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第六話:テロリスト襲撃

 ヒカリは隠れなかった。

 三大生徒会のテラスに悠然と座し、紅茶を口に運ぶその姿は、まるで神聖な祭壇に君臨する女王の如し。


 暗殺の嵐が迫る中、彼女を護るのは聖騎士・皇スザクただ一人。優秀とはいえ、単独の護衛はあまりに脆弱な体制だ。


 だが、ヒカリの瞳に恐怖はない。彼女の信念は、鋼よりも硬く、光よりも清らかだった。 


 皇スザクは静かに進言する。

 彼女の声には、忠義と憂慮が交錯する。


「もう少し護衛を増やした方が良いのではないでしょうか」

「いいえ、心配は必要ありません。貴方がいれば大丈夫でしょう。私と貴方がいれば、どんな敵にも勝てると信じています」

「その信頼に応えるべく、最善を尽くします」


 戦いは唐突に火蓋を切った。手榴弾がテラスに投げ込まれ、爆炎が聖域を汚す。皇スザクとヒカリは翼を広げ、爆風を弾き返す。その動きは、神々の舞のように調和していた。


「貴方は前へ。私は後ろから援護します」

「了解」


 皇スザクは一気に加速し、背に装備した二丁のスナイパーライフルを振るう。光の弾丸がガスマスクの暗殺者たちを蹂躙し、聖なる審判の如く敵を薙ぎ払う。


 空からは爆撃が降り注ぎ、テロリストの連携を断ち切る。戦場は一瞬にして光と焰の坩堝と化した。


「わぁ、すごい。さすが聖騎士とヒカリちゃん。この程度なら瞬殺か。本当は嫌だけど、私がやるしかないか。二人とも私が守ってあげるよ」


 ふわりと、空から天使が降臨する。桃色の髪が風に揺れ、大きな翼が光を纏う。グリフィン。甘やかな声とは裏腹に、その瞳には破壊の意志が宿る。


 アズの情報によれば、彼女こそが全ての発端だった。


「さぁ、全部まとめて潰してあげるよ」


 グリフィンのサブマシンガンから放たれる弾丸は、小惑星の如き破壊力を帯び、連射の嵐がテラスを襲う。皇スザクはスナイパーライフルで反撃するが、グリフィンの翼に弾かれ、致命傷には至らない。


「グリフィン様、確認したいのですが、なぜ裏切りを? ヒカリ様やラジエル様とはそれなりの友好関係の筈でしょう」

「うーん、流れ? ラジエルちゃんに意地悪しようとしたら死んじゃったから、だったらもうその死に報いるために前に進むしかないじゃんね。ここでやめたら本当にラジエルちゃんの死は無駄になっちゃうし」

「全体的に行き当たりばったりで行動してますね。一旦、戦うのやめませんか」

「無理☆ 私は自分の罪を背負って前へ進むよ。セイント総合学園がより良く繁栄するために」


 グリフィンは止まらない。ラジエルの死を無駄にしないため、殺戮を正当化する結末を求めて突き進む。嘆きも、犠牲も、彼女にとっては輝く明日の礎に過ぎない。

 皇スザクの瞳が冷たく凍る。


「……なら仕方ありません。貴方を倒します」

「できるもんならやってみてよ。そうすれば全部解決だよ」


 皇スザクとグリフィンの戦いは、聖と罪の激突だった。グリフィンの取り巻きはヒカリの援護により鎮圧され、残るはグリフィンただ一人。


 だが、皇スザクの圧倒的な戦闘力は、グリフィンのフィジカルと火力を凌駕する。


 テラスが月光を乱反射して鈍く輝く。そこに二つの影が踊る。否、踊るというにはあまりに苛烈で、互いの存在を削り合う刃の応酬だ。


 グリフィンは、虚空を切り裂くような軽やかなステップで動く。彼女の手にはサブマシンガンが握られ、その銃口から吐き出される弾丸は、星屑の尾を引きながら夜を穿つ。


 彼女の周囲を漂うエフェクトは、宇宙の深淵を思わせる光の粒子だ。

 青く、冷たく、しかしどこか温かな輝きが、彼女の動きに合わせて螺旋を描く。


 グリフィンの戦いは、星々が歌い合う銀河の舞踏会だ。だが、その華やかさの裏には、鋭利な殺意が潜む。


 彼女は一瞬の隙を見逃さず、銃撃の合間に肉薄し、流れるような近接攻撃で相手の間合いを崩す。


 その一撃一撃は、彗星が大気を焼き尽くす瞬間の輝きを宿している。対する皇スザクは、静謐と激情の狭間を往く。彼女の両手に握られた二丁のスナイパーライフルは、ただの兵器ではない。


 それは光の裁きを下す神器だ。

 銃口から放たれる光の弾丸は、空気を裂き、空間そのものを焼き焦がす。一発ごとに、大地が砕け、が抉れる。


 彼女の背に広がる二つの翼は、白銀の装甲だ。防御の要であるその翼は、グリフィンの弾丸を弾き、近接の刃を絡め取る。だが、皇スザクの戦いは守りに留まらない。


 彼女は一直線に突き進む。まるで神話の時代に天地を貫いた雷霆の如く、躊躇なく、一切の迷いなく、敵の懐へと突き進む。


 その姿は、運命そのものが具現化したかのようだ。二人の戦いは、対極の美学の衝突だ。グリフィンの動きは流動的で、銀河を泳ぐ星の群れ。彼女は空間を支配し、敵の攻撃をかわしながら、絶え間ない銃撃と近接の連撃で相手を追い詰める。


 一方、皇スザクは直線的だ。彼女の戦いは、一点を貫く意志の結晶。翼を盾とし、光の弾丸を剣として、敵の核心を突く。


 その一撃は、神の審判が地に落ちる瞬間を思わせる。


「どうして、鉄血と接触を?」


 皇スザクの声は、冷たく、しかしどこか哀しみを帯びていた。彼女のスナイパーライフルが再び火を噴き、光の弾丸がグリフィンの周囲の空間を薙ぎ払う。だが、グリフィンは笑う。


 彼女の唇に浮かぶのは、挑発と確信の入り混じった微笑みだ。


「みんな仲良くしたかったから。同じセイント総合学園なのに憎み合うの馬鹿らしいじゃんね」


 グリフィンのサブマシンガンが唸りを上げる。星屑のエフェクトが一瞬にして収束し、彼女の周囲に渦を巻く。


 次の瞬間、彼女は地を蹴り、皇スザクの懐へと飛び込む。


 銃撃と同時に繰り出される蹴りは、流星が夜空を裂く一閃だ。皇スザクの翼がそれを迎え撃つが、グリフィンの動きは止まらない。


 彼女は回転し、回避し、なおも攻撃を重ねる。その姿は、宇宙そのものが彼女を中心に回っているかのようだった。だが、皇スザクもまた退かない。


 彼女の翼が大きく広がり、空気を震わせる。

 次の瞬間、彼女はグリフィンの動きを予測し、光の弾丸を放つ。それは一本の槍のように、グリフィンの心臓を狙って一直線に飛来する。


 刹那。


 グリフィンの身体が揺らぎ、エフェクトの粒子が爆ぜる。弾丸は彼女を貫かず、虚空を切り裂くのみ。

 グリフィンはすでにその場にいない。彼女は皇スザクの背後に回り込み、サブマシンガンを構える。


「――終わりだよ、皇スザク」

「いいや。まだ、です」


 銃声が響く。星屑が舞う。だが、皇スザクの翼が再び動く。光の弾丸と星屑の応酬。互いの信念が、互いの存在が、互いの光が、夜の闇を切り裂き続ける。


 聖騎士として戦い続けた皇スザクに対し、グリフィンはお嬢様の域を出ない。皇スザクの先手は容赦なく、グリフィンの体力と気力を削り取る。

 ついに、グリフィンが膝をつく。


「勝てない……、なんで? 私のほうが強いのに」

「私は聖騎士としての職務で、戦うことが多かったですから当然ですよ」

「……確かに。私は甘えていたのかなぁ。十の努力をする人に勝つには、十と一の努力が必要である。私は何となくでてきちゃうタイプだったから、戦う努力はしてこなかった」

「そういうことです。それではさようなら。グリフィン様」


 皇スザクのスナイパーライフルが火を噴き、グリフィンの頭蓋に弾丸が叩き込まれる。


 戦いは決した。

 彼女はグリフィンのサブマシンガンを破壊し、気絶した体をヒカリの前に献上する。

 聖騎士の使命は、冷徹に果たされた。


「ありがとうございます、皇スザク。貴方にはいつも辛い役割を任せてしまいますね」

「構いません。友人同士で殺し合うなんて、悲しいじゃないですか」

「その優しさ、私はとても好きです。だからこそ、貴方には幸せになってほしいんですけどね。次はケルベロス魔境学園のクーデターを成功させる必要があります」

「はい。クーデターはいつ?」

「明日です。影さんから連絡がある筈なので、そしたら貴方にも出撃してもらいます。今日は体を休めてください。事後処理は私が行います」

「了解です」


 翌日、日本は衝撃の報せに揺れた。


『まさかのクーデター!?』

『影による内部告発』

『ケルベロス生徒会の闇。テロリストに物資の横流しか!?』

『ケルベロス魔境学園とセイント総合学園の合併!』


 影はケルベロス魔境学園の大改革を宣言。


 クーデターとは名乗らずとも、ケルベロス生徒会の権威を失墜させ、セイント総合学園との合併を推し進める。


 ケルベロス生徒会は公開された情報に抗えず、影の意志が歴史を動かす。

 皇スザクの通信端末に着信が入る。影からの連絡だ。


「はい、皇です」

「影よ。あと3時間後に会見をするから、貴方はセイント総合学園の代表として参加して欲しいの。テロリストを殲滅する英雄になってほしい。貴方は色々と有名人だから」

「了解です」

「会見が終わったら、そのままケルベロス生徒会に侵攻するわ。だから戦闘準備も忘れないで」

「了解です」


 皇スザクは装備を整え、影と合流する。報道陣の前に立つ彼女の背には、白亜の翼が聖なる輝きを放つ。緊急放送が始まる。


『ただいま緊急放送です! 影さんによる声明があるそうです』


 影は壇上に立ち、混沌を統べる女王の如く堂々と宣言する。


「私とヒカリは平和の祈りを込めた和平条約、ハイペリオン平和条約の締結のために努力してきました。しかしそれはケルベロス生徒会がテロリストに装備を横流しして、セイント総合学園を攻撃させるという行為に及びました。それによる被害は甚大だったと聞いています」


 皇スザクが言葉を継ぐ。彼女の声は、聖剣の刃のように鋭く、清らかだ。


「三大生徒会の二人であるグリフィンとラジエルは大きな傷を負い、今も病院で治療中です。これは許されるべきではありません。しかし肝心なのはケルベロス魔境学園を憎むことではなく、テロリストとその協力者を排除することです」


 影が続ける。彼女の瞳には、平和への渇望と、混沌を断ち切る決意が宿る。


「ゆえに、クーデターを宣言するわ。ケルベロス生徒会を排除し、暫定政権を樹立し、セイント総合学園のヒカリさんと共に平和の道を探る」

「そのために我々セイント総合学園も手を貸すことを厭いません。平和の為に、正義のために、私たちは戦います」


 かくして、愛と勇気と平和を掲げるクーデターが宣言された。

 セイント総合学園とケルベロス魔境学園の運命は、彼女たちの手によって書き換えられるだろう。


 その戦いは、正義の名の下に、歴史に刻まれる。



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