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第三十七話 新た仲間、焔閃姫―シグレ=アマカゼ

分かっている…。

同じ事やっていても意味がないことは―――。


付け焼刃とはいえ――瞬華は使える。

だけど、それだけだとダメなんだ。

あともう一つ踏み込んだ技じゃないと―――。


さっきの攻防―――。

……狙ったわけじゃない。

でも、確かに――あの瞬間。


シグレが……動揺した。


偶然だった。

足元がふらついて、崩れそうになって。

それが、結果として“残像”みたいに見えたのか――シグレの目が、一瞬だけ迷った。


白虎『どうするつもりなんだ?』


白虎が話しかけてくる。

どうするって言っても―――。


白虎『お前の中じゃもう勝ち筋見えてんだろ』


まるで俺の心を見透かしたようにいう。

白虎のニヤリとした笑いが聞こえてくるようだ。


白虎『お前の顔みりゃわかる。なら、ぶつけてやれお前の力を!』


なんて無責任な言い草だ―――。

だけど、自分でも分かる自分の可能性に、進化の一歩に―――。

自然に顔がにやける。


神「――次で、終わらせる!」


いつの間にか叫んでいた言葉。

だが、その言葉に偽りなない―――必ず勝つ!


それに呼応するように白虎の力が増す。

シグレは、俺の想いを察知したのか一度目を閉じ呼吸を整える。


そして―――。


シグレ「……よかろう。受けてやる」


その瞳には絶対に勝利を譲らない意地と期待する気持ちが交差している。


俺は、足に魔力を込める。

今できる最速最大の瞬華―――。


同時にシグレも瞬華で間合いを詰める。

互いに高速でのやり取り、そこに“緩急”をつける。

絶えず全速で走り続けるからこそ、動きが読まれる。ならば――緩め、止め、また走る。


一歩、止めるように。

一瞬、遅れるように。

そうやって、視線と意識を騙す。


……俺にしかできない動きだ。今の俺だからこそ、作れる幻影がある。


俺は瞬華を、自分の技に――昇華させる。


足に魔力を込める。

ただの加速じゃない。

あえて“緩める”瞬間を作ることで、残像を刻む。意識の錯覚を生む。


踏み込む――!


視界が流れる。

風が巻く。

時間が引き伸ばされたような錯覚。


……見切れ!


シグレの拳が迫る――だが、それは“残像”の俺に向かっていた。


その隙を――


「――っ!」


拳を叩き込む!


衝突の直前、ほんの一瞬の沈黙があった。

俺の拳が、確かに届いた――そんな“感触”。


が、直後にシグレの腕が、ぎりぎりの角度で俺の拳を受け流すのがわかった。

静かな衝撃と、風の切れる音。

俺の拳は空を切り、無情にもその拳は届かなかった。


神「これでもダメなのかよ……」


つぶやくように、そう言った。


けれど――


シグレ「……いや。お前の勝ちだ」


その声が返ってきた。

シグレの長い髪を束ねていた布が、ふわりと宙を舞っていた。

――俺の拳は、髪を結ぶその布を、確かに断ち切っていた。

絶妙な角度。刃でもない拳で、ほんの一片だけ触れて――断った。

シグレの髪がほどけ、風に揺れながら、彼女は微笑んだ。


シグレ「……悪くない」


その言葉に、息が漏れた。


神「……はぁ、はぁ……」


勝負を終え、荒く息を吐く俺の周りには、まだ白いオーラの残滓が揺れていた。

昼の陽光が、街の石畳と、舞い落ちた黒髪の布を照らしている。


シグレ「ふむ……確かに、お前の拳は――届いた」


神「……あれは、ただの偶然だったかもしれないけど」


シグレ「違うな」


シグレは静かに言葉を重ねる。


シグレ「最後の一手……あれは偶然ではなく、お前が“掴み取った一撃”だ。己の力で」


琥珀色の眼が、まっすぐに俺を見据えていた。

そして、彼女はふっと目を細めると――


シグレ「……その覚悟と成長。嫌いではない」


神「え……」


シグレ「……協力してやろう。魔王を倒したという言葉――今は信じきれぬが、その拳なら、いずれ真実か否かを示すこともできよう」


神「つまり……!」


リィナ「ジンさんっ……!」


俺が振り返ると、リィナが目を輝かせて笑っていた。


神「それって、仲間になってくれるってことか……?」


シグレ「“一時的な協力関係”といったところだな。勘違いするな。私が信じるのは、己の眼と拳だけだ」


神「ああ……それで充分だ」


シグレはゆっくりと歩み寄ると、俺の目の前でぴたりと立ち止まる。

そして――無言で、右手を差し出してきた。


神「……っ」


俺も迷わず、その手を握った。

強く、冷たく、そしてどこまでも真っ直ぐな手だった。


街の喧騒が再び戻る中、昼の光が、三人の影を地面に落としていた。

こうして、S級冒険者《焔閃姫》――シグレ=アマカゼが、俺たちの仲間になった。

その歩みは、まだ始まったばかりだ。


――だが、確かに。ここから、何かが動き始める。


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