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7話:知らないことを知ろう①

 学園の裏庭、木々の葉がそよぐ静かな空間で、サーシャの声が軽やかに響いた。

 彼女の青い瞳には、僅かな照れと、しかし確かな喜びが宿っていた。包帯はすでに外れ、傷跡は薄れつつあったが、その頬には、ブレイバーの決意が刻んだ希望の光が映っていた。


 バルド・ヴァルドとの決闘は、貴族社会に驚きを響かせた。

 ブレイバーの勝利は、平民が貴族を打ち破るという前代未聞の出来事だったからだ。


 神の使徒としての力量を示し、民衆の心を掴んだ彼は、すでに学園の伝説となっていた。

 ブレイバーが、微笑みながら口を開いた。


「と、いうわけで結婚するの許可が降りました」


 その言葉は、まるで春風のように軽やかだった。

サーシャの瞳が、驚きに見開かれる。

 彼の胸に、サーシャの笑みと、戦場での孤独を癒した彼女の温もりが蘇る。


「そ、そう。随分と身軽な神様なのね。じゃあ今日のあたりに家にくる? お父様もお母様も歓迎してくれると思うわ」


 サーシャの声は、どこかからかうような響きを帯びていた。だが、その瞳には、ブレイバーへの信頼が宿っていた。

 彼は、平民として生まれ、貴族社会に混沌を叩き込んだ男。その存在は、サーシャの心に新たな希望を灯していた。

 ブレイバーの唇が、僅かに震える。


「本当ですか? いや、でも私は平民だしキツイ対応される気がするけど」


 彼の声には、喜びと同時に、貴族社会への根深い警戒が滲んでいた。平民として蔑まれ、道具と呼ばれた記憶が、彼の心に影を落とす。だが、サーシャの笑みが、その影を払拭した。


「神の使徒であることが明確になった上に、その力量も示したから大丈夫よ。恐れることはないわ」


 彼女の言葉は、まるで雷鳴を静める光のようだった。

 ブレイバーの胸に、温もりが広がる。

 彼は、頷いた。


「なら、ご挨拶に伺うことにしよう」


 サーシャとの未来。

 それは、戦場での輝きとは異なる、静かな希望だった。だが、その希望は、長くは続かなかった。

 学園の講堂、貴族たちの視線が交錯する教室で、ブレイバーは授業を受けていた。

 神の使徒として、定期試験で低い点数を取ることは許されない。少なくとも、ブレイバーはそれを嫌った。


 彼は、戦場のアイドルとして輝くだけでなく、知性と品格でも民衆の心を掴みたかった。

 貴族社会の冷笑を打ち砕くために。だが、その静かな決意を切り裂くように、突如、窓の外から魔法が飛び込んできた。

 煙を発生させる魔法が、講堂を瞬時に白い霧で包む。

 視界が閉ざされ、貴族たちの悲鳴が響く。

 同時に、学園のアラートが鳴り響いた。


『侵入者あり、侵入者あり』


 その無機質な警告が、ブレイバーの耳に突き刺さる。

 彼の瞳が、雷鳴を宿して鋭く光る。瞬時に、目の前にいたサーシャを腕に抱きしめた。彼女の細い身体が、僅かに震える。ブレイバーは、雷の速度で窓を突き破り、一気に外へ飛び出した。

 空気が裂け、煙が彼の周囲を包む。だが、その瞬間、下から複数の魔法がブレイバーに襲いかかった。


 火球、氷槍、闇の刃。

 テロリストの攻撃だった。

 ブレイバーの神剣が、雷光を纏って振るわれる。

 稲妻が、襲い来る魔法を一掃し、地面に焦げ跡を刻む。

 サーシャの声が、恐怖に震えた。


「なに!? なにが起きてるの!?」


 ブレイバーの瞳が、戦場を見据える。


「敵だ。テロリストか」


 彼の声は、静かだが、刃のように鋭かった。地面を見下ろすと、学園を取り囲む敵性戦力が、すでに排除されつつあった。貴族の生徒たちを救うため、部隊が突入準備を進めている。

 ブレイバーは、サーシャを優しく地面に下ろした。

 彼女の青い瞳が、彼を見つめる。


「ありがとう」


 サーシャの声は、か細かった。

 ブレイバーは、微笑んだ。


「いや、気にしないでほしい。さて、我々はどうするか」


 その瞬間、背後から声が響いた。


「君……もしかしてブレイバー君かい?」


 振り返ると、そこには白を基調とした鎧に身を包む青年が立っていた。金色の装飾が陽光を反射し、彼の存在はまるで神の使徒そのものだった。

 ブレイバーの瞳が、青年を捉える。


「はい、その通りです。貴方は」


 青年が、穏やかに微笑む。


「僕はランスロット。神の使徒の一人だ。良ければ力を貸してほしい」


 ブレイバーの胸が、僅かに高鳴る。

 神の使徒の先輩。

 その存在は、彼に新たな責任感を呼び起こした。


「力を、ですか? ですが協力ならば部隊の方と一緒にやったほうが」


 ランスロットの瞳が、興味深げにブレイバーを捉える。


「後輩の力を見てみたいんだ。頼むよ」


 ブレイバーは、一瞬、躊躇した。だが、サーシャの青い瞳が、彼を後押しする。

 彼は、頷いた。


「わかりました。協力します。私はどのように動けば?」

「人質がいる。電光石火で片付ける。配置に着いたら連絡をしてほしい。これが魔導通信端末機だ」

「頂戴します」

「待機場所はそこの屋根の上だ。狙撃と同時に突入してほしい」

「了解」


 ブレイバーは、雷の速度で屋根の上に登った。

 神剣を握り、身を隠す。

 魔導通信端末機から、ランスロットの声が響く。


『それでは作戦を説明する。まずアルファ・ワンが狙撃を開始。続いてアルファ・ツーが北東方面から強行侵入、最後にブレイバーが正面入口から急襲をかける。人質を取られないように速やかに制圧するように』

『アルファ・ワン了解』

『アルファ・ツー了解』

ブレイバーが、静かに応える。

「ブレイバー、了解」

『作戦開始』


 瞬間、スナイパーライフルの魔力弾が、学園の窓を突き破る。

 テロリストの悲鳴が響き、混乱が広がる。

 アルファ・ツーが北東から突入し、ブレイバーが正面入口から雷の速度で飛び込む。

 彼の神剣が、稲妻を纏って振るわれる。

 雷が、糸のように細く、鋭く伝播する。その雷の糸は、触れた命を吸収し、テロリストたちを一瞬で感電死させる。

 高圧電流が、彼らの身体を貫き、ブレイバーのエネルギーとして還元される。

 戦場は、雷光に支配された。

 テロリストたちの抵抗が、雷の前に砕け散る。

 人質がいる教室に、ブレイバーが飛び込む。

 そこには、怯える貴族の生徒たちと、銃を構えるテロリストがいた。


「動くな!」


 テロリストの叫びが、響く。だが、ブレイバーの雷は、それを許さなかった。神剣が一閃し、雷の糸がテロリストを縛り、感電させる。

 人質たちは、ブレイバーの姿に息を呑む。


「神の使徒……」

「平民なのに……」


 彼らの囁きが、戦場に響く。ブレイバーの雷は、戦場のアイドルとしての輝きだった。

 戦闘は、電光石火の如く終わった。

 魔導通信端末機から、ランスロットの声が響く。


『敵反応の消滅を確認。任務完了だ。お疲れ様』


 その声は、穏やかだが、労りの温もりを帯びていた。

 ブレイバーは、神剣を下ろした。

 学園の教室は、雷の焦げ跡と静寂に包まれていた。人質だった貴族の生徒たちが、彼を見つめる。その瞳には、畏怖と、しかし僅かな尊敬が宿っていた。

 ブレイバーの胸に、サーシャの笑みが蘇る。

 ランスロットが、ブレイバーの背後に現れる。


「見事だったよ、ブレイバー君。神の使徒の名に恥じない力だ」


 ブレイバーは、微笑んだ。


「ありがとうございます、ランスロット先輩」

「サーシャ君が待ってるよ」

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