1-11 忍び寄る影
白夜「…合宿が…ここまで…つかいとは……がくっ」
エルダ「もうやめて!白夜のライフは0よ!」
ここのところ晴ればかり続いていた空も今日は厚い雲がかかり、今にも一雨きそうな雰囲気だ。
そんな空の下を歩くのはセミロングの黒髪を揺らした二人の少女、エルダとリリィである。
「何だか一雨きそうだね…洗濯物乾くかなぁ」
リリィの呟きにエルダもため息をつく。エルダは雨が嫌いらしく雲を睨んでいる。
「…魔法で雲なんか吹き飛ばしてやろうかな」
「…エルダ、大自然に喧嘩売るつもりなの?」
リリィが呆れた顔をしながらエルダをみる。
「…大自然に喧嘩かぁ、上等じゃないの」
諦めるどころか更にやる気になったエルダの態度にリリィは額に手をあててため息をはいた。
学校が見えるにつれて生徒の数も増えてくる。学校の入口が見えた時、不意に二人は足を止めた。
「……何?…あれ」
リリィとエルダの視線の先にあるのは掲示板。そこに固まる人、人、人。まさに人の大群。
あまりの数にエルダとリリィは唖然とする。
おそらく全校生徒が集まっているのだろう。
「……おい」
突然近くの林から声が聞こえて二人はビクリとして同時に振り返った。そこにいたのはリリィの幼なじみのサイ。
「…あなた、何してるの?」
あきらかに引いている二人にサイは慌てて首をふる。
「ち、違うぞ!?色々大変だから隠れているだけだ!」
サイに言われて渋々林の中に入った二人にサイは一枚の紙を手渡した。
「…なにこれ、校内新聞じゃないの」
この学校にも校内新聞は存在する。主に先生からの連絡や学校行事の連絡等に使われる。
「…その新聞の見出しを見てみな」
エルダとリリィは新聞の見出しを同時に見て、同時に固まった。見出しには『二人の天使あらわる!?~学生寮に入る天使らしき影を確認!!~』と書いてあった。
-内容-
『昨夜、我が学園の学生寮の屋上に二人の天使が降り立つのをある学生が目撃した。
その学生の話によると、二人はどちらもセミロングの黒髪をしており、背中には純白の翼があったらしい。魔術で作り出した可能性もあるが、その生徒によると魔術が発動している気配はなかったらしい。
我々は学生の中に本物の天使がいるのでは、という可能性にいたった。先日の平原での目撃情報もあるためすぐにでも調査を始めたいとおもう。
新聞部 』
二人が声をなくしていると、サイが更なる爆弾発言をした。
「ちなみに俺の記憶に間違えがなければ…この学校でセミロングの黒髪の女子はおまえらだけだ。つまり必然的におまえらが真っ先に疑われるわけだな」
サイの言葉にエルダ頭を抱え、リリィは木にもたれかかる。二人の周りに黒いオーラが見えるほど二人は落ち込んでいた。
「ところで、エルダはわかるがリリィに翼があるのはなんでだ?」
サイが真剣な顔で聞いてきたのでエルダは先日のリリィと契約した夜のことを話した。
「……そうか、まあリリィが決めたんなら俺は何も言わないさ。リリィがしたいようにしたらいいよ」
サイは普通に納得して、リリィを励ましていた。その後、学校には入らず湖でしばらくは過ごすことにした。とてもじゃないがあの学校に今は近づきたくない。
しかし、結局この行動は真実を認めて逃げたようなものである。結局、噂が更に広がり、それに行方不明の生徒の捜索も絡み。ついにはエルダ達を探し出そうとするやからが何人も現れた。
結局、この一週間だけで街全体に広がったこの話はこの街の貴族達の耳にも入った。
「ほう、天使か…そんなものが本当に存在するのか?」
豪華な部屋の真ん中にいかにも自分は地位が上だといわんばかりに着飾った男がいた。その男と向かい合うのは漆黒のドレスをきた女性。
女性は確かに目の前にいるのに妙に存在感が無い。まるでこの場には実際にはいないかのようだ。
「ええ、間違いなく本物よ。この街の学校に通っているわ」
女は振り返って出口に向かう。
「ああ、そういえば」
女は振り返ると男を指差す。
「彼女達が欲しいなら、全力で挑みなさい。あの子達は強いわよ」
そう言って女は部屋をでる。そのまま廊下を歩きながら小さく笑う。
もとよりあんな男に期待はしていない。女の目的は少女達を街から出して旅をさせることだ。
「そして、いつか私を解放してもらうわよ」
その言葉を最後に女は廊下から姿を消した。まるで最初からそこにいなかったように。
森の真ん中にある湖のほとりに小さな小屋が建っていた。これはエルダが物質創造の力で作ったものだ。
物質創造は思い描いた物を自在に作り出せる能力だ。しかし、旅に出る必要も予定もないエルダにはあまり必要ない。せいぜい壊れた家具を新しくするくらいだ。
「なんかエルダって反則的な力ばかり持ってるよね」
リリィが笑いながら呟く。
「そうかな?私はまだまだだと思ってるけどね」
そう言うとシャルを取り出し磨き始める。シャルは特別な剣なので錆びたりはしないが汚れはつくため、たまにエルダが磨いている。
『マスター、いつまでここにいるんですか?』
シャルがエルダに問い掛けるが、エルダは考える仕種をしてから肩を竦める。
「わからないわね。一応例の騒ぎが終わればいいんだけど……」
定期的に学校の様子を教えてくれているサイによると、
「今だに学校の騒ぎはおさまってない、フィアナが連絡欲しいってさ」
エルダは考えた末にに仲のいいフィアナ、シャーリー、ルイスにはこの場所を教えることにした。
サイは頷いて今日のところは帰ると言って帰っていった。
『そういえばリリィは僕の声が聞こえますか?』
リリィは首を傾げてあれ?という顔をした。
「そうか、リリィは私と契約したからシャルの声が聞こえるのか」
リリィが納得したように頷く。
「そうかぁ、この声がシャルさんの声かぁ」
エルダからすればシャルの声が聞こえるのが自分だけだったので少し嬉しい。
「改めてよろしくねシャルさん!」
『こちらこそ』
二人はすぐに意気投合したようだ。
「そういえばシャルさんは男ですか?女ですか?」
リリィが首を傾げた。確かにシャルは声が高くて女に思えなくもないが“僕”という一人称からエルダは男だと思っていた。
『僕ですか?…女ですよ』
「……は?」
エルダが口を開けて唖然としているとシャルがやれやれといった感じの声を出した。
『まあ、こんな喋り方だし僕って言ってるからわからないかもしれませんね』
そう言うとシャルは懐かしそうに自分のことを話しだした。
『僕はもともと人間でした。500年前に大きな戦争があったのは知ってますか?』
「えっと、確か“聖魔戦争”だっけ?」
リリィが歴史の授業中に習った名前を答える。
『そうです。あの戦争は狂暴な魔族とそれ以外の種族との間で起こりました』
シャルは遠い昔の記憶を呼び覚ます。砂塵舞う戦場に立つ自分の姿を。
500年前、確かに彼女はそこにいた。
白夜「今、合宿先のホテルから投稿しました」
エルダ「ちなみに白夜は何の部活してるの?」
白夜「私は剣道部なんです。一年生のうちは仕事が多くて大変です。洗濯とか大変で…」
エルダ「そうなんだ…」
白夜「合宿が終わったらペースも戻ると思うので、それまですいませんね。では次回をお楽しみに!」