してくれると嬉しいな?」


「いやぁ~~!」


 幼児退行した成人女性を宥める幼女…なんというか…シュールである。


「まぁ、今日は色々あったからお話はまた明日ね。エルフィナもそう言ってたし…」


 エルダの言葉にシオリも頷く。実はあの後、エルフィナは疲れたから詳しくは明日、と言ってエルダに交代したのだ。結局やることもなくなったのでこうしてお互いの親睦を深めていたのだ。


「もうすぐ夜だし、疲れも溜まっているだろうから早目に寝ましょうか」


「そうね、そうしましょ」


 その後、シオリとイリナは同じ部屋で一緒に寝ることになり、エルダ達もその隣の部屋へと入る。


 シャワーを浴びたエルダはベッドに倒れ込む。


「あ~疲れた~…」


 はぁ…、と息を吐くエルダは現在ネグリジェ姿。こうなれば当然パートナーの(リリィ)が黙っていない。


「隙あり~!」


「え?ひゃあ!?リリィ、どこ触ってるのよ~!!」


「よいではないか~よいではないか~♪」


「あなたそんな言葉どこで覚えたのよ!?」


 最近忙しくてエルダにかまってもらえなかったため欲求不満だったリリィは完全に暴走してしまっていた。エルダは朔夜に助けを求めようと顔を向ける。しかし…


「うんしょ…よし、これでいいかな?」


 朔夜はかなり露出度の高い下着姿でベッドをくっつけていた。


「さ、朔夜?何してるの?」


「え?何って、イチャイチャする準備だけど?」


「(ブルータス!お前もか!!)」


 エルダは本能的な危険を感じてリリィの腕から器用に抜け出すと隣の部屋に逃げ込んだ。


「シオリ!助けて!私襲われ……る…」


 エルダは中の光景を見て固まった。なぜなら…



「あ…イリナ…ま、待って……そんな…ああっ!」


「シオリ…可愛いわ……ふふふ」


 そこにはピンク色の空間が出来上がっていた。


「(あんた達もかい!!)」


 エルダは扉を閉めて別の場所へと移動しようとした。しかし…


「つ~かま~えた♪」


「ひっ!?」


 肩に手を乗せられて思わずビクリと体が跳ねる。


「ほらほら、あっちも盛り上がってるみたいだから…私達も…ね?」


 そう言ってリリィはエルダの唇に自分の唇を重ねる。


「あ…ふぁ…」


「ふふ、続きはベッドで…ね?」


「あぅ…////」


 その後、二つの部屋から数時間の間、甘い声が途絶えることはなかった……










―翌日―


「う~、酷い目にあったよ~。二人がかりでこられたらいくら私でも対処できないよ…/////」


 エルダは着替えを済ませるとベッドで熟睡中の二人を残して部屋を出た。すると、丁度隣の部屋からシオリが出てきた。


「あ、おはようエルダ…」


「おはようシオリ……昨日は…その……楽しめた?」


「え!?……ま、まあ…ね…そっちは?/////」


「…うん/////」


 二人は顔を赤くしながら…しかし、嬉しそうに一緒に朝食を作り始めた。




「…ん?いい香りがする…」


 数分後、イリナはベッドから降りると部屋を出てキッチンへと向かう。


「ふぁ…おはよ…」


「あ、おはよう…イリ…ナ………」


「シオリ?どうしたの?あ、イリナおは…よ…う…」


 ちなみにこの時のイリナの格好だが…寝ぼけていたのか下着も着けずにワイシャツを羽織るだけ、というある意味必殺のスタイルであった。


「ふぁ…どうしたの?二人とも…」


「イ、イリナ!服っ!服を着て!」


 イリナはここでようやく自分の格好を見た。しばらく固まった後、みるみる顔が赤くなる。


「あ…ああ…わ、私なんて格好を…//////」


 イリナはわなわなと震えると急いで振り返って部屋へと戻ろうとした。しかし、運悪くリリィがやって来てイリナとぶつかった。


「うわっ!」


「きゃっ!」


「あ…」


 体格的にイリナの方が大きいため、イリナがリリィを押し倒す形で床に倒れた。


「………」


「………」


 この瞬間、部屋の空気が止まった。リリィは視線だけを動かしてイリナの体を見た。イリナは現在、裸にワイシャツ姿である。当然リリィがこの必殺的な格好を見てただで済むわけがない。


「ワイシャツ一枚の…お姉さんに…押し倒される……このシチュエーション………いい!…ぶはぁ!!」


「ええ!?ちょっ…リリィ!?……きゃああ!鼻血が!」


 鼻血をふいて倒れたままのリリィとおろおろする必殺スタイルのイリナ…朝からはっちゃけすぎである。


「あはは…あ、朝から元気ね…二人とも…」


「あ、あはは…」


 もはや苦笑いするしかないエルダとシオリであった。








「えっと、朝から色々あったけど今後のことを話し合いましょうか」


 朝の騒動から一時間程たったころエルダが話を切り出した。


「まずは昨日戦ったアベルとかいう奴と、彼を助けた二人について…よろしく、エルフィナ」


『わかった』


 エルフィナは一々表に出るのが面倒だからと念話を使って話すことになった。


『まずは妾のことから話そうか。妾はこの星…正確には世界そのものが具現化した存在だ』


「世界そのものが…具現化した存在…」


『うむ、妾は今から約五千年前にアベルと戦い、そして眠っていたのだ』


「五千年前…そんな昔に…」


 五千年前という単語を聞いて皆はそれぞれ驚いた顔をしていた。


『次にアベルの正体だが、奴は元々人間だった』


「え!?あいつ人間だったの!?」


 驚きのあまり大声を出して立ち上がったリリィをエルダが座らせる。


『アベルは平凡な人間だった。そんな彼は、ある時一人の人物に恋をした』


 “恋”という単語に今度はリリィとイリナの目つきが変わる。彼女達にとってこの話の興味が一段階上がったようだ。実際、目を輝かせている。


『だが…彼が恋をした人物はただの人間である彼にとって手の届かない存在だったのだ』


「手の届かない存在?」


『そうだ。身分等や種族ではなく、存在が…いや、次元そのものが違うものに恋をしたのだ。故に彼は普通なままではその人物に近づけないと考え、人間であることを捨てたのだ』


「人間であることを…捨てた」


 シオリが意味を確かめるように同じように呟く。思えばここにいるメンバーは皆“人間だった”者達だ。


「やっぱり、私達みたいに何かと契約を?」


 イリナが自分の指にはまる指輪を見ながら尋ねる。


『いや、違う。彼は禁書を読みあさり自分だけの魔法を完成させた。…彼は、世界中の負の感情を取り入れることにより自分自身を“負の感情そのもの”という存在へと変化させたのだ…』


「負の感情?」


『そうだ、彼は人間が存在するかぎり生き続ける。なんといっても感情そのものなのだからな』


「でも、なにも負の感情じゃなくても…」


『負の感情は人間の感情の中でも特に力を発揮しやすく、同時に扱いが簡単なのだ。ただし、生半可な精神では負の感情は操れない。感情の重さに堪えられずに精神の崩壊を起こす。…しかし、アベルはその圧力に堪えた』


「それほどその恋した人と一緒にいたかったのね…」


「好きな人と一緒にいたい気持ちは…わかるよ」


 エルダの呟きにリリィは微笑みながらそう言った。エルダもリリィを見ると頷いた。


『しかし、運命は残酷でな…世界を乱す力を手にした彼は世界そのものを敵に回してしまった。つまり妾のことだ』


 エルフィナは一度言葉を区切ると悲しそうに続きを話す。


『世界を乱す者は世界から排除される。当然のことだ。…だが、それは彼の絶望の始まりにすぎなかった。なぜなら…』






『彼の恋した人物とは妾のことだったのだから』







 その場にいた全員が言葉を無くした。つまり、彼は恋した人物に近づこうとしたが故にその人物と戦うことになってしまったのだ。


『最後の戦いで奴の口からそう聞かされた時は驚いた。妾は世界そのもの、肉体は存在せず、天使の体を借りなくては何にも触れることさえできない。そんな存在に奴は恋をしたのだ…。たまたまその時の天使に体を貸してもらっていたんだが…妾と偶然出会い、話をするうちに妾のことを気に入ったようだ…。妾の正体を知ってもなんともないように振る舞っていた…。ふふふ、馬鹿な奴だよ…』


「あなたは…」


『…?』


 寂しそうに笑うエルフィナに不意にシオリが声をかけた。


「あなたは…彼をどう思ってたんですか?」


 シオリの質問にエルフィナはしばらく黙るとゆっくりと言葉を紡いだ。


『妾は…そうだな…嫌いではなかったよ。まだ人間らしさが残っていた時の奴は馬鹿がつくほど真っ直ぐで……それ故に間違いに気がつかなかった…。そんなことをしなくとも妾は何時でもそばにいたのだが…』


「じゃあ今のアベルは…」


『今のアベルは負の感情を取り込み過ぎて精神が崩壊してしまっている。……もうあれはアベルという名の別の存在だ』


 今のエルフィナが表情を作れたならおそらく辛そうにしているだろう…と、この場にいる全員が思った。


『結局、アベルは負の感情にのまれて精神崩壊を起こして暴走した。妾は奴を止めようとしたのだが…結果は相打ちだった。世界中から力を集めたアベルの力は妾と互角だった。まさか世界を相手にして引き分ける力があるとは思わなかったからな…油断していた』


 エルダ達の表情が険しくなる。その世界を相手に引き分ける実力を持った相手と実際に昨日戦ったのだ。全員無事だったのが奇跡に近い。


『ダメージを受けた妾と奴は五千年眠り続け、最近になって目覚めた…というわけだ』


「なるほど…じゃあ質問。アベルを助けにきたあの二人は?」


『あの二人は名をメリーベルとシュナイダーと言う。以前にアベルが力を分け与えた眷属達だ。力はエルダと互角くらいだろう』


「エルダと互角ですって!?」


 その場にいた全員がさらに表情を険しくする。


「彼等は何人いるんですか?」


『正確な数はわからぬ…しかし五人以上いるのは確かだな』


「そんな…」


 エルダと同じ強さの敵が五人もいるという事実にその場にいる全員が息を呑む。


『奴はまだ完全に力を取り戻していないため派手な行動はしないはずだ。見つけるのは難しいだろう…。妾もまだ完全ではない。しばらく様子を見るしかなかろう…』


「それで、今のアベルの目的って何なの?」


 朔夜の問いにエルフィナはふむ、と考えるような声を出すとしばらく黙った。


『おそらくだが今の奴には破壊衝動しかないと思われる。五千年前にもその傾向が見られたからな』


「うわっ…迷惑だね」


 リリィが呆れたように言うのを見ながらエルダはこれからのことを考えていた。


「それなら、とうぶん奴は動かないみたいにだから私達もできるだけ鍛練して強くならなきゃね」


「そうね…むこうもただじっとしてるわけじゃないだろうし…」


「これからは鍛練続きの毎日ね」


『ま、待て!…其方達、妾の戦いに協力するつもりか?』


 エルフィナの言葉に全員「え?今更?」という顔をしていた。


「ここまで聞いたら協力しなくちゃ…ね?エルダ」


「リリィの言う通りよ。私はこの世界の管理者なんだから守るのは当然だし」


「私も、イリナも助けて頂いた恩があります…」


「私もシオリと同じ気持ちです。是非手伝わせてください。貴女もそうでしょ?朔夜さん」


「私はエルダとリリィがやるなら手伝うわ」


『……皆、感謝する』


 こうして、新たな敵の存在を知ったエルダ達はエルフィナとイリナとシオリを仲間に加えて次の戦いまで、何時もと変わらぬ日常に戻るのだった。




 次回からはちょっとほのぼのした話を数話書こうかと思います。

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