過去編1-3 戸惑い
キャラクタープロフィール(過去編2)
ラグナ・ クライラス
28歳
身長175cm
体重70kg
連合軍第7部隊の隊長でありシャルのパートナー。剣の腕は連合軍のなかでもトップクラス。魔術は主に炎を使う。
誰にでも平等に接するため、人気を集めている。シャルとは二年前に出会い意気投合。今では兄弟のように仲がいい。
シグナスが二人に向かって両手を振り下ろす。シャルとラグナは左右に別れて攻撃を回避する。二人がいた場所には深い引っかき傷のような跡がついていた。
「…なるほど、糸を使う…か」
ラグナは険しい表情をシグナスに向ける。シグナスはラグナを見てニヤリと口元に笑みを作る。
「なかなかいい動きですね。では、これはどうかな?」
シグナスはラグナに向かって両手をクロスさせるように振り下ろす。するとラグナの目の前に糸が編み目状になって向かってきた。
「……チッ!」
ラグナは舌打ちしながら炎の魔術を放つ。普通の糸なら簡単に燃え尽きるはずだがシグナスの糸は違った。
「…甘いよ」
糸は逆に炎を吸収して燃え上がる。
「…なに!?」
ラグナは大きく横に跳んで糸を回避する。そこにシグナスが右手を突き出す。その手からは糸を何十にも束ねて作った槍が放たれていた。
「……くっ!」
態勢が崩れているラグナは回避が間に合わないことを知って唇を噛む。すると横から金色の風が目の前に立ち塞がる。
「僕のことを忘れてませんか?」
金色の風の正体は髪だった。先程の攻撃でほどけた背中まである金髪をなびかせてシャルは糸でできた槍を剣で弾き飛ばした。
「すまない、シャル」
「いいんですよ。僕はあなたのパートナーですから」
ラグナの言葉にシャルは笑って返事をする。しかし、すぐにシグナスへと視線を戻す。
「おやおや、仲がよろしいことで…」
シグナスは興味がないとでも言うように溜息混じりで言う。
「じゃあ、二人仲良く死んでください!」
シグナスが手を上げると頭上にいくつもの糸が現れる。それは次第に集まり針のように鋭くなる。
「行け!」
シグナスが腕を振り下ろすと同時に何十、いや何百という数の槍が二人に襲い掛かる。二人は剣を構えて姿勢を低くするとまずラグナが右手を前に突き出して魔術を発動させる。
「《ファイアーウォール!》」
二人の目の前に炎の壁が立ち上り槍を防ぐ。この魔術は魔術だけでなく物理的な攻撃も防ぐことができる。そして、時間をかせいでいる間にシャルが素早く詠唱を始める。
「《現れよ水流、その力で敵を飲み込め!アクアスパイラル》」
ファイアウォールの一部を消し去りながらシグナスに向かって水の塊を発射する。シグナスはその水の塊を片手で弾いた。
「……なっ!」
その行動にシャルは驚く。今の魔術は城の城壁すら砕く程の威力があるのにシグナスはそれを片手で弾いてみせた。
「…一体どうやって」
その時、シャルはシグナスの手が黒い炎で包まれているのを見た。
「あれは…闇の!?」
シグナスがニヤリと笑う。闇の炎、それは魔族しか使えない炎。しかし使うにはそれなりの対価を払わなければならない。
「あなたは…そこまでして何をしたいのですか?」
シャルはシグナスを見つめる。シグナスから笑顔が消えて無表情になる。その瞳にはどこか悲しみが宿っている。
「僕は生まれてからすぐに捨てられて今まで色々な人を頼りにしてきました…」
攻撃を止めてシグナスは語り始める。ラグナもシャルの横に並ぶ。
「…でも、誰も僕にかまってくれなかった…魔族同士が駄目ならと思って他の種族に助けを求めたこともあったけど…。
どこでも結局同じだったよ。酷い時には利用するだけ利用して捨てられたこともあった」
シグナスは怒りで肩を震わせる。
「…だから、僕はこの世界に復讐しようと誓った。最初に殺したのは両親だったよ…この炎でね」
そう言うと手の平で燃える黒い炎を見つめる。
「呆気なく死んじゃったからつまんなかったよ…それから魔族のほとんどを殺して皆僕の操り人形にしたんだ…まぁ対価として片目が見えなくなって、更に寿命もだいぶ削られたけどね…」
シグナスは二人に向き直ると黒い炎を両手に纏う。
「さて、ちょっと話し過ぎたね…続きをしようか」
再び糸を構えるシグナスを見て二人も構える。しかし、シャルは心の中ではシグナスと戦いたくないという思いができ始めた。シグナスが家族を殺したと言った瞬間の寂しそうな顔が忘れられなかった。
シャル自身、今までそういう経験をした子供を何人も見てきた。今のシグナスは過激ではあるがそんな子供達と変わらない。
ただ自分を見てほしい。愛してほしい。しかしそれを伝えるすべがわからずに暴れることで周りにアピールをする。
シグナスも同じだ。ただ彼はいきすぎて戦争になってしまっただけ。そしていつしか目的を忘れて自分は世界を滅ぼすという考えだけに縛られてしまっただけだ。
シャルはシグナスを見る。糸を使いこちらを殺そうとしている。しかし、今の彼の瞳にはどこか寂しさを感じるのだ。
「…ラグナ、頼みがあります」
シャルがラグナに真剣な顔を向ける。ラグナはシャルの顔を見て何か考えたのだろうとすぐにわかった。
「なんだ?」
「僕一人で戦わせてください」
ラグナは驚くがシャルの真剣な目に小さく頷く。
「…無理はするなよ」
「…わかっています」
ラグナが一歩下がりシャルはシグナスと向かい合う。
「…シグナス」
シャルは初めて彼の名前を呼んだ。
「…なんです?」
名前で呼ばれたことに若干戸惑いながらもシグナスは返事をした。
「あなたは後悔していないのですか?」
シャルの言葉にシグナスはわけがわからないと言いたげな顔を向けた。
「…実は、両親を殺したこと…後悔しているのではないですか?」
シグナスの顔色が急に変わった。真っ青になりガタガタと震え出す。
「…違う、後悔なんて…」
あきらかにシグナスは動揺していた。シャルはやはり、と自分の考えが正しいことを確信した。
そう、シグナスは後悔しているのだ。自分の恨みや怒りで家族を殺して世界を混乱させたことに。おそらく本人は気づいていない。いや、気づいていないようにしているだけだ。
おそらく彼は自分を止めてほしかったのだ。だから連合軍でも特に強いと言われた二人の所に来て、自分の身の上を話した。
「本当はもう止めたいのでしょう?」
シャルがシグナスを真っ直ぐ見つめたまま言う。
「ち、違う!違う!違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!」
シグナスは頭を抱えてうずくまる。
「…今までずっと寂しいと感じていたのではないですか?」
ぴたりとシグナスの動きが止まる。
「…寂しい?…僕が?」
「ええ、本当は普通に友達と遊んだりしたかったんでしょう?」
シグナスは顔を上げてシャルを見ている。その顔は涙に濡れていてただの子供としか見えなかった。
「ぼ、僕は……僕をこんな目にあわせた世界が憎い…けど…人を殺すつもりはなかった……なのに…いつからか何も考えられなくなって…世界を壊せば楽になれると思って…」
シグナスは自分の両手を見る。
「…僕は…何でこんなことをしたんでしょうね…」
シグナスがそう呟いた瞬間。彼を中心に黒い炎がまるで爆発するかのように放たれた。
「シグナス!」
シャルが叫ぶ。シグナスは虚な目をしたままただその場に立ったままだった。
「これは…魔術の暴走だ!」
ラグナがシャルの隣に駆け寄る。
「…魔術の暴走」
シャルが慌ててシグナスを見る。
魔術の暴走は魔術を使用する人物の精神状態が極端に不安定になると発生する。魔術の威力や能力は使用者の精神によって決まる。
つまり精神が不安定になると魔術を支える土台がなくなり過剰に魔力が放出されてしまうのだ。その結果、本来よりも魔術の威力が上がり自分では制御できなくなってしまう。
「やばい!このままだとこの砦ごと吹き飛ぶことになるぞ!」
ラグナはシャルの手を掴んで急いで避難しようとするがシャルは動かない。
「…ラグナ、先に行っててください。僕にはまだやることがあります」
ラグナが驚くのを見ながらシャルははっきりと言う。
「…彼をもう一人にしてはいけないんですよ……彼には彼の人生があるんですから」
振り返ったシャルの肩をラグナは掴んだ。
「待て!お前まさかあいつと一緒に死ぬ気なのか!?」
シャルは振り返るとラグナに笑顔を見せる。
「…安心してください。“私”は死ぬつもりはありませんよ」
シャルはラグナの唇に自分の唇を重ねた。
「……シャル!?」
「私が無事に帰ったら--------」
最後だけ耳元で囁くとシャルはありったけの力でラグナを外に向かって吹き飛ばした。
「シャルーーー!!」
ラグナがシャルを呼ぶ声が聞こえたがシャルは何も言わなかった。ラグナが無事に外に出たのを確認してシャルはシグナスへと向き直る。
「さて、終わりにしましょう」
シャルはゆっくりとシグナスへと歩きだした。
最近色々な方々から感想をいただくようになりました。私としては嬉しいかぎりです。
これからも頑張りますので応援よろしくお願いします。