5話:ブレイバー③
学園の決闘場は、まるで神の審判を模した劇場だった。白亜の柱が天を突き、黄金の装飾が陽光を乱反射する。観客席には、貴族の生徒たちがひしめき合い、その瞳は好奇と残酷な興奮に輝いていた。
学園の全ての生徒に中継されるこの決闘は、単なる戦いではない。
それは、平民であるブレイバーの処刑の儀式だった。
貴族社会の秩序を乱した愚か者を、無残に屠る娯楽。
観客たちの囁きが、まるで毒蛇の舌のように響き合う。
「平民が貴族に挑むなんて」
「神の使徒? 笑いものよ」
「バルド様がボロ雑巾にしてくれるわ」
その中心に、バルド・ヴァルドが立っていた。
深紅の鎧に身を包み、両手にロングソードを握るその姿は、まるで貴族の傲慢を具現化した戦神のようだった。
彼の金髪が風に揺れ、唇には軽薄な笑みが浮かぶ。
審判が、冷たくルールを告げる。
「殺せば勝ち。何を使おうが、何をしようが自由」
その言葉に、観客席が沸き立つ。
貴族たちの笑い声が、決闘場を満たす。
このルールは、ブレイバーにとって死刑宣告に等しかった。だが、彼はまだ現れていない。
観客たちの視線が、自然と決闘場の入り口に集まる。
その瞬間、雷鳴が響いた。
ブレイバーが現れた。
簡素な制服に身を包み、手には神剣が握られている。
豪華な鎧はない。だが、堂々とする姿はまるで戦場のアイドルそのものだった。
観客たちの嘲笑が、彼を突き刺す。だが、ブレイバーの表情は揺れない。
彼の胸には、サーシャの青い瞳が焼きついていた。
「お願い、生きて戻って」
彼女の言葉が、彼の魂に火を灯す。
バルドが、ブレイバーを見て笑った。
「逃げずにやってきたことは褒めてやる。じゃあ死ね。ボロ雑巾にしてやるよ」
その声は、まるで獣の咆哮のように響いた。
観客席から、歓声と嘲笑が沸き上がる。
ブレイバーの瞳が、バルドを捉えた。
彼の声は、静かだが、雷の刃のように鋭かった。
「野蛮な猿は、どうやら品性を学ぶ機会も無かったようだ」
その言葉に、バルドの笑みが凍りつく。
観客席のざわめきが、一瞬、静まる。
バルドの瞳に、怒りの炎が宿る。
「平民の虫がよく言うぜ。何も持ってないカスの癖に」
彼のロングソードが、陽光を反射して閃く。
ブレイバーは、静かに神剣を構えた。
その姿に、観客たちの嘲笑が再び響き合う。
審判の声が、決闘場を切り裂いた。
「では、勝負開始!」
瞬間、戦場が動いた。
バルドのロングソードが、まるで嵐の如くブレイバーに襲いかかる。だが、それだけではなかった。四方八方から、魔力の矢が、剣戟が、ブレイバーを狙った。
バルドの仲間――貴族の生徒たちが、決闘場に乱入していた。
観客席から、歓声が沸き上がる。
「平民を潰せ!」
「殺せ! 殺せ! 殺せ!」
「皮を剥ぎ、肉を晒せ!!」
貴族社会のルールは、ブレイバーにとって無意味だった。
「何を使おうが、何をしようが自由」
その言葉通り、バルドは仲間を動員し、決闘を処刑の場に変えた。さらに、空気が濁る。毒ガスが、決闘場に散布された。緑色の霧が、ブレイバーを包み込む。
観客たちの笑い声が、まるで地獄の讃歌のように響く。
「これが平民の末路よ!」
「神の使徒? 笑わせる!」
「死ね! 死ね! 死ね!」
ブレイバーの胸が、軋んだ。
この決闘は、戦いではない。
貴族社会の残酷な娯楽だった。
サーシャの傷、彼女の涙、平民として蔑まれる自分の存在。
すべてが、ブレイバーの魂に火を灯す。
彼は、静かに口を開いた。
「奔れ神剣、高天原の雷火を希う」
その言葉は、まるで神の詔を告げるかのようだった。
ブレイバーの全身から、稲妻が迸る。
神剣が、白熱の光を放ち、決闘場を照らす。
彼の声が、雷鳴と共鳴した。
「クサナギブレード・ブレイヴゲイン……!」
瞬間、天地が裂けた。
雷鳴が轟き、稲妻が決闘場を切り裂く。四方八方から迫る魔力の矢が、雷の奔流に呑み込まれる。
バルドの仲間たちが放った剣戟が、稲妻の前に砕け散る。
毒ガスは、雷の熱で霧散し、決闘場を清める。
観客席の歓声が、驚愕の静寂に変わった。
ブレイバーの雷魔法は、まるで神の怒りを体現するかのようだった。
バルドのロングソードが、ブレイバーに振り下ろされる。だが、ブレイバーの神剣が、それを迎え撃つ。
雷と鋼が激突し、衝撃波が決闘場を揺さぶる。
「貴様……!」
バルドの声に、初めて焦りが滲む。
ブレイバーの瞳は、なおも揺れなかった。
彼の雷は、単なる破壊の力ではない。
それは、戦場のアイドルとしての輝きだった。
民衆の心を掴み、貴族の傲慢を砕く光。
サーシャの青い瞳が、ブレイバーの脳裏をよぎる。
『お願い、生きて戻って』
その言葉が、彼の魂を奮い立たせる。
雷鳴が、決闘場を支配した。ブレイバーの神剣が、バルドのロングソードを弾き返す 。
「平民だと? 道具だと? その傲慢を、俺の雷で焼き尽くす!」
彼の声が、戦場を切り裂く。
雷が、すべてを貫いた。
戦場は、雷光に包まれていた。
バルドの仲間たちが、次々と膝をつく。
毒ガスの霧は、すでに消え去っていた。
観客席の貴族たちの瞳に、恐怖と畏怖が宿る。
「何……あの力は……」
「平民が、貴族を圧倒するなんて……」
「なんとかしろ!!」
ブレイバーの姿は、まるで神話の英雄だった。
神剣を掲げ、雷を従え、彼は戦場の中心に立っていた。
バルドのロングソードが、震える。
彼の傲慢な笑みが、初めて崩れた。
「貴様……本当に神の使徒なのか……?」
その声は、弱々しく響いた。
ブレイバーの瞳が、バルドを捉える。
「今はただの平民だよ、貴族様」
決闘場は、雷光と鋼の火花に支配されていた。白亜の柱が震え、黄金の装飾が稲妻の輝きに照らされる。
観客席の貴族たちの声は、驚愕と恐怖に変わっていた。
ブレイバーの雷魔法――「クサナギブレード・ブレイブゲイン」――は、バルドの仲間を一掃し、毒ガスの霧を焼き払った。だが、戦いはまだ終わらない。
決闘場の中心に、バルド・ヴァルドが立っていた。
深紅の鎧に身を包み、両手に握られたロングソードが、貴族の傲慢を象徴するように陽光を反射する。
彼の金髪が、汗と風に乱れ、瞳には怒りと焦りが宿っていた。
「貴様……平民の分際で、よくも!」
バルドの咆哮が、決闘場を切り裂く。
ブレイバーは、神剣を構えた。
彼の簡素な制服は、戦いの傷で裂け、汗と血が滲んでいる。
ブレイバーの声は、静かだが、まるで天地を裂く雷鳴だった。
バルドが動いた。
彼のロングソードが、まるで双頭の龍のようにブレイバーに襲いかかる。
右の剣が弧を描き、左の剣が直線的に突き刺さる。その動きは、貴族の芸術至上主義を体現するかのように優雅で、かつ残忍だった。
ブレイバーの神剣が、雷光を纏って迎え撃つ。
剣と剣が激突し、金属の悲鳴が決闘場に響く。
衝撃波が地面を抉り、観客席の貴族たちが息を呑む。バルドの剣戟は、貴族の肉体が生み出す魔力の流れに支えられていた。その速度と力は、平民の限界を超えている。
「平民ごときが、ヴァルド家の剣に抗えると思うか!」
バルドの声が、剣の動きと共鳴する。
彼の右のロングソードが、ブレイバーの肩を狙い、左の剣が腹を切り裂こうとする。だが、ブレイバーの雷魔法は、常人の域を超越していた。
彼の身体が、稲妻の如く動く。
神剣が、バルドの右の剣を弾き、雷のバリアが左の剣を防ぐ。
「貴様の力は、確かに強大だ。だが、ただの力では俺を止めることはできない!」
ブレイバーの声が、雷鳴と共鳴する。
彼の神剣が、弧を描き、バルドの胸を狙う。
バルドが、咄嗟に後退し、剣で防ぐ。
火花が散り、決闘場が光と音に満たされる。
バルドの攻撃は、止まらなかった。彼のロングソードが、まるで嵐のように連続で襲いかかる。
一撃ごとに、魔力が奔流となってブレイバーを押し潰そうとする。貴族の肉体は、魔力の流れを最適化し、常人を超えた力を発揮する。
バルドの剣戟は、まるで絵画のように洗練され、観客席の貴族たちを魅了した。
「これが貴族の力だ! 平民が、俺に勝てると思うなよ!」
バルドの咆哮が、決闘場を震わせる。だが、ブレイバーの雷魔法は、それを凌駕していた。
彼の神剣が、雷光を纏って舞う。
その動きは、貴族の芸術とは異なる、荒々しくも圧倒的な美しさを持っていた。
雷鳴が轟き、稲妻がバルドの剣を弾き返す。
ブレイバーの身体が、雷の速度で動く。
彼の剣戟は、まるで戦場のアイドルとしての輝きを体現する舞踏だった。
観客席の貴族たちの瞳に、畏怖が宿る。
「平民が……あの力は……」
「神の使徒……まさか本当に?」
彼らの囁きが、決闘場に響き合う。
ブレイバーの雷は、単なる破壊の力ではない。それは、民衆の希望を灯し、貴族の傲慢を砕く光だった。
バルドのロングソードが、ブレイバーの肩を掠める。
血が滲み、制服がさらに裂ける。だが、ブレイバーの瞳は揺れなかった。
「サーシャを傷つけた貴様を、許すわけにはいかない。許したくない。許さない」
彼の声が、雷鳴と共鳴する。
神剣が、バルドの鎧を切り裂く。
深紅の鎧に、雷の傷が刻まれる。
バルドが、初めて後退した。
戦いは終わりを知らなかった。
バルドの剣戟は、貴族の誇りを背負い、なおもブレイバーを追い詰める。彼の魔力が、決闘場に赤黒い霧を立ち昇らせる。その霧は、まるで貴族社会の冷酷さを象徴するかのようだった。
「死ね、平民!」
バルドの声が、憎悪に満ちていた。
彼のロングソードが、ブレイバーの胸を狙う。だが、ブレイバーの雷魔法が、それを迎え撃つ。雷のバリアが、バルドの剣を弾き、稲妻が彼の鎧を焦がす。
ブレイバーの呼吸が、荒々しくなる。
血と汗が、彼の顔を濡らす。
「貴様は、ここで終わる」
ブレイバーの声が、雷鳴と共鳴する。
彼の神剣が、白熱の光を放つ。
雷が、決闘場を切り裂く。
バルドのロングソードが、雷光に呑み込まれる。
衝撃波が、決闘場を揺さぶる。
バルドが、膝をついた。
彼の鎧は、雷の傷でボロボロだった。
「貴様……何者だ……」
バルドの声は、弱々しく響いた。
ブレイバーは、神剣を掲げた。
その姿は、まるで神話の英雄だった。
決闘場に、静寂が訪れた。
観客席の貴族たちの瞳に、恐怖と畏怖が宿る。
ブレイバーの雷は、貴族の秩序を揺さぶった。彼は、平民として生まれ、貴族に蔑まれながらも、神の使徒として選ばれた。
戦場のアイドルとして、民衆の心を掴んだ。そして今、サーシャを守るために、バルドを討った。
「サーシャさん……約束は守ったぞ」
ブレイバーの囁きは、誰にも聞こえなかった。
彼の神剣が、ゆっくりと下ろされる。
決闘場に、バルドの命を終わらせる雷鳴が響き渡った。