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第十八話 フィーナの神託の眼

ヴァル「はて、私の記憶にはあなたとの面識はなかったと思いますが……」


眉をひそめ訝しげに神のほうに視線を向ける。


ヴァル「まあいい。私が用があるのは()()()なのですから」


そう言って、今度はフィーナの方に視線を移した。

フィーナは、不敵な笑みを浮かべるヴァルに強い視線で見つめる。


フィーナ「あなた。この村の人たちをどうしたの?」


か細く、けれど確かに響く声で問いかける。

声の調子がわずかに低くなり、普段の彼女の姿からは想像もできないような、鋭さが宿っていた。

その奥底には確かな感情があった。

恐怖でも絶望でもない。それは——怒り。


ヴァル「そんなことを聞いてどうする。あなたはもう()()()()のでしょう?」


神「()()()()?それって…どういう……?」


フィーナに視線を向けると、黙ったまま鋭い視線を奴に向けたままだった。


ヴァル「神託の眼――。神より授かりし、巫女のみが使える()。それは、過去と未来を見通す眼だと聞く」


右手を顎に添えて、その笑みを崩さず鋭い視線をフィーナに送る。


ヴァル「今、あなたは世界を左右するほど重要な存在だ。私と共に来てもらおうか」


そう言ってフィーナにゆっくりと歩みよって来た。


さっぱり状況が飲み込めない。

村人の行方もこいつ(ヴァル)のことも巫女のことも―――。

理解できないことだらけだが、これだけは分かる!!


俺は、歩み寄って来るヴァルの前に立ちはだかった。


ヴァル「何の真似かな?」


不快そうに眉をひそめ睨みつけてくる。


神「状況はまったく理解できないが、お前にフィーナを渡すわけにはいかない」


ヴァル「そうですか。なら――」


フィーナ「ジン!!避けて!!」


フィーナの叫びと同時に、ヴァルの影から黒い槍が突き出す。

咄嗟に白虎の形態になって、後ろに飛んで避けるが肩や頬、足に少しかすめてしまう。


あっぶねええええ!

フィーナが叫んでくれなかったら串刺しになってたよ。


ヴァル「ほう、よく避けましたね~」


両手を広げ大げさに驚いた仕草をする。

しかし、その表情から余裕は消えていない。


コイツ弄んでやがる…!

クソ、万全の状態ならさっきの攻撃も避けきれただろう。


更なる追撃のために近づこうとするヴァルの懐に仕込まれた黒晶の魔石が、不意に微かな振動を放った。

ヴァルの目が細くなる。彼は視線を逸らさぬまま、指先で魔石に触れた。


 ──〈“至急、拠点ヘ帰還セヨ”〉


それは、誰のものともつかぬ、無機質で感情のない声。

けれど、ヴァルはその“声の主”を誰よりも恐れていた。


ヴァル「……ふん、タイミングが悪い」


彼は小さく吐き捨てると、フィーナのほうへともう一度視線を送る。


ヴァル「覚えておけ。お前は世界の”楔”なのだと」


その言葉には、冷たい確信と、何かを見透かすような含みがあった。

──ヴァルが身を翻し、去ろうとしたその瞬間。


神「待て……逃がすと思うなよ!」


地面を強く蹴り、ヴァルとの距離を詰める。


ヴァル「せっかくだが、今は遊んでやれない。代わりに……こいつがお相手する―キメラ・アンデッド(屍融合体)―」


ヴァルは一歩だけ下がり、口元にわずかな笑みを浮かべる。

だがその目に宿るのは、戦意ではない。時間稼ぎ——それだけだ。

彼の指先が黒き印を描くと、地面に広がった魔法陣が呻くように軋んだ。


腐臭と血の気配が混じり合う瘴気の中。

地面を這いずるように出現した異形の存在——キメラアンデッドが神の前に立ちはだかる。


人の腕。人の顔。人の声。

叫ぶでもなく、呻くでもなく、助けを求めるような声が、ずっとどこかから漏れ出ている。


フィーナ「……う、そ……」


唖然として、その異形の姿をした巨大なアンデッドを見る。

そして、その瞳に怒りが宿り、ヴァルを刺すように睨みつける。


フィーナ「あなた…!まさか…!?」


叫ぶフィーナの声に、ヴァルは微笑を深める。


ヴァル「察しがいいな。そうだ。ここには、質のいい“素材”が揃っていた。老いも若きも、信仰に篤く、魔力耐性も薄い。造り手としては最高の条件だ」


悪びれることもなく、むしろ得意げに。


ヴァル「苦悶と絶望の記憶が刻まれた魂ほど、アンデッドには最適なんだ。……この村人たちは、よく“鳴いた”よ」


その瞬間、空気が変わった。

その眼は、烈火のごとき怒りが燃え上がり、溢れる魔力で地面が軋み、髪が逆立っている。


神「この…クソ野郎が!!」


怒りにまかせて殴りかかろうとしたその瞬間、キメラアンデッドの異形な腕で薙ぎ払ってきた。

それを辛うじて両腕で受けるが、あまりの力に吹きと出されてしまう。


フィーナ「ジン!大丈夫!?」


すぐに体勢を立て直して、心配するフィーナに大丈夫だ!と手を上げる。


ヴァル「言っただろう。お前の相手はコイツ(キメラ・アンデッド)だと」


そう言って、懐から懐中時計を出して見る。


ヴァル「どうやら急がねばならない。…では、また会うときまで……」


不敵な笑みを浮かべ、ヴァルは黒い外套を翻し、黒い煙に巻かれ消えていく。


神「逃がすかよ!!」


フィーナ「ジン!待って!」


すぐさま後を追おうとする俺をフィーナが制しする。

その顔は今にも泣きだしそうなほど、瞳に涙をためて潤んでいた。


フィーナ「この人たちをなんとかしないと…」


フィーナはキメラアンデッドを指さす。

もはや、アンデッドとなりその魂と肉体は無理やり繋ぎ合わされ、異形で歪な形をしているのに、フィーナは人と称していた。


神「……っく!……わかった」


今すぐにでもとっ捕まえて、ぶん殴ってやりたい気持ちを抑えて、キメラ・アンデッドと対峙する。


元は村人、そんな奴を倒してしまうのは気が引けるが仕方ない!

一気に畳みかける!


攻撃を繰り出そうと構えた時、フィーナが神の前に両手を広げて立ちふさがる。


フィーナ「待って!この人たちを殺さないで!」


神「……!でも、そのんなこと言っても……」


フィーナの言葉に戸惑ったが、殺らなければ殺られる。

神は、キッとキメラ・アンデッドに視線を向ける。


フィーナ「アンデッドになった魂は一生彷徨うことになる。今ならまだ天に還せるの!お願い…!」


涙を流し必死に懇願するフィーナ。

彼女の優しい想いを感じ、神は構えを緩める。


なら、朱雀の浄化の炎なら―――!


朱雀『ダメです』


形態を変えようとした時、朱雀が話し出した。


神(なんでだよ!?魔王を浄化したお前の炎ならこの人たちだって―――)


朱雀『私の()だからダメなのです。魔王の魂は私たち神と同等―。しかし、人間の魂はあまりに未熟、故に、私の炎に耐え切れず燃え尽きてしまう』


神(そんな……じゃあ、一体どうしたら……)


迷い戸惑っている神を見て、フィーナは手を取る。


フィーナ「大丈夫。私があの人たちを救ってみせる」


そう言って、神の手を強く握る。

その瞳には、覚悟と決意がにじみ出ている。

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