呼び出しを受けました
この物語はフィクションです。
皮を剥いた玉ねぎをスライス専用機に入れた。
セットボタンを押すと、玉ねぎは空中に浮き上がって固定された。
右手で縦スライサーレバーを掴んで、下まで引き切った。
続いて右手で横スライサーレバーを、左から右に引き切った。
下に受けているバットに、サイコロ状に切れた玉ねぎが落ちた。
縦・横のスライサーレバーは自動で元の位置に戻った。
これを朝一から数百回、同じ動作を繰り返している。
全体の3分の1程終わったが、まだまだ切る玉ねぎは山盛りにある。
この教会(不明の館)の名物である不明シチューを作る為に、朝からガルベスは野菜と格闘していた。
不明シチューは通常のシチューに対して、約3倍の材料を入れて作る。
この街でも定期的に話題になる、求める人が絶えない人気商品だ。
売価は1杯1ドロ(約140円)で、なんと原価率は驚異の90%だ。
諸々の費用(人件費・販売費・雑費)を考えると大赤字確定の料理だ。
作れば作るほど不明の館は損をする、怖ろしい料理でもある。
牛肉・鶏肉の下級品を大量に寸胴に放り込む。
合わせて大量のニンジン・玉ねぎ・ジャガイモを入れ、弱火でコトコト煮溶けるまで、約3時間加熱。
大きな材料がホロホロと、口の中で溶けるシチューだ。
販売は一晩寝かして、翌日のお昼に売るのがいつもの形だ。
お客様の行列が絶えず、2時間程で飛ぶように売り切れる。
そんな不明シチュー作りだが、今は人手が足りない。
ガルベスの他にも同僚2名が、玉ねぎスライス専用機の前で奮闘している。
玉ねぎはドンドンとサイコロ状にスライスされる。
しかし次の焼き工程のスピードに対して、スライス工程が間に合っていない。
後1人追加してスライス工程を、4人態勢にしないと間に合わない。
材料を切る工程が遅れると、この後の工程すべてに迷惑が掛かる。
どうしよう、小長に早めに言わないといけない状況だ。
呼び出しボタンを押そうと決めたその時。
小長が別の同僚2人を連れてやってきた。
まじか、タイムリーやな。
「小長、玉ねぎのスライス工程についてですが。」
「ガルベス君、大司教様が君を呼んでいるんだ。
ここの作業は良いから、直ぐに不明大司教様のお部屋に行ってくれ。
君の作業はこの2人が引き継ぐからね。」
「ええっと、自分何かやらかしましたか。」
「大丈夫だよ。
不明大司教様からは君と妹さんにとって、大変良い話と聞いている。
だから心配は要らないよ。」
なんやろう。不明大司教様は僕ら下っ端にとって雲の上のお人。
朝の総会では遠くから見てるけど、直接話したのはこの不明の館に来た時だけだ。
普段は接点なんかない。
もしかして・・・、シアプの仕事の関係で僕も呼ばれてるのかなぁ。
なんにせよ早う不明大司教様のお部屋に行かな。
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不明大司教様のお部屋にはドアが無い。
この教会(不明の館)を不明大司教様が作った際に。
誰でも何時でも部屋に入れる様にと、ドアを付けなかったと聞いている。
お部屋の前に来ると、車椅子に乗ったシアプが既に部屋の中に入っていた。