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天使として…  作者: 白夜
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3-7 星の代行者

 決着です!!


 エルダはシャルを構えたまま目の前の相手を睨みつける。


「ククク…怖い怖い…そう睨むな。我は今機嫌が良いのだ。遊んでやるからもっと気楽にするがいい」


「ふんっ…馬鹿にしてるの?」


 言葉とは裏腹にエルダは内心焦っていた。


 目の前にいるアベルと名乗った“ソレ”はただ立っているように見えて全く隙がない。下手に動いたら間違いなくやられるだろう。


「…ふむ、このままでは面白くないな。ここは我からいかせていただこう!」


「…っ!?」


 ゆっくりと前屈みになった瞬間、まるで初めからいなかったかのようにアベルの姿は消えた。


 それと同時に右側から感じる強い殺気。


 体を左に動かしながらアベルの放つ蹴りをエルダは両腕を使って受け止める。


―いや、受け止めようとした。


「…ぐっ!?」


 両腕に伝わる感じたことがない強力な力。そして、アベルが脚を振り抜くと同時にエルダは反対側の壁まで吹き飛ばされた。


「…うぁっ!!」


 轟音と同時に壁に激突したエルダはそのままその場に倒れた。壁は大きく凹み、激突の衝撃がどれほど強力だったかを表している。


「エルダ!!」


 走り寄ろうとした朔夜をエルダは片手で制した。


「大丈夫…朔夜はイリナの…治療…を…お願い…ごほっ!」


「エルダ!?」


 立ち上がったエルダは口から血を流していた。激突した時に内臓の数ヵ所にダメージを受けていたのだ。


「私の怪我はすぐ治るから…朔夜は彼女を」


「…わかった。無理しないでね?」


「ええ…」


 朔夜は再びイリナの治療に向かい、エルダはアベルと向かい合う。


「話は終わったのか?」


「ええ、わざわざ待っていてくれてありがとう」


「ふっ…」


 シオリの姿をしたアベルは再び構えをとる。右足を軽く引いて軽く前屈みの状態をつくる。


「さて、次はどうする?」


 エルダは真剣にアベルの顔を見返すとシャルを構える。


「次は…止める!封印第一段階解除、アンチモード!」


 エルダは自らにかけてあった封印の一つを解いた。同時に髪は黒くなり瞳は輝きを増す。


――アンチモード…エルダが本気で相手を危険と判断した場合のみ使う身体能力強化である。髪が黒くなるのが特徴で、相手に一切の情けをかけないという現れでもある。


「ほう、少しは楽しめそうだな。…だが、我にはとどかないな」


 再びアベルが視界から消える。身体能力を強化したエルダでさえ見えない速度である。しかし、先程とは違いエルダは目を閉じてシャルを構える。


「…そこだ!」


「…っ!?」


 振り向きながらの一閃。その攻撃は僅かにアベルの体をかする。


「ほぅ…今の速度を見切るか…たいしたものだ」


 エルダも日々、朔夜と鍛練をしていたこともあり以前よりも確実に強くなっていた。しかも朔夜はスピードタイプであるため高速移動からの攻撃への対処は慣れたものだった。


「しかし…いいのか?この体は我ではなくシオリという者の体だ。傷つけていいのか?」


「……くっ!」


 実際体がシオリのものである以上攻撃するのを躊躇ってしまう。イリナのためにも何とかして“アベル”という存在のみを倒さなければならない。


「シオリという娘…魂だけになっても我に挑んできたのには驚いたものだ。今も結界を何とか通り抜けようと必死なようだ」


「……!」


 この時、エルダはある事に気がついた。アベルは彼女の肉体に強引に入り込んでいるようなものだ。ならば持ち主が現れたらどうなるか。


「(もしかしたら…!)」


 エルダが打開策を考えると同時に治療を終えた朔夜がやって来た。


「遅れてごめん」


「いや、大丈夫よ。それより朔夜、ちょっと頼みたい事があるの…」


「…?」


 そしてエルダは小声で朔夜にある作戦を告げる。


「…なるほど。わかった、しばらく待ってて!」


「…よろしくね、朔夜!」


 そしてエルダはアベルへ、朔夜は階段へと走り出す。


「ふんっ…何を考えているかはしらんが…無駄な足掻きだな」


「どうかしら?…いくわよ!封印完全解放!」


 エルダは封印を全て解除する。純白の翼が現れ髪も元の銀髪へと戻る。


「(とにかく時間をかせがないと!)」


 エルダはアベルへと走り込むと大量の魔力弾を作り、それを発射する。少しでも動きを止めるのが目的だった。


―しかし


「ならば我も少々本気を出そう」


 アベルが右手を前に突き出し、そこから視界いっぱいを覆う程の黒炎が放たれる。それはエルダの魔力弾を全て飲み込むとそのままエルダへと殺到する。


「くっ!」


 咄嗟に魔力を込めた障壁を張るが、黒炎がぶつかった瞬間から皹が入り始める。


「(くっ!なんて威力なの!?)」


 皹は徐々に広がりついに障壁は破壊される。黒炎はエルダを飲み込むと分厚い壁を突き破り四つ隣の部屋へと到達してようやく消えた。


「…ぅ…ぅぁ」


 エルダは何とか意識を保つことはできたものの体中に傷を負い、彼女を中心に血が広がっていく。


「どうした、それが貴様の全力か?我は目覚めたばかり故、まだ一割の力しか出していないぞ?」


「(一割…ですって?一割で私の全力より上なの?)」


 先程の障壁は咄嗟に張ったとはいえかなりの魔力を込めたはずだった。それをあっさりと破ってみせたアベルの力にエルダは戦慄する。


「もう少し楽しめるかと思ったが…興が冷めた。消えるがいい」


 アベルは再び右手をエルダに向けると魔力が集まり、黒炎が燃え上がる。あきらかに先程よりも強力なものを放とうとしていた。


「…くっ…ぅあ…」


 エルダは何とか立ち上がろうとするが傷が深過ぎて回復が間に合わない。体を起こすのが精一杯だった。


「(まさか…ここで終わるの?まだこの世界のことを何も知らないのに?)」


 アベルの右手には先程の二倍の大きさの黒炎ができていた。これが直撃すれば間違いなくエルダといえど、この世から完全に消滅する。


「安心しろ、恐怖は一瞬だけだ…」


 アベルが右手を突き出そうとした瞬間。


「うおおぉおおぉぉぉ!!」


「…む!?」


 突然アベルの真横から青い影が飛び出してきた。


「はあああぁぁぁ!!」


 さらに反対側からは緑の影が走り込む。


 影の正体はオーズとフィーレだった。


「シオリ様の体を返せぇ!」


「あああぁぁああ!!」


 アベルは一旦黒炎を消すと両手を広げて障壁を張り二人の攻撃を防ぐ。


「うおおおぉぉぉ!!」


「はあああぁぁぁ!!」


 二人は全力で力を込めるが障壁は傷一つ入らない。


「小賢しいわぁ!!」


「ぐっ!?」


「きゃあ!?」


 アベルが力を込めると障壁から衝撃か放たれ二人を吹き飛ばした。


「今だ、やれ!」


「…っ!?」


 二人に気をとられていたアベルは背後から走り込む三人目に気がつかなかった。


「全てを灰燼と化せ!炎の魔剣、レヴァンティン!!」


 三人目は先程まで気絶していたリリィだった。右手には炎で作られた魔剣が握られている。


「いっけぇぇぇ!!」


 リリィはそれをアベルへと振り抜く。圧倒的な熱量を持った魔剣を――


「ふっ…」


「…え?」


 リリィは何が起きているのかわからなかった。


 アベルは、リリィの攻撃を指一本で受け止めていたのだ。




「なかなかの威力だが…」


 アベルは空いている方の腕でリリィの首を掴むとそのまま持ち上げる。


「あ…かはっ…が…」


 小柄な少女の腕がリリィの首を絞めるその光景はまさに異常だった。


「まだまだ未熟だな。そんな不安定な魔剣など、我にとってはそよ風程度にしかならんわ」


「ぅ…ぁ……ぁっ!」


 アベルはリリィを掴む腕にさらに力を込める。


「~~~~っ!」


 まともに呼吸ができないリリィは声も出せず、酸欠によって意識も朦朧としていた。


「(やめて…やめて!やめて!やめて!)」

 その光景を見ていたエルダは心の中で叫び続けた。今だに動けず、声もうまく出せないこの状態が悔しくて、エルダは何度も叫び続けていた。朔夜はまだ帰ってこない。やはりあちらはあちらで手こずっているようだ。


「(お願い…誰か!)」


 そう思った瞬間。



――エルダ



 声が聞こえた。



――ようやく妾も目覚めた。



 それはとても綺麗な声で…



――今、助ける。



 とても安心できる優しい声で…



――しばし、体を借りるぞ?



 その言葉を聞いた瞬間、エルダの意識は沈んでいく。不意にエルダは誰かが自分に微笑んでいるように感じて目を懲らす。そこには…



――赤い目をした自分がいた。










「…っ!?」


 強烈な殺気を感じてアベルはリリィを掴んでいる腕を離した。リリィはその場に倒れると咳込みながらも何が起きたのか理解しようとする。


「…馬鹿な、この気配は…!」


 アベルの視線は先程吹き飛ばしたエルダへと向けられている。


 アベルの視線の先でエルダは静かに立ち上がった。傷も全て治っている。


「……五千年か…久しいな、アベルよ」


 エルダは先程とはまるで違う雰囲気と口調でアベルに離しかける。


「貴様…先程の天使の娘ではないな…誰だ?」


 エルダはクスクスと笑い、ゆっくりと瞼をあげる。その瞳はルビーのように赤かった。


「妾を忘れたか?五千年前はずいぶんと派手に戦ったのだがな…」


 途端にアベルの表情が驚愕に変わる。リリィや守護者二人は状況がわからず呆然としている。


「まさか…『エルフィナ』なのか?」


 アベルの問いにエルダ…いや、エルフィナは微笑みによる肯定をする。


「星の代行者…また…また我が前に立ちはだかるのか!」


 アベルが右手を突き出し黒炎を放つ。エルフィナは黒炎に右手を向けると優雅に横に振り抜く。それだけで黒炎は霧散した。


「無駄だ…貴様はまだ真の力を使える程に回復していない。そんな状態で妾と戦うつもりか?」


「くっ!」


 アベルは一歩後ずさると黒炎を生み出す。


「まだだ、この体があるかぎり貴様は我に攻撃はできない!」


「たしかに…妾はその体を殺さずに貴様を滅することはできぬだろう。それなら貴様を外に追い出せばいいだけの話だ」


 彼女がニヤリと笑い、アベルはどういうことかと思考する。しかし、その思考が答えを出す前に背後から声がした。


「待たせたわね。連れてきたわよ」


 振り返ったアベルが見たのは黒髪の女性と、隣に並んで立つ銀髪金目の少女の魂だった。


「なに、馬鹿な!?」


 アベルの目の前にシオリの魂が歩み寄る。


「く、くるな!」


 シオリはアベルを睨むと右手を突き出す。


「私の体…返してもらうわ!」


 シオリの突き出した右手が体の中へと入る。


「がぁああぁあ!!」


 その瞬間アベルは苦しみだす。そして黒炎が大量に噴き出したかと思うとシオリの体はその場にまるで糸が切れた人形のように倒れる。


「おの…れぇ!!」


 空中に浮かぶ黒炎の塊からアベルの声がする。今、彼はシオリの体から弾き出されたのだ。


「どうやってあの結界を…!」


「私だよ」


 朔夜が一歩前に出ながら笑う。右手にはナイフ、そして彼女の右目は青かった。


「ちょっと手こずったけど、この神器と直死の魔眼であんたの結界に穴を開けたのよ。そこから彼女を中に入れたの」


「貴様はエルダにシオリの魂が近くにいると自らばらしていたからな。エルダは朔夜に結界の破壊に向かわせたのだ」


 ニヤリと笑うエルフィナにアベルは焦り始める。


「終わりだ…消えろ、闇の者よ」


 エルフィナが手を掲げ、そこから白い魔力弾が無数に放たれる。


「くっ!」


 アベルは逃げようとするがそれよりも魔力弾の方が速かった。魔力弾は全てアベルへと向かい爆発した。


「やったの?」


 朔夜が呟くがエルフィナは不機嫌そうな顔をしている。爆発による煙が晴れると、そこには…


「間一髪~☆」


「どうやら間に合ったようだな…」


 二人の人物がアベルを守るように浮かんでいた。


 一人は真っ黒なゴスロリ服を着た黒髪の幼い少女。もう一人は黒い服に黒いマントを羽織った青年だった。


「メリーベル…それにシュナイダーか」


 エルフィナは二人を睨むと魔力を集め始める。


「スト~ップ!今日は戦いに来たんじゃないよ☆」


 少女…メリーベルは両腕で×の形を作る。


「今回は先走りし過ぎて消されかけた馬鹿なリーダーを迎えにきただけだ」


「あはは☆バ~カ、バ~カ!」


「お前達…後で覚えておけ」


 少々頭にきたエルフィナは魔力弾を放とうと身構える。


「メリーベル…」


「はいは~い、まっかせなさ~い!やあっ☆」


 メリーベルが両手を前に出すと突然黒い霧が部屋の中を覆い尽くす。


「…チッ!」


 エルフィナが魔力弾を放ち、その衝撃で霧も消えるがそこに三人の姿はなかった。



――今回はこちらが退こう…次は貴様を消し去る!


――やれやれだ…


――まったね~☆




 気配が完全に消えさり部屋の中に残ったのは静けさのみとなった。


「……逃げたか」


 エルフィナは不愉快そうに肩を竦めるとリリィ達へと振り向く。


「えっと…」


 そこには状況がうまく飲み込めないでいるリリィと朔夜、守護者二人がいた。


「エルダ…なの?」


 リリィが首を傾げながら尋ねると、エルフィナは首を横に振る。


「妾はエルフィナ、星の代行者と呼ばれている。現在はエルダの体を借りている」


「じゃあエルダは?」


「リリィよ、心配するでない。エルダは今は心の中にいてちゃんと意識もしっかりしておる」


 エルフィナは自分の胸を抑えると微笑む。


「よかった…あれ?なんで貴女は私の名前を?」


「妾はエルダの中から全て見ていた。…といってもちゃんと目覚めたのはつい先程だ。…実は一度だけエルダの代わりに表に出たことがあるのだが…その…////」


 そこまで言って急に顔を赤くしてモジモジと恥ずかしそうにするエルフィナにリリィは首を傾げる。


「いくら記憶が戻っていなかったとはいえ其方(そなた)と……その…体を重ねることになるとは…/////」


「…え!?/////」


 リリィは記憶を探る。記憶がなかった…エルダに代わって…赤い瞳……


「……あ」


 リリィは一つの事件を思い出す。友達のフィアナの料理を食べたエルダが丸一日記憶喪失になったことがあった。たしかあの時のエルダは瞳が赤かったのだ。


「え!?じゃあ、貴女は…エルちゃん…なの?」


 エルフィナは顔を真っ赤にして頷く。


「ええええぇぇぇぇ!?」



 その時のリリィの声は凄まじく、気絶していたイリナとシオリが目を覚ましたほどだった。






 次回はほのぼのを書こうかと思います。

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