3-4オーズVS朔夜
両儀式ネタがたくさんあります。彼女のファンの方々、ごめんなさい!(汗)
工場跡に響く刃物がぶつかり合う音。その中心にいるのは黒髪で眼帯をした女性…朔夜。
そして青い髪をした鋭い目つきの男…オーズ。
朔夜はナイフを、オーズは氷の剣を振り、お互いに切り結んでは離れるというヒットアンドアウェー戦法を続けていた。
「…さて、私としても早々と決着をつけたいし…そろそろお互いに真剣になりましょう?」
朔夜が様子見は終わりだと言わんばかりに左手をひらひらとさせる。
「ふん…いいだろう。我としても早々と主の加勢に行きたい。貴様と遊んでいる暇はない」
オーズの言葉に少しばかり笑みを浮かべ、朔夜はナイフを構え直す。持ち方を逆手持ちに変えて腰を落として姿勢を低くする。
「なめてるなら痛い目を見るわよ?」
「ふん、安心しろ。すぐに終わる」
「そう…じゃあ」
朔夜の体を紫電が包み込む。そして一気にオーズへと走り込む。
「はっ!」
オーズは気合いの入った突きを放つが朔夜は体を捻りながら跳躍。
「がら空きよ?」
空中で一回転しながらオーズの首筋に一閃。
オーズは横に転がり回避すると着地した瞬間を狙い剣を振り下ろす。朔夜は振り向きながらナイフでそれを弾くとスルリとオーズの真横をすり抜けて後ろに回り込む。
「そらっ!」
「チッ!」
流れるような斬撃を放つ朔夜の攻撃をオーズは全て防ぐ。
朔夜は一旦離れるとナイフを構え直す。
「なかなかやるわね…流石は守護者かしら?」
オーズも剣を構え直しながら朔夜を睨む。
「ふむ、認識を改めよう…貴様は強い。故に全力で相手をしよう!」
それを聞いた朔夜はクスクスと笑いながらも鋭い視線をオーズへと向ける。
「嬉しいわね。貴方、負けた経験は?」
「無いな…我は主のためにも負けられぬからな」
「そう…」
昨夜はナイフをしまうと別のナイフを取り出した。柄は青く鍔はない。片刃のナイフ…というよりは短刀に近い。
「じゃあ私が最初に貴方に勝つことになるのね?」
朔夜の言葉をオーズは鼻で笑った。
「ふん、貴様何様のつもりだ?神にでもなったつもりか?」
「神?…ふふ、ふふふ…あはははは!」
突然笑いだした朔夜をみてオーズは顔をしかめる。
「…何がおかしい?」
「いえ、私が神ねぇ…考えたら可笑しくて。……だって」
朔夜は先程と変わって真剣な顔をしてオーズを見る。
「私は神を殺したいほど憎んでいるもの」
その言葉と同時に朔夜から魔力が放たれる。巨大で強く、しかしどこか悲しい紫色のオーラ。
「神が憎い…か。神殺しでもしたいのか?」
神は存在する…しかし誰も倒せない絶対の存在。それを殺したいと言う女性を見ながらオーズは自然と口を開いていた。
「…ええ。ちょっと昔いろいろあったのよ。…あの時、私は自分の意思で生きていくと決めた…邪魔するなら」
あまりにも自然に、そしてあまりにも自信満々に、彼女は呟いた。
「…神様だって殺してみせる!」
その彼女の顔を見たオーズは無意識に自分が震えているのに気がついた。恐怖からではなく、強い者と戦えるという歓喜の震えだった。
(おもしろい)
オーズは心の中でそう呟いていた。過去に何があったかは知らないが、神を殺してみせると平然と言いきった彼女の実力を見てみたい。純粋にそう思った。
「そうか、だがそんな言葉は我に勝ってから言うことだな!」
オーズは地面に拳を打ち付ける。すると巨大な氷柱が地面から突き出し朔夜に向かう。
朔夜は迷わずその沢山の氷柱の攻撃へと走り込む。体を捻り、時には氷柱を蹴りで砕きながらオーズへと接近すると右から左へ低い姿勢から横薙ぎに一閃。
「一!」
オーズがそれを剣で受け流すと更に刃を返して右下へ一閃。
「二の…」
キンッと音がしてまたも受け止められるが構わず今度は右下から左上へとナイフを振り上げる。
「三!」
オーズは迫る刃を再び剣で受け止めようとした。しかし、それはできなかった。
「なに!?」
先程から朔夜の斬撃を受けても刃毀れすらしなかったオーズの剣があっさり切断されたのだ。慌ててバックステップで離れると朔夜はナイフをオーズに向けて笑う。
「さぁ、いつまで避けられるかしら?」
オーズは再び氷で剣を作り出すと朔夜に切り掛かる。朔夜はまるで剣など始めからないかのようにナイフを振る。
「…くっ!」
再び距離をとったオーズが剣に目を向けると先程と同じように切断されている。
「…神器か?」
「正解よ」
朔夜はナイフ型の神器『タッリアーノ・ア・ツェッペッティー』を握り直す。
「成る程『切断』の効果を持っているのか…」
オーズは切断された剣を捨てると両手に魔力を集める。
「…では遠距離から攻撃させてもらおう」
オーズが両手を真上に向けると空中からいくつもの氷柱がふりそそいだ。
「…くっ!」
朔夜は体を捻ったりナイフで弾いたりするが氷柱は小さくダメージが少ないものだが予想以上に数が多かった。
「(数で押し切るつもりなの?)」
次々迫る氷柱を弾きながら朔夜はゆっくりと後退する。
しかし氷柱のせいで視界が悪く下手に動くのは危険だと朔夜は判断した。
「まずは…この攻撃を止める!」
朔夜は全身にかけている紫電による身体強化の魔術を周りにむけて解放する。
その衝撃で氷柱は全て吹き飛び視界も良好になる。しかし、そこで朔夜が見たのは巨大な氷の弓を構えてこちらを狙うオーズの姿だった。
「しまっ…!」
慌てて回避しようとしたが間に合わず、朔夜の胸の中心をオーズの腕ほどの大きさの氷の矢が貫く。
「がっ…!」
そのまま衝撃で背後の壁まで吹き飛ばされた朔夜に追い撃ちとばかりに大量の氷柱が撃ち込まれる。
舞い上がった埃が風で流され朔夜の様子が見えるようになるとオーズは感嘆の声を上げた。
「ほう、まだ生きているか…」
「生憎、体が丈夫なのが取り柄なのよ」
朔夜は体中に氷柱が突き刺さった状態にもかかわらず平然としていた。
「まぁ…痛いものは痛いけどね」
体中の氷柱を抜く度に血が吹き出るがすぐに傷は塞がった。
「さて、お返しをしなきゃね」
朔夜は紫電を纏うと地面に片手をつく形で姿勢を低くするとオーズとの距離を一瞬で詰める。
「紫電~乱れ桜~」
すり抜けざまに20回程の斬撃を繰り出す。しかし、朔夜は顔をしかめて距離をとった。
「なかなか速いが全て見切った」
「………」
朔夜は今度は突きの構えをとると再びオーズへと走り込む。
「紫電~嵐雪~」
今度は無数の突きを放つがオーズは目の前に氷の壁を作り出し朔夜の視界を遮るとその隙にバックステップで離れる。
「…面倒だわ」
思わず朔夜が呟く。オーズは朔夜の動きを少しずつだが見切り始めていた。
「(早目に決着をつけなきゃ…)」
朔夜はオーズの周りを回るように走りだすとフェイントを混ぜながら斬撃を繰り出す。しかしオーズはその一つ一つにしっかり対応してくる。
「どうした?お前の力はその程度か?」
朔夜は攻撃を一旦中断すると両手に紫電を集めてナイフを何本も作ると一斉にオーズに投げつける。
「ふん、こんなもの……」
オーズがそれを素手で弾く。
「かかったわね」
「なに?……っ!?」
オーズが弾いた紫電のナイフから電撃が放たれオーズが動きを止める。その隙を朔夜は逃さなかった。
「紫電~乱れ鐘楼~」
オーズの懐に入り込んでの連撃。手応えを感じた朔夜が一旦距離をとろうとした瞬間
「結界~悠久凍土~」
「…!?」
辺り一面が氷に覆われ氷柱が無数に突き出してきた。
「結界!?…まさか」
朔夜が先程攻撃したオーズを見るとまるでガラスのように皹がはいりそのまま崩れ落ちた。
「かかったのは貴様の方だ」
朔夜は舌打ちをするといつ攻撃がきてもいいように身構える。
「いくぞ、いつまで立っていられるかな?」
突然目の前にオーズが五人現れて一斉に攻撃をしてきた。
朔夜は一番近いオーズの攻撃を受け止めようとするがまるで実体がないかのようにすり抜け、かわりに左側から蹴り飛ばされた。
「…くっ!!」
慌てて態勢を立て直すが更に三体増えたオーズが襲い掛かる。
「(たぶん本物は一人、他は光の屈折を利用した幻…)」
朔夜は攻撃を避けつつ周りの氷柱を切ると四方に蹴り飛ばした。氷柱がぶつかることで周りの氷に皹が入り、若干幻の姿が歪んだので目を凝らしてオーズ達を見る。
すると一人だけ姿が歪んでいないオーズを見つけたのでそこに魔力弾を放った。
「ほう、考えたな」
魔力弾を弾きながらオーズ達が再び襲ってきた。
「(このままじゃじり貧になる…この結界を破壊しなきゃ)」
朔夜が結界の壁に向かってナイフを振る。
「させんぞ!」
「!?」
顔を狙って右からきた氷柱を顔を逸らすことで回避しようとするが掠ってしまい眼帯が外れた。
「………」
右目を押さえながら朔夜は距離をとった。
「さて、いい加減諦めろ。貴様は俺には勝てない」
「………」
朔夜は右目からゆっくりと手を離す。そこから見える右目は血のように真っ赤な色をしていた。
「…いいわ、私もそろそろ終わらせたかったし」
朔夜がナイフを構える。戦い始めてから何度も見た構えだがオーズは何故か“違和感”を感じていた。
「なんだ…何かが違う?」
オーズがそう思った瞬間
目の前から朔夜の姿が消えていた
「…なっ!?」
慌てて辺りを見渡すが朔夜の姿はない。
そして、突然オーズは体中を切り刻まれた。
「がっ…!?」
同時に結界も消えて目の前にはいつの間にか再び朔夜が立っていた。
「き、貴様…何をした!」
朔夜は静かに笑っている。それが屈辱だったのかオーズは魔力を一気に解放させる。
「がああああぁぁぁ!!」
オーズは巨大な氷の爪で朔夜に切り掛かる。朔夜はナイフをオーズの目の前にほうり投げた。オーズがそれに気をとられた瞬間、腰にさしてあった普通のナイフを手にとる。
「戦いの途中で冷静さを失うなんて…平和ボケしすぎじゃないの?」
朔夜は片手を地面につけると右目を一度閉じて再び開く。
その瞳は先程の血のような“紅”ではなく、空のように“蒼”かった。
「……見えた」
二人がすれ違う瞬間、朔夜の呟きだけが妙に響いた。
そして、オーズの左腕が宙を舞い、彼はその場に崩れ落ちた。
「安心しなさい…腕一本だけにしてあげる」
朔夜はそう言うと投げたナイフを回収し、一瞬でその場から消えた。
「…我は負けたのか」
朔夜がいなくなった後、オーズはぽつりと呟いた。ただのナイフでは切れないはずの腕を切られたこと、そしてあの紅と蒼の目…
「…そうか、彼女が“魔眼”の使い手…“時”と“直死”の魔眼を使ったのか…無謀な…勝負だったな」
誰もいなくなった工場跡でオーズは一人笑った。彼の顔はどこか清々しいものだった。
朔夜は複数の魔眼を使えます。今回使ったのは“時”の魔眼と“直死”の魔眼です。他にもありますのでお楽しみに。