3-5リリィVSフィーレ
だいぶ遅くなりました!すいません!
―リリィSide―
「はぁ!やぁ!」
私が放った炎弾を相手は次々と回避していく。戦いが始まってからずっとこの繰り返しだ。
相手はイリナの守護者フィーレ。無表情で戦闘が始まってから一言も喋っていない。
どうも私からすれば相手にしにくいタイプであるために若干だがイライラがたまっている。
私は戦闘の経験が一度しかない。おそらくエルダと契約して天使の力が使えていなかったら勝負にすらならないだろう。
私はどうするか考えながらも炎弾を休みなく放ち続ける。フィーレは回避に専念しているので今のうちに何かしらの作戦を考えなければならない。
そんなことを考えているとフィーレが大きく跳躍した。ふわりとした動きの10メートル程のジャンプ、私は着地地点に狙いを定める。
「フレイムランス!」
私が放った炎の槍はフィーレが着地した場所に命中し爆発した。
「これでちょっとはダメージを受けて……くれないかぁ」
爆発によって舞い上がった土煙が晴れると、そこには無傷のフィーレが立っていた。
「うわぁ、何となくわかってはいたけどちょっとショックだよ…」
私がため息をつくとフィーレの口が僅かに動いた。
「……お前は私には勝てない。諦めろ」
やっと喋ったと思ったらそんなことを言ってくるなんて…
「絶対に嫌だね。私はエルダを守るって決めたんだから諦めるなんて選択肢は最初からないよ」
私にだって意地というものがある。一度言ったことは守るのが私の性分だ。
それに、エルダのためにも強くならないとね。
「そうか、では私も少々本気を出そう」
フィーレの周りに魔力が集まるのがわかる。何かでかい魔術を使うつもりだなのだろう。
私は詠唱の妨害が間に合わないと判断して距離をとりつつ攻撃に備える。
「…惑え、結界魔法『迷いの森』」
次の瞬間、私の見ていた景色に突然木が現れ次々と増えていく。あっというまに私の周りは辺り一面鬱蒼としげる森となっていた。
「…結界魔法か、厄介な魔法ね」
結界魔法は周りの環境や状態を変化させる魔法であり、ほとんどが使用者に適した環境になる場合が多い。
「森の木が邪魔で敵の位置がわからない。探知魔法も……駄目ね」
探知魔法を使えば何とかなるかと考えたが結界全体から魔力を感じるのでわからない。
私がどうしようか考えようとした瞬間、突然大量の魔力弾が降り注いできた。
「うわっ!?」
私は咄嗟に近くの木の後ろに回り込む。魔力弾の威力はそれほど強くはないようで木はえぐれてはいるが倒れはしなかった。
といっても生身の状態で当たれば怪我では済まないかもしれない。私は死なないがしばらく動けなくなる可能性もある。
そうなればエルダの手助けができない。まったく…厄介な相手と戦うことになったわ…
「いっそのことこの森焼き払おうかしら…」
いやいや、そんなことしても無駄だろう。結界魔法で作られた森なら結界ごと破壊しなければいくらでも修復できる。
逆に燃やして脆くなった木を盾にしようものなら一緒に撃ち抜かれる。
「うわぁ…面倒だなぁ…」
考えるのも鬱になりそうなので私は飛んできた魔力弾からフィーレの位置を予想して炎弾を放つ。
すると今度は別の位置から魔力弾が飛んできた。慌てて場所を移動して炎弾を放つ。
こちらから敵の位置がわからない間は何をしても無駄になりそうなので少々考えを変えてみよう。
まずは敵の位置を確認することが必要かな?私は全力で森を走り出した。
場所を変えていくつも魔力弾は飛んでくる。場所を移動しているのか、それとも別の方法を使っているのか…
「う~ん、やっぱりいい方法が思い浮かばないなぁ…仕方ない」
私はちょっと大きめの木の後ろに隠れると詠唱を開始する。
「―集まれ、焔の力。我に従い、敵を撃ち抜け…」
私は魔力弾が飛んでくる場所に両手を向ける。
「バーニング…バスターー!!」
私が唱えた魔法は広範囲攻撃型の魔法、「バーニングバスター」簡単にいえば巨大な炎の塊を一直線に発射する魔法だ。
私の打ち出した炎の塊は木々を薙ぎ倒しながら魔力弾が飛んでくる方向へと進んで行く。しばらく進むと魔力弾が飛んでこなくなり、今度は左の方から飛んでくるようになった。おそらく場所を移動したのだ。なら…アタリか!
私は右手を前に突き出すと、左へと流すように動かす。
「……曲がれ」
炎塊は私の腕の動きに合わせる様に左へと向きを変えた。この魔法は使用者の意思により自由に進行方向を変えることができるのだ。
私は魔力弾を飛ばしているであろうフィーレがいる場所を予測してそこへ炎塊を飛ばす。魔力弾は私から炎塊へと標的を変えた。おそらく打ち落とすつもりなのだろう。
「残念…もう、遅いわ!」
広げていた右手にぐっと握りしめる。
「弾けろ!!」
次の瞬間、炎塊は一瞬膨らんだかと思うと辺り一帯を巻き込みながら爆発した。赤い炎が周りの木々を焼き尽くし、一人の人影を浮かび上がらせる。
「見つけた!」
私は今ある魔力の半分を込めたフレイムランスをその影へと投げつけた。
「いっけぇぇぇぇ!!」
私の渾身の力を込めた炎の槍は吸い込まれるようにフィーレへと迫り、彼女の胸を貫いた。
「はぁ…はぁ…やったの?」
私は魔力の急激な消費による疲れで少しクラクラする頭を抑えながら倒れた彼女へと近づいた。
間違いなく倒れているのはフィーレだった。目を閉じて俯せに倒れている。背中には私の攻撃による穴が空いている。胸から背中に貫通した穴から地面が見えていて本当に攻撃が当たったんだと実感する。
「勝った…」
私は安堵のため息をつくと深呼吸をして乱れた息を整えた。これでエルダを助けに行ける。そう思うと嬉しさが込み上げてくる。
私は早速エルダの所へ行こうとして――そこで小さな違和感を覚えた。
「……あれ?」
何かが…おかしい?
何故か安心した心が再び不安に染まっていく。何かが足りない…足りない?
フィーレは今私が倒した。実際、彼女の死体はここにある。それなのに何故?
周りを見渡すが木々が茂っているだけで何もないし……ん?木々が…ある?
――そして、私は気がついた。結界が今だに破られていないことに…
――彼女の背中から胸にかけての穴から地面が見えているのに“血”が流れていないことに…
――そして、初めて人を殺したという実感がない…というより感じられない。まるでこれが“生物”ではないかのように
私がその事に気がついた瞬間――
――ドスッ
「あっ……」
胸に何かが入り込む感覚がして、ゆっくりと視線を下げる。
――そこで私が見たのは私の胸から突き出ている血まみれの腕だった。
「え?………あぐっ!!」
突然の痛みと口の中いっぱいに広がる生暖かい液体を意識してから私はようやく誰かに背後から貫かれているんだと理解した。
「そ…んな、誰…?」
私が力を振り絞って振り返って見たのは、たった今倒したはずの敵――無表情で私を見ているフィーレだった。
「な、なん…で…」
「まだわからないのか?それは私が作り出した幻だ」
「ま……ぼろ…し?」
私が顔を前に向けると、目の前に倒れているはずのフィーレはまるで陽炎のように薄くなり消えてしまった。
「ここは私の結界、『迷いの森』の中だ。この結界は名前の通り相手を迷わせる。お前は最初から私の幻と戦っていたんだ」
「そ…んな」
「実際、私は結界を発動してから一歩も動いていなかった。お前が攻撃している間ずっとな」
私が戦っていたのが幻?…まったく気がつかなかった。私は最初から彼女の手の平の上で踊らされていたのだ。
「残念だったな。最初にも言ったが、お前では私には勝てない」
「は…はは、なん…だ……結構…喋るん…だね……あんた……」
私の言葉にフィーレは顔をしかめると勢いよく腕を引き抜いた。ビチャッと、大量の血が地面に落ちる音が聞こえるのと同時に私は地面に倒れていた。
「…ふん」
フィーレは私の血で染まった右腕を自分の服で適当にふくと私にはもう興味が無いとばかりに背中を向けて歩き出した。
視界がぼやけていく。血を流しすぎたからだろう。私は死なないが…厄介なことに心臓を潰された。心臓は魔力を貯める役割があるから、ここを潰されたら魔力が行き渡らなくなり再生に時間がかかる。
フィーレは下へと降りる階段へと歩いて行く。あの先にいるのはエルダとイリナ。このままフィーレを行かせたらエルダが危ない。
「(う…この、動いてよ!私の体!)」
私は体を動かそうと必死に力を入れようとするが、体は言うことをきかない。視界ももう半分しか見えていない。
「(動けぇぇぇぇ!!)」
必死に力を入れて立ち上がろうとする。しかし、いくらやっても体は動かなかった。
「(ごめん…エルダ)」
心の中でエルダに謝る。悔しくて悔しくて仕方ない。せめてフィーレに一撃だけでも…
――いい?リリィ、なるべく封印は解かないでね?貴女はまだその力に慣れてないんだから
「あ…」
ふと、依頼を受ける前にエルダと交わした会話を思い出した。
私の中に眠る天使の力。まだ契約したばかりで慣れていないから、という理由で殆ど封印されている。現在使えているのはほんの一部。傷の再生と魔力の限界量を増やす程度だ。
「(もし、封印を解いたら…)」
まだ力に慣れていない私がどうなるかわからない…でも、エルダを守るためなら…私は……
―SideOut―
―フィーレSide―
私は標的の天使の眷属である少女と戦った。黒髪にエメラルドグリーンの瞳が印象的な少女で、よく喋る私の苦手なタイプだった。
魔力量は私と同じ…いや、それ以上だった。魔力のぶつけ合いなら私が負けていただろう。ただ、彼女は戦闘の経験が少ないようで、私の幻術にあっさりと翻弄されていた。
はっきり言って、私と戦うには経験不足だ。あっさりと背後に回り込むことも許していたし、私の攻撃に最後まで気がつかなかった。私と互角に戦うにはあと10年程足りない。
私は彼女に背を向けて歩き出した。主の手伝いに行かなければならないからだ。流石に一人で天使を相手にするのは無理がある。
私が階段を降りようとしたその時、背後から強力な殺気が私に向かって放たれた。
「!!」
私はその殺気に一瞬だが気圧されてしまい、慌てて振り返る。
「…なっ!?」
そこには胸から血を流しながらも俯いて立ち上がっている少女がいた。
「馬鹿な…」
私は思わず呟いていた。彼女が先程までとはまるで別人のような魔力をまとっていたからだ。
「いったい何をした…?」
私の問い掛けに彼女は答えない。そのかわりに右手をゆっくりと持ち上げていく。
「第一の封印…解除」
彼女の言葉から私は彼女が自分に何らかの封印をしていたのだとわかった。今感じている巨大な魔力も封印を解放して抑えていた魔力を解放したため…
「――我は願う」
彼女が詠唱を始めたのを感じて、私は咄嗟に魔力弾と植物の蔓を鋭く伸ばして彼女に放つ。しかし…
「――紅蓮に輝く焔よ、我が意志に従い此処に集まりたまえ」
彼女の周りに現れた紅蓮の炎が私の攻撃を掻き消した。私が驚愕する間にも彼女の詠唱は続く。
「――その力を一振りの剣に変え…今、此処に顕現せよ!」
俯いていた彼女が顔を上げる。その瞳はこれまで見たどの戦士よりも力強く、輝いて見えた。
―SideOut―
―リリィSide―
全身に力が溢れる。魔力が無限に湧いてくるみたいな不思議な感覚。しかし、同時にちょっとでも気を抜いたら大きすぎる力に飲み込まれそうになる。
胸が痛むのを無視して私は一つの魔法を発動させる。私が知る中で一番の破壊力を持つ魔法。まだ使いこなすのは無理だが彼女に少しでもダメージを与えることができればいい。私は呼ぶ、全てを焼き尽くす剣を――
「全てを灰燼と化せ―――炎の魔剣・レヴァンティン!!」
私は目の前に現れた紅蓮の炎で作られた剣を持つと、勢いよく横薙ぎに振り抜いた。
「はあああああぁぁぁぁぁぁ!!」
その瞬間、私の目の前は紅蓮の炎で埋め尽くされた。私を中心として放たれた炎はフィーレの張った結界をあっさりと破壊し、彼女も巻き込んで辺りを焼き尽くした。
しばらくして炎が消え、少し離れた場所でボロボロになったフィーレが地面に片膝をついた状態で苦悶の表情をしているのが見えた。どうやらちゃんとダメージを与えられたみたいだ。
「はは…どうだ、私だってやればできるんだから」
封印を掛け直した私は体を支える力がなくなって後ろに倒れていくのがわかった。
「少しは…役に…立て…た……か…な?」
「うん、十分だよ。お疲れ様、リリィ」
突然落下の感覚がなくなり、誰かに抱きしめられたんだ…と、わかった私は目を僅かに開く。
そこには、自分よりも長い黒髪をなびかせた女性がいた。いつもしている眼帯は無く、真っ赤な右目がこちらを見ていた。血を連想させる真紅の瞳…
でも、この時の私はその瞳を綺麗だと感じた。そして、彼女の微笑む顔を見て私は一言呟いた。
「後は…よろしくね……朔夜」
「ええ、任せなさい」
朔夜の言葉を聞いて私は今度こそ意識を手放した。