特別話 黒の訪問者
反省も後悔もしておりません!
べ、別にやってみたかったとかじゃないんだからね!
シャルから昔話を聞いた翌日、エルダとリリィは街のギルドのカウンターにいた。
「ねぇ、エルダ。何でギルドに来たの?」
首を傾げるリリィにエルダは溜息をはく。
「リリィ…食料にしても何にしてもお金は必要でしょ?だからここで稼ぐのよ」
エルダの説明にリリィはなるほど、と呟いた。
その後、登録の手続きを済ませてから二人は森に向かった。
「初めての仕事だね」
「…そうね」
今回受けた依頼は森に住むフェンリルという大型の魔物の討伐である。
「フェンリルは夜行性らしいから夜まで待つわよ」
二人は他の魔物に襲われないように木の上に登り、そのまま夜になるのを待つことにした。
「ギルドを出たのが 夕方だったからすぐに夜になるわね」
そう言うとエルダは夕焼けに染まる空を見た。しばらくそうして二人で綺麗な空を眺めていると、
突然森に狼の遠吠えが響きわかる。
「……!」
「…来たわね!」
二人は木の上から飛び降りると遠吠えが聞こえた方向に走り出した。
「ちょっと早いけどさくっと倒して帰りましょう!」
エルダはリリィに向けて笑顔でそう言うとリリィは鼻を押さえながら頷く。
「……早く帰ってエルダと……うふふ」
リリィが増血剤を飲むのを見ないふりをしてエルダは再び前を見る。
少し開けた場所に出ると大きな白い狼と、それを囲むように小さな灰色の狼がいた。
「いたよ!あのでかくて白いのがフェンリルだ!」
その時、エルダは見た。フェンリル達の前に一人の人間が立っているのを。真っ黒な黒髪を腰まで伸ばし、真っ黒な服を着た少女だった。
「…いけない!」
エルダはこのままでは少女が襲われると思いシャルを右手に持つ。
その瞬間小さな狼達が一斉に少女に襲い掛かった。
「(間に合わない!)」
エルダがそう思った瞬間、狼達は一斉に血を噴き出して倒れた。
「……え?」
何が起こったかわからずにエルダとリリィが唖然とする。すると目の前の少女がゆっくりと振り返る。その真っ黒な瞳は吸い込まれそうなほどに綺麗だった。
「はじめまして、かな?エルダ、リリィ」
凛とした透き通る声で話した少女はニッコリと笑顔を見せる。不思議と違和感を感じさせない笑顔だった。
「…エルダ」
不意にリリィから声をかけられて振り向くと鼻から血を流したリリィが息を荒くしながら少女を見ていた。
「はぁ…はぁ…エルダ…あの子…襲っていいかしら…」
「リリィ!こんな時に何考えてるのよ!」
リリィを見ていた少女がクスクスと笑う。
「いいですよ?ただしあの魔物をどうにかしてからにしてくださいね」
「いいの!?」
少女の言葉に驚きつつも白い狼を見る。
「そうそう、私は夜っていうのよろしくね」
少女…夜は自己紹介すると何もない空間から日本刀を取り出すと魔物に向かって構える。
「…日本刀!?」
この世界にないはずの武器を持っていることに驚くが今は魔物を倒すことに集中することにする。
刀を納めたまま夜が走る。フェンリルは右の前足を振り上げると爪で夜を引き裂こうとする。
しかしフェンリルの爪は夜には届かずに終わる。振り下ろした前足は夜に触れる寸前でバラバラになったのだ。いつの間に抜いたのか手に持つ日本刀には血がべっとりとついている。
「……速い!」
エルダは驚いた。夜は一瞬で数十回も刀を振り回していたのだ。余程の者でなければ刀を一回振ったようにしか見えないだろう。
「夜ちゃんと少しでも長くイチャイチャするためにもさっさと倒れなさい!《フレイムランス》」
夜が足を切り裂いたために驚いていたフェンリルの顔面にリリィの魔術でできた炎の槍が直撃する。
「ガアアアアアア!」
フェンリルは顔面に攻撃を受けて完全にキレたようだ。するとフェンリルの目の前に薄い緑の壁ができる。
「エルダ、これは結界よ!」
リリィが叫ぶと同時に再びフレイムランスを撃つが防がれてしまった。
「…それなら!」
すかさず夜が走り込み刀を振るう。しかしその刃も結界に阻まれる。
「…くっ!固いわね」
エルダはシャルを前にかざして魔力を練る。あれを破壊するなら強力な威力の魔術を使うしかない。
「…刹那!いい魔術教えてくれてありがとね!」
ちょっと危ない発言をしたがお構い無しにエルダは魔術を放つ。
「《グラビティレーザー!》」
放たれた光は鈍い紫色で、結界に激突するとズンッと鈍い音を響かせる。
「さあ、質量を100倍にしたとっておきよ!いつまでもつかしら?」
すると結界にひびがはいりついにパリンという音とともに砕けるとレーザーはフェンリルの頭を消し飛ばた。
その後、フェンリルの爪と牙と毛皮を剥ぎ取り、報告は明日にして家に帰ることにした。
シャワーを浴びた三人はテーブルを挟むように座る。
「それで?あなたは何者なのかしら?」
エルダの質問に夜は笑顔で答える。
「私は別の世界の管理人です。ここには遊びに来ただけですよ」
エルダは無茶苦茶なことをする子だと思いながらも納得した。
「じゃああなたも天使なのね?」
「ええ、そうです」
そういうと夜は翼を見せる。色は見た目とは反対に真っ白だった。
「それで、今日は宿もとってないですし…ここに泊めてもらってもいいですか?」
翼をしまいながら夜が尋ねる。
「ええ、構わないわよ?リリィもそれでいいでしょ?」
エルダがリリィに視線を向けるとリリィは既に夜をベットに押し倒していた。
「…って!リリィ何してるの!」
リリィは止めに入るエルダの腕を掴むとそのままエルダも押し倒す。
「ああ、こんな可愛い女の子が二人もいたら我慢できないじゃないの!」
そういうとリリィは夜の唇に自分の唇を重ねる。
「…ん……くちゅ……んあ……」
「……あっ……ちゅく……ん……」
それを見ていたエルダはしばらくもじもじとしていたが次第に涙目になりリリィに飛び掛かる。
「ずるい!私も!」
~ここからは音声のみでお楽しみください~
「エルダもやっと素直になったね~」
「ち、違うわよ……ってリリィ!そこはダメ…あっ…んああ!」
「私も手伝うよ…」
「ふえ?夜さん?待って…あっ…ああ!…だめ!…ひゃう!」
「夜さんって…意外と激しいんだね」
「うふふ…」
「じゃあエルダがイッたら交代ね?」
「…ええ」
「待って…あう!何で…ひゃあ!私ばっかり…ああ!」
「「だって可愛いんだもの♪」」
「そんな…あ!だめ!そこは…あっ!…だめ…」
「可愛いわよ…エルダ…」
「…ひっ…もう…ぅぁあああぁああああああああ!!」
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「お世話になりました」
小屋の入口で夜は深々と頭を下げた。
「いいのよ、気にしないで」
「…でも」
夜はベットにねているリリィを見た。まだ少し顔が赤く、幸せそうな顔をしていた。
「あれは私が悪いから…」
エルダは苦笑いを浮かべる。
「…ええ、まさか本気になったエルダがあそこまで激しいなんて…」
夜は顔を赤くしながら俯く。同じようにエルダも顔を赤くする。
「そ、それじゃあ…私はもう行くから」
そう言うと翼を広げて夜は空に舞い上がる。
「エルダ…また会いましょう?」
「…うん!」
エルダに手を振るとリリィによろしくと言って夜は空に舞い上がって見えなくなった。
「さて、リリィを起こさなきゃ!」
エルダは小屋の中に戻っていった。
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夜は赤くなった顔を深呼吸を繰り返して冷ますと右手を前に突き出す。すると真っ黒な扉が空中に現れひとりでに開くと夜はその中に吸い込まれるように消えていった。扉が閉まると真っ黒な扉はもうどこにもなかった。
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白と黒が混ざり合う世界に二人の人物が同時に現れた。
一人は真っ白なショートヘアーので真っ白な服を着た少年。
もう一人は長い黒髪を揺らす真っ黒な服を着た少女だった。
「…やあ夜どうだった?」
少年が少女に話し掛ける。
「うん、エルダもリリィも元気そうだったよ。白はどうだった?」
「ああ、由宇も神子も元気だったよ」
二人は笑い合うと白が手を前にかざす。すると一本のペンが現れた。
同じように夜が手をかざすと分厚い本が現れた。
白と黒が混ざり合う世界で二人は寄り添いながら呟く。
白「…さて」
夜「…次は」
二人は笑いながら本の空白ページにペンを走らせる。
白&夜「「どんな話を書こうかな?」」
最後に出て来た白の話は猫パニの方に載せてます。