3-3 心の傷
ちょっと短いです
少女が一人、地面に座りこんでいた。その少女の目の前で研究所のような建物が炎に包まれていた。
「君!危ないから離れるんだ!」
火を消すために走り回っていた大人が少女に駆け寄る。しかし少女は動かない。
「何でここに?親は何処だい?」
少女はゆっくりと燃えている建物を指差した。
「……っ!!そうか、でもここは危険だ!離れるよ?」
男性は少女の手をとって走り出した。
「あ…いや!離して!お父さんとお母さんが!」
少女の必死の叫びは森の中へと消えていった。
二日後、研究所があった場所はただ瓦礫が積もっているだけの廃墟になっていた。
「………」
そこに黒髪の少女がやって来て瓦礫の一つに座る。
「…ただいま、お父さん、お母さん」
少女はそう言って空を見上げる。少女の目には生気が無く、虚なままずっと空を見上げていた。
それから毎日、少女はこの場所に通い続けた。
そして一年が過ぎた。
「ただいま…お父さん、お母さん」
いつものように瓦礫に座って周りを見渡す。一年間もそのままだった研究所跡は雑草で覆われ始めていた。
「ねぇ…今日は私の誕生日だよ?…私、10歳になったんだよ?」
少女の呟きは誰にも聞かれることなく空へと消えていく。
ガサッ
「……?」
不意に近くの茂みから音が聞こえたのでゆっくりとそちらを向くと、大型の狼の姿をした魔物がいた。
「……」
少女は近づいてくる魔物に興味が無いという視線を向けていた。魔物は少女に近づくと口を開けた。
「(…死んだらお父さんとお母さんにあえるかなぁ)」
少女がそんなことを思いながら迫る牙を見つめていると
「…貫け」
可愛らしい…しかし力強い声が響いた。
そして目の前にいた魔物の背中を光の槍が貫いた。
「……?」
少女が戸惑うような表情をしていると空からゆっくりと人が降りてきた。
「危ない危ない…怪我はない?」
長い銀髪に金色の瞳、そして背中から白い翼を生やした少女がそこにいた。
「…天使?」
少女が呟くと天使の少女は笑顔で頷いた。
「私、シオリっていうの!あなたは?」
少女は不思議と素直に口を動かしていた。
「私は…イリナ」
二人の少女、イリナとシオリはこうして出会った。
―回想終了―
イリナはシオリとの出会いを思い出しながらもエルダを見つめていた。
「シオリが…死んでるって本当なの!?」
エルダの言葉にイリナは頷く。
「じゃあ…私が話をしたあの子は誰だったの?」
「…シオリはここにいる!私とずっと一緒だった!あなたが会ったのは偽物よ!ありえない!」
イリナは肩を震わせてエルダを睨む。
「シオリが私を止めようとするはずがない!だって、私はシオリを生き返らせようとしているのよ!?シオリだって…もっと生きていたいと思ってるはずよ!」
イリナは右手を前に突き出すとそこから黒い矢がいくつも発射される。
「…っ!!」
エルダは反射的に近くの柱に身を隠す。
「(あれは闇の魔術?そんな…普通は使えないはず…まさか)」
エルダは柱に隠れたままイリナに向かって口を開いた。
「イリナ…シオリはひょっとして天使だったの?」
エルダの言葉にイリナの動きが止まる。そしてしばらくの沈黙の後、イリナは左手を前に掲げる。その中指には黒い指輪がはまっていた。
「…そう、シオリは天使だった。そして私は彼女の眷属」
イリナの背中から黒い翼が現れる。
「シオリを生き返らせるための最後のかけら…貴女の心臓、貰うわよ!」
エルダは咄嗟にその場にしゃがむ。するとさっきまで自分の心臓があった位置を黒い槍が柱ごと貫いていた。
「…私の心臓!?」
柱から離れてイリナを正面から見つめる。
「そう、私が作ろうとしているのは心臓のかわりになる永久機関。その材料の最後の一つが天使である貴女よ!」
「…くっ!」
イリナの闇の槍とエルダの光の槍がぶつかり合う。
その頃、地上の工場入口で銀髪の少女が扉を開けようと手を伸ばすが見えない壁でもあるかのように弾かれてしまう。
「イリナ、もう止めて…このままじゃあなたは…」
金色の瞳を悲しそうに細めながら少女は再び中に入ろうと手を伸ばし続けた。
次回から本格的に戦闘を入れていきたいと思います。