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第二十二話 魔鉱細工師の少女

少女のイメージ絵はXにて公開してるので、そちらで見れます。

https://x.com/U2HqBekdO7u4ojE/status/1937179158570004771

車輪の音はほとんど聞こえず、魔導の振動だけが車内の空気をかすかに揺らしていた。

窓の外を山の稜線と風導路が滑っていく中、俺は隣に座った少女――少女の横顔にちらりと目を向けた。

彼女は大きな荷物を座席の脇に置き、肩をすぼめるように静かに座っている。

背筋は緊張し、時おり指先で荷の紐をいじっているのが目に入った。


(緊張してるな。……というか、あの荷物、本当に自分で持ってたのか?)


俺は迷いながらも、ふと声をかけた。


神「……大きい荷物だね。旅慣れてるってわけじゃなさそうだけど」


「えっ……あ……」


少女は小さく身じろぎし、驚いたように俺を見た。

少しだけ伏し目がちになりながらも、おずおずと答える。


「こ、これは……その、材料とか、道具とか……魔鉱細工の……」


「魔鉱細工?」


俺の眉がわずかに上がる。

少女は小さくうなずき、荷物の脇に手を添えながら続けた。


「はい。まだ見習いですけど……村で少しだけ教わってて。街で道具を仕入れようと思って……」


神「へえ……あの重さで“少し”か」


冗談めかして言うと、少女は目を丸くし、それから――ふっと、小さく笑った。

それは不安に覆われた顔の中で、ようやく咲いた小さな光だった。


「……えへへ、たしかに……ちょっと、詰め込みすぎたかも、です」


俺はその笑みに気づくと、わずかに口元を緩めた。


神「どこまで行くんだ?」


「中立都市、エステリアまで……です」


神「……そうなんだ。奇遇だな。俺も、そこに行くんだ」


窓の外を、魔導街道と山並みが静かに過ぎていく。


「魔鉱細工って、どんなことをするんだ?」


俺が尋ねると、それまで控えめに身を縮めていたリィナの肩がぴくりと動いた。

少女は驚いたように顔を上げ、それから――ふわっと目を輝かせた。


「……っ、はいっ! えっと……魔鉱って、ただの石じゃなくて、ひとつひとつ魔力の流れ方や性質が違うんです。それを“読んで”、目的に合うように削ったり、重ねたりして……」


急に早口になったその声には、さっきまでの遠慮が嘘のような熱意がこもっていた。


「例えば、風属性の魔鉱は魔導器の軽量化に使えますし、熱に強いものは魔鍛炉の内張りに。あと、細工の時に“鳴く”石は、精度が高くて……!」


俺は言葉を挟まず、ただ感心したようにうなずきながら聞いていた。

少女の声はだんだんと高鳴り、頬にはうっすらと紅が差している。

しかし――ふと、彼女の顔に「あっ」と気づいたような表情が浮かんだ。


「す、すみません……つい、話しすぎちゃって……あ、あのっ、そういえば私、まだ自己紹介してなかった……!」


 慌てて姿勢を正し、胸の前で手を揃えてぺこりと頭を下げる。


リィナ「わ、私……リィナ・フェルストって言います。えっと、小さな村の出身で、今は見習い魔鉱細工師で……!」


俺はその様子に少し笑みを浮かべ、改めて手を差し出した。


「俺は宿樹 神、ジンでいいよ」


おずおずとその手を取ったリィナの手は、意外としっかりとした硬さを持っていた。

それは、道具を握り、石に向き合い、静かに努力を重ねてきた職人の手だった。

列車が風脈を滑り、車窓の外では雲の切れ間から西陽が差し込んでいた。

リィナとのやり取りが少しずつ穏やかになってきたところで、俺はふと声をかけた。


神「そういえば……さっき、“細工してる”って言ってたけど、どんなの作ってるんだ?」


リィナはぱちりと瞬きをし、少し戸惑ったように荷物の紐を見た。


リィナ「え……あの、道具とか……試作品とか、ばっかりですけど……」


神「よかったら見せてくれないか? どんなもんか興味ある」


リィナは数秒だけ迷ったが、やがて小さくうなずいた。


リィナ「……はい。ちょっとだけ、なら……」


彼女は慎重に荷物を解き、布で丁寧に包まれた小箱を取り出す。

その中には、手のひらほどの魔鉱細工がいくつか納められていた。

俺は、ひときわ目を引くひとつの品に留まった。

それは、黒鉄の枠に淡い青の魔鉱をはめ込んだ、星のような形をした小さな飾り具。

細かい刻印と繊細な接合がなされており、見た目は飾りにも見えるが、魔力の回路が奥に潜んでいるのが分かる。


ジン「……これは?」


指さして尋ねると、リィナはそっとそれを持ち上げて説明した。


リィナ「“灯りの種”って、呼んでます。……夜になると、小さく光るだけですけど。ほんのり……温かい光で」


神「それだけか?」


リィナ「はい。でも……誰かの荷物に忍ばせておくと、暗い旅の中でも、ちょっと安心できるかなって……

 そういう……“気持ち”を、こめて作ったものなんです」


その声には、飾り気のない真心が宿っていた。

俺はそれが妙に気にって、静かに言った。


神「……気に入った。買ってもいいか?」


リィナ「えっ……い、いいんですか? だって、ただの……」


神「“ただの”じゃないよ。俺はこれが気に入ったんだ」


懐から硬貨の入った袋を取り出す、フィーナのお父さんから護衛依頼の報酬として貰ったお金だ。

リィナはしばらく口を開けたまま固まっていたが――

やがてそっとうなずき、小さな布袋に包んでそれを手渡した。


リィナ「じゃ、じゃあ……七十グレムで……」


神「わかった」


リィナにお金を渡し、灯りの種をもらった。

手渡された小さな“灯りの種”は、そのとき確かに――わずかに、温かく揺らめいた。

“灯りの種”を受け取り、スカーヴェルがそれを丁寧に懐へ収めたあと――

再び静かな時間がふたりの間に流れていた。

魔力の風を受けて走るアークレイルは快調に進み、遠く山裾の街灯りが徐々に視界に入り始めている。

そんな中、俺はふと思い出したように問いかけた。


神「リィナは……中立都市には、よく行くの?」


リィナは一瞬きょとんとした顔になり、それから小さくうなずいた。


リィナ「……はい。最近は……ちょこちょこと。道具の補充とか、材料の受け取りとか……」


神「じゃあ、そこに知り合いでもいるのか?」


リィナ「……えっと、その……働いてる場所が、あって……」


言いにくそうに言葉を濁しながらも、ぽつぽつと話し始めた。


リィナ「中立都市の……東の職人工房通りにある、“ブレア工房”ってところです。いちおう、そこに……住み込みで、使われてます」


神「……使われてる?」


リィナ「い、いえ! ち、ちゃんと、お給金もらってますし、生活も……その……まあ、なんとか……」


彼女の歯切れの悪さと表情から、どうやら待遇はあまり良くないのだと察せられた。

とはいえ、彼女自身はそれを不満とは口にしない。

きっと、自分のために与えられた場所だから――そう思っているのだろう。


神「……俺、リーヴェラには初めてなんだ。正直、どこに何があるかも分からない。もしよければ……街に着いたら、少しだけ案内してくれないか?」


リィナは驚いたように目を見開いた。


リィナ「え、わ、私が……ですか?」


神「ああ。道具屋でも飯屋でもいい。最初に誰かに軽く回ってもらえると助かる。……無理にとは言わないけど」


リィナはしばらく戸惑っていたが、やがて――少しだけうれしそうに、笑った。


リィナ「……はい。よかったら、私で……よければ。少しだけ、ですけど、案内できます……!」


神「助かるよ。じゃあ、よろしく頼むな!」


リィナはこくんと深くうなずいた。

その顔にはほんのりと紅が差していた。

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