第7話
セイントを守ること。
その使命を抱いて、これから全てを破壊する。
大半のケルベロス魔境学園の生徒達に罪はなく、あるのはケルベロス生徒会の者達だけ。しかし前に立つのならば全部まとめて轢き殺す。 皇スザクは正面から、堂々とケルベロス魔境学園に進軍する。
自治区はセイント総合学園とクーデター勢力によって一方的に破壊され、歯向かう者たちは一掃される。 確かにケルベロス生徒会はテロリストに手を貸したかもしれない。だが、それはあくまでケルベロス魔境学園の利益を追求したからにすぎない。 もっといえば、それはセイント総合学園のヒカリや皇スザクだって同じこと。
ケルベロス魔境学園に対してこうして大義名分こそあるものの破壊行為をしている時点で良い悪いの話は越えている。
だからこそ、轢殺した相手の想いも背負って、セイント総合学園に繁栄を齎すべく、どれだけ多くの犠牲を出してでも、ケルベロス生徒会とテロリスト達は討滅しなくてはならない。 そうしなければ、今まで踏みつけてきた者達の存在が無価値になってしまう。
故に最前線で銃を撃つ。全ての敵対勢力と罠と兵器を捻り潰して、ケルベロス魔境学園を蹂躙する。
徹底的に、圧倒的に、非人道的なまでの苛烈さで。「私は塵屑だ。政治で和平を結ぼうと考えて、行動してきたヒカリ様と影様のほうがよっぽど尊く輝いている。だからこそ彼女たちの努力を無駄にしないために、憂いは必ず断ち切る。
それがどれだけ涙を流させることになろうとも、必ず輝く明日に繋げてみせる。それが私の責任だ」 抵抗する者に容赦なく、降伏する者すら許さない。
様々な兵器や攻撃が放たれるが、気合と根性で耐え抜いて、全身を傷だらけにしながら前へ進む。
二つのスナイパーライフルを手に、その銃口は必ず強烈な覚悟とともに敵を撃ち滅ぼす。 戦場の空は、黒煙と絶叫に塗り潰されていた。
皇スザク、その名は神話の残響を帯び、ケルベロス魔境学園の焦土に屹立する。彼女の手には二丁のスナイパーライフル――その銃口は、まるで天の裁きの雷鳴を宿すかのように、冷たく、確実に命を刈り取る。
白亜の翼が背に広がり、敵の猛攻を弾く聖なる盾となり、彼女の不屈の意志を戦場に刻みつける。光の弾丸が放たれるたび、大気は裂け、轟音とともに戦車部隊の鉄壁が紙のように崩れ落ちる。
装甲は溶け、鋼鉄の巨獣は無残な残骸と化す。航空部隊が編隊を組み、彼女を葬らんと襲い来るも、皇スザクの銃口が一閃すれば、光の矢が空を貫き、機体は炎の華となって散る。
爆風が彼女の髪を揺らし、硝煙がその白い衣を汚す。だが、彼女は動じない。
「化け物め! 貴様なんぞにケルベロス魔境学園は渡さん!」
「神を気取るなら、その翼もぎ取ってやる!」
「死ね! 死んでしまえ、この怪物!」
ケルベロス魔境学園の生徒たちの罵声が、戦場の喧騒を突き破る。
彼女たち――血と汗に塗れた少女たちは、絶望の中でなお抗う。銃弾が雨のように降り注ぎ、火炎瓶が炎の尾を引いて飛来し、ガトリングの咆哮が空気を切り裂く。
彼女たちの憎悪は、言葉となり、刃となり、皇スザクの身を血で染め上げる。
鮮血がその白い衣を赤黒く汚し、傷は彼女の肉体を苛む。額を流れ落ちる血が視界を滲ませ、肩を貫いた弾丸が彼女の動きを一瞬鈍らせる。それでも、皇スザクは止まらない。
彼女の瞳には、燃え盛る決意と、どこか遠い神話の記憶が宿っている。 痛みは彼女を縛れず、血は彼女を弱らせず、ただその歩みを加速させる。気合と根性――それは人間を超えた何か、英雄の魂が宿す不滅の炎だ。
「進め、進め、進め」
彼女の心の内で響く声は、まるで古の神々が彼女を導くかのようだ。ケルベロス魔境学園の首脳陣、その最深部に潜む者たちを討つため、彼女は血と硝煙の嵐を突き進む。
重装歩兵の隊列が、絶叫とともに突撃してくる。だが、皇スザクのスナイパーライフルが唸り、光の弾丸が一閃。隊列の中央を貫いた光は、数十の兵を瞬時に塵と化し、地面に焦げたクレーターを刻む。
後方から迫る戦闘ヘリがミサイルを放つも、彼女の白亜の翼が翻り、爆炎を弾き返す。返す刀で放たれた光の矢がヘリの装甲を貫き、爆発の華が夜空を彩る。
「ふざけるな! 貴様ごときに我々の誇りが潰せるか!」
「ケルベロス魔境学園の意志は折れない!」
「この悪魔! 地獄に落ちろ!」
「貴様の正義など、所詮は血塗られた暴力だ!」
生徒たちの罵倒は止まない。彼女たちの目は憎悪に燃え、なおも抗う意志を失わない。投擲されたグレネードが足元で炸裂し、彼女の身体を切り裂く破片が血を引く。
ガトリングの弾幕が彼女の翼を削り、火炎瓶の炎がその髪を焦がす。それでも、皇スザクは進む。
戦場の中心で、彼女は一瞬だけ立ち止まる。血と硝煙に塗れた姿は、まるで古の戦神の顕現。次の瞬間、スナイパーライフルが再び唸り、光の弾丸がケルベロス魔境学園の最後の防衛線を粉砕する。
砲台は爆散し、バリケードは崩れ、敵の叫びは絶望の慟哭へと変わる。彼女の翼が翻り、戦場に新たな神話が刻まれるのも時間の問題だ。
誰かが言った。
「英雄だ」
「我らセイント総合学園の英雄!」
「聖騎士様に万歳!」
戦う姿が中継されているので、クーデター軍の最前線に立ち、攻撃を全て受け止めながら、血塗れになって進む姿に民衆は熱狂する。
テロリストに屈するな。
敗北者に屈するな。
善なる者に栄光が、悪なるものに破滅が訪れてほしい。
純粋に頑張るものが報われてほしいから。
我らもあの人の背中を追いかけよう。
それはセイント総合学園だけに伝播する現象ではなかった。他の学園や学院にも、平和の為に自らを犠牲にして突き進むその姿を応援するものは現れる。
「セイント総合学園に物資を送れ!」
「あの英雄を助けるんだ!」
「ケルベロス魔境学園のテロリストを滅ぼして!」
明確に落ち度のある悪がいて。
それに立ち向かうのは一人の凡人。数千数百の弾丸を浴びて、爆撃や火炎瓶、戦車砲さえ食らいながら気合と根性で突き進む光の英雄。
もともとケルベロス魔境学園はテロリストと呼ばれる無法者を多く抱えていたのでヘイトも高かった。だからこそ学園連合国家日本は勝ち馬に乗りつつ、問答無用で殴っても良い存在に対して沸騰する。
英雄と共に正義をなせ、悪を討て。
それを見て、ヒカリと影は顔を顰めていた。両者の気持ちは一緒だった。
(悲しい。誠実に一番頑張っている者に平和は訪れないなんて。
勝利からは逃れられない。一度勝てば、今度は更に難易度が上がった修羅場が訪れる。きっと皇スザクに安息はやってこない。
彼女は勝ててしまうから、涙を笑顔に変えるため他者を踏み潰していける人間だからこそ、負けることが許されない。
負けてしまえば、逃げてしまえば、これまで轢殺した想いや託してくれた仲間の気持ちが無駄になる。それをきっとあの子は許さない)
ああ、なんという悲劇だろうか。
誰よりもセイント総合学園の平和と笑顔を願う者には、それらを得ることが許されないとは。
世界の関節は外れてしまった。なんと呪われた因果か。
英雄の聖騎士は大地を駆けて、問答無用でケルベロス魔境学園を蹂躙していく。弁明や説明はあとで聞けば良い。今はまずケルベロス生徒会の殲滅と、ケルベロス魔境学園の戦闘継続能力を完全に奪い、セイント総合学園へ依存させることだ。
見敵必殺を胸に、ケルベロス魔境学園を蹂躙していく。 数時間に及ぶ戦闘でケルベロス魔境学園は完全の戦力は崩壊し、その支配権はクーデター軍の影が握ることになった。
そしてその影はセイント総合学園のヒカリと共に、秩序ある学園を目指して、セイント総合学園傘下の学園としてケルベロス魔境学園を作り変えることを表明した。
『影・クーデター事件』は終了した。
聖騎士であり、英雄と称されるようになった皇スザクがケルベロス魔境学園に積極的な復興作業に準じるのことで、セイント総合学園内外で大きな信者を作ることになった。
セイント総合学園は、ヒカリ、影、皇スザクを新たな三大生徒会として発足し、活動を再開した。それによりセイント総合学園やケルベロス魔境学園は秩序が保たれる。
しかしテロリストの温床である肝心の鉄血自治区と、それを牛耳る悪い大人の逆十字は倒せていない。問題はまだ残っている。




