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天使として…  作者: 白夜
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3-6 恐怖再び…

 いよいよクライマックス!

―朔夜Side―


 私がリリィの元へとたどり着いた時、そこでは今まさに勝負が決しようとしていた。


 リリィは魔力で作り出した炎の剣を横に一閃…それだけで結界ごと敵を吹き飛ばしていた。危うく私も巻き込まれそうになったのでかなり焦った。


 その後、私が倒れるリリィを抱き留めるとリリィの口が微かに動いて後は頼むと言われた。おそらく急激な魔力の増減に慣れていないためだろう。


 私はリリィを抱き抱えると下へと降りる階段に向かい歩きだす。


「ま、待て…」


 呼び止められた私は立ち止まり声のした方へと顔をむける。そこには立ち上がるのがやっとの状態のフィーレがいた。


「行かせ…ない…主の……ために!」


 私はじっと彼女の目を見つめる。彼女の目はとてもまっすぐで…だからこそ間違っていることに気がついていない。主の命令を成し遂げようとするその心意気は見事だが…


「…まったく。貴女もオーズも真面目過ぎるわね」


「…なに?」


 フィーレは何のことだ、と言わんばかりの視線を向けてくる。


「…さて、私が今から言うのは単なる私個人の考えだから無視してもいいわ…」


「………?」


「シオリが何で眠っているのか…これはオーズに聞いた。その後ずっと彼女が眠り続けているのは黒い炎のせいだってこともね…」


 フィーレは私の話を黙って聞いている。一応聞いてみるつもりのようだ。


「ここで疑問が一つ……私達は依頼を受ける時に彼女に会っていること。でも彼女は眠り続けている。それなら私達が出会ったシオリは一体何なのか……私は考えた…もしかしたら彼女は今…魂が体から抜け出ているんじゃないかって…」


「…!」


「彼女が起きないのは黒い炎に侵食されてるだけじゃない。…魂が体の中にないからじゃないかしら?」


「馬鹿な!」


 フィーレは腕を振って否定の意思を示す。


「もしそうなら…何故シオリ様は主に会いに来ないのだ!?」


 私はフィーレから視線を外して天井を見上げる。一見何もないように見えるがしっかりと結界が張ってあるのがわかる。


「ここには結界が張ってあるわね?」


「そうだ、主が主自身とシオリ様を守るために張った結界だ」


「じゃあ、その結界の外側にもうひとつ結界が張ってあるのには気がついた?」


「…え?」


 フィーレは目を見開いて呆然としている。どうやら気がついていなかったらしい。


「まぁ、仕方ないわ。私もさっきこの右目で見てから気がついたから」


 私が自分の右目を指差しながらそう言うと、フィーレは信じられないという顔をした。


「そんな…私やオーズでさえも気づけない程高度な結界があるだと!?」

 私は頷くと続きを話し出す。


「私の魔眼で見た二つの結界。片方は綺麗な虹色で大切なものを守りたいって気持ちが感じられた。これはイリナの結界でしょうね……もうひとつは」


 私は言葉を区切るとフィーレに向き直る。フィーレの顔はこれから私が言う言葉を予想できたのか青ざめていた。


「…もうひとつの結界は…全てを塗り潰すほど――黒かった」


「―――っ!!」


 フィーレはガクンと膝をついて震えはじめた。おそらく彼女は何が起きているのか理解できたはずだ……


「おそらく…まだ…その黒い炎は生きてる。10年間…シオリの体を隠れみのにして…。シオリはここに来ないんじゃない。…その黒い炎が張った結界が邪魔をしているから来ることができないのよ」


「まさか…ヤツが生きているのか!?それでは…ヤツがシオリ様の体に入っている理由は…」


「おそらくイリナに魔力を集めさせるため…かな?たぶん知らないうちに幻術にでもかけられてるんじゃないかしら…」


「そうだとしたら…」


 フィーレがハッとした顔で下へ続く階段を見る。


「たぶん…永久機関を完成させて…真っ先に狙われるのは…」


「…主!」


 フィーレは傷ついた体を無視して階段へと走り出した。私もリリィを抱えて後に続く。







 私がフィーレに追いついた時、彼女は呆然と床に座りこんでいた。


「…あ…ああ」


 フィーレは声を震わせながら部屋の奥を見ていた。


 そして、私は見た。


――こちらに背を向けてシャルを構えているエルダと…


――血を流して倒れているイリナと…


――歪んだ笑顔を浮かべながらエルダと向かい合う銀髪金目の少女を…










~数分前~


―エルダSide―


「はああぁぁぁ!」


 イリナから放たれる魔法を真横へと跳ぶことで回避する。戦闘が始まってから約一時間…彼女の攻撃は私には当たらず、私の攻撃は直撃こそないものの彼女に少しずつダメージを与えていた。


「…くっ!」


 イリナは私が放つ魔力弾を寸前で回避すると片膝を床につけた状態で荒い呼吸を繰り返していた。


 現在のイリナは天使の眷属としての力を無くしている。残っているのは膨大な魔力が扱えることくらいだ。だから傷も治らないし、疲れも溜まる。今のイリナは正に満身創痍といった感じだ。


「イリナ…まだ…続けるの?」


 私の問い掛けにイリナは構えをとることで答える。


「もう止めよう?シオリだってこんなことして欲しくないはず…」


「うるさい!!」


「――っ!」


 イリナの声に私は驚いて言葉を繋げなくなった。


 イリナは涙を流しながら、しかし私を睨みつけながら構える。


「私には…シオリしか…いないのよ!」


「………」


「あの子の側が私の居場所なの!あの子がいない世界なんて生きてる意味がないのよ!」


「…イリナ」


「うああぁぁぁぁ!!」


 彼女から放たれた魔力弾を障壁を張り正面から受け止める。


「あああぁぁぁぁ!!」


パキパキッ


「…っ!?」


 突然彼女から放たれる魔力が増え、私の障壁に皹がはいる。


 彼女は結界に回していた魔力を魔力弾へと上乗せしたのだ。


「…くっ!」


 私も魔力を上乗せして障壁を強化して真っ正面から受け止める。避けてしまってもいいのだが、私は彼女の攻撃を避けようとは思わなかった。


 やがて攻撃がおさまるとイリナはふらふらとシオリが眠る結晶へ背中をつけると悔しそうに私を睨んでいた。


「イリナ、もう止めて…もう苦しむあなたを見たくない」


「うるさい…うるさいうるさいうるさいうるさい!!」


 彼女はふらふらしながら再び構える。私はゆっくりと彼女へと歩いて近づいていった。


「…っ!来るな!」


 イリナは少ない魔力で魔力弾を作ると私に放ってきた。私はそれを避けることも防御もせずに正面から受けた。それでも彼女へと歩く足を止めない。


「来ないでって言ってるでしょ!!」


 目の前まできた私に殴りかかるイリナの腕を掴んで結晶へと押し付ける。


「離して!離してよぉ!」


 必死に私の腕を解こうとする彼女を私は真っ直ぐ見つめる。イリナも涙を流しながら私を見ている。今の彼女の瞳は虚で、そこには絶望の色があるだけ。


「もう少し…もう少しで…シオリが帰ってくるの…お願い……邪魔…しないで!」


バシンッ


「……ぁっ」


 必死に私に訴えるような視線を向けてくるイリナの頬に私は平手打ちをした。


「あなた、それでシオリは本当に喜ぶと思ってるの?」


「…え?」


 彼女は状況がうまく飲み込めないのか呆然としている。


「私はシオリのことをよく知らないからこんなこと言う資格なんてないのかもしれないけど…彼女がもし目を覚ましたとして、あなたが彼女のために一人で沢山の命を奪ったことを知って彼女は喜ぶの?」


「…っ!」


「少なくとも、私がシオリの立場なら嬉しくないわ。そんな危険なことをあなたにさせるくらいなら…私ならずっと眠ったままでいい」


 私の言葉にイリナは視線をそらす。


「じゃあ…私はどうすればいいのよ…シオリを諦めて普通に暮らせっていうの!?」


 イリナが再び私に視線を向けてくる。その表情は叱られた子供のようで今の彼女より幼く見える。


「違うわ。私が言いたいのはもっと周りを頼りなさいってことよ」


「…頼る?」


「そう…あなた、10年の間一人で魔力を集めて回ったんでしょ?どうしてオーズやフィーレ、他の人に助けを求めなかったの?」


「そ、それは…」


 イリナは言葉を繋ぐことができずに俯いて肩を震わせている。


「私が…私がもっとしっかりしてたら…シオリを守ってあげられたら…こんな事にはならなかったかもしれない。私がシオリを…殺したようなものじゃない…」


 私はため息をつくとイリナの腕から手を離す。彼女はまだ俯いたままだ。


「いい?彼女は自分の意思で行動したのよ?なら、あなたがそれを悔やむのはおかしいわよ」


「…でも」


「ストップ、そこまで!…そんなに自分が悪いと思うなら彼女を起こしてから本人に直接言ってみなさい?たぶん怒られると思うわよ?」


「………」


「それに、魔力を集めるのにわざわざ奪うやり方ばかりするのも関心しないわよ?頼めば魔力を提供してくれる人だっていたかもしれないのに…」


「っ!」


 イリナは懐から丸い球体を取り出す。淡い青色をした水晶のような球体。魔力が詰まった永久機関。パズルのように様々な形のカケラが組み合わさってできた球体は一カ所だけカケラがはまっていなかった。


「…ごめん、なさい」


 イリナは永久機関を胸の前で握りしめると呟くように謝った。


 このカケラとなった生き物全てに謝るように。


「あなたにも…」


「ん?」


「あなたにも酷い事をしたわ…」


 イリナは申し訳なさそうに私に向かって頭を下げた。


「気にしないで…私があなたならたぶん同じ間違いを犯したかもしれないし…大切なものをなくす辛さは…私にもわかる」


 私は今だに頭を下げているイリナの顔を上げさせると彼女が持つ永久機関へと視線を向けた。


「これって魔力を流し込めばいいの?」


 私の言葉にイリナは驚いた表情をしていた。


「え?そんな、私、あなたの魔力を貰うなんて…いっぱい酷いことしたし、あなたの恋人や友人を傷つけたのに…」


「だから、気にしないでって言ってるでしょ?それに、私がそうしたいの。…駄目かしら?」


 私の言葉を聞いた途端にイリナは泣きながら何度もありがとう、と頭を下げてきた。



「それじゃ、早速始めるわよ?」


「はい」


 シオリの入った結晶に背を背後にしたイリナの持つ永久機関に少しずつ魔力を注いでいく。すると、最後のカケラの部分がゆっくりと埋まっていき、輝きが増した。10年かけて作りだした永久機関はついに完成した。


「やった…これで…シオリを…」



バキンッ



「…え?」


 私は不意に何かが砕けるような音が聞こえたので周りを見渡す。



―その瞬間



ズバッ



「――ぁっ!?」


 目の前のイリナが突然倒れ込んできたので思わずそれを抱き抱えるとすぐにその場から離れる。


「イリナ?イリナ!?どうしたの!?」


 ぐったりとした彼女を抱き起こそうとして手にねっとりした感覚が伝わってきた。


「…え?」


 私が抱き抱えているイリナの背中には無数の切り傷がついていた。しかもかなり深い。


「一体誰が……っ!?」


 私が顔を上げるとそこには結晶から出たシオリの腕。そしてその腕は永久機関をしっかり握りしめていた。


「なっ…シオリの体が…勝手に動いたの!?」


 私は急いでイリナに回復魔法をかけて応急処置をするとシャルを構える。


――ようやくだ


「…!?」


 シオリの口が微かに動き小さく、しかしはっきり聞こえる声でそう呟いた。


――この日をどれ程待ちわびたことか!


 次の瞬間、結晶は粉々に砕け散り、中にいた少女がゆっくりと地面に足をつける。その瞬間、髪は銀色に、体は10歳ほどの少女に変わる。いや、あれが彼女の本当の姿…


「…わざわざ我の復活を手伝ってくれるとは…感謝するぞ、現在の管理者よ」


 見た目や声は少女のものだがこの威圧感と目眩を起こしそうな程邪悪な気配。彼女がシオリではないことは一目でわかった。


「お前は…誰だ!?シオリはどうした!」


 そこにいるシオリの姿をした“誰か”はニヤリと口元を歪める。その顔は少女のものとは思えないほど邪悪で、歪んでいて…


「我が名は“アベル”10年前、この体に取り付いてなんとか生きながらえたが…ふっ、なかなか面白かったぞ。必死に魔力を集めるそこの女を見るのは飽きなくてな。この体の持ち主の魂はおそらくまだこの世界をさ迷っているのだろうが…出会われたら面倒なのでこの建物に結界を張り、さらに幻術を使って惑わすことでなんとか今まで上手く事を運べた…ククク…ハハハハ!」


 アベルの笑いと同時に黒い炎が立ち上る。全てを塗り潰すような黒炎の中心でシオリの体に取り付いた“ソレ”は笑い続けている。


「主!!」


 ちょうどその時に守護者であるフィーレと、少し遅れて朔夜が気絶したリリィを抱えてやってきた。


「…あ…ああ」


 フィーレは目の前の光景に言葉を失い、朔夜も唖然としていた。


「朔夜、イリナの治療を!できるだけ急いで!応急処置はしたけど出血が酷い!」


「わかった!」


 私は視線を外さないようにしながら朔夜へと指示を出す。


「ククク、さあ…始めようか!我が復活を祝う戦いを!アハハハ!」


 少女の姿をした悪魔は楽しそうに両手を広げて…


―今ここに開戦を宣言した。




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