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天使として…  作者: 白夜
16/49

過去編1-4 決着

 いよいよ決着です!



 シャルは少年を見つめる。愛されることを知らず、ずっと孤独な人生を送ってきた少年。


「…シグナス」


 シャルは彼の名を呼ぶ。しかしシグナスは答えない。彼の瞳には光がなく、ただ前を向いているだけだ。


「…シグナス!」


 シャルはもう一度名前を呼ぶ。今度は強く。するとシグナスは微かだが反応した。今だ瞳に光はないがシャルの方に顔を向ける。


「………てくれ」


 シグナスは小さく呟いた。彼の瞳から涙が流れる。シャルは彼が何を言おうとしたのかわかった。だからこそ何としても止めなければと思った。


「……僕を……殺してくれ」


 彼がそう言った瞬間、彼を包んでいた黒い炎がまるで意志を持つかのように襲い掛かってきた。それをシャルは横に回避する。


「………っ!」


 シャルは今まで自分がいた場所を見て驚く。石でできていた床が炎が触れた場所だけ消えた。いや、正確には蒸発したのだ。つまりあの炎は石をも蒸発させるだけの温度がある。少しでも触れようものなら一瞬であの世行きである。


「…これは…ラグナの炎の10倍は強いですね…」


 さすがのシャルも冷や汗を垂らした。魔術の暴走は使用者を気絶、又は殺すことでしか止められない。しかし、シグナスがいるのはこの炎の中心であり生身のシャルでは近づけない。


「…ならば!」


 シャルは手の平を前に突き出し詠唱をする。


「《大いなる水流、我に従い敵を討て!…アクアスパイラル!》


 シャルの手の平から巨大な水でできた弾丸が発射される。しかし、黒炎がそれを防ぐと水の弾丸はあっさりと蒸発する。


「…この程度では駄目ですね」


 黒炎を回避しながらシャルは舌打ちをする。黒炎はまるで蛇のようにシャルを追いかける。シャルは思いつく魔法を全て試すがどれも効果が無いようだ。


「…まずいですね」


 シャルは最後の手段を考えるがそれを使うかどうか迷っている。


 シャルは腰のベルトにぶら下げていた袋を掴む。


「……すいません、ラグナ。あの言葉…実現できないかもしれません…」


 シャルはラグナの顔を思い浮かべる。




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 初めて出会った時はとても爽やかな印象を受けた。青い髪に力強い体、優しい瞳。孤立していた私に初めて話し掛けた時の笑顔。


 私は初めて人を信じられるようになった。その後、ラグナの部隊の副隊長になって一緒に戦場を駆まわった。ラグナは強くて、誰にでも平等だった。私は彼を尊敬していた。


 そして…いつしか私達は兄弟のような関係になっていた。私はラグナを兄と思って尊敬すると同時に一人の女性として彼が好きだった。だからこの戦争が終わったら思いを打ち明けるつもりだった。


「…ちょっと早めに言ってしまったけど…」


 シャルは剣を構える。


―ラグナ、私が無事に帰れたら……―


 シャルはあの時の言葉を思い出す。


―私と一緒に生きてくださいね―





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 ラグナは砦から吹き飛ばされて少し離れた林の中にいた。


「……ぐっ!」


 落下の衝撃から上手く体を動かせない。


「……シャル!」


 ふらふらと立ち上がり何とか林を抜け出したラグナが見たのは壁がなくなった砦の最上階でぶつかり合う黒炎と金色に輝く光だった。






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-




 シャルは腰につけた袋から金色の水晶を取り出した。


《…限界突破(リミットブレイク)


 そう呟きながらシャルは水晶を握り潰す。その瞬間、金色の風が吹きあれる。


『さあ、終わらせますよ!』


 風が止むと、そこには銀色のドレスを着たシャルがいた。薄い羽衣を纏い、金髪の髪は羽の形をした髪飾りでまとめてある。その姿はまるで女神のようだった。


 これがシャルの最後の手段である、限界突破(リミットブレイク)である。長い間水晶に溜めてきた魔力を使って自分自身の存在を作り変えるというシャルが考え出した完全オリジナルの魔術である。


『この姿は長く持ちません。シグナス…今助けます!』


 黒炎の中心でシグナスはシャルを見ていた。その瞳に微かに光が宿る。「…助ける?…僕を?」


 シャルは頷く。


『…ええ、助けます。あなたはまだやり直せる』


 シグナスは首を振る。


「僕なんかが生きていたって…僕は誰にも必要とされない…家族さえいない。そんな僕が生きていたって……」


『ふざけるな!』


 シャルの怒声にシグナスは驚いて目を丸くした。


『…なぜそんなことを勝手に決めるんですか?あなたは自分のことばかりで周りを見てないんですよ!』


 右から迫る黒炎を光の玉で相殺させながらシャルはシグナスを睨む。


『そんな人を誰が助けるんですか!あなたは魔族の中ではまだ子供でしょう?ならもっと周りを頼りなさい!』


 シグナスは俯いて肩を震わせる。


「でも、僕には…もう…家族さえいない」


 シャルは俯くシグナスに優しく語る。


『なら…私があなたはの新しい家族になります』


 シグナスが目を見開いて顔を上げた。シャルは先程と違って笑顔だった。


『私があなたを支えます…それでいいでしょう?』


 シグナスの瞳から涙が溢れる。シグナスは初めて人の暖かさを感じたのだ。


『だから…終わらせます!』


 光を纏ったシャルがシグナスへと飛ぶ。すると黒炎がシグナスを奪われまいと塊となりぶつかってきた。シャルは黒炎からシグナスの負の感情を感じた。


『…やはり、シグナスの負の感情を吸い込み、ここまで巨大化したようですね…でも』


 シグナスは知った。人の暖かさを、黒炎は先程と比べるとあきらかに勢いがない。


『彼は前に進もうとしている……邪魔を…しないでください!』


 その瞬間、光が黒炎を吹き飛ばした。









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--







 砦の入口にラグナは立っていた。最後の激突から何も音がしなくなった最上階を見る。


「……シャル」


 そう呟くと目を閉じて再び待つ。すると聞き覚えのある声が響いた。


「……お待たせしました」


 ラグナが目を開くと彼女がいた。ボロボロの軍服で腕のなかにシグナスを抱き抱えて微笑んでいた。


「……シャル」


 ラグナは笑顔でシャルを抱きしめる。


「…あっ…ちょっと…シグナスもいるんですから…苦しいですよ…」


 慌てて体を離したラグナにシャルは笑顔を向けると、救護班にシグナスを預けてラグナの隣に立った。


「…心配かけてすみません」


 ラグナはシャルの頭を撫でながら微笑んだ。


「まぁ…色々言いたいが…今は休め」


 シャルは苦笑いを浮かべてラグナに寄り掛かる。


「…そうですね…ちょっと……疲れ…ま…した」


 シャルはそのままラグナに支えられながら眠りについた。


「…おやすみ…シャル」


 シャルの静かな寝息を聞きながらラグナは優しく微笑んだ。








 どうも、夏休みを満喫中の白夜です。


 皆さんも夏バテに気をつけてくださいね!


 それではまた次回をお楽しみに。




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